表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/19

堪忍袋の緒が切れる

翌朝、正樹のご飯は目玉焼き。


1パック10個入り100円の特売卵を消費しなければならないので


2日続きで卵料理だった。しかし手早くできるし正樹自身も卵は


好きだったので気にならなかった。



出来上がった目玉焼きの半熟の黄身をつぶし、


そこに醤油をたらして熱々のご飯と共にいただく。


「うーん。うまい!我ながらシンプルだけどたまらない。」


と一人頷きつつ、とろとろの半熟卵に絡むご飯をかっと口の中に


押し込み噛みしめ租借し飲み干す。


心地よい半熟卵の味と熱々のご飯に満足した。



 しかし早坂達に文句を言われるかもと思うと大学に行くのは億劫だった。


だが絵が好きで入った大学だったし明美の励ましもあったので


気合を入れなおしアパートを出て大学に向かった。



 空は入道雲ができていて大雨が降っていた。


雷が落ちてもおかしくない真っ黒な雲がでていた。


ひまわりは大雨と風にうたれ頭を垂れていた。



 大学では1階の105号室で油絵の授業があった。


木製イーゼルにキャンパスをおいて油絵の制作にとりかかる。


キャンパスに色を塗っていくのは楽しかった。


だが油絵を描いていると、またいけすかない早坂を筆頭に汗ふき佐久間と


ひょろひょろ加賀下がやってくる。早坂は開口一番こういった。


「相変わらず構図がなってないな。線に勢いもない。」


「「まったくだ、早坂さんの言うとおりだぜ。」」


と佐久間と加賀下は同調する。



正樹は聞かない振りをして絵に集中しようとする。


早坂は正樹の周りをぐるぐる見回してここだと言わんばかりに指をさし


「この絵からは人物の動いている脈動感も自然の雄大さも感じない。


同じ絵の中にあるのになぜか違和感を感じる。遠近感もどうもオカシイ。」


「「まったくもってその通り。」」


佐久間と加賀下の声はシンクロする。



「ただ絵を描いただけ。せっかく同じ絵の中に存在するのに


一体感がなくバラバラに存在するかのようだ。


色彩感覚もオカシイんじゃないの?」


馬鹿にしたように嘲笑する。


正樹はまったく言い返せなかった。確かに正樹が見てもそういうところは


自分の絵の中にあるかもしれないと思ったからだ。



 文句をいうのも注文をつけるのもいいのだが、言い方ってものがあるだろう


と思った。そう思った途端にニヤニヤしている早坂達に腹が立った。


何故自分だけがこんなことを言われないといけないのか?


どこまで我慢しなくてはいけないのか?


難癖つけられるのは終わりがないように思われた。


この時間は一生続くのではないかと思った。


早坂は調子に乗ってしゃべり続ける。


「黙り続けて巨匠を気取っているのかい?エコの時代は資源は大切に


しないといけないんだからお前は絵を描くなよ。まったくなんだろうこれは?


『この耳はないだろう。』」


「「まったくだ、『この耳はないよなぁ』」」


と早坂達3人は大声をあげて笑い出した。



 その馬鹿にされた笑い声と「この耳はないだろう。」という早坂達の言葉が


ゴーギャンの言葉に重なり怒りを覚えた。ゴッホが耳を切ったのは


自分の作品を馬鹿にされたからだ。本当に切りたかったのは


ゴーギャンの耳だったろう。それをしなかったのはゴッホの優しさだ。


そう単純に思った。



 正樹は描いていた自分のキャンパスに思いっきり筆を突き立てた。


キャンパスには穴があき真っ二つに割れ筆は折れ、絵を支えていた


木製イーゼルは木っ端微塵に砕け散った。雨の勢いはいよいよひどくなり


正樹の怒りに連動するかのように雷がカッと光り凄まじい音をたてて落ちた。

 


 ばらばらになった木製イーゼルやキャンパスを踏みつけ


正樹は早坂達に近づいた。


正樹は一歩一歩ゆっくりと歩み寄り射竦めるような目で早坂達をにらみつけ


「次はお前だ!」


と腹の底から声を出し怒鳴りつけた。佐久間と加賀下は


「「ひぃぃぃ。」」


と怯えた声をだして座り込んでしまった。


残った早坂は今まで一度も反抗してこなかった正樹の行動に対応できないでいた。


そんな早坂の気の動転など意に介さず正樹は早坂の襟元をぐっとつかみ


折れてささくれだった筆を早坂の顔面に今にも突き立てようとしていた。



「はいはい、そこまで。それ以上続けると犯罪になっちゃうからね。」


と手をぱんぱんとたたきながら周りが正樹の行動にびっくりする中


2人の男が入ってきた。そして警察手帳を取り出して見せて呑気な声をだして


「おしまいおしまい。筆こっちに渡してね。」


と仲裁に入ったのは50歳くらいの背は低いが、がっしりしている楠田正次郎と


新米刑事の江口陽七郎だった。














読んで頂きましてありがとうございました。


面白い!


続きが読みたい!


これからどうなるんだろう?


等々思って頂けたなら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちで構いません。


ブックマークも頂けると本当にうれしいです。


作品を読んで何か心に残るものがあったなら幸いです。


何卒、宜しくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