予想外のハッピーエンド(番外編)いくつかの本音
本編のあとがきで書いた番外編です。 婚約式の時点の何人かの本音です。
『予想外のハッピーエンド』婚約式当日のそれぞれの本音
***** 救いは隣国に *****
私、侯爵令嬢ライラは本日、従姉妹の伯爵令嬢シエラと合同で婚約式を行いました。
1人の引きつった表情と数人の微妙な表情以外、ほとんどが笑顔の幸せな式でした。
美形の多い王侯貴族の中、美形嫌いの私は結婚を諦めかけてたんです。 しかも、政略結婚がほとんどという貴族の1員なのに、恋愛結婚できるなんて・・・!
引きつってたのは、私が婚約者候補の1人とされていた第2王子ラウル殿下。 本人はわかってないようですが、私の美形嫌いの原因。
状況はよく有るパターン。
男ばかりの会話の中、『結婚相手は条件が合って従順なら、それでいい。』と言い切った殿下。 傲慢に感じはするけど、王族としては間違ってないとも言えるので、それは気にしませんでした。
でも、ラウル殿下の『私の隣で見劣りしないからライラが一番かな』と言うセリフによって私が数多くの候補の中でトップになったと知って、何かが切れましたの。
それまでも、さんざん容姿を誉められてはいました。 両親が美形なので、その賛辞は笑顔で受けましたが、見た目だけが取り柄と思われるのは嫌でマナーも勉強も頑張りました。
その結果を認められ『理想的な令嬢』と言われるようになった私の努力も何もかも、ラウル殿下は否定したのです。 それどころか、むしろ『見た目だけの方が好都合』とさえ思っているようでした。
こんな人と結婚なんてお断りです。 私以上に王子妃にふさわしい公爵令嬢もいらっしゃるし、問題は無いはずです。 それなのに、候補から外れることを認めないばかりか口説くような言動まで仕掛けてくるなんて・・・! それを従兄のライルが煽り、あげくに助け船を出してくれるシエラを私から引き離したりして、ラウル殿下とライルへの男性としての評価はマイナス以下に下がる一方でした。
彼らを含む容姿に自信の有る男性はすべて警戒対象になりました。 親の心配は気付いてましたが、自分の将来の為、全力で拒否し続けていたのです。
そんな時、カイル殿下に会いました。 金茶の髪に黒い目、すごい美形ではないけど整った容姿に、一目で好意を抱きました。 2つ年上で落ち着いていて、安心して対応できます。 農業振興を担当しているだけあって、草花の栽培と改良が趣味の私とは話も合いました。
『正式なものは後で渡すから』と首のネックレスに通してあったおばあ様の形見の指輪を差し出してのプロポーズ、私の承諾の翌日には国王陛下と両親に婚約の許しを直接願う誠実さ、同時に自国へ報告の使者を出し婚約準備の手配を行う手際の良さ・・・たまに垣間見える研究馬鹿・仕事中毒なんて気になりませんでした。
ラウル殿下が落ち込んでいるという噂も有りましたが、あえて無視しました。 王妃様も『馬鹿なこと言って、自力で口説き落とすこともできなかったアレが悪いのよ。 気にせず幸せになりなさい。』と、むしろ楽しそうにおっしゃってくださいましたしね。
そうこうしていると、なんとシエラから婚約報告が・・・。
2人の掛け合いが面白いと噂され、実際に彼女に興味を示し始めたライルではなく、その弟のレイドが相手というから予想外でした。
でも、重度の本好きで結婚願望が無かったうえに、第3王子との婚約解消をこっそり喜んでいた彼女が結婚する気になるなんて、祝福しないわけがありませんから、すぐに返事を送りました。 もちろん、私の婚約報告もともに知らせます。
それに対する返信は早かったです。
私の婚約で複雑な表情をしたライルですが、シエラの婚約では微妙な表情でした。 少し気分がスッキリしました。
さぁ、これからは幸せに向けて頑張りましょう。
***** 想い届かず *****
今日、元婚約者(候補)のライラが正式に婚約した。 私の思いは届かないまま・・・。
ライラは、同じ年の従兄弟ライルのイトコ(紛らわしい)で、幼馴染みだった。
2人の母が双子で、ライラとライルは同じ年の同じ月に生まれて同じ髪の色だから双子のようだと言われたらしい。
