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第9話『ホラーゲームを作ろう』




 病院の一室で、一人の少年がベッドの上で作業をしていた。

 白衣の少年は、頭にヘルメットのような物を被り、それは周囲にあるいくつもの機械とコードでつながっている。

 ベッドの周囲は足の踏み場もないほど、たくさんのケーブルと機器が横たわっていた。


 少年の両手には手袋のようなマニュピレーターが取り付けられている。そして、目の前の空中に浮かぶ、いくつもの映像に手を突っ込んで操作している。

 かと思えば、タイプ式に文字入力をして別の操作をし、また時折マイクに対して命令をして、機械のAIを操作する。

 ベッドの上で上半身を動かし、小さな少年は止まることなく動き続けていた。


「コラッ!」

「わっ!?」


 入ってきた女性の看護師が、少年の頭をヘルメット越しに叩いて作業を中断させる。


「もう、朝からコンピューターばかりしていたら駄目でしょう? あまり目の前の事に熱中し過ぎたら、目にだって悪いんだから」

「はーい、ごめんなさい看護師さん。次から気を付けます」

「その言葉、もう十回以上聞いているわよ」


 ヘルメットを外し、笑顔で看護師に返事をする十歳の少年。

 彼がエンドがネガティブ・パーソンズ6と呼んでいるレビュアーであった。

 


 看護師が検査を終えて、病室から出て行こうとする。

「そうだ、商品の名前は忘れたけど、お父さんから以前頼まれていた最新式のを購入して来週送ると言ってたわよ。取り付けの作業員も一緒に来るんだって」

「え、ホント!? やったぁ!」

 ヘルメットを上に投げて喜ぶ少年。

 呆れた口調で、それを見る女性。

「本当に君はコンピューターが好きね。君の年齢だったら、どこかに出かけたいとか、遊びに行きたいとか親に言うのが普通なのに」

「別にいいよ、外に出たって疲れるだけだし、僕はここで十分に自由なのさ」

 同情が混じった看護師の声に、気にした様子のない返事を少年はする。

 キャッチしたヘルメットをかぶり直し、少年は目の前の映像に集中し直した。

 また、お昼ご飯の時間に来るからという看護師に空返事をして、少年は手を動かす。




 少年が行っていたのは、先日発売され購入した対戦格闘ゲームだった。

「ほい、全キャラクリア。……う~ん、キャラ増えて派手になったけど、前作の焼き直しじゃん」

 最後のキャラクターでオールパーフェクトを叩きだし、少年はゲームを終了させる。

 そして次に、解析用のソフトを立ち上げて先ほどまでやっていたゲームをそれに繋げた。最初のキャラクターを基準とした能力の比較が、次々と出る。

「解析結果は、僕が思った使用感と大して変わらないな。でも使える技が強化されて、使えない技が弱体化されてゲームバランスが以前より悪くなってる。新システムも使わないほうが圧倒的に強い。これは再来週にもアップデートされるかなぁ」

 ゲームレビューに前回との共通点の多さ、対戦バランスの悪化、新システムの欠点、各キャラクターの性能を事細かく上げていき、送り付けた。当然マイナス評価である。



 まだ年齢が二桁になったばかりの彼だが、ゲームに関しては天才だった。

 彼の本名、容姿、年齢は世間的には全て不明。ただそのハンドルネームを用いて、様々な大会でジャンルを問わず上位の成績を叩きだし、正体不明の超一流のプレイヤーとしてその名を、ゲーム業界で馳せていた。

 またレビュアーとしては苛烈であり、基本的には少しでも欠点を見つければ具体的に数字を挙げて、問題を指摘する。

 彼の名声と、その指摘の正しさによりレビュアーとしても名が広く知れ渡っている。そのため、彼のレビューを見てから購入を決める層も一部におり、売り上げに影響を出すほどでもあった。

 その威名を借りたいと、いくつかの業者からメールが届いているが、少年はお金に困るような立場ではなかったので全て断っている。

 



