1話 ハジマリ 1
少年は歩く。暗い森の中を。
「こっちにいくと、蛇がいる...
あっちに行くと、地盤沈下が起きちゃう...」
ボソボソと呟きながら、歩いたこともない道無き道を的確に「死」を除けながら虚ろな目で少年は歩いた。光と温もりを求めて...
◆
この世界には「カレン」という力がある。
このカレンとは、特定の「キャラ」と呼ばれる依り代を使い生身の人より遥かに強い力を使うことのできる力のことである。
カレンは強大すぎる力ゆえ小学校では存在自体あまり知らされないが、中学では「カレン学」という授業が入り筆記から実践まで一通り教えられる。そして、カレンがある程度使いこなせるものには高校で「カレン特化高校」通称「華煉高」と呼ばれる、高校への入学切符が与えられる。
基本的にカレンの力が本格的に強くなるのは高校あたりからと言われているため、その能力を伸ばすために高校ではカレンだけを特化して教える学校というものが必要になる。
華煉高は、第一から、第十までありいずれも倍率は高い。そのため華煉高に入学できる「ある程度」とは高が知れているが、高校ではその才能が爆発的に開花する者も多い。勿論、様々な例外は存在するのだが...
そんな華煉高の一つ、「カレン特化第六高校」こと「第六華煉高」に俺とサクヤは転入することになっていた。
「うーん!初めての学校!ちゃんと馴染めるかなぁ?」
サクヤの首を傾げる仕草に合わせ、金色のポニーテールが揺れた。
結城サクヤ。俺の隣でそわそわと落ち着かずに高校へ向かう道を歩くこいつは、俺と同い年の少女だ。肩くらいまで伸ばした金髪を結び、ポニーテールにしている。目は大きめで、透き通るような蒼。そして、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるスタイル抜群な少女だ。
「わからん。学校なんて初めてなんだ。カレンに関する知識がどの位かも何もかも。下手に俺らの知識、技量が多すぎても少なすぎても、気づかれてしまうかもしれないし。それだけは避けなきゃな。」
俺はぶっきらぼうに応える。
俺とサクヤは、とある理由で小中学校に行けていない。そして、その理由は他人には隠しておきたいような物だ。
「遼平〜!顔が硬い、硬いぞ〜!」
サクヤは満面の笑みで、真顔で固まっていた俺の頬をツンツン突いてきた。
結城遼平、それが俺の名前だ。と言っても本名ではなく、さらにサクヤと同じ名字を持つが血は繋がっていない。実名は?と聞かれても困る。本当の名前なんて覚えていない。それほどまでに名前を失った時の記憶が強すぎるからだ。
サクヤと全く違う青みがかった黒髪に、髪よりも少し薄い黒の碧眼。サクヤ曰く「遼平は目付きが悪い!」そうだ。身長は自分で言うのも難だが高めで、少なくともサクヤより頭半個分でかい。サクヤも小さい方ではないんだがな...
いつまで経っても頬を突くのをやめないサクヤを軽くあしらって第六華煉高へ向かう。
華煉高は親元から離れて生活する完全寮制だ。高校二年生の4月という中途半端な時期に突然華煉高に転入させられたのは、華煉高の理事長とあいつ...サクヤの母親である、結城ユウナが知り合いだったということだ。厳密にいうと、理事長が起こしてしまったとある出来事の尻拭いをしたのが、あいつだったから理事長はあいつに頭が上がらないということらしい。まあ、どんなことが起きたかは教えてはくれなかったが。
そんなこんな考えているうちに、俺らは足を止める。
「着いた!ここが、今日から私たちが生活する...えーっと...えーっと...」
「第六華煉高だ。」
お前は、これから行く学校名も忘れたのか。
「それにしても大きいね〜!この学校って大体どの位の大きさなの?」
「敷地内を一周するのに、1時間はかかるそうだ。」
「すっごーい!」
目を爛々と輝かせはしゃぐサクヤに軽く呆れながらも、再度校舎を見上げる。これ、絶対迷うだろうな。俺は方向音痴だし。
「そういえば、校門まで来たけどどうすんのかな?えーっと、入っていいのかな?」
サクヤが聞いてくるが俺もわからない。それどころか、まさしく俺も思っていた。ユウナには「ここまで行けば分かるよーん。」とか言われたのだが。
「全く、あいつももう少ししっかり言ってくれよ。何が『ここまで行けば分かるよーん』だ。」
「『あいつ』なんて言っちゃダメだよ〜!一応育ててくれたんだから...ね?」
目を段々と逸らしながら言っても、何も説得力無いぞ。
そもそも、あいつには育ててくれた恩は、あるっちゃあるが、それ以前にその恩情が消え失せるほど人使いが荒かった。この前なんかいきなり30km離れた知り合いの家に25分以内に届け物をしてこいとか飄々と抜かしやがるし。
「あのー、すいません。」
「あ?なんだよ!」
せっかくあいつの愚痴を脳内で言おうと思っていたのに、変なおっさんに邪魔された。誰、コイツ?
「ちょっと、遼平!流石に可哀想だよ!ナンパの人に、いきなりガン飛ばすなんて...」
おーいサクヤ。いろいろと矛盾してますよ〜。
「で、何だ。ナンパ。」
「い、いえ。ナンパなどでは、断じてな、無くてですね。あの、つ、つかぬ事をお聞きしますが、あなた方が、ま、魔女の申し子ですか?」
聞き取りづらい言葉を理解するのに時間がかかったが、理解し目の前の男を警戒する。
「あんた本当に何者だ?どうしてそれを知っている?」
「え、えーっとですね...そのー、わ、私が...」
「あの、一回落ち着こうよ?聞き取り辛いしさ。」
おっさんが話し出そうとしたところを、おずおずとサクヤが制する。グッジョブ、サクヤ。俺も思ってた。
少ししてから、おっさんは落ち着いたのか話し出す。
「すいません。実は、私はこの学校の副校長なのですが...」
ああ、そういえばこのおっさん、華煉高内からきてた気もする。そんなことより大丈夫かこの学校。こんな奴が副校長で。そう思ってサクヤを見ると、サクヤも不安そうな顔をしていた。そんな俺らの様子に気づいていない様子でおっさんは続ける。
「本日ここに、結城ユウナ様が育て上げた『魔女の申し子』がいらっしゃると伺いまして。校長に招き入れろとの命令を受け、ここに来ました。失礼ですが、あなた方は...?」
ここまで聞いてようやく俺とサクヤは理解できた。
「ああ、そうだ。俺とこいつが結城ユウナに育てられた、結城遼平と結城サクヤだ。」
「自分の名前くらい自分で言いたかったのに...」
小声で呟きしょぼくれているサクヤを尻目に、俺は続ける。
「だが、流石に校内で『魔女の申し子』って連呼されんのはまずい。しかも、それは貶し言葉だろう。そもそも、あんたらの方から正体はバラさないって約束だろ。」
「すいません。ユウナ様には魔女の申し子としか説明を受けていませんでしたから。正体の件に関してはわかっていますとも。安心してください。まあ、立ち話はなんですしお通しします。」
「行こう、サクヤ。」
サクヤが頷くのを確認すると、俺たちは、第六華煉高に足を踏み入れた。
そして、それを見た副校長が、初めて見せる満面の笑みで言った。
「ようこそ。第六華煉高へ!」
拙い文章ではありますが、この先も読んでくれると幸いです。
受験生なので、投稿が遅れるとは思いますが頑張って早く更新します。