Rain─3 昨夜の資料室で
初感想、やった♪(・∀・)
改稿:5/3
放課後、雨で濡れ滑りやすくなった渡り廊下を足元に気を払いつつ、僕は校門へ向かう生徒達の波に逆らってある場所を目指していた。
授業の後、数学教師の雨坂あおい先生から呼び出しを受けたのだ。
教室中の視線が僕に集中する中、首肯するしかなかった僕に友人の海斗がやけにニヤニヤしながら面白そうなモノを見る目を向けていた。
呼び出しの理由は“授業中の態度”についてと言っていたが、はたして──
「ん?」
ふと校門側の窓が開いていて、そこから雨風が吹きこんでいるのに気が付いた。
見つけてしまった以上、閉めないのは何だか悪い気がしたので階段を上がりかけていた右足を戻し、開きっぱなしの窓へと向かった。
窓を閉めた後、その外へと目を向けてみる。
雷に打たれ、幹を抉られ、雨に降られて花弁を散らす。
昨夜から踏んだり蹴ったりな桜の木は変わらずそこに佇んでいた。
今朝の間に話題性は失われたらしく、昇降口から傘を差し、三々五々になって帰宅を始める生徒、それに混じってカバンを傘代わりに校門へ駆ける生徒も桜の木を一瞥する事は無かった。
「……行くか」
校舎内で走り込みをするサッカー部と擦れ違いつつ、僕は桜の木から目を放して連絡棟のある上階へと昇った。
長い連絡棟を通ってようやく辿り着く、南のはずれにある別棟。
現在は使われていない空き教室が多数存在し、そうでなくても、資料室や生徒は滅多に寄りつかない。
教師や、生徒達からは旧館と呼ばれている。
その名が示す通り、建物は何処か古びていて、その有り様は一昔前の木造家屋を思わせる。
幸いながら雨漏りは無いが、いつ床板を踏み抜くか気が気でない。新館と同じリノリウムの床が広がるのは三階の一部教室の前だけなのだ。
「……ちょっと速かったか?」
そうして、校舎内をフラフラと歩き、気づけば僕は目的地に着いていた。
棟内では珍しく使用されている部屋。
三階の、廊下の端に位置するこの空き部屋。
舗装された足元のリノリウムの床は飛んでも跳ねても踏み抜きそうには無い。
視線を上げる。『資料室』と書かれた名札がこの部屋の役割を物語っていた。
呼び出された部屋で合っている事を確認し、立て付けの悪いドアをスライドする。
「うっ、昨日よりキツいな……」
何処かカビ臭い、古紙独特の臭いが鼻腔をついた。
雨で上がった湿度が、その独特な香りを一層強めているように思えた。
部屋には、埃を被ったソファが一つ。
周辺の床に、資料が散らばっていた。
昨夜の状態のまま、まだ片付けられていない。
ギシギシと音がなる床板を踏みしめながら進み、僕はソファに寝転ぶ。
埃が舞うが、気にしない。
目を閉じて、耳を澄ませる。
──トン、トンッ、タタンッ、トン、トンッ
校舎の屋根に打ち付ける雨音。
なんとなく規則性を感じるその音が何処か心地良く、少し寝転ぶだけにするつもりが、疲れていたのだろう僕の意識は押し寄せる睡魔へと呑まれていった。
* *
仰向けになった体に重みを感じた。同時に、首筋に冷たい何かが触れた。
比較的浅い場所に漂っていた僕の意識は、その冷たさに惹かれるように昇っていく。
「…ん……」
まず初めに耳にしたのは変わらず校舎を打ち付ける雨の音、感じたのは僅かな喉の渇き。
「あ、起きた?」
次いで耳にしたのは、耳朶を撫でる柔らかな声、感じたのはヒヤリとした生物的な本能。
そして───
「また、ですか……」
首筋に押し当てられたサバイバルナイフが秘めた冷たさ、命の温度を奪い取っていかれるような錯覚を感じつつ、僕は呆れ交じりの質問を仰向けになった僕の上に跨がってナイフを首筋にあてていたあおい先生へと投げかける。
「あなたは……、僕をどうしたいんです?」 「ふふっ……」
僕の肩に頭を乗せた彼女は耳元で笑う。
返事は無い。
その代わりとばかりに、ナイフが首筋に幾らか食い込んだ。
……どうやら僕の質問には答えて貰えないらしい。
「……な・る・ほ・ど」
顔を上げた先生としばらく見つめあって、それからナイフがそっと放された。
あおい先生は僕のお腹から滑り降りると、仕切に頷きながら部屋に入口へと向かい、扉に鍵をかけた。
そして、くるりとターンした彼女はニコニコとした笑みを浮かべて──突然こう言った。
「やっぱり君は“欠陥品”だよ。天音君」
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