この世界は怪異に満ちている
何となく書きました。軽い気持ちで読んで下さい。
夕焼けが大地を赤く照らす秋の頃、俺こと赤羽天音は一人学校から帰宅していた。
天音が住んでいるこの【神庭市】は都会というほど都会ではないが、田舎というほど田舎でもない。
普通に歩けばコンビニや小さなお店だってあり、商店街だってある。更には電車で隣町まで行けば街中だって普通にある。特に不便はない。
「う~さむ。まだ秋だってのに何でこんなに寒いんだ?」
手をすりすりと擦りながら俺はこの異常な寒さに参っていた。手を合わせながら息を吐くと口から白い息が出る。うわ、幾ら何でも寒すぎじゃないか。
「早く帰ろ」
俺はそう言うと少し歩くスピードを速くした。
若干の小走りで俺は何時も通る住宅街、商店街の通りを抜け神社の前を横切ると、
ーーーーーーーーこっちー。
頭の中で声が響き、不意に小走りする足が止まった。
何だ?今誰かに呼ばれた気がした。
聞こえもしない声に俺は少し戸惑ったが、顔は何故か神社の方を向いていた。
何でだろうか、声は何故かこっちの方から聞こえた気がする。
「・・・・・・・行ってみるか」
自分でもよく分からない。ただ何でか行った方がいい気がする。
俺はそういう気持ちにかられ寒い中神社の鳥居を潜りった瞬間、空気が変わった気がした。
俺はそれに驚き少し立ち止まったが、今は気にせず階段上ることにした。
この神社には言い伝えがある。
かの昔この神社の神、奉公神『晴繋綾女』は人々の悩みや願いを叶える神として奉られていた。だがある時『晴繋綾女』は人々から出る悩みや願いの多さに一人では対処できなくなり、一人の人間に人々の願いを叶える手伝いを依頼した。そしてその報酬としてその人間に何でも一つだけ願いを叶え、その人間は幸せに暮らしたとされている。
この話は昔学校の先生やここの住職の人から何回も聞いた。
その時の俺は興味もなく聞き流していたが、何故かこの話が今になって俺の頭の中に蘇って来た。
「・・・・・・まさかな」
俺は頭の中に出てきた疑念を捨て去り階段を上り続けると、やがて頂上に着いた。
やっと着いた。俺はふぅっと一息付き辺りを見回した。
辺りは何ら変わりのない手水舎や絵馬掛け所、拝殿が夕焼けに赤く照らされているだけで特に変わった所はない。
(気のせいか・・・・・・・・)
俺はそう思いながらも拝殿に歩み寄って行くと、最初とは違う声が聞こえた。
ーーーーーーーーーーーーやっと見つけました。
「!?!!」
その声が聞こえた瞬間拝殿の扉が光りだした。
突如現れた光が俺の視界を包み込んだ。俺は目を瞑り光が消えるのを待つと、やがて光は段々は消えていきなくなった。
光が消えるのを確認し俺は目を開けると、拝殿の扉がゆっくり開いた。
中から出てきたのは腰にまで伸びた黒髪をなびかせ何時の時代かは分からないが凄そうな和服を着たこれまで見たことがない位の美人な人だった。
「こんにちは、赤羽天音さん。貴方が来るのを待っていました」
突然現れた謎の美女に俺は固まっていた。
「・・・・・・・」
「あのー、天音さん?」
「・・・・・・・」
「あ・ま・ねさーん」
「!?は、はい!!」
「あのー、どうかされましたか?」
「い、いえ、何でもないです」
謎の美女に近づかれ俺は少し焦りながら言った。
うわ、近くで見ると本当に美人だな。
「そうですか?では改めて、初めまして、赤羽天音さん。私はここの神社の神、晴繋綾女。貴方に依頼があって来ました」
「い、依頼ってあの言い伝えの・・・・・・・」
「そうです。その言い伝えのです」
言い伝えって本当だったんだな。
俺は何て言っていいか分からず言葉に出来ないでいると、神様は困った様な表情をしだした。
「ですがその言い伝えには少し誤りがあります」
そう言いながら神様は俺の隣に立ちゆっくりと顔を近付けた。ち、近い、そして何かいい匂いがする。
神様に近付かれ俺はドキドキしていると神様はそっと俺の耳元で囁いた。
「願いを叶えるのは人間だけではなくーーーーーーーーーーーーーーここにいる妖怪達もです」
そう言って神様が俺の肩に手を乗せた瞬間、何処から出てきたのか沢山の化け物が出てきた。
神社の屋根からは傘のお化けや一つ目小僧みたいなお化け、茂みには白い毛むくじゃらなお化けや虫みたいなお化け。
沢山居すぎて何がなんだか分からなくなってきた。
「え、えぇ!!妖怪!!」
「わぁ、見てみて、あれが今回のお手伝いさん」
「何かひょろそうだねー」
「あれ絶対童貞だな」
妖怪達は俺を見て色んな事を言っている。
おい、誰だ童貞って言ったの!余計なお世話だ!
「ふふ、驚きましたか?」
「はい、まさか妖怪がいるなんて。しかもこんなに沢山」
「あ、沢山いるのは天音さんを見物するためですよ。普段は殆んどいません」
いや、いないんかい。しかも何か見せ物みたいに言われてるが気のせいだろうか。
俺はほえーっと沢山の妖怪を見回していると下から何かが当たる感触がした。俺は下を見ると一匹の狐が俺の足をすりすりとすり寄っていた。
「何だお前?」
「あ、この子が天音さんをここまで呼んだんですよ」
「天音ー!!」
神様がそう言うと狐は俺の名前を叫びながら俺の胸に飛び込んできた。
「天音会いたかったー!!」
「会いたかったって、お前俺と会ったことあるのか?」
「あったよ。ずっと昔に一回だけ。それからずっと見てたの。会いたかったよー天音ー」
そう言って狐は俺の胸をすりすりと擦り付けてきた。
やばい、何この可愛さ。俺は狐の可愛さに思わず頬が緩むと神様が嬉しそうにしながらふふっと笑った。
「まさか、もうこれ程なついているなんて。流石は天音さんです」
そう言って神様は俺から手を離し俺の目の前に立ち手をバッと広げた。
「さぁ、どうですか!天音さん。私と一緒に妖怪と人間の手助けをしてみませんか?」
神様にそう言われ俺は抱き抱えている狐を見ながら暫し考えた。
「その前に一つ、何で俺何ですか?」
「それは天音さんに妖怪と溶け込める素質があるからです。現に天音さんはそちらの妖狐と既に心を通わせてます。素質は十分あります」
素質か。正直そう言われてもあまり実感が沸かないからよく分からんが、妖怪か。
俺は再び狐の方を見た。狐は「どうしたー?天音ー」と首を傾げている。
「俺なら皆を助けられますかね?」
「それは私には分かりません。ただ天音さんなら、きっと出来ると思います」
「そうですか・・・・・・・」
俺は目を瞑りまた少し考えた。やがて、決心したのか目を開け神様真っ直ぐ見た。
「分かりました。協力します」
「ありがとうございます。天音さん」
俺がそう言うと周りの妖怪達も「よろしくな」「よろしくね」と声を掛けてきた。結構気さくだなこいつら。
「よろしくねー。天音ー」
「あぁ、よろしくな」
「私もよろしくお願いしますね。天音さん」
「こちらこそよろしくお願いします。神様」
「私の事は綾女で構いませんよ」
「はい、綾女さん」
こうして、俺と綾女さんは出合い、奇妙な日常が始まった。