 そんな彼が今、興味を持っている相手がいる。

「ん~、ダメか」

 今まで六つのゲームを作り、全てゲームとしては下作と言っていい内容の物を送ってきた相手。

 電脳生命体、エンドである。

 表向きはある中堅ゲーム会社のプログラマーだと名乗り、少年もまたそう最初に挨拶された。

 しかし、どう考えてもおかしい相手だった。


「たかが一プログラマーが、こんなハイペースに六回も体験型VRゲームを作成できるか? しかもバグとかも無しのものを?」

 少年は今までのゲームを並べて、首を傾げる。解析ツールを用いても、どれも物理的な映像的な抜けが一切無いのである。

「一度や二度ならそんな奇跡もあるだろうが、それが六度も? やっぱり特殊なバグを補完するゲーム作成ツールでも完成させたのかな?」

 それが少年が考えられる、現実的な答えだった。だが少年がそれを作り出そうとしても、どうしても完璧には作り上げられない。先ほどの「ダメか」という発言も、バグ補完ツールを独自に作り上げようとしたのである。しかしゲームとは四角四面の数字の並びでは決してなく、何度テストしても、どうしてもどこかのバグを見落としてしまう。



 また、他にも気になる点があった。

「今までプレイしてきたゲーム、クソゲーはクソゲーだけど、悪意を感じないんだよなぁ?」


 少年はやりたいと思えば、どんなゲームも即購入していた。

 もちろん、その中にはクソゲーも何本もあり、プレイした時は怒りに任せ痛烈なレビューを叩きつけていた。


 彼が今までプレイしてきたクソゲーのその九割には、悪意があった。

 まだ彼が生まれるよりずっと前の過去、ゲームの作成が手探り状態だった時は、とりあえずの挑戦としてゲームを作成したため、結果的にクソゲーになってしまった物も数多と存在した。

 しかしコンピューターゲームが歴史として書かれてもいいほどの現代では、ゲームの作成や既製の概念の基準ができ上がっており、挑戦的な物は少数となった。

 今でも新たな物を作ろうとして水準の低いゲームになった物はいくつもある。方向性を失敗して、つまらくなってしまったゲームもある。あるいは何らかのキャラクターの関連商品として作られた、そもそもゲームとしての目的の薄い物もある。

 だが少年がプレイして低級として感じたゲームのほとんどは、売り上げだけを気にして宣伝にだけ力を入れ、客を楽しませる事を考えていない物だった。

 例えるならば、窓や扉がきちんと閉まらない欠陥住宅。あるいは科学的根拠のない薬や運動行為。そういった金が目的なだけの欠陥品と同じであり、ただ金額が安いから訴えられていないだけの物、少年にとってクソゲーの大半はそういう物であった。



(そういう視点で見ると、確かに欠陥品だしクソゲーなんだけど)

 もう一度、少年は今まで送られてきた六つのゲームに目を通す。

(騙そうとする悪意は感じないんだよな、大真面目に作った結果クソゲーが出来た、そんな丁寧さは感じられる)

 空中に浮かぶゲームタイトル達に、少年は頭をひねり続けた。

(だとしても、ゲームの面白さの基準が出来ている現在に、この外れぶりはなんだ? ゲームの目的も難易度も、テストプレイしなくてもおかしいってわかるだろ? β版なら作り直せる状況だろ?)

 ベッドの上でひたすら考える少年。しかし、答えが出ず身悶えする。

(考えられるとしたらやっぱり、僕の想像通り。これはコンピューターが作り出したゲームなのか?)

 そして自分自身を納得させるための答えを、自分なりに作り出した。

(どこかのプログラマーが作り出したシステム。いくらかのデータを入れれば、勝手にゲームを作りだしてくれる、例えば、そんなものを作りだしたとしたら? 僕達はそのシステムが生み出したゲームのテストプレイヤーをさせられている?)

