この世界からの卒業 その3
「えっ?」
言っちゃった…、言ってしまった。
こんなバカげたこと私の心の中で留めておきたかったのに茜に言っちゃった…。
茜は「何言ってるんだこいつ?」と言いたそうな表情で私を見ている。
そうだよ…、そうだよね…。自分でもそう思うもん。だけど我慢できなかった。だって私は知ってたから。
「えっと…、静さん?何をおっちゃってるのかさっぱりなんですが…?」
「私ね、知ってたんだ。」
「知ってたって何が?」
「知ってたというかこれはデジャヴっていうのが正しいのかな?」
「デジャヴってあの体験したことないのに体験してたような気になるアレのこと?」
「そう、私ねそれが高校に入った時からずっと感じてたんだ。」
「ってことは入学式、私と会った時も?」
「うん…、でもそれだけじゃない。授業の内容やちょっとしたトラブルの時もなんかこれやったことあるな~?って気になるんだ。」
「じゃあもしかしてさっき私のスマホをナイスキャッチした時もまさか?」
「茜がスマホを落とすって感じて体がとっさに動いた…。」
私は心の中に溜め込んでいたものを吐き出すように全てを話した。
きっと引かれるかもしれない、もしかしたら嫌われるかもしれない。でも言わずにはいれなかった。
こんな不思議で支離滅裂でめちゃくちゃなことを。
「凄いじゃん静!!!」
「へっ?」
茜は勢いより私の両肩を掴みふらふらと体を上下に揺らしてくる。
彼女の瞳は動揺な困惑なんて微塵も見えるそれよか私に興味と興奮を写しているようだった。
「静それデジャヴじゃないよ!超能力だよ!未来が分かるなんて凄いじゃん!!」
「えっと…?茜さん…?」
「じゃあさじゃあさ!入学式の時いきなり私の名前を呼んだの名簿なんか見ないでそのデジャヴ?のおかげなの?」
「うん…、多分…。」
「すごーい!凄い凄いよ静!いや~友達がそんな能力を持ってるなんて私は鼻が高いよ!」
茜は私の予想を裏切るような反応をことごとくしてくる。そのおかげで私は絶賛困惑中なのだ。
「変とは思わないの?」
そんな私は思わず茜にそう質問する。今の私にとってもっとも答えを聞きたくないことを思わず口にだしてしまった。
「えっ?なにが?」
茜は言った。
「友達が未来が見えちゃうかもって言ってるんだよ?」
「うん。で?」
「もし私がその能力で自分のいい未来のために茜に不都合な未来押し付けることともできるんだよ?」
「う~ん、それは困るな~?」
「そんな変な人と友達なんて嫌じゃないの?」
「まあそれやられたら嫌になりそうだけどさ、でも静はそんなことしないでしょ?私知ってるよ。」
「えっ…。」
「高校に入ってからずっと一緒いるんだもん。静がそんなことしない、できるわけないって分かってるよ。」
「茜…。」
「それに静がどんな能力を持ってても静は静、私の友達早乙女静。それは絶対変わらない。そうでしょ?」
「うん…!」
不安がっていたのがバカらしくなるくらいに茜はこんな私を受け入れてくれた。彼女の笑顔を見ていると悩んだり不安がっていたのもアホらしくなるよまったく。
だけどよかった、ちゃんと話せて。ちゃんと言えて。
それからしばらく、短くて長い時経ちついに私達は卒業の日を向かえた。
高校卒業後私は都会の、茜は地元の大学に進学することに決まった。それはつまり3年間一緒だった生活の終わりを意味する。
私は大学の寮の関係で卒業式の次の日にはこの街を出ていかなきゃならない。だから今日この日が茜と会える最後の日。
卒業式が終了し、学校には終わりのチャイムが鳴り響く。
卒業生は校内から出ていきそれぞれの場所に旅たっていく。
私達は特別な寄り道なんてしないでいつも通りの帰路をいつもと同じように歩いていた。
「今日でこの道を通るのも最後か~、寂しくなるね~。」
「そうだね…。」
「あれ~?まさか静さん感極まってる?」
「そ…そんなわけないでしょ…。」
それは嘘だ、私の声は怖いほど震え、まぶたには今にもこぼれ落ちそうなくらい涙が貯まってる。
「でも静、この未来もデジャヴで見えてたんでしょ?ならそんなに悲しむことはなくないない?1度体験したようなもんだし。」
茜はそう私に質問する。
「いやだから別に体験したわけじゃないし…体験した気になるってわけだし…。
それに別れは何度体験しても悲しくなるものだよ。」
「うんうん、そうだね…!それは私もだよ。」
茜は私のほうに振り向き頭を優しく撫でる。
その瞬間今まで貯まっていた思いが涙となってポタポタと流れる。
「あれ…なんで涙が…泣かないって決めたのに…。」
拭いても拭いても壊れた蛇口のように涙があふれでる私を茜は自分の胸を抱き寄せる。
「今日は泣いてもいいんだよ、やせ我慢しなくていいんだ。今日はそういう日さ。」
「茜…。」
「私達はこれを機会に成長するんだ、別れはそのための一歩。だから悲しくても受け入れなきゃいけないんだ。」
「うん…。」
「まあでもこれが永遠の別れじゃないし、毎日会ってたのがたまに会えるってことに変わっただけだもん。もっと気楽に好意的に考えようよ。」
「うん…、うん…。
あのね、茜…。」
「うん?なに?」
「これだけは言わせて…。」
私は自分から茜の胸から離れた。そして涙を拭い笑顔で彼女に一言言う。
今までの全ての感謝を込めて
「茜、卒業おめでとう。」
この瞬間、私達は私達の関係を卒業した。
「新入生の皆さん御入学おめでとうございます。これから我が校の生徒としての…。」
「えっ…!」
桜咲く暖かな春、私、早乙女静は市立桜ヶ丘高校に入学した。
そしてついさっき卒業したはずだった…。
その後茜といつもの帰り道で自分でいうのもアレだけど感動的な別れをしたはずなのにどうしてまた私は新入生として入学式にでてるの?
私はハッキリ覚えてる。これはデジャヴなんてものじゃない、これは…。
「!?」
混乱する私の感情を遮るように左隣にいる女の子がとんとんと肩を叩く。
恐る恐るそちらの方向を向くとその子は見覚えのある懐かしく優しい笑顔で私を見つめ口を開く。
「また会えたね、静!」