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サンタしかいない世界 後編

12月25日


街は賑やかな装飾に飾り付けられ、いつもはただ広いだけの広場には豪華なイルミネーションを引っ提げツリーがドンと構え、その周りを道狭しと言わんばかりの人の大群を囲む。

そう、世間では今日はクリスマス本番なのだ。

子供はプレゼント何を貰うか、貰えるか考えそわそわし、カップルは本番をどうやって過ごすかこちらもまたそわそわする。

みんながみんな期待を願いを持ってその日を待ち望んでる、そんな時期。

だけど俺、木村聖也にそんなの関係なかった。

っというのは1週間前の話。

1週間前、俺の元に一足早くサンタクロースが現れた。

かわいいらしいサンタさんは俺にとびきり大きなプレゼントをくれたんだ。

そのおかげで1週間前この場所でケーキを売っていた俺はケーキを貰う側になった。ううん、少しだけ違う。

俺に「何か」をくださいと頼まれた人は「メリークリスマス」と笑顔で言いながら「何か」を俺にプレゼントしてくれる、自分の思いや感情を無視して。

「何か」がケーキだけじゃなくても自分が身につけていた衣類や金品、自分が大切にしている思い出の品まで頼まれたものなら全部…全部だ。

だから俺から見ればここにいる人達がみんなサンタに見える、欲しいものを必ずくれるサンタさん、ここはサンタさんしかいない世界…!




