これがお嬢の聖域かい
お店は五階。二人はエレベーターに乗り込んだ。
階を示す光は順調に動いていく。タツがまだ痛む腕をさすりながらそれを眺めていた時だ。
「メイのためにごめんね、タツ君……謝謝」
微かな声で明蘭が告げた。
「え、今何て……」
彼が聞き返そうとしたその時に五階に到着。ドアが開く。
「こっちだよ」
彼女はさっさと歩いて行く。タツは上の空でそれについて行った。
「初めて名前を呼んだ……」
「どうしたの」
「いや、何でもない」
少し歩くと、やたらピンクな内装がタツを迎えた。お花、レース、ハート、トランプ柄、クラシカルな棚や机、童話や不思議の国を思わす小物……どこをどう見ても女の子による女の子のための神聖なる空間だ。
「あー……、お嬢。俺、ここで待ってる」
「だーめ。来なさい」
袖を掴まれて引きずり込まれたタツは、顔を真っ赤にして店内を歩いた。
奥に入った彼はある物に気がつく。
「この服……」
タツが見つけたのは、自分と同じ格好をしたトルソーだ。
『Alice and the Pirates 新作 執事アリュールと薔薇の扉』
「この服、名前があったのか……」
そのトルソーがあったのは、店の一角にある青い内装のコーナーで、他にもどこかの歌劇団のような洋服が所狭しと並んでいた。
こんな服で街中歩ける奴がいるとしたら大した者だ。と、タツは自分を棚に上げて苦笑。そして、ぼちぼちと明蘭の所へ戻った。
彼女は女の店員達と楽しげに話している。タツが近づくと、店員の一人がすぐに気がついた。
「こちらの方は……」
「雇ったの、メイの執事だよ」
「さ、さすが李家ですね。それにしてもその服、随分とご着用なさっているのですね……」
タツの服の状態を見て、その店員は眉をひそめた。
「ここまでくると、お直しは少々難しいかと……」
「うん。だから、このセットアップを二着分ほしいの。一着はここで着替えるね。あと、あそこのブラウス全部と、それから……」
次々と指示を出され、店員達はバタバタと品をまとめ始めた。レジの上に、大きなピンクの袋が山のように並ぶ。その光景にタツの顎が外れた。




