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誰かに会いたい! 後編

高いビル、車が沢山通れそうな道路、それらを照らす光達、ここは俗にいうところのこの場所一番の中心街!

月曜日から金曜日は夜知らないけど朝と夕方は学校や仕事に行く人達が沢山いて、お休みの日は買い物やお出かけする人達が沢山いたんだ。

でも今は僕独りだけ…だったのはついさっきまでのお話。

今は違う、周りをみても、前と後ろ、左と右にも沢山…たくさーーーん!人がいる!

あの静かだったのが嘘のようにうるさくてうるさくて騒がしい!

耳を手で隠してもたくさんの言葉や音楽が聞こえてきてとっても不思議な感じだ~。

これも全部イソネお姉ちゃんのおかげなんだよ!

イソネお姉ちゃんは僕にこの銀色のブレスレットをくれたんだ。お姉ちゃんはこのブレスレットについてる青いボタンを押すとなんでも願い事が叶うって言ってたんだけど僕は隣の赤いボタンを押してねって言ったんだ。

なんで?って僕は聞いたんだけどお姉ちゃんは押せば分かるよとしか話してくれなかったんだ。

よく分からないけどお姉ちゃんがそういうんだからきっといいことが起きるんだよね!

だってハンバーガーやポテトを食べさせてくれたんだもん!

だからいわれた通り僕は赤いボタンを押したんだ、そしたら目の前がピッカーンって眩しくなって思わず目を瞑っちゃったんだ。それでね、ピッカーンが終わったあと目を開けたらね、さっきまでいた場所と同じ所にいたはずなのにそこに沢山人が歩いたり喋ったりしてたんだ。

やっぱりお姉ちゃんは優しい人だね。だってこんなに沢山の人がいる所に僕をいかせてくれたんだよ?お姉ちゃんのいった通りこのブレスレットが僕の夢を叶えさせてくれたんだ!

僕は今ワクワクしてる、凄いワクワクしてる!

ここはさっきまで僕がいた所とは同じ、でも全然違う場所。だけどどこに何があるかなんて僕ははっきりしっかり分かるんだ!

僕はワクワクが止まらなくなっていろんな場所に行ったんだ、ゲームセンターやデパート、そのデパートよりも沢山お店がある場所にいったよ。

僕がいた所はピカピカと明かりがついていたけどとっても静かだったんだ、でもここはどこにいっても沢山の人達の話す声が大きくて耳が痛くなるくらいうるさかったんだ!

でも楽しい、ありがとうお姉ちゃん!

そういえばお姉ちゃんってどこにいるんだろう…?

僕はハンバーガー屋さんでお姉ちゃんの目の前で赤いボタンを押したんだよね?そしたらピカ一ンってなって沢山人がいる場所にいつの間にか来ちゃった…。

もしかしたらお姉ちゃんもここに来てるのかな…?

もしそうだったら遠くの場所から来たお姉ちゃんはよく知らない場所にひとりでいてきっと寂しいはず、お姉ちゃんが悲しんじゃう!

お母さんが言ってた、「優しいことをしてくれた人にはその倍優しいしてあげなさい。」って。

だから僕に優しくしてくれたお姉ちゃんに今度は僕が優しくしてくれる番だ、恩返しをしないとね!

それじゃあまずお姉ちゃんを探さないと!でもどこにいるんだろう…?