この能力をことを理解した時俺はバイトを辞めていた。なんでも貰えるんだからお金なんて必要ない。それなのに働くなんて考えるバカらしいと思えてきた。

それでも一応けじめとして店長に挨拶をしようとしたんだけどあの日以来一度も店長に会えていない。

他の人は普通に会っているのにナゼか俺とはタイミングが合わなくて会えてない。

なのにそのまま俺は今までお世話になった場所を離れてしまった、それだけがちょっぴり心残り。

今日が一番の稼ぎ時なのに路上販売してないなんてなにしてるんだ…。

そう思ってももう部外者の俺に口出す資格はないしただ繁盛を願うことしかできなんだけど。




「そのチキンくれないかな?」


「いいですよ、はいメリークリスマス!」


俺はこの季節しか絶対にやってないチキンの路上販売から同じ経験をした身だからかシンパシーを感じながら一番高いチキンを貰う。

それを頬張りながら夜でも明るく様々な音が奏でる街をぶらぶら歩いているとドンッと俺と同い年くらいの女性が横からぶつかってきた。

その衝撃で手に持っていたチキンは床に転げ落ちる。


「あっあの…、ごめんなさい。」


「別にいいですよ、そちらこそ大丈夫でしたか?」


「はい、私は大丈夫です。でも…。」


女性は俺が落としたチキンを申し訳なさそうに見つめる。


「あの、そのチキンのお金私が弁償します!何円でしたか?」


そういい女性は鞄から財布を取り出す。


「いいですよ別に、高くありませんしもうすぐで全部食べちゃうとこでしたし…。」


貰ったものだしお金なんかなくてもまた新しいやつ貰えばいいだけだし。


「でも…。」


「いいじゃん、そう言ってるんだから。」


「!?」


女性の隣から男の声がすた、女性のことしか気にしてなかったけどよく見ると隣には背の高い金髪の男がいた。

彼はその状況に不満なのか足を小走りに揺らして時々舌打ちをならす。

どうやったらちゃんと謝れるいい子がこんなチャラ男と付き合えるかは謎だけどその態度が凄いムカつく。

そんなやつの所にこんな子がいちゃいけない…いちゃいけないんだ。

だったら…。


「なあもういいだろ?あちらさんもそう言ってるんだから!」


「でもぶつかったのは私だし…。」


「あ~もう!なあ兄ちゃんもう行ってもいいだろ?こんなチキンくらいでチンチラしたくないのは一緒だよな?」


男は俺に突っかかってくる。


「…ええ、いいですよ。」


「ほらな、じゃあ行くぞ!」


男は女性の手を掴みその場から立ち去ろうとする。


「でも、ひとつだけ!」


「うん?」


「すいませんけど彼女の名前を教えてもらっていいですか?」


「私…ですか…?」


女性は自分を指差し困惑する。


「まあそんぐらいならいいけどよ、こいつは聖子、上澤聖子っていうんだ。

ほらもういいだろ?」


「聖子さんですか…、それじゃあ聖子さん…。」


「は…はい…!」


「あなたを俺にくれませんか?」


その問いを聞いた瞬間聖子はやっぱりきょとんとしたが、すぐに「わかりました!はい、メリークリスマス!」と笑顔で返した。


「お…おいなに言ってるんだよ聖子!」


男はもちろん反論するがそこは想定済み。


「ねえ、彼女さん僕にくれませんか?」


そう言えば男は「はい、わかりました。」

と自分の意思に関わらず従ざる追えない。


「彼氏の許可も出たことだしじゃあ行こうか!」


「うん!!」


聖子の握る腕はあの汚い男ではなく俺に変わりそのまま二人クリスマス賑わうの夜の街に繰り出す。



その後は対したことはやっていない。クリスマスのイルミネーションを見てまわり、ショッピングを楽しみ、ちょっとした食事をレストランでしただけ。

クリスマスの恋人達がやりそうなことをやっていただけ。

その時の聖子はずっと笑顔で俺の言うことを全部聞いてくれた。

恋人でもないのに恋人以上に俺に尽くしてくれる。これも能力のおかげなのかはわからないけどこの時の俺は今まで感じたことない優越感と幸福感で身体中を満たしていた。

そして今俺達はこの季節で爆走珍しく花火を打ち上げるということでよく見えるスポットで有名な歩道橋の上にいる。

そこには俺達と同じようなカップルがうようよといる。考えてることはみんな終わりか。

そんな中での場所取り競争を勝ち取った俺達は最前列を陣取った。

そこで夜の空に打ち上がる花火を恋人のように仲良く見ていた。


「今日はありがとうね、なんか無理矢理連れていった感じだったのに付き合ってくれて。」


「別にいいですよ、楽しかったですし。」


「そっか、なら良かった。」


次々うち上がった花火も最後に巨大な一発を打ち上げこのセレモニーの終わりを告げ、それは聖夜の終焉を教える狼煙となり人々に知らせる。

花火を見るためにここにいた人達は次々に解散して行き今は俺と聖子二人きりになった。


「もうクリスマスも終わるし俺達も帰ろうか?」


「はい、そうですね!」


「それじゃあ、またいつか会えるといいね!」


そう言って俺は彼女に背を向け立ち去ろうとする。


「なにを言ってるんですか?聖夜さん?」


その瞬間後ろからボソッと呟く聖子の声が聞こえた。

