青く小さい彼
「ピキー」
それは、とある街近くの草原。
彼はそこで生まれた。
周りには青い色の仲間が沢山いた。
安心した彼はすぐに眠りにつく……
「ピキィイイイ」
仲間の叫び声で彼は眠りから目覚めた。
周りにいた仲間は皆、ある方向へ走っていた。
彼は置いていかれるのに恐怖を感じ、追いかけた。
ついた先には仲間の死体が転がっていた。
殺したやつは大きな生き物だ。
彼にはそれが何なのかわからない。
仲間は体当たりをしているがダメージはなく、切り刻まれていく。
既に大量の仲間がそいつに殺された。
それは悪夢だった。
あまりの恐怖に青くなり、彼はそこから逃げ出した。
彼は休む必要の無い体だった。
仲間が殺された恐怖に走り続けた。
決して早くはないが、彼は走り続けた。
あの悪夢のような日からどれほど経っただろう。
逃げた先、逃げた先で彼は拒まれた。
なぜ、逃げてきたのだと。
なぜ、持ち場を動いたのだと。
なぜ、殺されなかったのだと。
理解ができなかった。
果たして自分は殺されるために生まれてきたのだろうか。
そして、彼にそれを言ったものはもういない。
皆、あの悪夢の日のやつに殺されたのだ。
彼が逃げても逃げても奴らは追いかけてくる。
彼の関わった者を殺しながら、奴らはその歩みを止めなかった。
逃げ続け、彼は砂漠に来ていた。
そこで、ある先輩と出会った。
同じ仕事、同じ運命、奴らに殺されるために生まれた先輩だ。
先輩はずっと、生まれてから奴らを此処で待っているらしい。
先輩は動くことがなかった。
彼は先輩にたくさん話した。
自分がどうやってここに来たのか、どんな出会いがあったのかを。
先輩は静かに聞いてくれた。
そして、奴らに殺されない方法を教えてくれた。
先輩はそのために生きていると言っていた。
無様に逃げた彼とは違った。
先輩は奴らを倒すつもりらしい。
そうすれば、これから先にいるみんなが助かる。
先輩は決意を胸に奴らを待っている。
彼はその言葉にぷるぷると震えた。
そうだ、逃げるだけが殺されない方法ではない。
倒すのだ。
彼と先輩は奴らをじっと、じっと待っている。
―――そして
奴らがやってくる。
前に見た時とは明らかに身なりが違う。
しかも4人に増えていた。
だが、彼と先輩の決意は揺るがない。
目の前にやってきた。
奴らは彼と先輩を前に回復をし、装備を変え、軽い談笑をしていた。
しかし、彼と先輩は動かない。
まるで戦いが始まるまで彼と先輩の時は止まっているようだった。
奴らは準備が終わったのか、攻撃をしてきた。
そこで、ようやく先輩が動き出す。
剣による攻撃を受け止め、魔法による攻撃を受け止め、敵が味方を強化するのを眺める。
全員が動いたところで先輩が敵の1人を殴り飛ばし、その動きを止める。
もっと殴らないのか、なぜ敵の行動を眺めるのか、彼は理解出来なかった。
しかし、彼にだってやらねばならぬ時はある。
恐怖に逃げ出したあの日、彼には少しの後悔があった。
自分も戦うべきだったのでは、今でもそう思う。
戦いからは逃げられない。
なら、先輩と共に戦おう。
彼は先輩の背から滑り出ると、驚きに目を見開く奴らの1人に全力で体当たりをした。
―――ぽよん
ダメージにはならない。
痛くも痒くのないのがおかしいのか、彼がこの場にいるのがおかしいのか、奴らは笑っている。
そして……。
先輩がまた攻撃を受け止める。
彼はその背に隠れていた。
自分が一撃でも食らうと殺されることは本能的に理解したのだろう。
全員が動き終えると、先輩が同じやつを殴り飛ばす。
殴り飛ばされたやつが突然棺桶になった。
やったのだろうか!
彼は嬉しさにぷるぷると震える。
が、見上げた背中は儚く、次の攻撃に耐えられるかわからない。
ずりずりとその背から出ると全力で体当たりをする。
―――ぽよん
やはりダメージにはならない。
だがそんなことはわかっている。
彼はその相手に張り付いていた。
少しでも攻撃を減らそうと、先輩を守ろうとした。
しかし奴らにはどうでもいい様だ。
奴らの仲間が自分を半分に切った。
恐怖から逃げ、仲間に拒まれ、何も守れなかった自分を。
彼を切る直前……
「ちょ、なんでスライムがこんな所いるの? おかしくね? まあ、どうでもいいけど。魔王戦にスライムとか出てくんなよな」
そんな声が聞こえた。
彼は、勇者に殺された。
青い、スライムの彼は……。
彼→スライム
先輩→魔王
奴ら→勇者パーティー