もしかしたらあのハンバーガー屋さんにまだいるのかも?他に心当たりはないからとにかくそこにいってみよう。

僕は沢山いる人達をすり抜けてハンバーガー屋に向かって走り出した。だけど信号はちゃんと止まったよ、赤は止まれ、青は進め!ルールはちゃんと守らないとね。

そして走りすぎてはぁはぁしながらハンバーガー屋さんについたんだけどここでおかしなことが起こったんだ。

さっきは入り口の扉の前にきたらウィーンって開いたのに今はねそこに立っても全然開かないの。

おかしいな~?っと思ってちょっと近づいたり遠くのとこで立ってみたんだけどやっぱり開かないんだ。

しょうがないから自分で開けようとしたんだけど固くて全然開かないし、ドンドン叩いてもなんにも起こらないんだ。

これじゃあ中に入れないしどうしよう~?と考えた時に後ろからお姉ちゃんよりも大きな2人組の男の人が話ながらやってきたんだ。


「きっとこの人達もハンバーガー屋さんに入るんだよね、だから開かないときっとビックリしちゃうし教えてあげよう!」


僕は男の人達の元に駆け寄ってそのことを伝えようとした。


「ねぇねぇ!」


だけど男の人達は僕が隣にいて話しかけているのにささっと通りすぎたんだ。だからもう一度男の人達の隣にいって話かけた。


「ねぇねぇってば!」


でもさっきと同じで僕を無視するようにささっと通りすぎたんだ。


「もぉ~!」


なんでそんなことをするのか分からないけど凄い嫌な気分だよ。このまま扉が開かなくて困ってちゃえばいいんだと思ったよ。だけど「お母さんが人に優しくしなさい、困ってる人には優しくしてあげなさい」って言ってたし僕は言われたことをまもるよ。

僕は扉の目の前に先回りして立った、ほらやっぱり扉は開かない。

それからすぐ男の人達が目の前にやってきた。


「あのね、ここの扉開かないんだ…」


ウィーンと僕の後ろから音がした。


「あれ?」と思い振り向くと今までどんなことをしても開かなかった扉がお口を大きく開けたみたいに開いていたんだよ。

男の人達は僕の苦労もビックリしたことも知らずそこを潜り抜けてハンバーガー屋さんの中に入っていった。

「いったいなんで?」と思ったけどまたすぐにウィーンと扉がだんだん閉じられていく。これを逃したらまた開かなくなるかも!と思ったらなんで開かなかったを考える前に僕の体はハンバーガー屋さんに吸い込まれた。

お見せの中はやっぱりハンバーガーやポテトの匂いで包まれてた。だけどさっきまでと違ってどこの席にも人がいてとっても賑やかだったよ。

僕はお姉ちゃんがいるかキョロキョロ確認しながらさっきまで、僕がここに来る前にいた場所まで行く。

人が多いのに思ったよりもすんなりたどり着いたけどそこに座っていたのはイソネお姉ちゃんじゃなくて着物を着た4人組の女の子達だった。

僕が小さくした机もそのままになっててやっぱりここは僕がいた世界とは違うんだね、そうだよね。

女の子達はポテトを食べながら楽しくお喋りしてたんだ。僕はお姉ちゃんのことなんか知ってるかもと思って女の子達に話しかける。


「ねえねえ、お姉ちゃんの前にここに座っていた女の子人知らない?」


「ほんと楽しみだよね~?」


「そうだねー!」


女の子達はさっきの男の人達のように僕を無視してくる。


「ねえってば!」


「いつもだったらこの時間テレビなに見てた?」


「勿論歌番組だよ。」


「お笑い番組かな~?」


「私は格闘技!」


「うわ~、なんか意外だわ~。」


「女だって格闘技が好きな人いるよ!いまブームなんだし!」


「マジで!?」


だけどやっぱり女の子達は僕を無視してお話をしている。さすがに嫌な気分が爆発しようになってまた机を小さくしてビックリさせようと思ったけど迷惑をかけちゃダメだよね…。

僕は悔しかったけど女の子達から離れたよ。

その後もお店の中を探したていろんな人に声をかけてもみんな僕のことを無視してくる。なんでみんな無視するの?僕はただお姉ちゃんのことを聞きたかっただけなのに…。さっきまでの楽しかった気分が台無しだよ。もうこんな場所に居たくない!

僕はハンバーガー屋さんを飛び出して寒いお外にまたやってきた。

息は白くて手袋をしてないから手がとっても痛い。ここの人達も温かい人なんていない、みんな冷たい人達だ。

まったくお母さんに言われなかったのかな?

けどこれからどうしよう?もしかしたらイソネお姉ちゃんはこっちには来てないかも知れない。

そう思うとなんだか急に怖くなってきた、寒いのは違うぶるぶるが止まらない。体を強く押さえてもぶるぶるは強くなって全然止まらないよ。

僕はこれからどうなるんだろ?ずっと夢見てた人が沢山いる場所に来れたのに…。

なんで…なんでなの…?ひとりぼっちはあの時からずっとだったから慣れて当たり前なことだったのに…。

僕は久しぶりに泣いちゃった、あの時から泣きたくなることすらなかったから涙も止め方も忘れちゃった。だからいつまで経っても涙がポロポロと溢れてくる。

怖い…怖いよ…お母さん…お父さん…。

そうだ…お家に帰ろう…!

