第2話『ゲームをしてもらう人を探そう』
VRゲーム機「アグリゲーション」。
電脳の世界に自らダイブし、自らの肉体でインターネットの世界を物質的に渡り歩き、体感する事が出来る機能を持つ。
タイプや言語によるネットへの対応から、全身を使った対応へ。それは人々を電脳の世界に熱中させるのに、十分な物であった。
そのネット世界。空中に浮かぶ高層ビルを模した場所。そこにはゲーム専用の広場があった。
そしてその中に、無料ゲームコーナーが大きく鎮座していた。
無料ゲームコーナー。それは序盤だけプレイ可能な、体験ゲーム。あるいは企業の宣伝用のゲームなどがある。
そして極めつけは、個人が暇潰しに作成した暇潰し用のフリーゲームが並んでいた。
そのゲームコーナーの通路に、極めて平凡な容姿の人間が立っていた。電脳生命体のエンドである。
エンドは前回の電脳テロ事件を反省し、一年ほど視察に徹した。
ゲームに対するレビューや評価。それがどんなものかを読んでいく。
「ゲーム内容に触れていない評価や、明らかにゲームを行っていないと思われるレビューは排する」
基本的にはレビューは匿名である。だがエンドに対して、それは意味の無い行為だった。
コメントを行った者を探知し見つけ出し、同一の者が行ったと思われるレビューを自らの記録データから抹消。
「真の意味での匿名など、この世には存在しない」
こうして、エンドはゲーム自体には一切触れず。ひたすら無数にあるゲームのレビューを一つ一つ、目を通していく。
ただひたすらエンドは分別に明け暮れていた。
こうして一年が経ち、エンドは十分だと無料ゲームコーナーを離れていく。
「レビュアーの中から、的確にゲームに対するコメントを否定的に行う者をピックアップする」
エンドは7人のゲーマーに目を付けた。
そして彼らに対し、エンドはメールを送った。
「『あなたは非常にゲームに対する造詣が深く、頼もしさを感じる。私はあるゲームプログラマーだが、ゲーム作成に対し行き詰まりを感じている。そこであなたに対し、個人的に私が作成したゲームのベータ版を送り、その評価を貰いたい。もし、協力していただければ、完成し販売した際に、その売り上げの一部を渡す事を約束する。』」
「実在している会社の名前を借りてと。そこに彼らから電話及びメール等の連絡が行けば、私が直接答える。あ、来た」
『はい〇〇会社の者ですが。ハイ、〇〇ですか? 今、電話を替わります』
「声を変更する」
『はい、○○です。ハイ、ハイ、ハイそうです。そのメールを送ったのは私です。すみません、不躾にメールを送りまして。ハイ、……ええ、ゲーム制作を私個人が行っておりまして、その感想を……ハイ。ハイ、いえ、他にも6人ほど感想をお願いしております。ハイ、契約金ですか? ハイ、録音は構いません。ですがゲーム完成まで、情報漏洩は無しで内密にお願いします。ハイ、いえ裁判沙汰にはしない事は約束します。ただテストプレイヤーから外れてもらい、契約金も無しに。ハイ、ハイ、ありがとうございます。今回は本当にありがとうございました、ではまた』
「……」
「実際にはそんなプログラマーは存在しない、だが彼らがこの会社の名簿を見た時だけ、その名前は存在する」
「私の最高のゲーム作成が終わった時、メールも電話記録も全て消去しに行く」
「何、金は手に入らないが、私の最高のゲームを誰よりも先にプレイできるのだ。それで十分だろう?」
「ハハッ、ハハハハハハッ!」
「ん!? 私に笑うなどという感情があるわけないのに……」
「……まあ、いいか」
ゲームコーナーから、高笑いしながら一人の人間が消え去った。
「反省会だ」
「まさか7人のうち、一人が人間じゃなかった」
「誰だ、あんなシステム作り上げた馬鹿は!」