2話 ハジマリ 2
副校長に案内され高校の門をくぐる。そしてまず最初に目に飛び込んできたのは、コの字に建てられた校舎の真ん中にある中庭だ。広い中庭の中央には噴水まであり、磨かれた石畳と、綺麗に整えられた草木が良く映えていた。校内に入るための扉は中庭の奥にあり、俺とサクヤは副校長に案内されるがままに中庭を突っ切っていく。中庭は校舎から見下ろすことができそうで何人かの生徒が顔を覗かせていた。
校内に入り、綺麗に掃除された白いタイルの廊下を歩き校長室に案内され、
「それでは、私はここで。」
と副校長が去って行ってしまった。
「ほら遼平、男の子でしょ!先に入って!」
「はいはい。失礼しますっと。」
緊張した様子のサクヤに発破され、副校長がやるべきだろとおもいながら一声かけて校長室に入る。その後ろでサクヤが恐る恐るといった雰囲気で入ってきた。しかし、中で待ち構えていた人物を確認すると緊張は飛んで行った。
「やあ、久しぶりだねぇ。遼平、サクヤ。元気かい?この高校に入ってくれて嬉しいよ。」
「あ!真澄さん!お久しぶりです!」
サクヤが顔をほころばせる。
「はい。中江さんもお元気そうで何よりです。」
中江真澄は第六華煉高の校長だ。そして、ユウナの親友でもある。何度かユウナの「仕事」の都合で俺らは会った事がある。凛々しい白の瞳に、白銀の髪。子持ちであり、本人は40代と言っているが20代と言っても過言ではない程の美しさ。それでいて貫禄のある雰囲気は年上をも黙らす力がある。
「本当は、一年前、あんた達が高校1年の時入学して欲しかったんだがねぇ、ユウナに断られてしまったよ。まあ、そんなことよりまずは入学おめでとうだね。あんたたちは、2-Bクラス。この高校は各学年6つのクラスに別れていて、1クラス約30人いるんだ。2-Bにはうちの娘がいるから、分からないことがあったら容赦無く聞きな。」
「真波ちゃんですか!?やったぁ、久しぶりに会える!」
サクヤが飛び跳ねて喜ぶ。
だが俺には疑問が生まれる。
「えっ?俺、真波って人を誰だか知らないんですけど。」
「ああ、そうか。遼平はうちに遊びにきたことは無いんだっけ?」
「へっ?」
それは初耳だ。中江さんのところに遊びに行くなんて話、一度も聞いたことないぞ。
「遼平はね〜、真澄さんのところに遊びに行くときは、ユウナが仕事って言ってパシッちゃったから、遊びに行くなんて話自体もしらないかな〜?ごめんね?」
サクヤが謝る。やけに俺の方が仕事多いと思ったよ、畜生。
「まあ、遼平の方がキャラが強いんだ。仕方ないだろう。」
カレンの用途は基本、戦闘だ。まあ応用すれば色々出来るが。カレンには「火」「水」「風」「地」「闇」「光」の6属性があり、全ての属性のカレンは自分の体内に段々と蓄積される。そしてそのカレンを使うことのできる依り代のキャラの種類は、大量に存在し、カレンはそのキャラの強さに依存する。そのキャラが火が使えるなら、体内の火属性のカレンを消費し火が打てるようになるし、水が使えるなら、体内の水属性のカレンをつかい、大量の水を具現し、盾にしたり刃にしたりすることもできる。勿論、カレン自体を身に纏い、普通に殴るだけでも人に比べて全然強い。
基本的なキャラの「サラマンダー」というのを例にする。サラマンダーは火属性に特化しており、サッカーボールほどの火の玉をうつことができる。他にも体に火を纏わせ、それを勢い良く周りに放つことで、相手を吹き飛ばすこともできる。
他にも「シルフ」を例に取ると、シルフは風に特化しており風の刃を飛ばしたり、足に風の力を纏わせ、風のような早さで走ることもできる。このようにキャラ一つ一つには、個性がありほぼすべてのキャラの個性は似たものもあるが、違うものが多い。そのためキャラは一人一つまでではない。
そのキャラを入手するにはどうするのか。キャラは大きく分けて「取得」「固有」「受諾」の三種類があり、それぞれ入手方法が違う。取得キャラは特定の場所で手に入れることのできるものだ。さっき挙げた2つのキャラに加え、水の力を持つ「ウンディーネ」地の力をもつ「ノーム」光の力をもつ「エルフ」闇の力をもつ「グレムリン」などは、学校で手にはいる。このように、特定の場所に行くだけで手に入れることのできるのだが、このキャラはそこまで強くはない。
固有キャラは、特定の条件下で手に入れることのできるキャラだ。その条件とは難しく、中には不可能なんじゃないかと思うくらいのものまで様々だ。例えば、一度死んで、再び生き返った者には、火の力を持つ「フェニックス」を手に入れることができ、伝説の生物、ユニコーンを見ることのできた者には「ユニコーン」が手に入るなどだ。固有キャラは入手も難しいが、その分強い。そしてその固有キャラの中でも、「ゼウス」や「ヘラ」など、神の名を持つキャラも存在し、そのキャラは世界で一人しか持つことが出来ず、他の固有キャラよりも遥かに強い。そして入手が他の固有キャラよりもはるかに難しい。受諾キャラについては特殊なので、説明が必要になるまでは、説明はしないでおく。
そして、俺はとある理由から、運命の神々「モイラ」と知恵と戦略の神「アテナ」という、共に光属性を持つ2つのキャラを持っている。神の名を持つキャラは入手自体困難なのに、2つも持っている。それだけで、他の人から驚かれてしまうし、詮索されてしまう。俺の隣で申し訳なさそうに俺に謝っているサクヤも、魔術と月の神「トート」と、愛と戦いの神「アナト」という、共に闇属性を持つキャラを持っている。
サクヤのキャラも強いが、どちらかというと補助が得意なキャラなので、俺の方がよく「戦闘」に駆り出される。
「はぁー。もういいや。まあ仕方ないだろうから。」
俺は色々と諦めた。今更もう遅いだろうし。
「ふふっ、済まないね。今更ながら、あとでしっかりユウナには言っておくよ。じゃあ、早速教室に案内しよう。」
笑顔で、中江さんが言った。
「本当、今更だよ...」
俺のつぶやきは誰の耳にも届かなかった。