この世界からの卒業 その8
「えっ…!」
その瞬間茜に触れてる手から金色に輝く神々しい光が発せられる。その光はまぶたを閉じる暇もない一瞬で終わったから私はそれ以上なにが起こったのか分からなかった。
「茜、茜!大丈夫!?」
私は光の中心地にいた茜に向かって叫ぶが彼女は正気を失ったような虚ろな目をしながら無言で下を向いたまま何も言ってくれない。
「茜?ねえ茜!返事して!!」
いくら私が呼び掛けても彼女はピクリとも動かない。そんな彼女を見て嫌な胸騒ぎがざわつく。
「茜!どうしたの茜!!」
「無駄だよ静ちゃん、いくら叫んでも「これ」は反応しないよ。」
茜の目の前にいるイソネがボソッと口にする。
「反応しないってねえ、どういうことなのよ!茜に何をしたの!?」
「何って…さっき言ったじゃん。うるさいから彼女を消したんだよ。茜ちゃんの魂をね。」
イソネは簡単に簡潔に間髪入れずそう私に言った。
「なに…言ってるの…。」
「そのままの意味だよ、静かにしてって言ってもうるさいままだったしちょっとお仕置きをしてあげたんだよ。おかげでほら、君の名前の通り静かになった。」
「じゃあ…そこにいる茜は…。」
イソネは茜の顎を触りクイっと顔をあげる。あんなに毛嫌いしていた彼女にそんな惨めなことをされているのに茜は何も言わないし何も反応しない。
「今ここにいる彼女は魂のなにもないただの脱け殻、ちょっと暖かくて大きなお人形さん。」
「そ…そんな…。」
全部私のせいだ、イソネに出会ったのも、茜がこうなってしまったのも…。
私が…、私が茜とずっと一緒にいたいと願わなきゃ…。
目から涙が溢れてくる。だけど体が動かないから拭うことができない。ポタポタと溢れでる涙を止めることも吹いてくれる人ももう誰も…。
「でもこんな大きいお人形さん、ここに置いてあったら邪魔だよね?」
「えっ…、ダメ!やめて!!」
「大丈夫、静ちゃんの思ってるようなことはしないよ。ちょっと有効活用させてもらうだけさ。」
そう言うとイソネはもう一度茜の胸に手を置く。すると再びそこから眩い光が放たれるがその光にはさっきとは違う不気味なものを感じた。
そして光が収まり再びが茜の姿が現れるがついさっきまで今はずのイソネの姿が見当たらない。
「何が…起こったの…。」
私は思わず頭に手をのせる。
「動…ける…?」
ちゃんと手も握れる、足踏みもできる、涙も拭ける…。
私は自由を取り戻せた。
「茜!!!」
私は自由になったその足で茜の元に駆け寄る。
両肩をつかみ体を揺らし呼び掛けるけど彼女はイソネの言った通り人形ようにただ衝撃をぶらんぶらんと揺れるだけの無言の回答をするだけ。
「ごめん…、ごめんなさい…。私のせいで茜が…。」
私は茜に抱きつき自分の起こした取り返しのつかない罪を懺悔する。だけど茜は怒っても叱っても頭を撫でてもくれない。
目から流れる謝罪の涙は茜の制服が受けとめてくれるけど私の思いを受けとめてくれる人はもういない。
ここにいるいい匂いのする制服をきた綺麗な私の友達はもう…もう…。
「ちょっと冷たいよ。」
耳の穴にその言葉がすぅーっと入ってくる。
「えっ…。」
同時に今までピクリとも動かなかった茜の体が私を拒絶するように私をポンと押し出す。
私はしりもちをついたけどそれ以上に驚いた、だって茜が動いて喋ったから。
「あ…茜…?」
「そうだよ、私が茜だよ!どう?驚いた?驚いたよね?」
今度は茜が私の元に近づき興奮するように身ぶり手振りをしながらそう言った。
私はそんな彼女を見て一瞬の喜びが絶望に変わる瞬間を嫌なほど感じる。
「あなた…誰?」
「誰って見れば分かるでしょ?茜だよ、君の友達のさ!」
「違う…!茜は私を傷つけることはしないし、私を君なんて呼ばないもん!」
その言葉を聞いて茜はニヤリと笑う。
「そうだよね~、やっぱり見た目だけじゃ中身は誤魔化せないもんね~。流石だよ静かちゃん。」
茜はそう言いながら突き飛ばされた時に落とした麦わら帽子を拾いポンポンと砂を叩きそれを被る。
その姿はとても嫌なくらい見覚えがある。そもそもちょっと考えれば分かったはずだ、だけど考えなかった。また私は現実を
受け入れるのを拒絶した。あんなに言われたのにまた…。
そんな弱い自分がゆるせない…!だからせめて現実を受け止めよう。
「イソネ…なの?」