この世界からの卒業 その7
イソネは笑顔で私に問いかける。だけど私を見つめる彼女の黒い瞳は小さいのにブラックホールのようなとても大きな空間が広がってるように思えた。もし私が彼女に嘘をつこうものならそこに吸い込まれると本能が訴えかけてくる。
私は唾を飲み込み口を開く。
「私は…本当は…、茜に卒業してほしくない。ううん、茜は遠くになんか行ってほしくない。私の元から離れてほしくない、ずっと…、永遠に一緒にいたい…。」
「静…。」
「ごめん茜、やっぱりこれが私の本音なんだ。」
私は茜に謝罪する、だけど心にあったもやもやしたものが晴れてこの時少しだけ清々しく思えた。
「じゃあその願い叶えてあげるよ。」
イソネは私のその言葉を待ってましたと言わんばかりに食いつき不気味に笑う。
「あなた、何を言ってるの?そんなありえないことできるわけないじゃない。」
私は呆れながらに言った。
「静ちゃんはどうしてこんなことが言えるのかな?この世界にありえないことがないなんてありえないんだよ?
現に静ちゃんが言うにありえないことが今まさに起きてるじゃない?」
私は動かない自分の体、動かない茜を目で追いありえないことが起きてることを自分たち自信が証明してるけとを実感する。
「ね、分かってくれたよね?」
「うん…。」
「そっか~、良かった良かった!」
イソネは嬉しくなったのか私の肩をポンポンと叩きその場でワイワイとはしゃぐ。
「…じゃあ本当に茜と一緒にいることができるの?」
私は禁断の、言ってはいけない言葉を口にしてしまう。
「静!!」とその言葉に反抗するように茜は叫んだ。
だけどイソネはそれをスルーし私に言葉を返す。
「できるよ、まあ永遠とは流石に無理だけどなるべくそれっぽくできるように努力をするつもりさ。」
「ダメよ静、こいつの言葉を聞いちゃダメ!」
「私を受け入れたら君は永遠と呼べる楽しい時間を手にいれることができる。さあどうする静ちゃん…?」
「私…私は…!」
「静!!」
茜が今まで聞いたことのない大声で私の名前を叫ぶ。私は持てる力を振り絞り首から上をなんとか茜ほうに向けるとそこには初めて涙を流している彼女の姿があった。
「ダメだよ静、さっき言ったでしょ?この別れは私達を成長させるものだって。永遠の時間なんてない、もしあったとしてもそんなとこにいたら私達はいつまでたっても大人になれない、ずっと子供のままだよ。それで静はいいの?」
「それは…。」
「そんなの嫌だよね?お互い成長して、大人になってまたワイワイ遊ぼうよ。ね?だからその子の…。」
「あー、うるさいよきみー!!」
茜の声をかき消すかのような大声がこの場所にこだまする。
「私は静ちゃんと話してるんだちょっと黙ってくれないかな?」
さっきまでの幼さと陽気さが入り交じっていたイソネの態度が180°豹変したように彼女は茜に敵意の眼差しを向ける。
「あなたが何を考えてるかは知らないけど私達は永遠なんていらない、今の限りある時間を生きていくんだから。」
「君のことなんて聞いてないよ、私が聞きたいのは静ちゃんのことなんだけどさ。」
「静も同じ意見よ、あんたの言葉に静はもう惑わされない。」
「…。」
「だからもう私達の前から消えて!」
「はいはい、分かりました分かりましたよー。」
そう言うとイソネは私の元からゆっくりと離れていくとその足で今度は茜の目の前に立ちふさがる。
「これ以上言ってもどうやら無駄なようだね、私の負けだよ茜ちゃん。」
「それじゃあ…!」
「うん、おとなしく消えさせてもらうよ。」
そう言うとイソネは茜の胸に自分の右手を添える。
「だけど消えるのは茜ちゃん、君だ。」