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バレンタインの憂鬱

作者: 伊豆海


ホームルームが続いていればいいのに。

退屈な担任の声を聞き流しながら、そう思っていた。

今日の収穫は、4つだったか。

先輩からひとつチョコを、同じクラスの仲が良い女子から手作りクッキー、部活の女子一同からチョコ、後輩から貰ってねえだろうと言われながら可愛らしい手作りチョコを貰った。

今日は、バレンタインデー。

どんなにモテない奴であろうと頭の片隅に菓子がある日。

ここまでもらえると、ホワイトデーのことも、頭から外れるほど嬉しい。

ただし、この儚い夢は一人の女子によって崩されようとしている。

机に引っ掛かっている、紙袋たちを見ると少し泣けてくるな。

担任が労働をしているなかで、義理チョコに舌鼓を打ってはいけないだろう。

天にも登りそうなこの成果に地獄を見る理由がひとつだけある。

ことは今年度の春に遡る。


「お前、彼女いないのか」


「いないよ」


親父とのなんのへんてつもない会話だ。


「彼女作る気はないのか?」


「無いねえ」


「そうか……」


これでこの話は終わるはずだった。


「そうか。その方が都合が良いな」


この言葉で、流れが変わった気がした。


「実はな、知り合いの娘も彼氏がいないらしくてな、お前を貸すことになった」


「貸すだあ? 何考えてんだよ親父」


「許嫁って奴だよ。言葉通りのもんじゃないけどな。無期限でお前をその嬢ちゃんに貸すだけだ」


「俺の意思はどうなんだよ?」


「そんなの彼女を見て決めればいいだろ。焦るなよ」


笑いながら話を進める。っというか進んでしまっている。


「明確な理由なしに、別れるなよ。そんときは、俺を説得して見せろ」


そう言った父親は、高笑いしてこの話題が終わってしまった。

そこにいた俺は、ただ呆然とするしかなかった。

数日後、親父の友人に連れられた女子が現れた。

可愛らしかったが、パスだ。

もう少し上のランクの人と付き合った方が良いと思った。

それくらい顔が良い。スタイルだって、俺の場合お釣りと釣り合いそうだ。

彼女たちが帰ったあと、その胸を告げて、願い下げてもらおうとした。

そうしたらどうだ?


