きっかけ
「誰の絵を見るの?」
と正樹は父に問いかけた。景隆は眼鏡をくぃっともちあげ、
最近ちょっとでてきたお腹をさすりながら咲夜に同じ質問をする。
気持ち小さめの背丈で黒髪の奥ゆかしい日本女性と
いった感じの咲夜は
「入口に書いてあったでしょ。印象派の画家たくさんかしら?」
「「印象派の画家?」」
と正樹と景隆の声がハモる。咲夜は
「きっと私好みのいいのがあるわよ~。」
とスキップでもするのではないかというくらい軽やかに歩く。
絵画の前には紐がはってあり、
あまり近くに近づけないようになっていた。
それでもぎりぎりまで近寄っている人は多い。
見に来ている人も子供からお年寄りまで様々な人が
来ているようだった。
咲夜は絵の前に立ち止まり説明文を読んで絵を見て納得したり
もう一度説明文を読んで頷いたりしていた。
気になるところはじっくり見て細かい描写、タッチを見ては
その技術に感動していた。
たまに絵から離れて全体を把握し近づいて凝視したりしていた。
正樹はそんな咲夜のしていることを真似ていた。
咲夜が離れれば同じように離れ、近づけば近づく。
よく分からなかったが咲夜と同じことをすれば何か分かるのかなと
思ったからだった。
景隆は絵画に興味はないので椅子に座っていた。
ひょこひょこと正樹が咲夜のあとをついて歩く。
そんな正樹と咲夜がかるがもの親子のように見えて微笑ましく眺めていた。
正樹と咲夜がいてこその絵画展というのが景隆の考えだった。
言うなれば正樹と咲夜がメインで絵画展はおまけ以外の何物でもなかった。
二人が喜んでいるならそれで充分だったので椅子に座って
ゆっくりしているのだった。
そんな景隆のことはお構いなしに次々に絵を見ていく正樹と咲夜。
しゃべらず絵を鑑賞していた咲夜が小声で正樹に話しかける。
「これがゴッホの代表作、ひまわり よ。」
そう言われて正樹はゴッホのひまわりをもう一度じっくり見た。
「なんか元気がでてくる絵だね。」
と正樹はつぶやき、それを聞き咲夜は
「そうね。ゴッホも自分の絵を見てそう思ってもらえたって知ったら
きっと喜ぶでしょうね。」
と答えた。
それが正樹の初めてゴッホの作品を見た時の感想だった。
その後もかるがも親子の行進は続いていたが
最後の方で見つけたのはゴッホの自画像だった
「こっちはさっき正樹が元気がでるって言ってた
ひまわりの画家、ゴッホの自画像になるわね。」
と言われて隣の絵に目を移すと耳に包帯をした痛々しい姿をした
ゴッホが描かれていた。
「なんでこの人はほうたいをしているの?」
と言われ咲夜は少し考えつつ、
「ゴッホは心の病気があってね。
自分の作品を『この耳はありえない』って
同じ画家をしていた人に言われて腹を立てて
自分の耳を切ってしまったの。
その後、治療して包帯をしている自分自身を描いた作品なのよ。」
正樹はちょっと痛そうな顔をして
「なんでそんな怖いことをしてしまったの?」
と咲夜に聞いた。
咲夜は迷いつつ
「んー。ゴッホは自分の作品は自分そのものと考えていた。
だから自分の作品の耳がおかしいならおかしいのは
本当の自分の耳だと思った。
だから自分の耳を切ってしまった。と私は想像するわね。」
と言われ
「そんなのぜんぜんわからない。」
と正樹は口を尖らせる。それ見た咲夜は慌てて、
うんうんと正樹の言葉に頷いて
「分からないという答えが自然よね。
人の心は誰にも分らないもの。
でもゴッホは生きている間はみんなに認められないまま
死んじゃったの。」
「そんなのかわいそうじゃん。」
「うん、でもね、ゴッホは死んでからだけど
作品をみんなに認めてもらってる。
今ではゴッホの人生にたくさんの人が共感しているの。
私も大好きな画家よ。今は億の値段がつく大芸術家様だしね。」
と咲夜は手をあたふたと振りながら取り繕う。
それが功を奏したのか作品の金額の方に正樹は飛びつき
「おく!プラモデルいくつ買えるかな?」
「そうねぇ、ざっと10万くらいかしらね~。」
と咲夜は笑いながら答える。騒がしくなっているのもを見た景隆は
どうかしたのかい?とやってきた。
「父さん、母さん、僕は画家になるよ!」
と正樹は宣言した。
「ぇぇー。」と両親は驚きつつも
絵画好きな咲夜はまんざらでもなく「有名な画家になってね!」と応援し
「いや、画家は大変だろう。
ずっと売れない画家だったらどうするんだ。」
と景隆が心配する中、当の正樹は
「有名な画家になって父さんと母さんの欲しいものを
なんでも買ってあげるよ!」
と胸を張るのであった。
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