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つまらない人 前編

白いワンピースを着たイソネと名乗る少女にこのブレスレットを渡された。いいや、渡されたというより無理やりつけられたと言ったほうが正しいか。

とにかくそのブレスレットは俺がなにをしようとも全く外れる気配がない。

とてもこんな30代後半、いわゆるアラフォーの俺が着ける品物ではない。今が冬でよかった、長袖の裾でこれを隠すことができる。

まあそんなことはいい、俺が気になってることがこれを渡した理由が俺がこの世界から逃げたがってて青いボタンを押せば欲しいものが手にはいって、赤いボタンを押すと別世界に行くんだってよ、なんだよそれ馬鹿馬鹿しい。

別に欲しいものなんてない、別世界に行くつもりもない、だからこんな胡散臭いボタンなんて押さないし押すつもりもさらさらない。

今日もいつも通り人も建物も少ない田舎で親父から託された小さな雑貨屋を切り盛りするだけ。

お客さんもあんまこないし忙しいってわけでもないが田舎としての強みなのか昔から顔見知りの人達やお使いにくる小学生、学校帰りの数少ない中学生がよく来てくれるし、その人達とのたわいない雑談が暇から解放してくれる。

だから俺にはこんなの必要ない!ってイソネに言ってやったんだ。

そしたら彼女が1週間後のこの時間、この場所に返してきてと言い出しそのまま姿を消しやがった。

最初は驚いたけど店に来た人や近くに住んでる知り合い達に聞いたけ誰もイソネのことは知らなかったし、そもそもここが雪が降らないとはいえ毎年よく冷える冬の夜にノースリーブの服を着て平然な顔をしていること事態おかしいことに今さら気づいた。

この外れないブレスレットといい俺は1つの結論に行き着いた。





イソネは人間じゃない。






そして今日がそんなイソネと出会ってちょうど1週間後、このブレスレットを彼女に返却する日だ。

ちょうど日も暮れてきてもう誰も来ないだろう、店のシャッターを締め戸締まりをしたあと1度2回の自分の住居スペースに行き軽く食事とシャワーを浴びてから彼女と出会った場所に向かう。

向かうって言ってもそんな大それたことじゃない。こんな田舎じゃ若者が遊ぶような娯楽施設も、ショッピングを楽しむようなデパートなんてない。

周りを森で囲まれ、田んぼと一軒家がぽつぽつと。後は俺みたいな住居兼店の個人商店があるだけの殺風景な場所さ。

その日も近くの酒屋でビールとおつまみを買った帰り道でばったりとイソネの出会っただけなんだし。運命の出会いなんて大それたものなんかじゃなくてたまたま偶然そこにいたイソネにたまたま通りかかった俺が合っただけ。

彼女が何者であろうとそれが現実、今回も変わらない。

ほら、そうだ。1週間前と同じ場所、同じ時間彼女がそこに夜空を見上げ立っていた。


「約束通りブレスレットを返しにきたぞ。」


俺のことに気づいたイソネは微笑みながらこっちを見る。


「本当にどっちのボタン押さなかったんだね、太一さん。」


彼女はどこか寂しそうな声でそう言った。

それにすぐ気づいたけど彼女がどう思ってるかなんて関係ない。俺はただこの邪魔なブレスレットを外してもらうためだけにここにきたんだ、非情に見られようが知ったもんか。そもそも押しつけるようにつけられたんだからさっさと外してもらわないと非常に困る。


「当たり前だ、あんな胡散臭いこと誰が信じるかよ。

ほら、早く外してくれよ。そのためにわざわざきたんだから。」


「…。」



「ほら、早く。」



「…分かったよ…。」


イソネはとぼとぼ歩きながらこちらに近づく。

初めて会った時の彼女年相応の元気で活発だったのに今はその逆、物静かで元気のかけらもない。

そんな彼女を見てなぜか心がモヤモヤする。

別に俺はなんもしてないのに、こいつとはなんも関係ないのに。


「手、出して。」


「お、おう。」


彼女に言われた通りブレスレットのついた左腕を差し出す。

イソネはつけた時と同じように両手でブレスレットを覆い隠す。


「本当にいいの?」


イソネが名残惜しそうに聞いてくる。

俺にやっぱりやめようとも言って欲しいのか? ひき止めて欲しいのか?

そんなことどうでもいい、俺の考えは変わらない。


「ああ、欲しいものなんてないし、この先ずっとこの街で暮らしていくって決めたんだ。別世界なんていく気なんてさらさらない。」



「…つまらない…。」


カチャッと音がしイソネが手を離すと今さっきまでそこにあったブレスレットは綺麗さっぱりなくなっていた。

「ふぅ~」と安心して思わず口にだしてしまったけどブレスレットがある種の枷になっててそれが外れて心なしか腕がとても軽かった。


「とりあえず礼を言うよ、ブレスレット外して…、うん?」


今の今まで目の前にいたイソネがそこからいつの間にかブレスレットと共に消えていた。

腕に視線のいったつい数秒の間に彼女は足音1つ立てずその場からいなくなった。

けど俺は特に驚かなかった。

俺の中では彼女は人間じゃない、人間じゃないやつが人間離れしたことをしてもなんも不思議じゃないからな。

なにはともあれブレスレットは外れて不安材料はなくなった。

もうあいつとも会うこともないだろう。

まだ時間あるしとりあえず1週間前と同じように酒屋でビールとつまみ買って帰ろう。

これで俺とイソネの関係はおしまい、お疲れ様。













あと関係ない話なんだけど数日後隣の街に大きなショッピングモールができた。

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