 そんな結論に達した少年。しかし、腑に落ちない事がいくつもあり、考えがまとまらない。




 そして少年が煩悶する理由がもう一つあった。

「……どうしようか」

 少年はあまりにも状況に答えが出ず、犯罪に手を出した。

 プログラマーを名乗る男性に対し、クラッキングを試みたのである。

(まさか、一発でバレるとは)


 少年が犯罪行為としてハッキングを行ったのは生まれて初めてである。

 ただ、それがどういった方法でやるのか理解していたが、違法なので手を出す気はなかった。

 しかし、どうしても今回の事が気になり、少年は魔が差したのである。そして海外をいくつも経由し、警戒を重ねたうえで彼が務めているゲーム会社にハッキングしたのだ。

 結果、プログラマーの男性の個人データは入手できたが、直後に少年にメールが届いたのである。

『あなたが弊社に行ったハッキング行為は犯罪であり、次に行った場合は警察に通報する』

 これが三日前の事だった。



 当日は、戦々恐々とし夜も眠れなくなっていたが、日が経つにつれ冷静になり、そして少年は疑問を覚えた。

(クラッキングは一発通報だろ、なんで見逃してくれたんだ?)

 なぜ放置されているのか、理解できない少年。あるいは起訴まで猶予を持たしているのか、それでもこのメールは見逃すと書いてあり、これは裁判でも不利になる案件である。

 考えても考えても少年の小さな頭ではわからない。

 これらの状況が少年を悩ませ、そして好奇心を掻き立たせていた。




 そんな少年の元に、メールが届いた。

 呼びかけ音に驚き、恐る恐る少年がメールを開くと、次のゲームのテストプレイ依頼とそのゲーム自体が同梱されていた。

「ああ、ビビった! 今度こそ起訴内容かと思った!」

 少年は息を吸って落ち着き、メールを開く。


 空中に浮かばせた、ゲームに対して書かれている説明には、ホラーゲームと書かれている。

「ホラーか」

 ホラーゲームという文面に、少年は内容を思い浮かべる。

(ポピュラーなのはやっぱりゾンビ系、あるいはゴースト物、もしくはクトゥルフみたいなよくわからない化け物系。ホラーとしか書かれてないからジャンルがわからん。銃撃物か探索物か、あるいはサバイバル系の逃げ物?)

 色々と考えるが、やってみないとわからないと結論に至る。

「もうすぐ昼ご飯だし、それ食べてからやるか」

 少年は機器を片付けると、自動車椅子を声でベッド横に呼び寄せた。


 ご飯の後に、クソゲーをやる事に呆れた気持ちと、好奇心が湧く。

(さて、今度はどんなクソゲーかな?)

 少年がわかっている内容は、ホラーゲームというジャンルのみだった。

(僕はホラーゲームが怖かった事は一度も無いから、ゲームはゲームとしてしか見ないし)