ここが僕のいた場所と同じなら僕の住んでたお家もあるはずだよね。

うん…そうだよ…帰ろう…。帰って温かい布団に入って寝るんだ。

きっとイソネお姉ちゃんも許してくれるよね…!

よし、帰る…帰るんだ…!

僕はそう心に決めてお家に向かって走り出した、白い息をはぁはぁ吐きながら全速力で。

どのくらい走ったんだろう?分からないけど沢山走ったよ、走って、走って、走ってお家に着いた。

周りの家とおんなじで僕のお家も電気がついていて中を明るく照らしていた。この光景自体は僕がいた世界で毎日ように見てた。

だって僕は毎日お家に帰ってたんだもん。だけどそこに誰もいない、「ただいま」って言っても「お帰り」って返してくれる人が誰もいない。乾いた明かりが寂しく迎えてくれるだけだった。

だけど今は違う気がするんだ、なんでかっていわれると分からないけどそんな気がする。

けど一つだけいうならこの明かりはとっても温かった。

僕はこの光を遠くから感じてるだけなのに心がとてもぽかぽかする。

もう、待ちきれない、耐えきれない!

僕はお家に向かって今ある体力を絞り出してダッシュした。そして勢いよう玄関をあけてこう叫んだ。


「ただいまー!!!」




だけどやっぱり返事は返ってこない…。そうだよね…、だってここは僕のいた世界とは別の場所、いくら同じ建物やお家があったってお父さんとお母さんは…。


「あれ?」


奥のほうから何か声が聞こえる、よく耳を澄まして聞いてみると女の人が歌っているような音が流れてきていた。

僕はそれがテレビの音だってすぐに分かった、だって聞いたことがあるんだもん。これは僕があの時お父さんとお母さんと一緒に見ていた歌番組で流れてた歌だった。たしか僕はこの歌が流れてすぐ…。

恐る恐る僕は音に誘われるみたいにゆっくりとそこに向かっていく。

だんだん音が大きくなってきてもうこのドアを開ければすべてが分かる位置にまできた。

一回深呼吸をしてドキドキしてる心臓をなでなでするように胸をさすって「よしっ」と心のなかで言い聞かせ僕は目の前の扉を開けた。

扉の向こうには笑顔で歌番組を見ながら笑顔で話してるのいないはずのお父さんとお母さんがそこにいた。


「お父さん!お母さん!」


僕は勢いよく飛び出した、なんでいるのかわからない、でも今は二人ともここにいる!それだけでとっても嬉しかった!

僕は笑顔で座っているいるお母さんに後ろから抱きついた。うん、この香り、この優しい暖かさ、やっぱりお母さんだ。


「ねぇお母さん今までなんでいなかったの?どこに行ってたの?僕さみしかったたんだよ!」


僕は心の中の貯まっていたものを吐き出すみたいにお母さんに向かって話した。


「やっぱりこの歌手いいわね。」


「そうか~?」


でもお母さんもお父さんも外にいた人達みたいに僕を無視したんだ。


「ねえお母さんなんで無視するの!お父さんもテレビばっか見ないで僕を見てよ!」


僕はお母さんの肩を揺らしたりお父さんの目の前に立って僕がいることを必死にアピールしたんだよ。でもお母さんはそんなのお構い無しだし、お父さんも見えないはずのテレビを見て笑ってる。

そんな二人をみてて僕はせっかく会えた嬉しさからお化けをみたみたいな怖いものを感じたんだ。


「そういえばカリヤ遅いな?」


「!?」


お父さんが僕のことを呼んでくれた!?