俺は振り返るとそこには笑さっきまでの笑顔を無くした彼女がじっと見つめていた。


「えっと…、もう夜遅いしもう解散ってことでよかったんだよね…?」


「そうですね、でも私は聖夜についていきますよ。」


「えっ…、いやいやそれは困るよ。俺達今日出会ったばかりで恋人じゃないない人を家に連れ込むのはちょっとね…。

それは君も一緒でしょ?」


「困るのこっちですよ…。」


「えっ?」


「だって私はあなたのプレゼント、所有物なんですから。

所有物が所有者の家に行くのは当たり前でしょ?」


「おいおいなにふざけたこと言って…。」


彼女のどこまでも吸い込まれるような瞳を見て俺は思わず言葉を詰まらせる。

ふざけでも冗談でもない、聖子のどこまでも見通してしまいそうなまっすぐ瞳がそれを証明してる。


「全然ふざけてなんかいませんよ、私はあなたに「くれ」と言われた瞬間からあなたの所有物になりました。

上澤聖子という名前も、今までの過去もこれからも人生も捨ててあなただけのものになったんです。」


聖子は操り人形ようにたんたんと喋りる。

そんな彼女をみて今までの好意的な感情は恐怖に塗りかわる。


「そ…そんなの無理だよ…、俺には俺の人生があるように君には君の人生がある。

だからそんなことのために自分の人生を捨てないでくれ!」


「じゃあ私はいらないってことですか…!」


「えっ…?」



「わかりました。」


そう言った彼女は歩道橋の柵に足をかけ上に立った。

そのまま彼女はなにも迷わず恐怖することもなく身を投げ出す。

すぐに下からドスンと音がなり、それが合図となりその場にいた人達の歓喜と祝福の声は恐怖と絶望の悲鳴に変わる。


「なっ…なんで…!」


俺は恐怖と重圧で下を覗きこむことができない、彼女の姿をみることができない。

足が震えて動くことができない。



違う俺のせいじゃない俺はなにもしてない全然関係ないあいつは勝手にやったことなんだ。


俺は心のなかで必死に言い訳を念仏のように唱える。自分を正当化するために、現実から逃げるように言葉を積み上げていく。



「ううん、君のせいだよ。」


でもその一言が積み上げていた言葉の壁を粉々に崩し壊していく。


「気分はどう?聖夜くん。」


さっきまで聖子が立っていた場所にいたのは俺にこの能力をくれたサンタクロースの白い髭と同じ色のワンピースを着た小さくて可愛らしいサンタさん、イソネだった。


「気分はどう?じゃないよ!いったいなにがどうなってるんだよ!?」


俺はやり場のないさまざまな感情を理不尽な八つ当たりとして彼女に吐き出した。そんなことをしても意味ないって分かっているのに。


「なにって今起こってることほど分かりやすいシチュエーションはないと思うんだきけどな~?」


「はぁ?」


「えっと聖子さんだっけ?今そこに倒れてる人。」


イソネは歩道橋の柵に手をつき下を見ながら言った。


「あの人が言った通り君が聖子さんに向かって「君をください」と言った時から彼女は君のプレゼント…所有物になった。ただそれだけの話だよ。」


イソネはことの重大性を分かっていないように能天気そうに言った。


「だからそれがどうして聖子さんがああなることに…身を投げ出すことになるのさ?」


「そうだな~、じゃあこれは例えばの話。ある子供がサンタさんからとっても欲しかった大きなお人形をプレゼントしました。」


「なんだよこんな時例えばの話って全然関係ないじゃん。」


俺はそういうイソネは振り返り「まあまあ」というように手を動かす。


「とにかく聞いてよ、ね?」


「…わかったよ。」


俺はしぶしぶその要求を飲んだ。

それを聞いた彼女はニヤリと笑いながら再び例えばの話をする。


「その子は嬉しくて嬉しくてその日から毎日お人形さんと遊びました。

だけど子供というのは興味の移り変わりが早い生き物です。

しだいにその子の興味はお人形さんから別の物に移っていくだんだんお人形さんと遊ぶ時間が短くなり時が経ち全く遊ばなくなりお人形さんはただの置物へと役割が変わっていきます。

そしてさらに時は経ちその子は子供から少年に成長するとお人形さんのことを邪魔だと思いはじめました。だって自分にはもう必要ないのにただスペースをとるだけのデカ物なんかよりもっと大切なものを少年は沢山持っていたんですから。

そしてある日少年は決めました、お人形さんを捨てることを。捨てて新しいものを手に入れようと。

こうしてお人形さんは少年の手から離れていきましたとさ。」


「…。」


「ねえ、これって何かに似てるない?」


「えっ…?」


「なに分かってないふりしてるのさ、ほんとはもう気づいてるはずだよ…。」




君が聖子さんにしたことと同じだってことに…。


「そ…、そんなわけないだろ!俺がそんな酷いことを!!」


俺は必死に彼女の言葉を否定する、なにがそこまで俺を駆り立てるのかなんてもう分かっているのに。


「いやいや同じだよ、君は表面上は聖子さんを助けたことにしてたけど本当は可愛い彼女をあんなチャラ男と一緒にいるのが許せなかった。だから能力で自分のものにして好き勝手に遊びまわった。