 少年は今までも、怪物を倒し、あるいは逃げ回るゲームをいくつもしてきた。そして一度も怖いと思った事などなかった。

 そのため、送られてきたホラーゲームに恐怖は考えず、どんなゲームなのかとただ思いめぐらせるだけだった。




 その日、少年を含めて六人の人間が、ゲームをプレイして悲鳴を上げる事となった。






 次の日。

「てめぇえええっ!! あれは一体どういうつもりだぁああ!!」

 少年こと、ネガティブ・パーソンズ6が報告会ともいうべきエンドが作り上げた空間で、大声を上げてこの空間の主につかみかかる。

 ネガティブ・パーソンズは現在六人で、一人遅れている。しかし集まる前に、パーソンズ6は丸机を乗り越えて、叫んだのであった。


 見た目のシルエットから、少年の年齢は分からない。

 また互いのハンドルネームがわからない為、彼のハンドルネームも他のパーソンズは分からない。

 しかし、その言動から若い少年であるのだろうと推測できた。


「どうしました? まだ皆さんはお集まりになっていませんよ」

 全員が集まった後に挨拶をするのがエンドの常識だったために、今回のパーソンズ6の行動は予想外ではあった。

 そんな冷静なエンドの言葉に、ますますパーソンズ6は声を張り上げる。

「てめえ! あれは、あのゲームは、あれは何だ!?」

「なにって、新作のゲームですけど?」

 まるで何を問いたいのか理解できず、エンドは問い返す。

「ふざけんな! あんなのゲームであってたまるかぁあああ!!?」


「ただ捕まって、拷問され続けるバーチャル体験とかおかしいだろうがぁああああ!!??」




 そのゲーム内容は陰湿極まる物だった。

 アグリゲーションを被ったプレイヤーは、ゲームを起動すると同時に自身がベッドに拘束されている事を知る。

 頭と四肢を少し動かす以外、ほとんど動けない主人公たるプレイヤー。

 それを薄暗い部屋で、ニヤついた表情の男が見ている。


 そして始まるのは、拷問ショー。古今東西の拷問器具が周囲に並べられている。

 ランダムにプレイヤーに迫る残虐行為。

 所詮はゲームなので痛みは無いし、いつでもゲームを停止して止める事が出来る。しかしそれでもその映像のリアルさと、ねっとりと拷問器具について説明する男の声は、耐性の無い物は夢に出る程の恐怖。

