ある女の子の記憶が無くなる前の話
私は高垣しえみ、父と母、そして弟の4人家族で女子高に通ってるごく普通の女の子である。
…と自己紹介できたらなんとも嬉しいことやら。
そんなこと口が裂けても言いたくない。
私はこの世界が嫌い、みんなが嫌い、自分自身が大嫌い。
だってさこの世界に私の居場所はないんだもん。
まずは学校、まず下駄箱を開けると私の上履きの中に使用済みのティッシュや飲みかけの飲み物が入ったペットボトルが無造作にばらまかれてる。だからその中に入ってる上履きは普通に使うだけでは絶対にならない色に染め上がってる。
けどそれだけならまだマシなほう、ちゃんと上履きがあるんだから。行方不明になって買い替えるよりは全然いい。
いくら掃除をしても翌日また荒らされるのを分かってたから上履きについた不快なもの軽く叩き履く。履いた瞬間どしゃ降りの中を走った時のように靴下が湿りだすがそれももう慣れた、気にしない。
自分の教室に入るとすぐに冷たい視線が私を襲ってくる。
これももう日常茶飯事、気にしない。
ほら、今日も私の机を新しくてい汚ならしいコーティングを施している。毎日ご苦労様ですよ。
もうお分かりだろうが私はいじめられている、このクラス全員から。
授業中にもクラス全員からちょっかいを食らう。後ろの席のやつから蹴られ、輪ゴムをパチンと地味に嫌な攻撃をされどこからかゴミや物も飛んでくる。
ここまでするとなると先生に絶対バレないなんてことはない、だけどあいつらは気にしない、気にする必要ないからだ。
だって先生…いや先生達は私がいじめられてることを知ってる。だけど絶対に注意はしない。見てみぬふりをするだけだ。
このご時世いじめなんて発覚なんてしたら世間様から何を言われるかわからないし自身のキャリアに響く。不幸にもこの学校にはそう考える大人が大多数だ。だからなるべく穏便に済ます方法、私を無視することにたどりついた。
だから私が何をされようと先生達はなにもしてくれないし、私から話かけないとなにも話してくれない。
こうやって授業中なのにも関わらず教科書を出さなくても注意も怒りもしないんだから。
もちろんそれはわざとではない、出してくても教科書がないんだ。
理由はご察しの通り、時にはビリビリに破かれ、時には水をかけられ、時には燃やされたりして一冊、また一冊と手元からなくなり気づいたら全部なくなっていた。
おかげで通学カバンには筆記用具しか入れるものがなくなり非常に軽くなった。
さてさてそんなカバンをもって帰宅すると母親が夕食を作っている。
だけどそこに「ただいま」も「お帰り」の言葉はない。
部屋に戻ってしばらくすると玄関が開く音がし中学生の弟が部活から帰って来た。
私の時とは違いそこに「ただいま」と「お帰り」が会ってその後続けて帰って来た父親と含めた3人がそのまま食卓を囲み和気団らんする声がこの家に響く。
しばらくしてそれが終わると私は部屋を出てさっきまで賑やかだった食卓に行く。だけどそこには賑やかなんてものは程遠い食べた後食器が片付けないまま放置されててその中にポツン私用の食事が乱雑に置かれていた。
それを食べかすや臭いに囲まれながら食べてると弟が通りかかるり私を汚物を見るような目でにらみつける。
それを気にせず私は黙々と栄養補助に勤しむ。
私はこの家にとって邪魔者なのだ、特に私は何かやったわけでも迷惑をかけたわけでもない。
強いていえば私学校でいじめられてると言ったくらいだ。そしたら今まで優しかった家族の態度が一変した。私を腫れ物として扱うようになり、邪魔者になって無視される。
結局この人達も学校の連中と同じなのだ。私に関わるとめんどくさいことになる、大変なことになる。だからぞんざいに扱い、なにもしなくなる。
結局人間はそういう生き物なんだ。
だけどそれは今日で終わる、そう思うと気が楽だ。
私は家族が食い散らかした食器やゴミを片付け部屋に戻る。
明日は朝早いからお風呂には入らずそのままパジャマに着替え夢の世界に旅立つ、それが私が唯一安らげる時間。
ピピピっと携帯のアラームが鳴り響く。目を擦りながらそれを停める。
汚れると不審に思われるから一応今のうちに学校に持っていく荷物整理をする。いつもなら起きたらすぐ洗面所に行って顔を洗うんだけど今日は違う、向かったのは昨日私が綺麗にした台所だ。そこにある刃がピカピカに光るくらい念入りに洗い包丁を手にし、そのまま私は普段絶対にいかない弟の部屋に向かい音をたてないように静かドアを開ける。
これから何が起こるかも知らず弟はアホずらをしながらグーグーと寝ているが私は忘れない、こいつがどんな顔で私を見ていたかを。私を見下していたことを。
私は仰向けで寝ている弟に馬乗りになりそのまま弟の左胸を包丁で刺す。
その瞬間そこから破裂した水風船のように血が飛び出し私の顔や服、ベッドの周りに飛び散った。
だけど弟は叫び声一つ出さない、すぐに鼻息が聞こえなくなり体が冷たくなっていく。
やった、成功だ!