本当に助けるつもりだったらチャラ男から引き離した後ある程度時間が経ったら別れればいいのに君はそうしなかった、でそうでしょ?」


「…。」


「そして君は自分の都合で君の所有物である聖子さんを捨てたんだ、所有者にいらないと判断された物はどうなるか?そんなの処分される司会ない。

それを悟った彼女はご覧通りあんな姿に。

ね、これで分かっただろ?こうなったのが全部君のせいだって。」


「…。」


俺はなにも言い返すこと…反論できなかった。だって全部イソネの言うとおりだから。

ただの出来心が彼女の…いいや能力で俺に「何か」をくれた人達全員の人生をめちゃくちゃにした。

それがイソネの言葉で痛いほど身にしみる。



「なにをしたらいい…?」


「ん、なにが?」


「俺が彼女に…ううん、俺にプレゼントをくれた人達になにを償えばいい…?」


俺は声を震わして彼女に問いかける。


「いや~、償うって言ってももうやっちゃたもんはしょうがないしな~。それに君はプレゼントをくれた人達にはももう会えないわけだし。」


「え…会えない…、な…なに言ってるんだよ…。」


全身の力が抜け、冷たいコンクリートの床に手を膝をついている俺のもとにゆっくりとイソネが近づきズタズタいる心が割れるような言葉を放つ。


「君言ったよね、この世界にいる人はみんなサンタさんだって。

たしかサンタさんはクリスマスの日にプレゼントを渡しに年に1度現れるんだよね。

それと一緒だよ、君にプレゼントを渡したサンタさんは君がどんなに会いたいと思っても会えないんだよ。」


「な…なんだよ…、じゃあ店長があれから姿を見せないのも…。」


「そうだよ、君にプレゼントを渡しちゃったからもう会えなくなっちゃったね。」


「で…でも、年に1度なら来年!来週会えるんじゃ!?」





いいや、それは無理だよ。



「えっ…?」


「君、私との約束覚えてる?」


「約束…?」


イソネは俺の右手を持ち上げ袖をまくった。

その中からあの銀色のブレスレットが姿を表す。


「君にこのブレスレットをあげた時2つの選択を与えたよね、欲しいものを手に入れたまま別の世界に行くか、欲しいものを返し元の生活に戻るか。

今日はその返事を聞きにきたんだ。」


「お…俺はブレスレットを…。」



「でももうその必要はなくなったんだ。」


俺の回答を遮るようにイソネは不気味に笑いながら言った。


「私ね、君をこの1週間見てて思ったんだ。君が欲しいものを手に入れたらどうなるんだろうってね?

そしたら大変君は無自覚とはいえ人を殺めてしまった。

私は前にある人と出会ってこの世界の人は人の命を奪ったらどんな理由があっても罰を受けなきゃいけないことを教えてもらったんだよ。」


「えっ…、まさか…。」


「だから聖子さんの命を奪った君には罰を受けてもらうことにした。」


「ち…違う…。俺は俺はやってない、聖子が勝手に…!」


「だから言っただろ?どんな理由があっても罰は受けてもらうって。」


俺の腕を掴む彼女の手がぎゅっと力を増す。どんなに頑張って振りほどこうとしても彼女は手を離さない、それどころか抵抗すればするほど彼女の力は増していくばかりだ。


「それでだ、君が受ける罰っていうのはこことは違う別の世界に行ってもらう。まあ島流しってやつかな?

でもそれじゃあ他のみんなと同じだ、それじゃあ罰にならない。だから君には欲しいもの、つまりその能力を返してもらってからから行かせることに決めた。」


「えっ…やだよそんなの…。俺はブレスレットを返して元の生活に戻るって決めたんだ…!別の世界なんか行きたくない…、行きたくないよ…!」


自然と俺の目から涙が溢れでる。それが恐怖からなのか、自責の念からなのか、懺悔からなのか、それともその全部なのかはわからない。

でも自分じゃそれをとめることはできない。


「だからダメだよ、ちゃんと罰を受けなきゃ。それがこの世界のルールでしょ?」


イソネの右人差し指がブレスレットの赤いボタンの上に添えられる。


「ねえ、この赤いボタン。トナカイの鼻に似てないかな?

ほら真っ赤なお鼻のトナカイさんってやつ!」


「ごめんなさいごめんなさい。許してください。なんでもするからこの世界にいさせてください!!!」


「せっかくだから君が行く世界のことを教えてあげるよ!君が行くのはトラジミオン、通貨という概念なく欲しいものは自分の力で手にいれなきゃいけない弱肉強食の世界、まさに君の能力にうってつけの場所じゃないか?

まあだからこそ君の能力を返してもらう意味があるんだけど。」


「やだ…やめて…。」


「ほら、見て見て!雪が降ってきたよ!これがホワイトクリスマスってやつなんだね?サンタさんの私がこの言葉を贈るにはピッタリだね。

それじゃあ聖夜くん…」








メリークリスマス








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