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この世界からの卒業 その1

「新入生の皆さん御入学おめでとうございます。これから我が校の生徒としての…。」







桜咲く暖かな春、私、早乙女静は市立桜ヶ丘高校に入学した。

高校生になれば何かが変わるかと思ったけどそんなの幻想、なんにも変わらない。

どこの学校に行っても校長先生のありがたいほど長い話は変わらない。私の高校生活は早くも退屈に染まっている。

「ふぁ~」と私はあくびをすると左隣にいた女の子がとんとんと肩を叩く。


「あくび、声に出てるよ。早乙女静ちゃん。」


「あっ、ごめん。気になったよね。えっと…。」


「茜、斎藤茜。それが私の名前。」


「えっと…斎藤さん…?」


「いいよ茜で、斎藤なんて沢山いて紛らわしし、さん付けは堅苦しいしさ。」


「じゃあ茜、私の名前知ってるの?喋ったの今が初めてだよね?」


「知ってるのなにも茜達番号順並んでるから名簿見ればすぐに分かるよ。ほら。」


茜はスカートからさっき渡された名簿を取り出し私に見せ自分の名前と私の名前のところを指差す。


「ねっ!」


「本当だ~!」


「あれ?じゃあ茜が静ちゃんの前の席だってこと気づいてない?」


「ごめんなさい…。」


「まあまあいいって!とりあえずこれからよろしくね、静ちゃん!」


「うん、…斎藤さん。」


「だから茜でいいって~!茜だって桜ちゃんって呼んでるし!」


そういえばそうだ、この子ナチュラルに私のこと名前で呼んでた。自然すぎて全然気づかなかった。


「わかった、じゃあよろしく茜ちゃん…?」


「うん、よろしく!」



こうして私に高校初めての友達ができた。同時に彼女は私から退屈から救ってくれる存在になってくれた。








「暑い…。」


季節は少し飛んでいつもより暑い夏の日、太陽ギラギラ灼熱の日差しが容赦なくアスファルトの道を歩いている私達を襲ってくる。

吹いても吹いてもだらだらと流れくる汗が不快指数をさらに上げている。


「ねぇ~静~、制服脱いでいい~?」


「いやダメしょ、仮にも私達女の子だよ?てか女の子以前そんなことしたら痴女だよ、犯罪者だよ。」


「でもさ~、汗でブラウスが体に張りつくし、身体中ベタベタするし~。」


「しょうがないでしょ、これが夏なんだから。」


「じゃあせめてリボン外すのは?」


「それもダメ。」


「えー、なんで~。」


「うちの学校無駄に校則厳しいの知ってるでしょ?少しでも制服着崩してるのバレたらら校門前で接近よ?エアコンが効いてる教室への道がまた遠くなるわよ。」


「うん、それはイヤだ!」


「じゃあつべこべ言わずさっさと学校行こう?」


「了解です、静さん!」


入学式以来私と茜の距離はかなり縮まった。何をするのも一緒だしどこに行くのも一緒で休みの日もどこからに出掛けたり遊んだりしてるしあの日から1日会わない日なんてそれこそ数えるくらいしかない。

気づいたら私達は友達から親友と呼べる関係になっていた。

そんな関係だからこそ分かったことがある。

入学式の時、彼女と始めて話した時のイメージは人当たりがよくて気のきくいってみれば清純の塊だと思ってた。

だけどそれは大きな間違いだった。その時の彼女は本人曰く猫を被っていたとのこと。

本当の彼女は、茜は見てのとおりがさつでおおざっぱで思ったことすぐに口にする清純の欠片もない大胆な女だった。

今みたいな到底女子高生の女の子とは思えない発言は日常茶飯事、クラスの男子や先生にも気にくわないことがあったらすぐに突っかかっていくし物事をはっきりと言う。

入学式の時、あくびした私を指摘したのもただ「気になったから口に出た」だけだったのだ、ほんとそれだけ。

猫被っていたのも高校デビューしたかったけどその夢も秒で崩れたと後々嘆いてたのも私はよく知ってる。

けどそのおかげ今の私達の関係がある。それだけ私は充分だ。


「あっ、そういえば一時間体育じゃん!」


「そうだった~!また汗かくじゃん!なんでうちの学校プールやんないのかな~?」


「そりゃ学校にプールないからじゃない?」


「そうだよ!そうなんだよ!なんで今プールがない高校なんてありますか?」


そういい茜は私の前に回り込みムッと見つめる。

彼女の顔は暑さで赤くなっていて私と同じく額から流れた汗は首筋をたどりブラウスに吸収されていく。


「それはそうと凄い汗だよ、ほら吹いてあげるから。」


私は胸ポケットからハンカチを取り出し彼女の顔に近づけようとするけど「ちょっ…ちょっと!」といい戸惑いながら手を弾く。


「なに驚いてるのよ、せっかく汗吹いてあげようとしたのに!」


「べ…別にいいよ、自分でやるから。」


いつもとは違うちょっと弱気な茜の態度に私の中の下心が刺激される。こんな彼女今逃したら次いつくるか分からない、こんな貴重な瞬間見逃ざるものかと!好奇心が沸き立てる。