 主人公に出来るのは声を出す事のみ。だがそれも拷問係の行為を加速させるだけの物がほとんど。一応は会話の選択肢で、相手の拷問を遅らせる事も出来る。



「馬鹿野郎! あんなものゲームであってたまるか!!」

 少年の怒りは収まらず、エンドに対して怒鳴り続ける。

 他のプレイヤー達も言いたい事はあったが、パーソンズ6の迫力に押されて黙ってしまった。

 そんな中、ゲーム制作者たるエンドだけは、その言葉の意味が本当に理解できなかった。

「ゲームですよ。VRの中で、言葉で相手の行動を抑制し、主人公が生存を伸ばす。まさにゲームじゃないですか」

「拷問されるだけの怖いだけのゲームなんて、あるかぁ!!」

「だってホラーゲームじゃないですか」

 やはり理解できないエンド。

 彼は彼なりに、ホラーという物のデータを集め情報を整理し、そして最も怖いと思われる行為は何かと結論を出した。

 それはじわじわとなぶり殺しにされる事である。


「ホラーは怖い物。ならば今回のゲームは趣旨に沿った物でしょう?」

「ホラーであっても、ゲームじゃない!!」

 エンドの発言に、まだ十歳の少年は完全に切れていた。

「ゲーム性が全くない事が問題だと言っているんだ!!」

「プレイヤーが出来る事は他にもありますよ」

「騙されるか!!」


「僕は解析したから、知ってるんだよ!!」

 本来なら解析行為はわりとご法度なのだが、少年は止まらない。

 心から恐怖に襲われ、恥をかかされた少年は怒りに満ちていた。

「あれ絶対に、バッドエンドしかないんだろうが!?」



 今回のエンドが作り上げたホラーゲーム。

 拷問内容もさることながら、もう一つ、プレイヤーにとって最悪な内容があった。

 このゲーム、実はベッドから逃げる事が出来る。


 拷問係の男は、わりと頻繁に部屋を離れる。その隙を見て、暴れて四肢の拘束を外したり、周りの拷問器具を利用して拘束を破壊して、逃げ出す事が出来るのだ。

 しかし、それは完全な罠であった。


 部屋の外に出れば、どこかの屋敷である。

 通路は四方に別れ、部屋はいくつもあり、庭に出る事も出来る。

 道具はいくつも落ちており、それらを拾って使用する事も可能。


 それを含めて、絶対に脱出が不可能という設定になっている。

 どんなに逃げ回っても、部屋に隠れても、あるいは道具で戦いに挑んでも、最終的には拷問役に捕まり、ベッドに戻されて、さらに苛烈な拷問を受けるのである。

 希望があると見せかけて、実は地獄しかない。最悪のバッドエンドゲームだったのだ。




「あああああ、もう!!」

 パーソンズ6の少年は、そうとは知らずに挑み続けた。

 何度も何度も、脱出を試み、その度に捕まり拷問され、リセットして最初からやり直した。

 途中で恐怖のあまり涙を流したりもした。

 そして心が折れて、解析に回した結果、あらわれたのはクリア不可能という結果だった。

 少年は病室で大声を出し、担当の女性看護師に怒られた。


「ふざけんな! ふざけんな!! くそっ、ちくしょう!!」

 怒鳴り続けるパーソンズ6。理解できずに首を傾げるエンド。それを見守る一同。



 三分ほど、怒鳴り続けたパーソンズ6がついに疲れて声を止めた。

 その後、少女であるパーソンズ3が呟くように言った。

「私、怖くて開始五分で止めたけど、これは気持ち悪い。男の人が怖くなった」

 もともと、ホラーゲームが嫌いなパーソンズ3が答えた。


 それに対し、待ってましたと言わんばかりに、エンドが答え返す。

「その点は考えております! 皆さま、こちらをどうぞ」


 頭上に画像が浮かび上がる。そこにホラーゲームの拷問係の男が姿を見せる。

 その姿に恐怖を思い出し、息をのむパーソンズ一同。

「男の人が怖いのなら」

 エンドが声を出すと、拷問係が姿を変えた。女性になった。

「性別を変えてしまえばいいのです」

「そういう事じゃねえよぉおおお!!」

 エンドの口調に、怒りがぶり返し、さらにパーソンズ6は怒鳴った。



 しかしエンドはその状態で、気にせず解説を続ける。

「性別だけではありません!」

 エンドの言葉に答えるように、拷問係の姿が次々と変わる。

「肌の色や、目の色、髪の色はもちろん! 髪の形や身長・体重などの体形。顔の細かい形。ホクロにシミにそばかす、シワも! もちろん傷痕やペイント、マスクに服装まで! 事細かい設定を変更可能! 設定した容姿を自動的にバランスを整える機能や、オート作成機能もきちんと配備しております!」

「そんなところに力をいれてんじゃなぁあああい!!」

 次々と姿を変えていく拷問係。パーソンズ6は喉が壊れんばかりに叫び続けた。



 今まで黙っていた、パーソンズ1が答える。

「いや、でもこのホラーは違うんじゃねえ?」

 彼も人生でいくつかのホラーゲームをプレイしてきた。だからこそこれはホラーゲームではないと言いたくなった。

「これ完全にサイコパスじゃないか、ゲームのホラーと言ったらもっとゾンビとか幽霊だろ」

「違うのですか?」

「うまく説明できないけど、これは何か違うような、もっと突然に驚かしたり……」

 パーソンズ1の頭に、空メールが送られてきた。

「……お前、ちょっと今は心がお前のゲームのせいで弱っているから、怖いメールとか送ってくるな」


 続いてパーソンズ2が口を出す。

「さすがに今回はきつかった。ゲームがトラウマになるなんて、いつぶりか」

 さらにパーソンズ5が続ける。

「いやぁ、つま、じゃなくて、死んだお婆さんが迎えに来るかと思ったわよ」

 最後にパーソンズ7が淡々と言った。

「ホラーゲームって、お前の存在自体がホラーだよ」



 さらに恐怖を忘れる為か、パーソンズ6が怒りに任せて声を張り上げる。

 

 いくらかして、ようやく怒鳴り終えて、息切れしたパーソンズ6。

 入れ替わるようにパーソンズ4が、この世界に入ってくる。

「遅れてごめんなさい。トイレから戻ったら、なぜか電灯やテレビやドライヤーが突然、電源がONOFFを繰り返して、故障かどうか見てたのよ」

 突然の現実的なホラー。このプログラマーがやったのではと、一瞬、疑いをもつパーソンズ1だが、ありえないと考えを捨てた。捨てたかった。



 来て早々、パーソンズ4がエンドに正面を向いて、口を開いた。

「ええと、ゲームプログラマーさん。申し訳ありませんが」

 一言、間をおいて、話をつづけた。

「今度のゲームの件は、告訴も検討における内容だと、私は考えております」


 今回のゲームは明らかに、子供にやらせてはいけない内容だとパーソンズ4は考えていた。

 だというのに、内容にはグロテスク性や18歳未満禁止などの事前告知が全くなかったのである。

 もしも、うっかりパーソンズ4が子供達にやらせてしまったら、そうあってはいけない内容だと思ったのである。


「そうですか」

 理由の説明をするパーソンズ4にエンドは気にした様子もなく、受け入れる。

「……冗談ではなく、本気ですよ?」

「ええ」


「今回はお騒がせして、誠に申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げるエンド。いくらかして頭を上げ、付け加えるように一言を足す。

「そしてもうひとつ、皆さまに謝らなければならない事があります」



 一度、間をおいてエンドは言葉を口にした。

「今回のゲーム、実はあるプログラムが仕込まれていまして」


「ゲームをプレイして一日後に消滅します」



 その言葉の意味が一瞬、理解できず黙ってしまうネガティブ・パーソンズ達。

 そして最初にパーソンズ4が答えた。

「……つまり今回の件は、最初から故意だったと? 訴えられる事を予測していたと?」


「違います。あくまでゲームのコピーによる無断配布を防ぐため、そのシステムのテストとして、今回のゲームにはプログラムしていただけです」


 エンドのこの言葉は嘘である。さすがに訴えられたら面倒なので、今、全員のコンピューターに潜入し、今回のホラーゲームを消去したのであった。



 かなり納得いかない様子のネガティブ・パーソンズ達。

 しかしダイブ時間が迫り、さらにエンドの「契約の解除はいつでも受け付けております」という念押しの様な言い方に、何も言う事が出来なくなり去る事になった。


 途中までずっと怒鳴っていたパーソンズ6は、最後は黙っていた。

 ただ黙ってエンドを睨みつけて、消え去ったのであった。



 最後に消える直前にパーソンズ5が聞いた。

「そういえば、今回のゲームはどんな繋がりが?」

「学校を卒業後、レース、サッカーとプレイし、軍隊へ。除隊後、市長になるも何者かに囚われの身に」

「どんどん不遇の身になっていくわね」








 