一応やり方は調べたけどやってみないことにはなにも掴めない。最初に弟にしたのはもし刺した場所がずれて痛みで目が覚め大声で叫んでもそれで親が来る前にとどめを刺せる。
だけど寝室が一緒の親でそれが起こるともうひとりが目を覚まし抵抗する可能性がある。
だから弟には練習台になってもらった、おかけで感覚は掴めた。あとはやるだけだ。
弟の血が包丁からポタポタと垂れながら親が寝ている寝室に向かい弟と同じ要領でまずは父親、次に私を目の敵にした母親の胸を1回、また1回と何度も刺す。
そのたびに汚い血が身体中につくけど今までやられていたことに比べたら全然我慢できる。
だって怨みを自分自身の手で今晴らせ、これから晴らせるから。
だから家族の皆さん、さようなら。
ふふーんっと鼻歌を歌いながら朝風呂で血や汗を流し、半袖のブラウスの上にこの季節には不揃いなブレザーを羽織りもう誰もいない我が家を出た。
もうこの家には戻ってこない、戻ってこれないのは分かってるけど其を忘れるくらい気分がいい。
こんなワクワクしながら学校に行くのはいつぶりだろう!
とにかく早く学校に行きたくてたまらないかった。
正門をくぐり下駄箱を開けるといつも通りの光景が広がる。だけど今日はそれを確認しただけでそこにあった上履きも履かず靴のまま教室に向かう。
教室に入るといつも通り冷たい視線が私たな向かってくる。いじめるためにはその対象の観察は必要不可欠、その時の一番の弱点を執行に狙う。それがあいつらの常套手段。
だから私が上履きではなく靴のまま来たことにすぐに気づいた。
それに目をつけた奴らの一人が私のもとにニヤニヤと嫌な笑いをしながらやってくる。
「あれあれしえみさん~?駄目だよ靴のままま来ちゃ~。ちゃんと上履き履いてこないとね~、あっ、そうか!しえみさんには履ける上履きがないんだ!ごめん~!」
そう嫌味たらしくそいつは言ってきた。それに釣られるようにこの時ここにいた奴らがお笑い番組を見ているかのようにギャハハハとバカ笑いしだす。
「…まったく本当嫌になるよ…。」
「あん?今なんていった?」
私はカバンの床に置き、その中から一本のスプレーとハンカチを取り出す。
「は、制汗剤?あんたそんでなにをするの?」
「決まってるじゃん、かけるんだよ。」
私はハンカチで口を抑えてスプレーはそいつの顔めがけて噴射する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
かけられたそいつはその場に倒れ目を抑えながら悶絶しのたうち回る。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!」
だんだんとそいつの顔やそこに触れていた手がまるで火傷のように赤く焼け爛れていく。
それはだんだんと浸食されていき身体全体が真っ赤に染まっていき、それに反応するように彼女の叫びは「痛い」から「熱い」に変わっていく。
もちろんただの制汗剤をかけただけじゃそんなことにはならない。
これは制汗剤のラベルをしているけどダミー、中身はまったく別物。おもに対人用の特殊な成分が調合されたスプレーなんだ。
そんな危ないもの普通は売ってないけど今の時代ネットで探せばすぐに買えて、受け取り場所をコンビニに指定すれば家族にバレずにこんな危ない手に入れられる。ほんと快適で物騒な時代だよ。
私はブレザーのポケットからメガネとマスクを出して顔に装着し、バックからあの包丁を取り出す。