「ほらほらいいからいいから~。」


私はぐいぐいと手を伸ばす。


「もうしつこいってば~!」


当然茜はその度に手を払いのける。


「なんでよ、ちょっとくらいいいでしょ?なんでそんなに嫌がるのよ~?」


「だって私沢山汗かいてるし、ちょっと臭うし…。」


「茜は全然臭くない、いい匂いだよ?だから、ね?」


「それでも嫌なの!茜の数少ない女の子の心がそういうの~!」


「まあまあいいから!」


「あっ!」


そんな言い合いと小競り合いをしてるしてると茜のスカートはポケットからスマホがポロリと転げ落ちるのを私の視界がキャッチした。

その瞬間体が反射的に動いた私は一度もやったことのないスライディングするように地面にダイブする。茜のスマホは私の汗で湿ったブラウスのうまく着地をし少なくともアスファルトの地面に激突することだけは免れた。


「おお、ナイス…キャッチ?」


「いいからスマホ早く取ってくんない?ステーキみたいにこんがり焼ける前にさ…。」


「ねえ、静。」


「うん、何よ?」


「下着、透けてるよ。」


「知ってる、だから早くして。」






私は熱々のアスファルトから起き上がりパンパンと制服を叩く。

こんなこと私がやる柄じゃないのにな~と思ったけどやってしまったもんはしょうがないと素直に開き直りといきますか。


「それにしてもほんとナイスタイミングだったよ、あと少し静が遅れてたらスマホが大変なことになってたよ。ありがとね!」



「へいへい、ようこざいましたよ。おかげで私は熱々ステーキになるとこだったよ。」


「まあまあいいじゃんいいじゃん!スマホが無事だったわけだし!ほら早くしないと学校遅れるよ!」


「はぁ~…、分かったよ。」









そんな下らない登下校も、学校も授業や行事、修学旅行もずっと私と茜は一緒だった。

クラスも3年間同じで、係や班分けでも必ずと言ってほど私達は同じ所に振り分けられた。

だけどずっしり一緒だと必ずいざこざが起きる。その度に私達は何度も喧嘩をし衝突しぶつかりあったけどその数だけ仲良くし直した。

こんなことが3年間繰り返し繰り返し続いていたけれど始まりがあれば終わりもある。それは私達も例外じゃない。高校卒業後私は都会の、茜は地元の大学に進学することに決まった。それはつまり3年間一緒だった生活の終わりを意味する。

私は大学の寮の関係で卒業式の次の日にはこの街を出ていかなきゃならない。だから今日この日が茜と会える最後の日。

卒業式が終了し、学校には終わりのチャイムが鳴り響く。

卒業生は校内から出ていきそれぞれの場所に旅たっていく。

私達は特別な寄り道なんてしないでいつも通りの帰路をいつもと同じように歩いていた。


「今日でこの道を通るのも最後か~、寂しくなるね~。」



「…。」


「あれ~?まさか静さん感極まってる?」


「そ…そんなわけないでしょ…。」


それは嘘だ、私の声は怖いほど震え、まぶたには今にもこぼれ落ちそうなくらい涙が貯まってる。

だけど私はまだいいほうだ、だって茜はもうボタボタと涙を流れ落としているから。


「いいんだよ静、こんな時くらい強がらなくても。」


茜のその言葉が私の心を縛っていた鎖を壊した。そこから溢れだした感情が体を突き動かす。

私は茜に勢いよく抱きつき、茜はそんな私をガシリと受け入れる。


「イヤだよ…、茜と別れたくないよ…!!」


「うん…うん。そうだね…。茜もだよ。」


茜は私の頭を優しく撫でる。


「でもね、出会いがあれば別れもある、そうやって人は成長していくんだよ。」


「でも…でも…!!」


「都会の大学行くって静が決めたんでしょ?そうしないと夢は叶えられないってそうあなたが決めたんでしょ?

ダメだよ今さらそれをないがしろにしちゃ。」


「うん…。」


「私達はこれを機会に成長するんだ、別れはそのための一歩。ちゃんと受け入れようよ?」


「うん…。」


「まあでもこれが永遠の別れじゃないし、毎日会ってたのがたまに会えるってことに変わっただけだもん。もっと気楽に好意的に考えようよ。」


「そうだね、でも茜、これだけは言わせて。」



私は自分から茜の胸から離れた。そして涙を拭い笑顔で彼女に一言言う。

今までの全ての感謝を込めて



「茜、卒業おめでとう。」



この瞬間、私達は私達の関係を卒業した。






















「新入生の皆さん御入学おめでとうございます。これから我が校の生徒としての…。」








「………あれ?」













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