表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

普通 後編

あの日から5日が経った。

あれから私は学校に行っていない、ううん、行かせてもらえない。

少々顔や制服に飛び散った血がついたくらいで私自身はなにも影響を受けてないけど起こった場所が場所だから両親、とくに私のことを凄く心配してくれてしばらく安静にしてろということになりまして私はあのあとから一歩の外には出ていない。

心配してくれるのはとっても嬉しいんだけど流石に5日間外に出ず家にいるのは退屈、ありがた迷惑なんだよね。

それにイソネが言っていた「欲しいもの」、それがなんなのかまだ分からない。

分かっているのはあと2日以内に赤いボタンを押して別世界にいくか、このブレスレットとまだ何かわからない「欲しいもの」を返して元の生活に戻るか選ばなきゃいけないことだけ。

でも「欲しいもの」が分からないんじゃ結局どれを選ぶかなんて決定しているもんだもんな。

そんなことより今は…

暇だ。

暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇

暇すぎる!

このままいつまで外出できないかなんて分からない。

何もしないことがいけないわけじゃないけどなにかしなきゃ何も始まらない。

結局私が何かしなきゃ母親は外出なんて許してくれない。

だったら許可なんていらない、一度外出して帰ってくればいいんだ。

そうすれば母親だって私は大丈夫だって分かってくれる、きっとそうだ。

帰ってくればいいんだ。

そうと決まれば善は急げだ、母親は今リビングで掃除機をかけている。

いつもならもうそろそろ買い物に出かける時間で外出するならここが一番ちょうどいいんだけどそれだどなかなかつまらない。

やるなら今、母親がいるこの時にやるのがおもしろい。

財布とスマホをジーパンのポケットにいれもしも母親が私を探してこの部屋に来たときのため


「必ず帰ってくるから心配しないで」


と書いたメモ書きを机の上に置いて準備は完了、さあ出かけましょう。

母親に悟られないように静かに部屋の扉を開く。

掃除機が放つ音のお陰である程度の音は相殺できるけどそれもいつ鳴りやむかわからないし、それ以前に姿を見られたらその時点でそこで終了ゲームオーバー。

私は壁に張りつきならが抜き足差し足忍び足を駆使しながらゆっくりと玄関に向かっていく。

下駄箱にある自分のサンダルをゆっくりと置いて静かに履く。

そしてそのまま玄関の扉を音をたてないようにゆっくりと開き久しぶりの外の大地を踏みしめ勢いよく走り出す。

緊張と束縛から解き放たれた私はそれに嬉しかったのか太陽が照りつける夏の空を満喫するように足を止めることをやめなかった。

自分の家なのにあたかも泥棒みたいなことをするのにいい気分はしないけどどこかワクワクがとまらない。

気づいたら私は普段自転車で来ている駅前のちょっとした繁華街まで走って来てしまった。

息は荒れ、額からは汗が流れる。

もちろん心臓の活発に働いてくれてる。

だけどこの胸のドキドキは運動しただけで起きてるものじゃない、もっと違うもの。

だって普通なら学校にいるはずの私が今こんな場所にいる、いちゃいけない場所に私は足を踏み込んでいる。

そう思ったら胸の高まりが止まらない、収まらない、ワクワクが止まらない。

普通な私が普通じゃないことをしてるアンバランスな状況を満喫したい!

買い物帰りの主婦、営業周り中のサラリーマン、これから大学に行く大学生、多種多様な目的をもって行動している人達に紛れ目的も行き場所の決まってない私はスキップを踏みながら行進していく。

普段は駅までに向かう通り道だけであんまり気にしなかったけどここには楽しそうなことが沢山ある。

大きいデパートに、美味しそうなレストラン、怪しそうな物を売ってそうな雑貨屋さん。

今の私をワクワクさせるものがたーくさんある。

だけどその中でも私が一番興味を持ったのはここ。

一歩店内に入るとだらだらとかいてた汗が一瞬でひき、眩しい照明と置いてある個体から流れる騒がしい音楽の数々、そうここはゲームセンター。

デパートとかのちょっとしたところには何度か行ったことはあるんだけどこういう本格的な所には実はこれが初めてだ。

毎日見かけるから薄々興味があって行ってみたいな~とは思っていたけどあと一歩勇気が足りなくて今まで行けなかった。

だけど今日はそれが嘘のように葛藤も迷いもなくすんなり入れてしまった。


まあいいんじゃないかな?


そう思うだけで気が楽になった。

ここは私にとって新鮮なものが沢山置いてある。

格闘ゲームにコインゲーム、UFOキャッチャーにプリクラ。

見るものあるもの全てが新鮮画期的…!私は目に入ったものを手当たり次第プレイした。最初はちょっとだけ外出する予定だったことも忘れてひたすらゲームをやりまくる。

その時は時間も身分も全部忘れたただのゲーム廃人に成り果てた。

けどそんな私を現実に連れ戻されるは意外にも早かった。


「ちょっといいかな?」


「はい?」


音楽ゲームをプレイしている私の肩をそういいながら肩をポンポンと叩かれ私は泣く泣く分を中断しその声に答え振り向いた。

するとそこには30代くらいの男の警官が気難しい顔をしながら私を見ていた。


「君高校生だよね?」


警官が私に尋ねる。


「は…はいそうですけど…。」


私はそれに恐る恐る答えた。


「君今日学校は?ここら辺の学校で休みの所はないはずだけど?」


「えっと…、それは…。」


「答えられないの?」


「いや、そういうわけじゃないんですけど…。」


「ここには一人できたの?」


「えっと…。」


やっと気づいた、今日は平日、学生は学校にいる時間。

なのにその時間見るからに学生がゲームセンターにいる光景か普通なわけがない、目立つし誰が見ても気になる。

それをここの店員が通報するとか誰か巡回している警官に教えるなんてこと至って当たり前で普通なこと、少し考えていれば分かるはずだ。

これは私のミス、私の失敗。

ここで警官が私がここにいることを家や学校に伝えられると今の立場的にまずい、普通な私が普通な立場じゃなくなるかもしれない。

そうなるくらいなら…。


「まあいいや、名前とどこに通ってるか教えて…って君なんで笑ってるんだ…?」


バシッ!


「うわぁぁぁぁ!!」


私は思いきり警官の膝を蹴り倒す。

まさか蹴ってくると思ってなかったであろう警官はバランスを崩し近くにあった格闘ゲームの個体に勢いよく激突する。

その衝撃でゲーム機の液晶はバリバリに割れレバーもよからぬ方向に曲がってしまった。

私は警官が倒れるのを見るのをいるや否や再び走りだす。

店員も追いかけようとしたが混乱した店内によって思うように動けない。

そのすきに私はゲームセンターから飛び出した。

その瞬間ガードレールに立て掛けてある自転車が視界に入る、パット見どうやら鍵はしてないらしい。

ならばと私はその自転車にとっさに跨ぎペダルを漕ぎ始める。

どこに向かうか分からない、これからどうなるかも分からない。

それでも不安な気持ちなんてなんにもない。

警察にキックしたのは多分公務執行妨害、この自転車を盗んだのは文字通り窃盗罪。

次に警察に見つかったら確実に私は逮捕される。

もう私の人生はめちゃくちゃだ。

だけどそれなのに私の心はとても清々しい、いろんな垢が取れてスッキリした気分だ。

それになりよりこの先私がどうなるかわからないと思うとワクワクが止まらない。

激しい動機は運動や緊張不安なんかじゃなく好奇心の証だ。

もっと、もっとこの気分を味わいたい…!

もっと、もっとドキドキしたい…!

その時私はそのことだけを考えるまるで麻薬中毒者の状態になっていた。


「そうだ…!」


私は今向かっている方角をぐるりと180度曲げてもと来た方向に引き返す。

もちろんゲームセンターの前は通らないけどそのまま自転車を走らせていつも行く駅に向かう。

そこに着くと私はあえて交番が近くの駐輪場に自転車を止めた。

そしてなに食わぬ顔をして駅構内に入りスマホのタイムウォチを3時間にセットして実行のボタンを押す。


「じゃあゲームスタート…!」


このゲーム、自分が勝手に作ったゲーム。

ルールは至ってシンプル、きっとゲームセンターの騒ぎで今頃近くの警官達は私を血眼になりながら探してるだろう、この周辺、もちろんここも。

だからあえて私はここにとどまり駅の中をうろちょろして制限時間内で警察に捕まらなかったら私の勝ち、報酬はとくにないけど制限時間内に警察に捕まるその時は私に罰を与える。

それは…。




木を隠すには森の中、人を隠すには人混みの中とまではいかないけど平日の昼前だけど都会だけあってここには沢山の人が往来してる。

人が沢山いるところほど事件が起きる場所はない、これはどこの駅も同じだろうけど警官もそれに紛れて何人もうろちょろしているのが当たり前だ。

だから小手調べといいながらここは結構な難易度、私は心踊らせながら長くて広いこの場所をなに食わぬ顔をして歩く。

人混みの音や匂いに揉まれながら駅構内を散策する。

平日だけあって営業周りのサラリーマンや中年のおばさんが主にいるこの場所に私服の学生が一人歩くのは結構目立つ、だからすぐに警官に見つかって私は駅の中をダッシュして逃走!

