この世界からの卒業 その4
同じ体験や出来事をすることを運命共同体とよく言うけれど、じゃあ今回はその運命共同体って言ってもいいのだろうか?そもそも私の周りで起こってることは運命なんだろうか?
私の隣にいる女の子、茜にとって今の私とは初対面のはず…。だけど彼女は今まで仲良くしてきた友達のように話かけ笑顔をみせる。
その私も今までデジャヴだったと思ってた現象が正真正銘体験してきた出来事、いうなればタイムスリップしてきたことだと確信した。それは私の記憶がハッキリと証明してくれる。
だからわけがわからない、何もかもさっぱりだ。ねえ教えてよ、茜。
「どうしたの静、そんなにびっくりしちゃって?」
茜は私の耳元でそっと囁く。私は彼女に聞きたいことが山ほどあるのに何故か口が開けない。額から冷や汗が流れる感触がじわりじわりと伝わることを認識するのに精一杯だ。
「あっそっか!入学式は静かにしないといけないんだっけね!静にだけに。」
私の気を紛らわせるためなのか渾身の親父ギャグを噛ましてくるけど全然笑えないよ茜…。
「全く…、変なとこで真面目なんだから静は…。」
そう言うと茜は指をパチンと鳴らす。その瞬間相変わらず退屈な話をしている校長先生の声がパチリと鳴りやむ。それだけじゃなく渡り雑音や喋り声も彼女の合図を境なにピタリと止まる。
この静かな衝撃によって私の緊張の糸がプツリとほどけ「な…なによこれ…。」と声を出す。
「やっと喋ってくれたよ、良かった~。」
そんな私を見た茜は安心したように胸を撫で下ろすが無論私はそんなのとは真逆の感情が襲ってくる。
「ねえ茜、これいったいどういうこと?」
「どういうことって時間を止めたのさ! 」
「時間を止めるって…そんなことできるわけないじゃない!」
「そんなことって言われても今目の前で起こってるんだな~。」
茜が呆れながらに私に言う。
「で…でも…。」
「そんなこというなら証明してあげるよ。」
そう言い茜は立ち上がると「ほら来て」と私の腕を引っ張り私をある新入生の最前列に連れ出す。その間も教師達は注意しないし生徒を目の前を遮ってる私達を目もくれずみんな石ように固まり座ってるだけだ。
「ね、みんな反応しないでしょ?分かってくれた?」
「う…うん…。」
ここまでやられちゃ信用せざるおえない、この摩訶不思議な現象に。茜が時間を止めたら行為に。
「静とっても不思議な顔してるよ?なんで?」
「こんなことされて不思議な顔しない人はいないと思うけど?」
「あはっ!そりゃそうだ!」
茜そう言うと壇上に颯爽とかけ上がる。そしてあの校長先生からマイクを取り上げ彼を「邪魔」といいポンっと押す。
校長先生はそのままの姿勢のまま固く冷たい床にドンと鈍い音をたてながら倒れた。
彼の変わりに教壇に立った茜はマイクを握りしめ言った。
「でもさ静、時間が止まってる不思議な現象よりももっと不思議な現象に巻き込まれることにもう気づいてるよね?気づいてなきゃおかしいよね?
だってさっきまで卒業式やってたのになんで今また入学式にいるんだなんて疑問に思わないもんね~!」
「えっ…、じゃあやっぱり茜…。」
「うん、覚えてるよ。しっかりとハッキリと静が覚えてないことだってね。」
「私が覚えてないこと…?」
「そうだよ、静は卒業式の帰り道の後のかことを覚えてないでしょ?だけど私はちゃんと覚えてる。それはなんでだと思う?」
「それは…、あっ…!まさか私がループしてるのは茜がやったっていうの!?」
「あ~、惜しいな。半分正解で半分不正解。確かにこの現象を起こしたのは私だけど茜じゃない。」
「はっ?なにそれ?あなたは茜でしょ!?」
「違うよ静、君はとんだ勘違いをしている。」
「勘違い?」
「ねえ静、私は今回自分のことを茜って名乗ったことがあるかな?」
「えっ…?」
私はさっきの記憶を呼び起こす。ついさっきな出来事なんてそうそう忘れるはずがないから彼女との会話も鮮明に覚えてる。だからすぐに気づいた。私の知ってる彼女は自分のことを「茜」と呼んでいた、だけど今目の前にいる彼女は自分のことを「私」と言っていた。
それってつまり…。
「ねえ、あなたに質問していいかな? 」
「なに、静?」
「あなたは誰なの…?」