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寝る前に、僕はテレビゲームをしていた。
最近購入したRPGゲームだ。人気のシリーズで、世間一般の評価は高い。僕も昔からこのシリーズは好きで、新作を楽しみにしていた。
しかし、僕は失望していた。このゲーム、はっきり言ってクソゲーだ。
発売前にあれだけ謎を匂わしていたプロモーションビデオも、クリア目前の今となっては、大したことのない大袈裟なものだったと言える。
何よりもボリュームが少ないのが問題だ。僕はこれを購入し、約二五時間程度でクリアしようとしている。
あれだけ楽しみにしていたこのゲームが、こんなにあっさり終わってしまうのは正直、怒りを感じざるおえない。
「何が、『最終決戦までもう少し!』だ!!」
僕はゲームの登場人物に対して文句を吐き散らした。そんな言葉が通じるわけもなく、画面の中の魔女は険しい顔をして、最終決戦に臨もうとしていた。
三時間後。夜も深まり、午前三時。俺はついにラスボスを倒してしまった。
ラスボスは悪にも善にも染まりきらないタイプで、最終的に自分を倒した主人公達の仲間になってしまった。
こういうパターンはもうお腹一杯だ。僕は完全悪のラスボスの方が好きなのだ。
強いて良いところをあげるとすれば、戦闘がやりごたえのあるものだった所だ。
ラスボス戦なんて、第三形態までボスが変化し、生か死を幾度もさまよった。回復アイテムが底を尽きて、絶体絶命のピンチに追いやられたくらいだ。
手応えのある戦闘は好きだ。緊張感がリアルさを感じさせてくれる。
そんなラスボス戦もあってか、僕は今、割と満足していた。それまでのクソゲーな要素すべてを吹き飛ばすくらい、充実したラスボス戦だった。
まあ、やっぱり物足りないとは思う。
エンディングも見終わり、タイトル画面に戻る。僕はゲームの電源を切り、ソフトを取り出す。そして、そのソフトをケースに入れた。
改めてパッケージを見て、僕なりに評価点を付けていた。
「んー。四十点だな」
僕はそのソフトを棚の中にしまいこんだ。やりこみ要素のイベントを消化するために、そのソフトはもう一周はする予定だが、とりあえず今日はもうやめておく。
そろそろ眠い。まぶたが落ちてきていた。
僕は眠りについてしまう前に腰を上げる。歯磨きをするために一階の洗面所へ向かった。
歯磨きを終え、ついでにトイレにも行っておく。事を終えた僕は、洗面所から立ち去ろうとしていた。
その時、洗面所に人影が現れる。父だった。
「まだ起きてたのか」
「うん」
父は何か言いたそうな表情でこっちを見ている。僕は無視して自室に戻ろうとする。
「明日も学校、行かないつもりなのか」
その言葉に僕は足を止めた。僕と父の間に微妙な空気が流れる。
「お前、そんなんでいいのか? せっかく入った高校なのに……」
「父さんには関係ないよ」
「関係ないとはなんだ!」
父は厳しい声音で怒鳴る。
「僕はもうあんな学校、やめる」
「瑛。お前は……」
父が何かを言いかけていたが、僕は無視して自室へ向かった。父が追いかけて来ることは無かった。
部屋の電気を消しベットに潜る。しかし、父との会話が頭の中に残ってしまい、なかなか眠りにつけなかった。
僕は今、不登校だ。学校に行っていない。理由は色々あるのだが、簡単に言うと嫌になった。人と触れ合うことが面倒くさくなった。
布団をかぶり、何も考えないようにした。次第に落ち着いていく。暗闇は心地よい空気となり、僕を眠りに導いた。
「……瑛。彼方瑛」
暗闇の底で僕は目を開いた。そこは何も見えない、本当の暗闇だった。足元は水に浸かっている感覚がした。
優しい女性の声が、僕の耳元で囁いている。誰だろう。声のする方を見るが、暗闇で何も見えない。
「誰だ?」
「私は妖精」
「妖精?」
「はい。あなたはウイングアイランドに招待されました」
「なんだそれ?」
「ウイングアイランド。竜と妖精が住んでいたといわれる伝説の島です。あなたは、この島に行く権利が与えられました。行きますか?」
なんだこの、B級ファンタジーな世界観は。
「招待された? 誰に?」
「竜です」
僕は夢を見ているのだと確信した。妖精が現れて、竜に招待されて、こんな世界が現実にあるわけがない。よく考えたら僕はついさっき眠りについたのだ。これが夢じゃないはずがない。
僕はファンタジーが好きだ。特にこのような、ゲームの世界観を持つファンタジー。大好物だ。
これは夢なんだ。ならば、自分の夢を精一杯楽しもう。
「そうなのか。妖精さん。ならば連れて行ってもらおうじゃないか。その、ウイングアイランドとやらに!」
僕は自分の夢だということもあって、めっちゃノリノリだった。
「そう言うと思っていました! 瑛。ここからは一時、元の世界に戻ることはできません。もしかしたら、一生戻れない可能性もあります。それでもよろしいですか?」
夢の中の妖精は、やけに真剣な声で説明した。僕はその声に少し、現実感を感じた。しかし所詮、夢だ。僕は何の躊躇もなく、
「構わん」
と回答した。
「かしこまりました。ありがとうございます。次にあなたが目を覚ました時、あなたはウイングアイランドの住民です。みなさんと仲良くやってくださいね。それでは、また会いましょう」
妖精が言い終えると、突然目の前が輝きだした。よくみると目の前にいた妖精が発光しているみたいだ。目の前にいた妖精は想像していたよりも手のひらサイズで、小さかった。また、とてもかわいらしい容姿をしていた。
妖精の発光は強くなっていき、いつの間にか目を開けていられないくらい光っていた。僕は目を閉じた。
なかなか面白い夢だった。しかし、恐らくここでお終わりだろう。これは経験上の話だが、面白い夢は大抵、良い所で終わる。
ウイングアイランドという謎の島へ行ってみたかった、と少し心残りはあるが、俺はすでに、夢の中で再び眠りについていた。
「彼方瑛。幸運を祈ります」
初めまして。クマ公と申します。
好きな物は漫画にゲーム、映画に小説、アニメ、とにかく物語好きです。
今作の『竜と妖精のウイングアイランド』は異世界モノです。
ちょっとほのぼの、ちょっとはらはらなストーリーになると思います。
未熟な創作者ですが、これから読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします!