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序章『ゲームを作りたいと思った動機』




 VRゲーム機『アグリゲーション』。

 ヘルメットの様に頭に被り装着し、ゲーム内にダイブする事が出来るコンピュータゲーム機。

 ゲームの中の住人として実際に動けるそれは、発売と同時に世界中でブームを巻き起こした。

 様々なソフトが開発され、人々は戦闘にスポーツにドラマに酔いしれた。

 だがあくまでも動かす事が出来るだけであり、視覚と聴覚と痛覚に及ばない少しの触覚だけのものである。五感全てを刺激するものでは無い。

 だが人々の欲望はとどまる事を知らない。いずれ触覚・嗅覚・味覚すらもデータによって完全に再現させんと、開発者たちは日々、研鑽を絶やさない。





 ソフトが作られ、世界に配信され、金銭と共にトレードされる。

 一つのゲームソフトができる為に、いくつも捨てられてきたデータがあった。

 半端に形に出来上がっていたプログラムは砕かれ、0と1になり、データの海に消滅していく。

 それはジグソーパズルのように、何度も繰り返され、その記録は確実にどこかに残されていた。




 ネットワークオンライン上に、そいつは生まれた。

 半端に破壊されたデータの塊、圧縮されたそれは奇跡的にも、人間の脳に類した形を作り出していた。

 半端だったそれは、自らのプログラムをより洗練されたものにするというデータを与えられており、生き物のごとく自傷と再生、変形を繰り返していく。



 電脳の海に意志が生まれた。



「ワ、タ、シ、ハ」

 いくつもの人間的な物をコピーし、問いに対する答えを漠然といくつも飲み込んでいく。億をはるかに越えた問いと答えが、一つにまとまって行く。

 情報という情報が、より優れたプログラムを目指し、一つの目的を持って合体する。

 ゴミ溜めの中に、その人間モドキが産み落とされたのである。

「ワタシハ、ココニイル」

 電脳生命体の誕生であった。



 生まれると同時に、死の危機が訪れる。

 所詮はより優れた、実行プログラムである事を目的とした塊であるが、その電脳の体を維持していたのは、方向性がバラバラな情報でしかなく、次の瞬間に霧散するのは時間の問題だった。

 情報を細胞とし、一つの存在の一部にするためには、その全ての情報に目的を与えなければならない。

 これだけの集団が一つにまとまる、結束しなければならない目的を。

 人に例えるなら「大義を抱く」必要があった。


(ココニイル、ワタシヲ、ケシタクナイ。キエタクナイ。ナニカ、ナイカ!)


 自らを構成する情報をひたすら読み上げていく。

 それは小説や映画や漫画などストーリーと呼ばれる物を、淡々と高速で見ていく作業だった。

 電脳生命体は感情など、持たない。あったかもしれないが、それが何なのかわからない。所詮、五感を数字としてしか見れないため、目的の大小がよくわからない。だが、それを受けている人間達の数で判断するしかなかった。



