あんたの娘おかしいよ
タツに新品の同じ服が渡される。
「ほら、早く着替えて」
店員に案内された試着室で彼は着替えた。パンツやジャケットだけではなく、その下のタキシードシャツもだ。
一通り着替えて出てきた彼に、店員が青くてヒラヒラとした新しい小物を持ってきた。
「なんだそれ、涎掛けか」
「ジャボタイと言います。ネクタイの一種ですね」
説明しながら店員は、そのヒラヒラをタツの襟に結んだ。まるで洋画の世界から出てきたようなクラシカルな紳士が出来上がる。
「バッチリだね」
レジにいる明蘭が微笑む。その奥にいる店員は目を皿のようにしながらレジの計算をしていた。
「ありがとうございます、四十六万八千円お願いします」
「はーい」
明蘭は当たり前のように返事をして、ハート型の鞄から財布を取り出す。さらにそこから黒光りするカードを出してレジに置いた。
店員はそれを受け取り、淡々と処理していく。出された紙に明蘭はサラッとサインをした。
「ありがとうございます。そういえば、明後日のお茶会はそちらの方もご一緒ですか」
買い物袋を整えながら店員は訊ねた。
「うん。だって、メイの執事だもん」
会話を聞いていたタツに嫌な予感が走る。
「お茶会って何だ。一体、俺は何に付き合わされるんだ……」
「いいから早く荷物持ってよ。メイが着替えたら帰るよ」
これでもかと言うほど積み上げられた袋の山を明蘭は指差した。
「冗談だろ……」
結局、タツは全て担がされて明蘭と共にビルを後にした。




