何故お前がここにいる
カウンターにはスタッフの男が二人で暇そうにしている。奥にある灰皿付きのテーブルには、長髪を結った、色黒で足の長い男が妙な臭いの煙草を吸っていた。
お香とも線香とも言えないエキゾチックな異臭。タツはその臭いを感じた瞬間、胸の古傷に鈍い痛みを覚えた。
「このガラム臭……ダリアか」
ダリアと呼ばれた男はゆっくりとタツの方へ顔を向けた。面長で、骨格は深く、ギョロッとした目はいかにも外国の血が入った顔だ。
浅黒い肌だが、眉間と左頬に入っている傷跡の色だけ薄い。
「……双拳の龍。タツなのか」
ダリアはそっと眉間の傷跡を押さえた。
「三年ぶりだな。この傷は忘れたとは言わせん。……しかし、その格好はどうした。ディズニーランドの帰りか、ふざけているのか」
「いや、この服は気にするんじゃねぇ。それにこんなところでイリイリすんなよ」
タツは傷の疼きをこらえてあえて冷静になろうとした。せっかく計画通りに事が進んでいるのに、今ここで騒ぎを起こされたら台無しだ。
彼は手で払う仕草を見せた後、スタッフにジーマを二本注文した。
カウンターに青いラベルの透明な瓶が並べられる。
「ほら、ダリアも飲みな」
タツがそう言って瓶を渡そうとした。だが次の瞬間、ダリアのつま先が目にも留まらぬ速さでそれを弾き飛ばした。
瓶は床に叩きつけられ破裂。溢れた炭酸が足下で細かい泡を弾かせている。
ダリアは片足を上げたまま、鷹のようにつり上がった目をタツに向けていた。
「ふざけるなよ。俺があれからどんな思いで生きてきたと思う。あの時の地下舞闘会で顔に付けられた傷が……」
「頼む、ダリア。悪いけど今は……」
その時、ホールの方から女の子の悲鳴が聞こえてきた。小柄な男が慌てて走ってくる。
「ダリア……大変だ。見かけない奴らが女を……」
その言葉に反応したのはダリアではなくタツだった。
もし明蘭の身に何かあったら自分がヤバい……と、彼は祈るような気持ちでホールに飛んでいった。