それを繰り返すのが私が考えたゲームプランだった。

だけどこれはなんだ?

誰も私を捕まえにこない、それどころかゲームセンターの時みたいに誰も私に声かけすらしてこない。

なんで?どおして?

試しに警官が立ってる目の前を通りすぎたりもした。

だけど警官は私を軽く見ただけでそれ以上なことはなんにもしてこなかった。

もしかして私のこと伝わってない!?

そうだとしたら私がいくらうろついていても警官が私を捕まえにくることはない、これじゃあゲームが成り立たない。

スマホを見るの残された時間はあと1時間18分…、このまま何もしなかったら何もしなくても私の勝ち。

でもこんなの全然面白くないしつまらない。

何かいい案はないかと私は周りはキョロキョロと見渡す。

ここには喫茶店やレストランが数多くあるけどそんなところにいたら時間だけがすぎるだけ。


「あっ!」


そんな中から私が見つけたのは駅ならどこにでもある小さな売店に目をつけた。


(そうだよ、何もしなくてつまらなくなるくらいなら何かやって面白くすればいいじゃん!)


心に芽生えたやましい感情が私の体を動かし売店に向かって足を動かし店内に入る。

レジには店員が男の老人に接客作業をしている。

あえて店員が私のことを見える位置に移動しそこの棚に陳列してあったお菓子を無造作に手づかみしそのままジーパンのポケットに入れた。


「君なにやってる!?」


店員が私の行動に気づいて店内に響き渡るくらいの大声をあげる。

老人も即座に振り返り私のことを見つめ口を動かすが何を言ってるか分からない。

何個かポケットに入らずバラバラと床に散らばり落ちた商品なんて気にもせずそれを踏みつけながら私はダッシュで店内から逃走する。


「おい、待ちなさい!!」


店員を私を後を追いかける。

私は再び人混み溢れる駅構内に潜り抜けながらそれから逃走する。


「あの若い女の子捕まえてください!万引きです!」


後ろから店員の大きな声が聞こえる、それに反応するかのようにその場にいた人達がみんな私を注視した。

この瞬間ここにいる人達は私の敵、鬼となった。

そうこれだよ、これ。

私は「これ」が欲しかったんだ。

これからどうなるかわからないワクワク感、絶対的不利な状況からどうきり抜けられるか分からないドキドキ感、どれも普通なら味わえない快感…。

こんなの今までの私じゃ絶対にできなかった…。

でもこのブレスレットが…、イソネがそれをできるようにした…!


「こら止まりなさい!」


前方にいたサラリーマンが近づき私の腕を掴んで静止させようとする。

その腕を宙高く上げて私の身動きを完全に封じようとしていた。

だけどサラリーマンには一つ見落としてものがある、それは私のほうがはるかに背が小さいことだ。

だいたい180センチあろう男性にこの年代の平均身長である私が全うに立ち向かっても敵うはずがない。

だけどそれならそれなりのやり方がある。


「よし、観念したな。」


私は一度抵抗をやめその場にしゃがみこむ。

それで安心したのかサラリーマンは余裕綽々にもう片方の腕を掴もうと少し前屈みになる。


(今だ!)


私はその瞬間勢いよく立ち上がる。

その時サラリーマンの顔は頭上真上にあったから私の脳天がサラリーマンの顎にクリーンヒットする。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


サラリーマンは腕を離し大声をあげながらその場に悶絶しながら倒れる。

口を隠している手をから絶え間なく血が流れている。


「ざまぁ見ろ!!」


私はサラリーマンにそういって再び走りだした。





ハハハハッ!楽しい!!最高!!

なんで今までこんなことに気づかなかっただろう!?

簡単だったんだ!

普通じゃなくなる方法なんて簡単だったんだ!!

それがこんなに楽しいことだったなんて!

もっと…もっと!!欲しい…欲しい!!

もっと私に刺激を…刺激をちょうだい!!