その光景を見ていた周りのクラスメイトからざわめきが起きる。
そこで何人かは先生を呼んでくるなりこりれから何か起きるのか察したのか教室から出ていったが大多数はこの場に残ったままだ。
見ては、ここにいたら駄目だ。そう頭で思ってもそれ以上に興味と興奮が狂わせる。人間とはなんて愚かな生き物だ。
気づいた時にはもう遅い、この場合は私がこいつの喉元を思いきり刺した時だ。
ついさっきまで叫んだそいつがたった1度の傷で静かになりこの世からいなくなる。
そう認識できたとたん群衆は己がどういう状況か分かる。人々は絶叫し混乱に陥る。
この教室が一瞬にして通勤ラッシュ時の駅のホームの如くパニック状態になっていく。
そんな状態になったこの教室に私はスプレーを振り撒ける。
この学校は全室冷暖房がついていて今この時間も冷房が教室を冷しているから全ての窓が閉めきっていた。
おかげでガスがすぐに教室を覆い隠すように包みこみ教室にいる対策をしていた私以外の人間はみんな倒れこむ。
呼吸をすればするほどガスが体の中に入りこみ激痛が走るそんな生き地獄に私は救済を与えた。
倒れてる人、一人一人丁寧にあの世に行かせてあげる。
胸や喉、人によってバラバラなだけどみんな私のひと刺しでさっきまであんなに騒いでいたのが嘘のように静かになる。
全員の作業が終わったと同じくらいに騒ぎを聞きつけた担任の先生がやって来た。
こんな状況をみてそりゃ先生は驚いてましたよ。
そんな呆然としてる先生を私は静かにお腹めがけて刺した。
先生は口から血を吐いてその場に倒れる。その時の血が私にかかったけどその時の為のブレザーなのだ、私自体にはかかってない。やっぱり準備しといて正解だったな。
そのあとは至ってシンプル、学校から出るまで私の視界に入った人達を刺して回るだけだ。スプレーで動きを奪って刺す、実に簡単な仕事。
顔見知りはもちろん初めてみる人や先輩や後輩、教師の皆さんがこの包丁の犠牲になった。別に個人的な怨みはないけどただ邪魔だから、変なことをされると私がここから出れないから、それだけのために犠牲になってもらった。
おかげですんなり学校から出ることができた。
そして私がやってきたのが学校少し離れた所にある河川敷。
昔からこの場所が好きだった、何かある時私はここに来て川をぼんやり眺めてのが好きだった。
だから最期をここを選んだ。
私は血で薄汚れたブレザーと手袋とマスク、そして赤く染まった包丁を川に向かって投げ捨てる。
それらはすぐに川の流れに飲み込まれたり水中に沈んでいく。
それを確認したら、次は私の番。あんな大げさなことをしたんだ。遅かれ早かれ警察に捕まる。その後の道筋はもう決まってるようなもんだ。
だけど最期くらい自分で決めたい、いつも決めさせてくれなかったこの世界への最後の抵抗だ。
でももし願いが叶うなら私はここで終わるんじゃなくてやり直したい、全てを忘れてまっさな気持ちで人生を謳歌したい。
だって今までそんなことしてない、できなかった。
だからちょっとくらい人並みの生活を送りたかったな…。
けどそれは叶わぬ願い、儚い夢。
私は今からこの冷たい川の中に沈むのだから。
さあ時間だ、この世界にサヨナラしよう。
私が終わりの一歩を踏み出そうとした時
「サヨナラするには少し早いな~♪ 」
と背後から可愛らしい声が私に語りかかる。
振り向くとそこには白いワンピースと麦わら帽子を被った女の子が微笑みこう言った。
「高垣しえみちゃん、あなたの欲しいものはなんですか?」