「良いじゃないか。そこまで思えるような人。なかなか会えないぞ。向こうから何も言われてないし、大丈夫だ一月我慢してみろ」


この言葉は、後地獄の足枷となる。

一ヶ月後。


「おお、そうか。一月我慢ができたか。じゃあ後三月我慢してみようか」


四ヶ月後。


「なんだ。愚痴りながらも続いてるじゃないか。ほら、後二月頑張ってみろよ」


半年後。


「よし、この調子だ。一年付き合ってみよう」


惰性だ。

これは完全に、転がされている。手の上で転がされてると言うよりも長い坂を転がっていくような。止まれば後ろから蹴られて転がっていく感じに近い。

随分近くに彼女は住んでるらしいが、どこにすんでるか知らない。

学校すらも違う。

デートは週に一度。SNSで呼び出しを食らい、その場所へ1日使って暇を彼女に浪費して帰るを繰り返していた。

いつからか彼女は手を繋ぐのをせびるようになった。

ただ俺に近い方の手を、俺の手に触れるだけ。

勝手に俺が手を繋ぐ。

一体いつからこんな風に手を繋ぐようになったのだろうか。

俺だって無意識だったのだから覚えているはずがない。

わかってしまっただけだった。ちょんちょんと触れる手は、まどろっこしくもあり甘い女子の想いの代弁のようで。

それにはじめて答えてしまったのが最後。彼女に会い続ける間答えなければいけなくなった。

日に日に話す量も増えていく。SNSでの文章量だって、増えだした。

いつだったか。


「誕生日教えて」


そういわれたことがあった。


「教えないよ」


その時はそう言った。別れる気満々で、向こうが別れを切り出しているのを待っているのだから教えるわけがない。

しかし父親経由で個人情報が漏れだしていた。

しつこくこうも聞かれた。


「本当に、彼女いないの?」


いるわけがない。

身近な異性は、親友に部活の仲間、後輩に、少し交遊のある先輩だ。

そんなの彼女と言ったらこの世の男共は、何股をかけていることになるんだ。


「嘘ついてない?」


つくわけがない。

吐かなければいけない事実もない。

そうだったじゃないか。求められれば手も繋ぐし、肩だって抱いてやる。

その代わりに、実際の彼女ではないのだから、キスをしないし、身体を求めない。

そういうような感じで一線さえ越えなければ良い。

レンタル彼氏みたいなやつが、足を踏み入れてはいけないのだ。

いつだったか、親友と一緒に帰るところを見たらしいときは、癇癪が酷かった。

まずは、その胸をSNSで告げられた。なんだったかなあ。

あれこそ彼女なんじゃないか。とか、私と同じように手を握ってました。とか。

何か間違えていたか?

子供のように求められればしてしまうし、一線は越えないことにしていた。

長時間かけてこの件は、デートで済んだことになった。

こうなって学んだのだが、このチョコ見られたらどうなるのだろうか。

また、面倒くさくなりそうだ。


「これにてホームルームを終わる。では、解散」






「本当にデートしてくれるのかな?」


彼の事を思うと不安になる。

今、彼の通う学校の校門にいる。

とんでもない事を、初めてのデートで言われた。

その言葉を忘れられない。


「これはさ、親が決めたことだろ。だから、ほどよい時間がたったら彼氏見つけなよ」


「俺よりも良い奴を見つければ良いから」


いってる意味がわからなかった。

その言葉とは裏腹に彼の私に対する距離が近かった。

手を触れれば握り返してくれる。

車道側に必ずまわってくれる。

そして、私が泣いてしまうと私を抱いてくれる。

好きにだってなる。

そしてそれを言うと、一貫してこう言うのだ。


「しょうもない奴にそんな事言わないでくれ。可愛いんだからもっと良いやつがいるさ」


ふざけるんじゃない。

私は決めた。

彼のお父さんには、くくりつけてもらえるように頼んでいる。

私は絶対に負けない。一回でも私の言葉を受け入れてもらうんだ。

でも、いつだったかな?

可愛らしい女の子と手を繋いでニコニコしながら歩いていた。

まるでその姿は下校デートだった。まるでその女が彼の彼女に見えてイライラしてきた。

私って言う許嫁がいるのに。

手を繋ぐ?とんでもない。キスもしてもらってないのに。他の女にかまけるなんて。

私は、親の公認を得て彼と付き合っているのだ。そんなのたまったものではない。

そして、彼女なのかって訊くと、違うと答えたのだ。相手の女はきっとそんなに思っていない。

あの笑顔には、彼に対する好意を帯びていた。あれは私から彼を取りに行こうとしていた。

それに気がつかずに、彼はのんきに構えている。

その時、本当に怒って、手も出てしまった。

私の暴力でボロボロになった彼は、そんな私も許してくれた。

もうこれは結婚してでも彼の性格を強制して、私のものにしてやると心に決めた。

今日はバレンタインデー。

女と出てきたらひっぱたいて連れていく。

一人できたら、結婚を約束するようなものにでもサインをさせて。一生逃がさない。

校門から数人の生徒が出てきた。

少したつと彼の姿も見えた。片手に可愛らしい紙袋が見える。

私が一番優位だもん。デートだって私だけ、きっとキスだってしてくれるようになる。

そう、言い聞かせて。声をかけにいく。

彼のお父さんは、もうそろそろ彼も我慢できないとのことだ。仕留めるなら早めが良いともいっていた。

少しだけ気合いを入れて、私は彼に駆け寄った。


「ーーーーーーーーーー」



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