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うるさい 前編

人々の喋る騒音

車が走る騒音

企業やお店の宣伝広告の騒音

うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!

耳だけじゃなくて身体中の穴というから私の中に音が流れてくる。

なんでみんなこんな騒がしい所を平然と歩いていられるの?普通にいられるの?

私はこんな所に来たくなかった。だけど両親の都合でしょうがなく、いやいや静かな田舎からこんな場所に引っ越しする羽目になった。

反抗期らしく抵抗したよ、でも常識的に考えて中学生の私なんかが独り暮らしなんてさせてもらえるわけないしできるわけがない。

誰も知らない街でびっくりするような大きい学校に転校させられ前いた学校の全生徒よりも多いクラスに割り当てられた。

まあクラスの人達とはそこそこ仲良くやれてるけど人が多いから授業中でも休み時間でも静寂の時間はやってこない。

田舎暮らしの静かな空間に慣れちゃったからこの騒がしい環境は私には結構応える、せめて少しでもいいから安息な場所、静かな空間に行きたい。

でもそんなことできるわけがない。




「それができるんだよね。」



声が聞こえた、自分の喋る声すらろくに聞けないこんな騒がしい場所ではっきりとくっきりとそう聞こえた。



「誰、誰なの!?」


私は一目を気にすることなく叫んだ、その声に向かって。



「私はイソネっていうんだよ。」



その瞬間ここから時が奪われたように人混みは固まったように動きが止まり、騒がしい騒音は消えてなくなり一瞬にして静寂に包まれる。



「なに?なにが起こってるの!?」


「まあまあそんなに驚かなくっていいって。」


耳元から囁くような声でそう流れてくる。


「わぁぁ!?」


私は反射的に離れようとしたが勢いよく踏み出したおかげでその場でしりもちをついてしまう。


「いたたた…。」



「大丈夫?」


その子は、私を見下ろすように目の前に立っていた。


「手、貸そうか?」



そういい彼女は右手を差し出した。


「う…うん、ありがとう。」


今にして思えばこれが運命の別れ道だった。

この時全てが決まった、ここで私が彼女の、イソネの腕をとらなければ騒がしいけど平穏な生活ができたのかもしれない。

でもその時はそんなこと知らないから私は彼女を腕を掴んだ。

その瞬間彼女はニヤリと微笑んだ、普通の笑みとは違うどこか不気味に見えた笑みに私の本能が「ヤバい」と訴えかける。

でも遅かった、彼女は右手で私手を掴んだ。それだけなら普通だ、だけど彼女は左手で私の手首を掴みそこを軸にして私を引っ張りあげたんだ。

違和感を感じながらも私はそれによって立ち上がることができた。


「とりあえずはありがとう、礼を言うよ。」


「…。」


「だから…さ、手離してくれないかな?」


「…。」


「あの、聞いてる?手離していいよって言ってるんだけど?」


カチッ!


「よしっ!」


その音を合図に彼女は私から手を離しその中から姿を表した我が手首には見たことも見に覚えもない銀色のブレスレットがはまっていた。

しばらくそれを眺めたり触ったりしてみたけどそうすればするほどシンプルだけど奇抜なブレスレットなんだと思う。

こんなもの商品だったらすぐにワゴンセール行きだよまったく。


「えっと…イソネ…だっけ?これを使えば私を静かな空間に連れてってくれるの?」


「わぁぁぁ!」


彼女は驚いたように口をあんぐりと開けている、なにその反応?私を物珍しい行動をした変人みたいに見たりして。


「あの、驚きたいのはこっちのほうなんですけど。」



「いやいやそうだね、驚かしたのはこっちのほうなんだから。

でもしょうがないよ、そんな冷静なのあなたが初めてなんだもん!」


彼女は興奮したように熱弁する。


「そうなの、私的には結構驚いたような気がするけど…。」



「いやいや全然だよ、今までいろんな人に会ったけど大抵は私は現れたらバーーン!って驚いて、ブレスレットがはまってるの見てなんじゃこりゃー!!!と言わんばりのテンションで外そうとするんだけどあなたにはそれがないんだもん。」



自分がいうのもアレだけど語学力が低い説明でちょっと頭が痛くなったけどおかげでイソネがなにが言いたいかよく分かる、ようは私のリアクションが足りなくて彼女にとっておもしろくなかったってことなんでしょ?

それはそれで申し訳ないようが気がするけどなんかムカつく。


「で、私は結局静かで安息は場所に行けるねの?」



「ほんとあなたは冷静だね、こんな奇想天外ビックリ仰天な出来事が起こったら普通は驚かない?」


「まあ普通の人なら驚くだろうね、普通なら。」


「…まあいいや、私のせいでもあるわけだし…。」


「私…せい…?」


「けどそれはそれ、これはこれ。じゃあ始めようか!」


イソネはブレスレットについていた青いボタンをポチッと私の意思も確認も聞かずに押した。


「ねえ、何をしたの?これで私は静かな場所に行けるの?」



「にゃははは、君はとことん冷静なんだね~、確かに君は静かな場所に行ける、けどそれは青じゃなくて隣の赤いボタンを押した時なんだよね。」


「じゃああなたが押した青いボタンはなんなの?」


その言葉を聞いたイソネはまた一瞬ニヤリと不気味な笑いをしたけどまたすぐに元のあどけない表情に戻った。


「ほんとわね、青いボタンを押すと君の欲しいものが手に入るんだけど、どうやら君の欲しいもの=静かな場所みたいだしだったら予行練習をしてもらおうかと。」


「予行練習?」


「ほら修学旅行ってあるじゃない?それも生徒が知らないだけで休日返上で先生達が本番を前に下見がてら段取りやルートを確認するために1回は絶対に行ってるんだよ。

ぶっつけ本番で見知らぬ土地や場所に放りこまれたら誰でも戸惑うからね。

だから君も別の世界に行く前に予行練習してもらうことにしたんだよ。

まあ流石に別の世界とは同じようにはできないけど。」


「ちょっと意味がわからないんだけど。」


「すぐに嫌でも分かるよ、別の世界…静寂に包まれた世界を体験してそれでもそこに行きたいと願うなら1週間以内に赤いボタンを押して。

そんで体験してやっぱりこの世界にいたいと思うなら1週間後のこの場所この時間にブレスレットを私に返しにきて。」


「…なんで…、なんであなたは私にそこまでするの…?私とあなたは今日あったばかりなのに…。」


イソネは少し下を向いて黙りこんだ。時間が停まってる世界でどのくらい経ったかわからないけどその時間はかなり長く感じた。

しばらくして彼女は顔を上げ一言こう言い放った。


「それは秘密だよ!!!」



その瞬間停まっていた時間が動き出した。

高いビルに隠れわずかに見えていた雲は流れ、この街一番の巨大な街灯ディスプレイに映し出された私の知らないアイドルグループが華やかに踊りだす。

イソネは再び動き出した人混みにみるみる飲み込まれ私の前から姿を消した。

なにもかもがイソネと会う前の状態に戻ったのだ。

私の周りが静かになったことを除いては。




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