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この世界からの卒業 その5

彼女は不敵な笑みをこちらに向ける。まるでその質問を待ってましたと思ってるみたいに目の前にいる私の友達に瓜二つの少女はそこにいた。


「よくその質問にたどり着いたよね静!友達として鼻が高いよ!」


「今さら友達づらしないでよ。そう言わせるように誘導したのは貴方じゃない!白々しい。 」


「おっしゃる通り、もう友達ごっこをするのはやめにするよ。だから戻るね!」


「戻る?何に?」


「何って君が言ったじゃん、あなたは誰って。だから戻るのさ、元の姿に。」


その瞬間彼女の体が光に包まれる。その光が時の止まった体育館を覆い包まれる。私の目を両腕で光から守る。時が止まり、時間が無くなったこの場所で一瞬の出来事なのに私は凄く長い時間にかんじる。

腕で隠して、まぶたを閉じても感じることができるほどまぶしい光はしばらくすると終息していく。

私は腕を下げ目を開けて壇上に視線を向ける。

そこにいたのは新しく綺麗な制服を着ていた茜ではなく、全身白いワンピースに身を包み麦わら帽子を被った小さな少女だった。


「初めまして、ううん、今の君にこういうのが正しいのかな。

3年後ぶりだね、静ちゃん。」


「あなた…誰…?」


「私はイソネ、あなたの願いを叶えてあげた凄い人だよ。」


「願い?なにそれ?私はあなたとは今初めてあったし、願いなんて言ってない!」


「あはっ!」


イソネの名乗る少女は満面の笑みを浮かべ壇上から優雅に飛び降りる。麦わら帽子を押さえ、純白のワンピースとフワリとなびかせる彼女の姿を私は不覚にも「美しい」と感じてしまう、まるで天使が目の前に現れたように。


「よっ」と綺麗に着地した彼女は私の元にすたすたとやってくる。そして被っていた麦わら帽子を私の頭に被せた。

どんな物にも何かしら匂いというものはあるもんだ。それが直前まで人が身につけた物なら尚更。だけどこの麦わら帽子にはそのもの特有の香りどころかイソネの匂いすら感じない、無二無臭で少しざらつく感触だけがこれから感じられる唯一の情報。


「あの時も私は君にこうやって麦わら帽子を被せたんだよ。」


「だから私はあなたと会ったこともないし麦わら帽子を被された記憶もないわよ。」


「そりゃそうだよ、、私が消したんだから。」


「えっ…、記憶を…消した…?」


「そうだよ、でもそれは君の願いでもあるんだから。」


イソネは淡々と言葉を並べる。それとは裏腹に私の心情は嵐のように荒れ狂っていた、冷静ではいられない、わけが分からない。

今何が起こっているのか、これから何が起こるのか、不安と疑心がしっちゃかめっちゃかだよ。

だけどそんな私をよそにイソネは更に追い詰めるようなことを口に出すのであった。


「君は覚えてないだろうから簡単に教えてあげるよ。

君は卒業式の後高校生活を終わりたくない、永遠に高校生でいたいと私に願ったんだ。

だけど私も神じゃない、永遠なんてことはできない。私が願いを叶えてあげられる期間は1週間、その制限の中で君の願いに最大限に答えるように努力をしたんだよ。

そして思いついたんだ、限りなく永遠に近い方法を。

1週間という短くて長い時間の内の1秒を君の高校生活、3年間にしてあげようってね。」


「ちょっとあなた何言って…。」


「そのままの意味だよ、1週間、秒数に直すと604800秒。その内の1秒が君の3年、高校生活になるんだ。そして卒業式が終わった時、時は1秒進み、君の高校生活がまた始まる。それを君は何度も繰り返してるのさ。」


「ちょっとまって!何度もってまさか…。」


「今さら何知らないふりてるのさ?君はとっくに気づいてるんでしょ?自分が何回も同じ出来事を体験してるって、そう言ってたじゃないか。

まあけど現実は君が思っている以上に繰り返してるんだろうけど。」


「…私は何回繰り返してるの…?」


「別にたいしたことないよ、たかが」





224325回だけだよ。





彼女はその膨大な数字をいとも簡単に口にする。

私はその膨大な数字を簡単に受け止めることができない、現実を受け入れられず女の子らしくなく口をあんぐりと開けたまま動揺をしてることしかできなかった。



「せっかくここまでたどり着いた、ご褒美に今の君が知りたいことを思い出させてあげよう。」


イソネは小さな手のひらを麦わら帽子を被っている私の頭に手を置く。


「うわぁぁぁぁぁ!!!」


その瞬間そこから稲妻が流れる衝撃が私を襲うと同時に身体中に大量の情報が、記憶が流れてくる。

それが体のしみじみまで浸透していく、浸っていく、溺れていく。

思い出した、あの日何が起こったのか。私が何を願ったのか、茜がどうなったのか。





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