「お父さん!僕はここにいるよ、ここ!!」


僕は大きな声をあげて必死に叫んだ。だけどやっぱり目の前にいるのに全く聞いてくれない。


「もうそろそろくるんじゃない?」


「えっ…。」


「そうか?」


「そうよ、全くあなたは心配性なんだから。」


「なに言ってるのお母さん!僕はここにいるよ!」


その時廊下のほうからトコトコ何かが歩いてくる音が聞こえてくる。それはだんだん大きくなってきて扉の向こう側で一度止まった。


「ほら噂をすればやってきた。」


扉がキーンと開いて誰かが部屋に入ってきた。

僕はその人が誰だから分かった。分かったからわけが分からなくなった、頭がぐちゃぐちゃになっちゃった。

だって…。



「遅かったね、カリヤ。」


それは僕だった。

パジャマを着た僕が眠そうに目をこすりながらとぼとぼと歩いてお母さんの隣になにもなかったようにすわった。


「上手にできた?」


「うん、できたよ。でも眠くて寝そうになっちゃった。」


「眠いなら寝てもいいんだぞ?」


「ダメだよお父さん、今日はせっかく夜更かししてもいい日なんだからさ。」


そこにいる僕は僕とは違ってお父さんとお母さんと普通に喋ってる。

なにこれ、なんで僕が二人いるの?なんで僕じゃない僕がお父さんとお母さんと喋ってるの?僕のことは無視するのに…。


「これも昼間にやんなかったカリヤがいけけないのよ?」


「でもちゃんとやったよ、偉いでしょ!」


「そうだね、えらいえらい。」


お母さんはそういって僕じゃない僕の頭をなでなでする。




ダメだよ…、それは僕がお母さんにやってもらうんだ…。ここは僕が座る場所…。君が座っちゃダメなんだよ!


僕は僕じゃない僕をどかそうと肩を掴みかかる。


「なにこれ…?」


でも僕の手はもう一人の僕の肩をすり抜けてソファーに当たった。


「うわぁぁぁぁぁ!」


僕はあまりにも不気味なことに思わず叫んでしまった。

なんで?なにが起こってるの?なんで触れないの?

僕は勇気を出してもう一度もう一人の僕に触ろうとした。でもやっぱり体をすり抜けて手はソファーにいってしまう。

手も体も顔も頭も足もどこを触っても同じだった。


「お父さん!お母さん!僕はここにいるよ!そこにいるのは偽物の僕なんだよ!」


僕はもう一人の僕からお母さんを離そうとしてなでなでしている腕を掴もうとした。だけどさっきまで触れたお母さんももう一人の僕と同じようにすり抜けて触れなくなっちゃった。

それはお父さんも同じでいつもおんぶしてもらってる大きな背中も水の中に手を入れたみたいにスッと中に入っていった。

何が起こってるのかわからない僕とは反対にお父さんとお母さんがもう一人の僕となにもなかったように触れあって喋ってる。こんな光景を見せられて胸がぎゅっと痛くなっていく。


「やだよ…、こんなのやだよ…。」


僕はこの場所に居たくなくなっておうちから出ていった。







とぼとぼ夜の街を歩いてると家からは賑やか音が、道を歩く人達はみんなワクワクしたようにべちゃくちゃ喋ってる。だけどみんな僕のことを気づかないみたいに無視していく。

この光景は僕が望んだことなのに、願ったことなのに今は誰かを見るともやもやとゾクゾクがやってきて、それが嫌になって僕は気づいたら人が誰もいない公園のブランコを漕いでたんだ。

これじゃあ僕の世界とは何も変わらない、ひとりぼっちのままだ。

だったらいっそのこと僕の世界に帰りたいよ…。





残念だけどそれはできないんだよね。




遠くのほうから僕に話かける声が聞こえた。その声の人は足音をたてながらこっちに近づいてくる。

僕はその人がすぐに誰か分かった。


「イソネお姉ちゃん!!!」



「はい、正解!」


息が白くなるくらい寒いのにその息くらい真っ白で肩を出した洋服を着て麦わら帽子とサンダルを履いた僕よりちょっとだけ歳上に見えるイソネお姉ちゃんが僕の目の前にやってきた。