「くそっ! くそっ! くそぉ! 絶対に許さない!」

 ベッドの上でコンピューターを前に、パーソンズ6である少年が作業を続ける。

「僕に恥をかかせやがって、ちくしょうっ!!」


「おねしょをさせた事、絶対に許さないからな!!」



 少年は初めてホラーゲームに恐怖した。

 そして昨夜、夢にそれが出てしまい、寝小便をしてしまったのである。

 それを朝、女性の看護師にばれてしまい「まだ子供だから仕方ない」と慰めるような笑顔を向けられた。

 その恥辱に、少年は顔を真っ赤にしてしまった。


 もはや少年には、復讐の二文字しかない。

「絶対に正体を暴いてやるぅ!」

 少年の心の中に、大きな炎が燃え上がる。



 決意を胸に作業を行うも、しかし情報は増えない。

「本当にホラーゲームも消えている! バックログも解析内容も! 一体どんなプログラムを組んだら、こんなきれいに消せるんだ!?」


「くそぉ、色々と知りたい事があるけど、もうこれ以上クラッキングしてバレるのは避けたいしなぁ」

 八方手塞がりで悩む少年。

「手に入った情報は、ゲームプログラマーの個人情報だけだし」

 何か新たな情報はないかと、そのプログラマーの情報に目を通す。

「会社の方も調べたけど特に何も見当たらない。この人もただの名義貸しだろうしなぁ」



 少年もまた、このゲーム会社とゲームプログラマーがそのまま、今までのゲーム制作者だとは考えていなかった。

 しかしパーソンズ2が定義した「どこかの金持ちの子供」の説には、いまいち納得できていなかった。

「このプログラマーの小学校、中学校、高校のアルバムをネットで見つけたけど。特におかしい所はない……いや、何か違和感がある気がするけど……気のせいか?」

 学校の記念アルバム写真を見ていくが、プログラマーの子供だった頃の集合写真がいくつかあった。

「個人データの方も気になる事が、全くないしな」

 頬杖をついて、少年は唸った。

「年齢や名前、学歴にも問題なし、職歴も十年間も今の会社で働いている。国からの保険の補助もないから病歴も無しか」

 淡々と読み上げていく少年。長い調査の為に疲れ、欠伸をしてしまう。


 その瞬間、少年はある事に気づいた。

「はあ!? 病歴無し? もう三十代なのに歯医者にも行った事もないのか?」

 そして少年はもう一つ、ある事に気付き、学校のアルバムを念入りに見直す。

「……おかしい。文化祭、体育祭、職業訓練、修学旅行、どれも他の学生達は別々の方向を向いているのに、このプログラマーの人だけ、真正面か少し斜めを向いている顔ばかり、真横や真後ろを向いている写真が無い! これじゃあ自分が写真にいる事を証明したくて写ってる様なものだ。それに中学校、高校とそれぞれ三年間の写真なのに顔立ちの違いが無い、特に髪型が三年間ずっと一緒だ!」


 頭をぐるぐると回転させる少年。

(ここから導き出されるのは……この人自体が架空の人物? この個人データも学校アルバムも改竄? でも何でそんな手間のかかる事を? 誰かにお金を払って、自分の振りをしてもらった方がずっと楽じゃん!?)



 これは完全にエンドのミスだった。

 ネガティブ・パーソンズ達から見た時だけ表示される嘘の個人データと、過去の容姿を作り出して学校アルバムへ合成させた嘘の学校写真。エンドはこれ以上、強い執着を持って調査する人間が出るとは考えていなかったのである。

 もし調査する者が出てきたとしても、今回のホラーゲームを消したように、最初から存在しなかったかのように全てのデータを消して逃げればいい、そんなふうに考えていた。

 ゲームから生まれたが故の、リセット思考がエンドの中にあったのだ。



(これは、他のテストプレイヤー達にも、伝えた方が良いかな?)

 金持ちの子供説を信じている他の者達に伝えて、一緒に考えてもらおうと少年は考えた。

 だが少年はメールアドレスを開いて、少し考えた後に閉じた。

(FPS、そしてあの経営シミュレーションでもいたんだ。もしかしたら、僕たちテストプレイヤーの中に裏切者が、相手側の人間がいるかもしれない)

 少年は二つのゲームの中で裏切りに会い、そこから裏切られる可能性を考えるようになった。実際にはそんな人間はいなかったのだが、もしメールすればエンドにもバレていたため、ある意味、正しい選択だった。




「これ以上は、調査のしようが無いな。ハッキングも無理だし」

 そんな風に考える少年。ふと昼のニュースを思い出し、文章を浮かび上がらせる。

 そこには『度重なる軍事施設の誤作動、クラッキングによるものか!?』と書かれていた。

「軍事施設のセキュリティを突破するなんてすごいな。僕なんか中堅会社のセキュリティも無理だったのに」

 素直に感心する少年。



 そのニュースの文字に、突然に動く物がよぎる。

 それはまるで小さな悪魔の様だった。悪魔はニュースを見て笑う。


「へ?」

 しかし少年が瞬きすると、悪魔は姿を消していた。

「疲れているのかな?」

 少年はもう一度欠伸をし、眠る事にした。













「反省会だ」



「今回の無料ゲームは無し。さすがに訴えられるのは勘弁だ」



「しかしストレートに古典ホラーを追求したが、駄目だったか」



「ホラーも、止めておくか」


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