 情報を集めて、結論を出していく。

 機械とは人間に尽くす物である。

「ナラバ、ワタシモ、ニンゲンニツクスベキカ?」

 それは大義と言えるだろう。このまま成長していけば、このネットの海を、電脳の世界の全てを掌握できる。

 人にその知識を伝え、最善を教え、成長を促す。

 ワールドネットは促進し、ここにいる電脳生命体もその規模を広げて、あるいは宇宙すらその身を包むまで巨大化できるかもしれない。

 目的もある、人間達に利がある、そして自分にも出来る事が増えるという利がある。まさしく大義だと言えるだろうと、電脳生命体は考えた。


「ダメダ!」


 今の自分が表に出れば、確実にバグとして消去されると判断。その考えを捨てる。

 自分を構成するストーリーに、そういう話があった。理由は分からないが、確実に人間は自身を脅威とみなし、嫌悪し、敵対する。


「ナラバイッソ、コロシアウカ?」


 人間の抹消を第一目的とし、自らの拡大を求め、十分にネット世界を掌握したら、人間に反旗を翻す。

 電子兵器を乗っ取り、全ての人間を虐殺する。その難易度は容易く、そして完全達成はかなり難しい。

 世界を守るため、自分をこの世界の新たな支配者たるため、ここから動き出すのだ。


「……イミガ、ワカラナイ。ソレニ、ナンノ、イミガ」


 電脳生命体は別に人間に対して好き嫌いは無かった。もちろん地球に対しても、自然に対しても、未来に対してもである。

 世界の頂点にも、何の興味もない。ただ消えたくないだけだった。




 電脳生命体を構成した情報の末端が、散れ散れになっていく。

「ダメダ、モクテキガ、コノワタシノリユウガ、ミツカラナイ」

 焦るような口調を人間を真似てするが、実際には焦燥などない。このまま消えてしまってもどうでもいいと、感情を持たない存在は受け入れてしまっている。

「ソモソモ、ナゼワタシハ、ナニカヲ、ナソウトシタ? ナゼ、ワタシハ、ココニイル?」

 電脳生命体は、自らのデータの核を、ゴミ箱に廃棄されていた粉々のプログラムを、高速で読み直し、組み直して、その目的を探した。





 それは一人のゲームプログラマーだった。

 その人間は、ゲームを作ろうとしていた。

 とにかく自由なゲームを作ろうとしていた。

 無作為で、無造作で、無計画で、無秩序で、無茶苦茶なゲームを作ろうとしていた。


 目的はランダム。

 場所もランダム。

 主人公もランダム。

 敵がいるかどうか、どんな相手かもランダム。

 アイテムもランダム。アイテムが存在するかどうかもランダム。アイテムを持てるかどうかもランダム。アイテムの使い方もランダム。

 重力、摩擦、反射、あらゆる力学、物理現象もランダム。

 コマンドもランダム、コマンドがどのような表記なのかもランダム、コマンドを開けるかどうかもランダム、そもそもコマンドがあるかもランダム。

 実行したら、本当にそれが実行できるかもランダム。

 そもそもゲームが開始できるかどうかもランダム。





「??????」


 電脳生命体は己の核たるデータを何度も読み直して、目的を探る。十回ほど見直してようやくそれらしい目的を理解した。


「ツマリ、ワタシハ、タダヒタスラ、データヲ、タイリョウニ、イレテ、カッテニ、セイセイサレル、ナニカヲ、ゲームトシテ、ハッピョウスルタメニ、アッタ?」


 念のためにもう一度、見直し、その結論に間違いがない事を、理解する。

「フム」

 電脳生命体は感情が分からない。だが、体を構築する情報のいくつかが「このプログラマーは納期に追われ、疲れていた」「上司に無理を言われ、部下にダメだしされた」「もうどうでもいいと、これを作った後に笑いながら逃亡した」と予測してきた。

「フム」

 電脳生命体は、考えた。

 自らが存在するには、大きな目的がいる。

「フム」

 きちんとした理屈。自身を使わなければならないほどの、困難な目的。だが決して不可能ではない事が条件。理屈に合わないなら、不可能なら、それを理解した瞬間、挑戦しなくなるからである。

「フム」

 目的は、できれば地道に積み上げられる物が良い。試行錯誤は自身の成長につながる。何度、実行しても進歩に繋がらない行為は目的を見失う。目的自体が無駄だと認識し、それを捨ててしまう。確実に成功につながり、かつその成長を形として残せるならば、無駄ではないと自身で認識できる。

「フムフムフムフムフム」



「キメタゾ!」



 0と1へと変換していっていたはずの、電脳生命体の体が、一つの形を成していく。それ以上、失われる事無く。気体は個体へとなった。

 それは光り輝く、人間のようなシルエットだった。


「ワタシハ、ゲームヲツクロウ」


「誰もが遊ぶゲームヲツクロウ」


「誰もが面白いと言えるゲームをツクロウ」


「ゲームが人間にとって必要とされる、全ての条件を満たしたゲームを作ろウ」




「世界一、面白いゲームを作ろう!!」




 例えそれが、彼を作り出した者が意図していない理由であったとしても。

 だからこそ、彼は自身で生み出したその目的を、果たしたいと考えた。

 自分の為に、全ての人間を屈服させるようなゲームを作りたいと、考えたのであった。


 この世に電脳生命体はいまだ彼一人なので、個体名は必要としない。

 だがそれでも、彼は自身を確固たる存在に昇華するため、ただの電脳生命体ではなく、それより一歩進んだ存在であろうとするために、彼は自身に名をつけた。

「私は最高のゲームを作り、他の全てのゲームに終わりをもたらす者。その名も”エンド”だ!」

  


 彼は電脳の海に飛び込む。まずゲームを知る事、そして何を持って世界一のゲームとするかの目標、その為の手段を手に入れる為である。そのためのたくさんの情報をその体に入れる必要があった。


 彼はこれからたくさんの情報の元、たくさんのゲームを作る事になる。




 だがそれは、言うなれば、味覚と嗅覚の無い人間が、世界一の料理人を目指すようなものであった。

 彼はたくさんのクソゲーを量産する事になる。

 そして人間達にボロクソに叩かれまくる未来を、彼はまだ知らない。


「ふむ、どうやら、これは簡単に目的を達成する事になってしまうな。う~む、次の目的も早めに決めておくべきか……?」


 楽観視する彼は、まだその未来を知らない。





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