「さてどうだい、君が望んだこの世界は?」


イソネお姉ちゃんは風で飛ばされそうになる麦わら帽子を抑えながらら聞いてきた。


「人がたくさんいて、沢山音楽が流れて、賑やかでとっても楽しかったよ。最初は…。」


「最初は…?じゃあ今はどうなのかな?」



「だけどここの人達はみんな僕のことを無視するんだ。歩いている人も、ハンバーガー屋さんの人も、お父さんやお母さんも…、それにもう一人の僕は出てきて…。

もう頭の中がぐちゃぐちゃでわけがわからなくて全然楽しくない!ねえ、イソネお姉ちゃん!いったいどうなってるの!?」


そんな僕の必死の叫びを聞いてるイソネお姉ちゃんは凄く笑っていた。そして僕にこう言ったんだ。


「当たり前じゃん、だって君はこの世界の人じゃないんだもん。」


「そりゃそうだよ、僕は僕のいた世界からこっちに来たんだからここの人じゃないのは当たり前だよ。だけどそれが誰も僕のことを無視するのとなんの関係があるの?」


「君はこの世界でなんか気づいたことはないかい?」


「なに…いきなり…?」


「あるよね…?」


この時のイソネお姉ちゃんはとっても怖かった。顔は笑ってるのにその笑顔は全然笑ってるように見えなかったんだ。嘘をついてもすぐにバレるしちょっと変なことを言ったら怒られそうな気がする、そんな顔をしていたんだ。


「うん、あるよ。ここはそのまま過ぎるんだ。僕がひとりぼっちになる前の時に…。これじゃあまるで。」


「僕のいた世界」…だよね?



「えっ…。」


お姉ちゃんは僕の言おうとしたことを先に言った。そして驚いた僕を見てまたニヤニヤと笑ったんだ。


「なんで分かったの?」


「そりゃ子供の言いたいことなんて分かるよ、でも君の考えは少し間違ってるんだな。」


「間違ってる…?なにが…?」


「ほら、あれを見て?」


お姉ちゃんが左上のように指を指した。

僕は言われた通りその方向をみると大きな時計がチクチクと動いてた。


「あの時計がなんなの? 」


「もしここが君がひとりぼっちになる世界だったら人達が消える時間はいつになるのかな~?」


「家に落ちてた時計は12時ぴったりだったから…多分その時…かな…?」


「じゃあ今の時間はどうだい?」


時計の長い針は11と12の間にある、ということは…。


「もしここが君がいうひとりぼっちになる前の世界だったらもうすぐここから人が消える。」


「えっ…。」


「また君はひとりぼっちになる。」


「そんな…。」


「でもいいじゃん、君を無視した人達だよ?いてもいなくてもなんにも変わらない。今まで通りひとりぼっちになるだけ。」


「それはそうだけど…、でも…!」


「ほら時間だよ。」



時計の針はカタンと動いて12のところで止まった。私の世界はこの瞬間沢山の人達が消えて街は、世界は静かになった。

でもこの世界は違った。その瞬間夜空にはドーーーン!と音を上げながら花火が打ち上がり、人達の大声と賑やかな音楽が私とイソネお姉ちゃんしかいない静かなこの場所にも聞こえてきた。

