4話 模擬ノ戦 1
通常、カレンの戦闘は地形崩壊を伴う。例えば火の力で、辺りを焼け野原にすることも可能だ。だからこそ、そんなものを学校でやっていいのかという疑問が俺の中で芽生える。
先生に連れられ、1階の奥から別校舎の体育館へ進む。先頭は先生で、そのすぐ後ろに俺ら。そのさらに後ろでクラスの人がわらわらとついてきている。そんな中、俺が先生に質問しようとした時、サクヤが先に俺が言いたかった事を先生に聞いた。
「体育館で模擬戦なんてやって大丈夫なんですか?」
先生は少し驚いた顔をしてから、合点が言ったように小さく頷いて話す。
「ええ、大丈夫!あなた達は知らないと思うけど、学校の体育館には『防護フィールド』というものが展開されているの。防護フィールドって何かっていうとね。えーと戦いが観やすくなってね、安全になるの。えーと、えーと...」
いまいち良く分からない。その様子を見たのか、俺らのすぐ後ろにいた男子4人組が会話に入ってきた。この中の一人は確か、恋人の有無を質問してきたような...
「防護フィールドについて説明すればいいんでしょ〜?防護フィールドってね、簡単にいうと地形と対戦者を護るものなんだよ〜。」
「まず対戦したい場合は、『防護フィールドを使う』って意思を持って自分と対戦者が同時に足を踏み鳴らすんだ。そうすると、足を踏み鳴らした人の脳波を読み取って、防護フィールドが両者に展開されるんだぜ!」
「防護フィールドが展開されている時は、普通に壁も床も破壊されるし、怪我もする。でも、どちらかが気絶したり、戦う意思を無くした場合などになると防護フィールドが消え、それと同時に怪我も地形崩壊も全て消え失せる。たとえ心臓が止まっていてもね。ああ、勿論痛みはあるからご心配なく。」
「防護フィールドを張っている人は、張っていない人に攻撃ができない。逆も叱りだ。だから、戦ってるところをみんなが観れるんだ。体育館はかなり広く、小中学校の校庭くらいある。その体育館の奥にはモニターがあって、対戦者が誰と誰で、どんなキャラを使ってるかとか色々見ることができる。」
4人が息のあった説明をする。
「ありがとう。防護フィールドについてはよく分かった。で、悪いんだが、お前らの名前は...」
4人が「あっ」と同時に声をあげる。
「僕は風谷舞音っていうんだ〜。気軽に舞音って読んでね〜。だから僕も2人を下の名前で呼ぶね〜」
4人の中で一際小柄で童顔な、草原を思わせる淡い緑の髪の少年が言う。
「俺は炎剛烈火だぜ!烈火でいいぜ!よろしくな!」
一番威勢の良さそうな、燃え盛る様な赤い短髪を逆立てている少年が言う事。
「僕は時水憂月だ。憂月と呼んでくれ。」
黒縁眼鏡をかけた、海のような青い髪をストレートにした知的でクールな少年が言う。
「俺は土門悠斗だ。悠斗と呼んでくれて構わない。仲良くしよう。これからよろしくな。」
大柄で落ち着いた雰囲気の茶髪の少年が言う。
「俺らの適性属性は、名前と髪の色と一致してんだぜ!
俺は火属性
舞音は風属性
憂月は水属性
悠斗は土属性
はっはっは!覚えやすいだろう!」
烈火が教えてくれた。面白いな。
「そうだ〜。模擬戦の相手は僕達生徒だけで決めていいから、最初の模擬戦を僕たちとやろうよ〜。サクヤと遼平の2人対僕たちの中から2人。どうかな〜。」
舞音の提案に対しサクヤが含み笑いをしながら言った。
「私たち2人対、あなたたち4人でいいよ!」
それを聞いて憂月が吠えた。
「どうやら、僕らのことを舐めてるみたいだね。みんな、本気でいくぞ。」
俺も何か言おうかと思った時、
「ちょっと待ってね、みんな。もう着いたから!」
先生が声を張り上げた。さっきの不甲斐なさからか、少し恥ずかしそうに。そして、静かになったのを見届けてから体育館に入る扉を押し開けた。
「広ぇ...」
思わず呟いてしまった。その位ここは広い。どうやらサクヤも俺と同じ事を思ったのかポカーンとしていた。
「さあ、お二人さん!後がつっかえてますので奥の方へどうぞ。」
少し芝居がかった風に先生が言ったため、苦笑しながらも入る。これは校庭よりも広いんじゃないだろうか?そんな些細な疑問も先生が放った一言で消える。
「じゃあ、サクヤさんと遼平くんはそこの4人と早速、模擬戦をして見ましょう!もう話してたようですしね!」
「「えっ?」」
何でいきなり。「えー」とか「ズルい」とか「俺もやりたかった」とか後ろで声が聞こえながらも、俺らは仕方なく、渋々体育館の真ん中の方に行った。その後ろで例の四人組が堂々と歩いている。だいたい体育館の中央部に差し掛かった時俺らはくるりと後ろを振り返り4人を見た。
「よろしくだぜ!せいぜい怪我しないようになっ!」
「今更だけど〜、タッグバトルでもちゃんと防護フィールドは展開されるから安心して〜。」
「まあ、攻撃遮断の概念はないから仲間にも攻撃できるけどね。僕たちは絶対無いが、君たちは自爆しないように気をつけろよ。」
「まあ、俺らも全力でやるから、頑張れ。最初は慣れないかもしれないが、じき慣れる。」
みんな、なんだかんだ言って俺らのことを気にかけて心配してくれているみたいだ。俺はサクヤの方を向く。めっちゃいい笑顔で見返してきたサクヤの頭を軽く、ポンと叩くと言った。
「本気でやったらバレるから本気だすなよ。」
「はぁー...本当に空気読めないね。遼平は。」
なぜか変な目で見てくるサクヤに内心首を傾げながらも4人と向き合った。
「行くよ...勝負だ!」
ドン!と6人の鈍い床を踏み鳴らす音が響いた。