「おとなしくしろ!!!」


「あぁん?」



気づいたら私は駅の外に設置してある噴水の外壁に寄りかかりながら座っていた。

周りを見渡すと私と噴水を囲むかのように警官が何人もいる。

その向こうにはもっと沢山の人達が私達の動向を見守っていた。

そうか、これが野次馬ってやつか…。


「その手に持ってるものを離しなさい!」


一人の警官が威圧するように叫んだ。


「手…。」


私は自分手を見る。


「えっ…。」


そこにはところどころ血がついた少し小さめのナイフを私はしっかり握りしめてあった。


「ひぃぃぃ!!!」


私は声を上げて怯えながらナイフを放り投げた。


「確保!!!」


それを合図に警官達が一斉に私のもとに駆け寄り私の手や足を掴みかかる。


「やめっ!やめて!!!」


私は必死にそれから逃れるように抵抗をする。

その時噴水の水面に映る私の顔が見えた。


「なにこれ…。」


そこに映っていたのは私のしてるミナミの顔じゃない。

髪はボサボサ、顔中に血がべったりとついていて目も充血なのか真っ赤に染まっていた。

それなのに、こんな状況なのに笑顔でいるミナミではない普通では誰かの顔がそこにあった。

とても醜くておぞましくて情けなくてみっともない、それが今の私。

やっと気づいた、自分がどんなことをしたのか、いけないことをしたのか、大変なことをしのか、取り返しのことをしたのかを。


「14時23分、現行犯逮捕!」


警官の一人が私の腕に手錠をかけようとした、その時。



ピピビピピー!!!


乾いた電子音が騒がしいこの広場一体に響き渡る。


「な、なんだこの音は!」


「まさかこいつ!!」


「全員容疑者から離れるんだ!」


私を捕らえていた警官達が鶴の一声で即座に離れていく。

その衝撃で私はコンクリートの地面に叩きつけられる。

もしかして私が爆弾でも持っていてそれの起動ボタンでも押したのかとでも勘違いしたんだろうか?

ははは…、そう思われたりこの血だまりといい私は一体何をしてかしたんだろうか、全く覚えてないや…。

でもこれでできる。

この音はスマホのアラーム、私は制限時間内に警察に捕まってしまった、よってゲームオーバー私の負けだ。

ではルール通り私に罰を与えましょう。

私はゆらゆらと立ち上がる。


「下手なことはやめるんだ!」


遠くで警官のどなり声が聴こえる。

そこはさっきまでと同じなんだけどこんどは警官全員が私に銃を向けていた。


(そんな物騒なこともうしなくてもいいのに。)


私が動くたびに警官達に緊張が走るのがここからでもヒリヒリと伝わる。

でももうそんなこと関係ない。

私はブレスレットに手をかける。


「おとなしくしろ!!!ブレスレットから手を離せ!!!」


警官達の罵声が次々に飛んでくる、やめろ、おとなしくしろ、早まるなと。

勘違いしてるとはいえこのボタンを押すなと静止してるようだけどもう覚悟は決めてる。

もうこの世界にいても待ってるのは暗闇の牢獄だけ、私の居場所はここにはない。

だから







さようなら、私の世界。
















ここはどこだろう…?

赤いボタンを押したら視界が真っ暗になってなにも見えなくなった。

けどそれは一瞬で終わって気づいたらさっきまでいた噴水広場とは違ってどこか知らない場所の知らない道の真ん中にいた。

だから私に敵意を向ける警察も興味本位で見に来た野次馬もいない、あるのはコンクリートで舗装なんてされてない道と周りには映画で見たような昔のヨーロッパにありそうな建物が並んで建ってるくらいの殺風景な光景。

ここがどこだか分からないけれど私はイソネの言うとおり別世界に飛ばされた、もうあの世界には帰れない。

でも後悔はしていない、どのみちあそこにいてもお先真っ暗だし、まあ誰も私を知らない世界の知らない土地で一から生活するのもなかなかスリリングで面白いかもしれないし。

それから私はここがどういう場所か確かめるために一通り歩いた。

それで気づいたことがある、この場所は商店や食事をする場所が沢山あってある程度広い街なのにも関わらず人の姿が全く見えない。

ううん、見えないんじゃなくて私に姿を見せようしない。

みんながみんな建物の中にいてそこの窓や隙間から私を物珍しそうに覗いていた。

どこにいようと、どこを通っても不気味は視線が私に突き刺さる。


(これじゃああの時と同じじゃん…。)


そう思うと視線が勝手に下にいく。

しばらくその体制のままふらついていると後ろからガシャン!と大きな音が聞こえた。

振り返るとそこにはこりゃまた映画で見たような西洋風の鎧を被った男の人が一人立っていた。


「貴様どこの領土の者だ?」


男は私にそう言った。


(ああ、別世界でも言葉は通じるんだ…。)


と変な感心をしたけどとりあえず誰かと喋れることに私は嬉しかった。


「えっと、私は日本から来ました。」


「日本?そんな領土知らんな? 」


そりゃそうだ、ここは別世界なんだしそう答えるのは当たり前か。


「まあいい、こっちにこい。」


「なっ!?」


男はそういうとあの時のサラリーマンのように私の腕を掴んだ。


「ちょっとやめてよ!」


私もあの時とは違いそれを振り払う。


「なっ…!お前俺に反抗するのか!」


男は血相をかえながら私に怒鳴る。


「いきなり腕掴まれたら普通そうするでしょ!?」


「普通?なにを言っているんだお前は?そんなの普通じゃないな。」


「はぁ?なに言ってるのこれが普通よ!」


「お前がどこにいたのか知らんがここでは歳上の人物の言ったことは必ず従うのが普通だ。」


「だからなに、私ここに来たばっかりだしそんなこと知らないわ。」


「けどお前は今ここにいる、だからここのルールに従うのが普通だろ?

それに貴様その格好普通じゃないな、我が国では一般市民はああいう格好をするのが普通だ。おい!」


男が右にある家に向かって何か合図をする。

すると家の中から家族と見られる4人の人達がズラズラと出てきた。

その人達は男女関係なく白い大きな布を被ってるだけの服とはいえない格好をしている。


「どうだ、これがこの国の普通だ。」


ここの人がみんながみんなこんな格好だったらTシャツでジーパンの私が目立つし物珍しく見るのもなんか分かる気がする。

ここでの普通は私にとっても普通じゃない、つまりはここに私の居場所はない。


「分かったか、お前はここでは普通ではないんだ。」


「ええ、分かったわよ。普通じゃない私はここにいる資格はない、だからこっから出てくわよ、それで充分でしょ?」


私は男性にそういい放ちもと来た道に戻ろうと振り返る。


「なっ!?」


その時私の視界に入ってきたのが後ろにいる男性と同じ鎧を着た人達が何人も私をここに閉じ込めるかのように並び立ち道を塞いでいた。


「そうそう、普通じゃないお前に朗報があるんだ。」


「!?」


「この国では一つだけ普通じゃないことが許される時がある。

それは普通じゃない行動をした人物を罰する時だ。」


「えっ…。」


「もちろんここでは暴力を振るうことは普通ではないから許されない行為だ。でも普通じゃない人間には普通なことでは更正なんかするわけない。

だからその時だけは特別に暴力が許される。

まあそこまで話せばもう分かるよな?」


前方にいる鎧の男がだんだん私に近づいてくる。

後ろには男が両端には建物が隙間無しに並んであって私が逃げれるところなんてどこにもない。


「い…いや…。」


「さて、これから普通じゃない人間にたっぷり罰を与えよう。

ゆっくりと、刺激を体に刻みつけるようにじっくりとな。」


「や…やめて!やめて!やめてよ!!」


「最後にこの罰がいつまで続くかせっかくだし教えてやる。それは…」








普通に動かなくなるまでだ。



















安定の国、ノマルティス

少し前までこの国は国王の奇想天外な政策によって国民は振りまわされていた。

それによって他国との争い、財政難、国民の反感によって国自体が無くなりそうなほどの危機だったんだよ。

でもその国王が息子の流派に暗殺されその息子が今の国王になったんだ。

そして息子が国のトップに立ちまずはなにをしたか、もちろんそれはこの国の安定だ。

安定…つまり普通にするということ、国王は細かく国民の行動や生活に制限をかけた。

住まう場所から食べるもの、着る服まで一つ一つの行動全部に全部決めつけ押しつけた。

そしてそれを破ったものは普通ではないという理由で厳しく罰っせられた。

こんな独裁的なこと許さないと思ってるでしょ?

でも昔の国王とは違い今の国王は国民から圧倒的な人気、求心力があった。

それになによりあの時よりも少しでもよくなると国民は信じて喜んでそれに従った。

でもそれはつかの間の夢物語、現実はガチガチに縛られた行動に自由なんてなかった。

自分の好きな時に好きなこともできない世界に希望なんて持てない。

国民は次第に生きる気力を失いただの国王が決めた取り決めに従うだけのお人形さんになったのさ。

そんな場所に来たミナミちゃんはとてもうらやましかったんだろうね。

普通じゃない服を着て、普通じゃない行動して、普通じゃないことを言うんだから。

でも国王がそのことを知ったらとても妬ましくて恨めしいだろうね。

ほんと、普通ってなんなんだろうね?












評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