Rain─1 その日、雨が降り始めた
初恋愛作品!
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「……先生?」
シトシトと、雨が降り始めた。
「なぁに? 天音くん?」
徐々に強くなっていく雨脚は、夜の校舎を暗く濡らしていく。
リノリウムの床に倒れ込んだ僕の上には、白いブラウスのボタンを外した、若い女性が跨がっていた。
普段の彼女からは想像も出来ない、毒々しい色の下着は、的確に理性というストッパーを蝕んでくる。
雷が鳴った。
一瞬、照らし出された彼女の唇には、いつもと何ら変わらない薄いピンクのルージュ。しかし、彼女が放つ淫靡な香水の匂いがそうさせるのか、それともこの状況のせいか、妙に艶やかさが増しているようにも思えた。
「えっと…」
「どうしたの?」
暗闇に微笑む彼女に、僕は困惑する。
なぜこんな状況で嗤えるのだろうと。
そのいつもと変化のない彼女の微笑みを見つめ返しつつ僕は、自らの首筋に触れる冷たい感触のもと──鈍く輝くソレへと視線を動かした。
「コレ、なんですか?」
「え? サバイバルナイフだよ? 知らない?」
「いえ、知ってますけど…」
「だよね?」
わからない。
淫靡な表情で生徒の首筋に刃物を突き付け、平然とした態度で接してくる彼女の感性がわからない。
狂っているのだろうか?
校舎を叩き続ける雨音。
かなり大きな音と衝撃が目と耳を打つ。
落雷が落ちた。
だいぶ近くに落ちたんだろう。
相も変わらず、彼女の微笑みは消えない。
しなやかな体、たいした重さでもないはずなのに、僕はその場を動く事が出来なかった。
逃げられない。
少しでも動けば、彼女は躊躇いなく僕の首を掻き切る。
そんな確信めいた予感があったんだ。
心臓が早鐘を打つ。
僕は彼女が怖いのだろうか…。
怖いんだろう、たぶん。
得体の知れない、それこそ幽霊なんかと同じように……人は自分とは違うモノに恐怖する。
僕だって人間だ。
例外じゃない。
彼女は、得体が知れない。
日中、窓から吹き込む暖かな風が眠気を誘う教室で、熱く弁を取る彼女の笑顔が網膜の裏でちらつく。
その笑顔と今、自分に向けられている笑顔は、全く別物だと思えた。
狂気を孕んだ、危険な笑み。
だけど、綺麗だ。
ふと思った、そしてたいした考えもなく、その思いはスルリと口から漏れた。
「綺麗、ですね」
僅かに目を瞠った彼女は驚きに表情を崩す。
ただ、それも一瞬。
直ぐに、再び狂笑を浮かべなおした彼女は、突き付けたナイフを首筋に食い込ませた。
雨脚が更に強くなってくる。
依然、僕は逃げられず、ただその笑みを見つめ返すしかない。
永遠にも感じられる長い間、心臓が早鐘を打ち続けていた。
「僕を……殺すんですか?」
「……」
彼女は答えない。
僅かに赤らんだ彼女の頬は、僕の見間違いだろうか?
永遠にも思える長い静寂だった。
ひどい天気だ。
雨は────いつ止むのだろう。
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