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つまらない人 後編

マンネリ化を打開するにはそれを上回る起爆剤が必要になる。

その起爆剤もボタンを押す時期やタイミング、1つでも間違えたら起動はしない、それか起動はしても逆効果になって頭を悩ますことになる。

もちろんその逆もしかり、起爆剤が無事成功してマンネリを打破をして喜ぶものもいれば頭を悩ますものもいる。

後者がまさに俺なのだ。

隣街にショッピングモールができたことによりただでさえ少なかったお客さんがさらに来なくなった。

常連さんや小中学生も最初の頃は変わらず来てたんだが1度そこに行ったら最後、その後ここにくる回数がだんだん少なくなり今はバッタリだ。

みんなショッピングモールにとり憑かれたようにことあるごとで電車で片道1時間の隣街に赴いた。

ここにはろくに店は少ないし商品は揃わないし娯楽もほとんどない。

でもショッピングモールにはそれが全部ある。移動時間に目を瞑れば便利この上ない。

ここに住んでる人みんながみんな「ここの生活は不自由ない」って言っていたけれど飽き飽きはしていた、マンネリしていた。

それをショッピングモールという起爆剤が発動したことによって打破されたのだ。

人間1度便利で快適な物を手にいれたら手放すのはもう無理、それにすがっていく。

その代償がこのざまだ、ただでさえ人がいなかったここはさらに殺風景になり、個人商店は客をとられ店を閉める所まで出てきた。

それは俺も例外ではない、こないお客のために店を開いて待っているのも最近は虚しくなってきた。

だけど店を畳むことは考えてない、だってここは親父から託された場所だから。

でもこれとそれとは別問題、だんだんと店を閉める時間が早くなり今は日が落ちる前にはシャッターを閉じる。

そのあとは早めの夕食をとり夜も過ごしやすい季節になったから散歩をするのが最近の日課になっていた。

街灯の光に虫がたかりいろんな虫の鳴き声しかしない静かな道を一人歩く。


「あっ、ここは…。」


ふらふらと歩いていると気づけば彼女…、イソネと出会った場所に俺は来ていた。

結局彼女はなんだったんだろ…。

今となってはなんで彼女は俺が世界から逃げたいんだと思ったりあんなブレスレットを挙げたりしたんだろうか…?

だけどそんなの考えるだけ無駄なんだろう、答えは彼女しか知らない。そして彼女はもうどこにもいない。



そういえばショッピングモールができたのはイソネにブレスレット返した後すぐだった。

いくら遠い隣街といってもそんな大それたことテレビなり新聞なりで少なからず情報が入ってくるはずだ。

なのにそれまでそのことを誰も話さなかったしそれどころか誰も知ってる素振りすらなかった。

けれどブレスレットを返して次の日からこの街はショッピングモールの話題で持ちきりだった、不気味で不自然なくらいに。


「いやいや、まさかな。」








それからさらに数日がたった。

今までは人がいないといってもそれはショッピングモールに行ったからであって住居はここにあるから一応夜になれば人は戻ってきた。

だけどこれはなんだ、最近になりここに住んでいた人達がみんな揃いも揃って引っ越しをこの街から離れていった。

子供がいる家庭や独身の男性、この店にきてくれた常連さんもみんな誰も何も言わず急にここから去っていった。

昨日「いっしょにがんばろう!」と励ましあってた酒屋の店主も今日店に行ってみたら夜逃げをしたようにもぬけの殻だった。

こんな出来事が何度も続き気づいたらこの街に俺以外の人間がいなくなった。










一人の為に莫大なお金は動かせない。

なんとも利益市場主義の会社らしい決断だ。

すぐにここから出られる唯一の手段の電車がここを素通りするようになった。

一応俺も車も免許を持ってて、道路もある。だけどその道路は数ヶ月前の台風のせいで土砂崩れにあってしまって塞がってしまった。復興工事はもちろんしていたんだが大規模な被害だったからちゃんと通れるようになるには最低でも一年はかかるらしい。

だからそれまでは電車が唯一の移動手段だった。

特例で生活物資を電車で届けていたここに電車が停まらないということはもちろん物資も届かない。

電車がこないことによって街の外に出ることも物資が届くこともない陸の無人島に俺はいつの間にか閉じ込められていた。

しだいに電気と水道が止まり、電波状況はけっしていいとはいえなかったけれど携帯電話はちゃんと使えてた。だけどいつの間にかここは圏外になっていて外部からの連絡手段は完全に失われた。

俺は助けがくることを信じて自分の店のものや地主がいなくなった田んぼや畑を使い自給自足の生活をするしか生きる道はなかった。

それならある程度暮らしていけると考えてたけどそれはすぐに崩れ去る。

電気が通ってないから生物はすぐにダメになり、田んぼを整備し畑を耕してたとしてもそこに植える稲や種がなかった。

農家の家の倉庫にいってもどこもかしこももぬけの殻、種どころか最初からそこに誰も住んでいなかったように何も置いてない。

今まで俺が話していた人達は幻想で最初からここに住んでいたの俺しかいなかったと錯覚させるような清々しいほどなにもない。

なにもない場所に俺がいる。












食べれるものは全部食べた、水も全部飲み干した。

だから水汲みにいかなきゃいけない体が動かない、どこも動かせない。

こんなんじゃダメなのに、店のど真ん中に倒れてたらお客がビックリするだろ…。

ああ、そっか…。お客なんてもうこないんだっけ…。

どうしてこんなことになっちゃったんだろ…。

最初はイソネにブレスレットを返した次の日から…、そうだ、イソネだ…!

彼女と出会ってからなにもかもおかしくなった。誰も知らなかったショッピングモールができて、それに人々はひかれるように行きだして、ついにはここからみんないなくなった…。

これが偶然に思えるか?ううん、違うな。

これは偶然なんかじゃない、必然だ。

彼女がこの事態を起こした。俺が彼女の期待に応えなかったから、欲しいものをないと言ったり、別世界に行くことを拒否したからだ。

そんなつまらない俺に彼女は怒った、だからこの仕打ちだ。

つまらない人間には誰にも看取られるなく一人孤独につまらなく逝くんだ、別世界じゃない別の世界に。

この事態を起こしたのは紛れもなくイソネだ、だけど俺にも落ち度はある。

イソネは人間じゃないと俺は気づいてた、なのに俺は彼女を怒らせた。

人間じゃないやつを怒らせた。

得ないの知れないやつを怒らせると何をやらかすか分からない。

それが人間でも

動物でも

化け物だとしても。

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