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イルマニアファミリー

イルマニア

YO!YO!YO!YO!

俺が埼玉県入間代表

俺がイルマニア


イルマニア

埼玉入間

代表さ

アーイ↑




「もう飽きたのだわ」

土曜の夜、一人「月曜から夜更かし」の2時間スペシャルを見ていた大澤めぐみは、誰もいない部屋で一人呟いた。


もう何度この番組でイルマニアと桐谷さんを見てきただろうか。ゴールデンの放送だというのに素人二人で2時間持たせようとするなんてどうかしている。さすがになんの新鮮味もない。


めぐみはテレビをつけっぱなしにして、スウェット姿のまま玄関に置かれたサンダルを履いてコンビニに向かった。


コンビニに行ったところで特にすることはない。めぐみは何の気なしに大勢の人に読まれてボロボロになったジャンプを手に取った。特に読みたい連載はない。数日前に同じものを読んだのだから当然である。


前にジャンプを立ち読みしたのは火曜日、会社の帰りだっただろうか。


入社してしばらくが経ち、一通り業務も覚えた。仕事量は増えたが、忙しくなっただけで特に目新しい出来事はない。


ここは東京ではない。小さな街である。いや、東京に比べたら日本中すべての街は小さな街なのだ、と言ったほうが正しいのかも知れない。いずれにせよ、目ぼしいスポットは大方行き尽くしてしまった。


今日も久しぶりの土曜休みだというのに、特に何もすることもなく過ごした。



なぜこんなにも世の中は退屈なのだろう。



めぐみはお菓子コーナーを眺めながらふとそんなことを考えた。



生まれるのがもう少し早ければ。



例えば、高度経済成長の初期に生まれていれば、働く事にもう少し張り合いがあったのかも知れない。あるいは、学生運動なんかに行き場のない情熱を燃やしたのかも知れない。そのもう少し後に生まれていれば、上司の昔ばなしでしか聞いたことのないバブルとやらの恩恵を受けられたのかも知れない。


逆に、もっと未来に生まれていれば、今日みたいに退屈な日にコンビニなんかではなく日帰りで月に出かける、なんてこともあり得ただろう。



つまらない時代に生まれたのだわ。



めぐみは生活雑貨コーナーの買う気もない洗剤を手に取りながら、心の中でそうつぶやいた。


今が日本史上、いや、人類史上最もつまらない時代かもしれない。こんなつまらない時代で二十代を過ごすこととなるなんてつくづく運が悪い。


いや、そもそもこの時代は本当に実在するのだろうか。こんなつまらない時代などそうそうあっていいはずがない。人々が脈々と世代を重ね、車輪を発明し、蒸気を発明し、電気を発明し、私の安アパートにテレビが備え付けられるほど文明は発達した。そんな人類が知恵を絞って生み出した最先端のコンテンツがイルマニアの訳がない。私の両親は本当に結婚して私を生んだのだろうか。ひょっとすると、この世界は私が生まれ落ちた瞬間に誕生した、私の妄想なのかも知れない。


だとすれば、すべては気の持ちようである。無限に続く経済成長と終わらないバブル、仕事帰りに月面バッティングセンターに出かけてホームランを連発する、そんな世界だって実現できるのだ。


めぐみは買う必要のない清涼飲料水を手に取ってレジに並ぶ間、そんなくだらない妄想にふけった。


そうだ。わずかな可能性に賭けてみよう。アパートに帰った瞬間何かが変わる。どう変わるか、それはちょっと今は思いつかないけどとにかく何かが劇的に変わるのだ。


カギを開け、玄関のドアを開く。


めぐみがさっき買ったのと同じ清涼飲料水を、赤ら顔の歌舞伎役者が飲んでいる。そんな様子がテレビに映っていた。めぐみはテレビをつけっぱなしだったことを思い出した。どうやら月曜から夜更かしが終わり、次の番組に向けてCMをやっているようだ。


部屋には特に変わった様子はない。出かける前と同じワンルームである。


なんてことはない。全てはくだらない妄想である。相変わらず世の中はつまらないままだ。


本当にそうか。


めぐみは清涼飲料水を飲みながら自問自答した。


赤ら顔の歌舞伎役者を見ながら炭酸を飲むなんて中々オツではないか。世の中は退屈だが言い換えれば平和という事だ。仕事だってつまらない事ばかりではない。まだまだこの街も探索してない所がたくさんあるはずだ。イルマニアも桐谷さんも飽きたとはいえ嫌いじゃない。


案外、これが自分の望んだ世の中なのかも知れない。


「マツコとマツコかよ。二連続マツコはさすがに飽きるのだわ」

めぐみはCM明けのテレビ番組を見てそんなことをつぶやきながら、明日はどこに出かけようかと思いを巡らせていた。

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