それがどういうことかすぐに分かった。まだここに人はいる、誰も消えてない。


「どお、驚いた?ビックリした?」


イソネお姉ちゃんは楽しそうに聞いてきた。


「ねえイソネお姉ちゃん、ここは「ひとりぼっちになる前の僕の世界」なんだよね…?でもじゃあなんで12時過ぎても誰もいなくならないの?」


「そんなの簡単だよ、だってここは君の世界じゃないんだから。」


「えっ…、でもお姉ちゃんがそう言って…。」


「私は「もしここが君のいた世界」だったらって言っただけで「ここが君のいた世界」なんて一言も言ってないよ。」


イソネお姉ちゃんは屁理屈みたいなことを言い出した、とっても大人げなく子供らしく。


「…じゃあこの世界はなんなの?」





ここはね、誰も消えない世界だよ。



「誰も消えない世界…?」


「そうだよ、君のいた世界は君の考えた通り12時、つまり日付が変わった瞬間にある出来事が起きて沢山の人達が消えちゃったんだ。

だけどこの世界ではそれが起きない、だからここに住んでる人達は誰も消えない。」


「本当に?」


「ほんとだよほんと!君も見て聞いただろ?夜空に上がる沢山の花火に夜なんて関係ないと言わんばかりの歓声と音楽!それが何より証拠だよ。

誰も消えてない、大好きな君のお父さんとお母さん。

そして…」



この世界の君もね。



「この世界の僕って、おうちにいたもうす一人の僕のこと…?そう…そうなんだ…、よかっ…。」



「それがよくないんだよね~!」


イソネお姉ちゃんが僕の声を隠すくらいの大きな声でそう叫んだ。


「えっ…なんで?だって消えないんだよ?いいことじゃないの…?」


「ねぇ、ドッペルゲンガーって知ってる?」


「えっ…ううん、知らない。」


「ドッペルゲンガーっていうのはね、簡単にいうと自分と同じ顔、同じ格好をした者を言うんだよ。まあだいたいの幽霊で片付けられるんだけど結局のところ正体は不明なんだよね。

なんでだと思う?」


「なんでって…そんなの分からないよ?」


「そうなんだよね、本当に分からないだよ。だって実際に会った人はいない…いちゃいけないんだから。」


「いちゃいけない?どういうことなの?」


「そもそもドッペルゲンガーの話はだいたいは作り話なんだよね。

沢山の人が沢山の解釈で沢山のドッペルゲンガーの物語を産み出す。だけど不思議なことに結末はみんな同じなんだ。

どれも全部瓜二つの自分に出会った二人のうち片方が消え消えなかったほうがもう一人の自分に成り代わって生活を送るなんともいえない結末、バットエンド。

だからもし本当にドッペルゲンガーを見た人がいるならその人は消えてこの世界にはいないはずなんだよ。

でも私はこのお話を聞いておかしいと思ったんだよね?」


「おかしい?なにが?」


「ドッペルゲンガーに出会ったら片方が消える、それは別にいいんだよ。でも問題なのは誰が消えるかってこと。」


「誰がって?」


「どのお話を見ても消えるのはいつも物語の語り手、主人公。つまり人間のほうが消えるんだ。そしてドッペルゲンガーのほうが生き残る。

まあ物語的にはこっちのほうが面白いんだけど私は少し飽き飽きしてるんだ。

だからもし私がドッペルゲンガーの物語を書くんだったら結末はこうするね。」




瓜二つの自分が出会った結果ドッペルゲンガーが消えていなくなるハッピーエンド




「!?」


突然体がしゅわしゅわと音が鳴り出した。僕は自分の手をみると炭酸のジュースをコップにいれた時みたいに小さな泡によって手が弾けてた。

手だけじゃない、足も、体も、顔を触ろうとしてもしゅわしゅわとした感覚があるだけで全然触れない。


「なにこれ!?僕どうしちゃったの!?」



「言ったでしょ?瓜二つの自分に出会ったら片方が消えるって。」


「僕そんな人に会ってないよ!」


「ううん、君は会った。この世界の自分自身にさ。もう忘れちゃったの?」



「えっ…、あっ…!」



「この世界から見たらおうちでお父さんとお母さんと仲良くしてるのが本当のカリヤ君でここにいるカリヤ君は異端の存在、つまり幽霊、ドッペルゲンガーだ。」


「そんな…。」



「幽霊は成仏しなきゃいけない、ドッペルゲンガーは消えなきゃいけない。それが私の書いた物語のハッピーエンドな結末。」


「イヤだ!イヤだよ!?僕は消えなくない!ひとりぼっちでもいい!誰も会えなくてもいい!だから消えたくないよ!助けてよイソネお姉ちゃん!?」


足が泡になって消えて僕は立っているというより浮いてるような格好になった。これじゃあイソネお姉ちゃんが言った通り本当に幽霊になったみたいだった。

体も力が入らなくなり手も上げられなくなってダラーンと垂れ下がる。

叫ぼうとしても何故か声も出なくなっちゃった…。

そっか僕はもう消えるんだね…、いなくなるんだね…。


「ごめんね、カリヤ君。これは決められたことなんだ。たとえ私が許してもこの世界が許してくれない、同じものが2つあっちゃいけない、1つだけでいい、それがここのルールだから。

そんなわけで、カリヤくん…」






さようなら。






















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