宿る闇
小川はこう語りだした。
「私の父は売れない画家で看板に文字や絵をを描くことで
生活費を稼いでいた。生活の苦しさから父は贋作に手を出した。
すぐにばれて父は画家生命を絶たれた。」
「あなたの父も贋作に手を染めていたのか。」
楠田は怒りを抑えきれないといった感じだった。
小川はそんな楠田を見ながら軽蔑するかのような態度でいた。
上から見下し言葉を発する。
「それでも絵が描きたかった父は近くの駅前で似顔絵描きを始めた。
だが贋作を描いていたことを知っていた者達が邪魔をし喧嘩を売り
何もできない父の利き腕を何度も踏みつけ蹴とばした。
これが未来ある若者が私の父にしたことだが?」
黙って楠田は小川をにらみつけたままだった。
「救急車がすぐにきて病院に運ばれたが、
父は医師に「もう2度と絵は描けないかもしれない。」と告げられた。
これは前途ある若者が無理やり喧嘩を売ってきて、
私の父が何もできないのをいいことに好き勝手に殴って蹴とばした結果だが?」
医師の言ったように腕は自由に動かせるほど回復せず思うように
絵が描けなくなった父は絶望し自殺した。
君の言う若者には未来があって私の父には未来がないと?」
笑いながら話してはいるが目に憎しみの炎は宿る。
早坂とは違った静かな怒りのこもった憎悪だった。
「母は私を育てるために身を売った。
私の家族には救いはないということですかな?
自分勝手な父だからと?贋作描いてたから仕方ないと?
そんなわけがないだろう!」
小川は机に拳を振り落とした。江口はびくりと体を震わせた。
「名も知らぬ若い男が家にのさばり、母と幼い私に暴力をふるった。
私はただ怯えて日々を過ごした。学校から家に帰りたくなかった。
なるべく時間を一人でつぶしできるだけ家にいないようにした。
家に私の居場所はなかったですからな。」
と苦々しい顔をした。
「私は母が大好きだった。この広い世界で母は私を守ってくれたからだ。
最初のうちは幼い私が殴られているとかばってくれていた。
しかし途中から家に入り浸っていた男とどこへでもいけるのにと
愚痴るようになり最後の方は
『あんたさえいなければ!!』
と叫びその男と一緒に私に虐待するようになった。」
話している小川の表情は苦渋に満ちていた。
「こんな状況で未来に何を期待しろと?
私が苦しんでいた時に世間が幼い私に何をしてくれた?
可能性なんて私には初めからなかった。」
挫折し幼い小川と妻を残してあっけなく死を選んだ小川の父、
暴力をふるう男と一緒に虐待する母を恨むなという方が無理だろうと
楠田は思った。
「暴力を振るわれ続ける日々は永遠に続くかと思われた。
何もできずただ怯えるだけの日々だった。だが10歳になった時
母は私を一人残してその男と失踪した。私はそこで初めて虐待されない
人生を歩んでいけるようになった。
母に見捨てられた結果が虐待されない日々の始まりだった。」
小川は本当についてないと子供のころからずっと人生を半ば投げ出していた。
うまくいかない理由を小川は周りのせいにした。
小川の父が貧しいながらも看板の文字や絵を描いていたころが
一番幸せなはずだった。
だが昔のことすぎて悲惨な子供時代を過ごした小川にはその頃の記憶は
もうなかったのだ。
「私は親戚をたらい回しにされ転々とした結果、孤児院に引き取られた。
そこでの惨めな生活と子供の頃の父の挫折と母の行動を見て
金を手に入れようと私は思った。」
楠田は複雑な心境になった。つらい日々の連続で人が信じられなくなった
ということは分かった。金に魅力を感じたのも分かる。
だがしかし、その同情をしてはいけないと自分自身の心が言っているのも
感じていた。
小川は静かにただ淡々と無表情に語った。激情にとらわれたのは父の死と
母の身売りと優しかったはずの母の豹変。
この男の犯行は幼い日々の虐待を誰も助けてくれなかったこと、
母に裏切られたこと、助けてくれなかった世間への復讐のようなものかも
しれないと楠田は思った。
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