名前まで双子っぽいのは偶然だと母親2人は揃って主張するが、以前話したことが有るのではないか、ホントに双子の神秘か、未だに誰もわからない。
(彼らの翌月に生まれた私の名前がライルに似てるのは、彼らの母親2人と親友の王妃(私の母)が仲間に入りたかったせいらしい。)
とにかく、侯爵家の娘で歳も同じだから、元々私やライルの婚約者候補だった。 可愛くて賢くて努力家で、自覚は無くとも昔から好きだった。
そんな彼女の態度が、ある時から余所余所しくなる。 年齢のせいかと思ったが、婚約者候補のトップと言われるようになると今度は冷たくなった。 ライルか誰かを好きなのかと思ったが違うようだ。 まさか、そんなに私が嫌なのか? 訳がわからない。 でも、手放すのは嫌だったから、婚約者(候補)の立場を使ってでも振り向かせようとしたが、どんどん拒絶が強くなるばかり。 最近は彼女の従姉妹のシエラまで私の邪魔をする始末。
ライルがシエラから事情を聴きだすと言っていたが、交渉上手な彼にしては珍しく失敗したらしい。 シエラから妨害を止める約束を取り付けたというが、ライラがシエラにくっ付いて離れない。 女同士の会話に割り込むのは非常識なのだ、 このやり方はズルい。 しかも冷たさがアップしている。
機会を見つけては口説きながら、ライルがシエラに再交渉。
だが、前ほどシエラにくっつかなくなったと思ったら、今度は他の令嬢の誰かが絶えず傍に居て、前以上にライラに近づけなくなった。
ライラもシエラも私たちに対する視線は氷点下、最低限のマナーだけは完璧。 どうしてこうなった?
とうとう、ライルがキレたようで、ほぼ力づくで令嬢とシエラをライラから引きはがした。
せっかく作ってくれたこの機会を逃すものかと思ったら、隣国のカイル殿下の訪問で事態が急変した。 私達だけでなく他の貴族にも冷たかったから油断していた。
王宮でライラを見掛けなくなり焦っていたら、温室や花壇でカイル殿下と居ることが多いと言う。 なぜ彼だけが・・・わからない。
なんとかライラを捕まえて話を聞くと、答えの代わりに、プロポーズされて承諾したと言われた。 衝撃は大きかった。 否定材料を探すも、陛下は黙認・臣下たちは歓迎ムード、愕然とした。
王子としては壊せない縁談だった。 そこにシエラの婚約報告、しかも相手はライルの弟のレイド。
予想外過ぎる展開の連続にライルともども思考が追い付かない。
結局、母親4人の盛り上がりとカイル殿下の速やか過ぎる対応とで、私たちは何も出来ないまま今日に至る。 訳わからないまま振られるし、説明は視線で拒否されるし、母親たちの視線は生ぬるく、父親たちは取り繕った中に微妙な表情。
令嬢達やその親の視線が私達をロックオンしてるのも感じる。 失恋の上に虫除けまで無くなったと気付き、気を引き締める。 傷心に浸ることも出来ないらしいのは幸か不幸か・・・。 これからは、自分を守ることに集中するしかなさそうだ。
時の流れが想いを昇華してくれると信じて・・・『王子として』2組の婚約者に祝福を。
***** 甘かった考え *****
従妹のライラと彼女の従姉妹のシエラ、2組同時の婚約式。 王族として、親族として、出席しながらも思いは複雑だ。
ライラは、ラウルと俺の同じ年の幼馴染みで婚約者候補だった。
それなりに仲良かったのに態度が変わったのは、多分アレから・・・。 俺たちと距離を置き態度も素っ気無くなった。 あの場に俺も居たのに気付いてたんだろう。 ラウルとしては、自分に王子としての立場を言い聞かせ、ライラへの思いにブレーキを掛けていただけのセリフだが、気分は悪かっただろう。
さらに態度が変わったのは、アレを知ったからだろう。 上手く想いを伝えられないどころか距離が開く一方なのを何とかしたくて、外堀の1つを埋める程度のつもりだったはずが、本人に知られたから思い切り逆効果。 だが、実はライラの気持ちは分からなくもない。
どちらのキッカケもわかってないラウルは、根気良く口説いてるが効果は無い。
いや、事態は悪化して、シエラまでラウルの邪魔をする。 シエラは俺を苦手としているようなので、見掛けるたびに声を掛け引き離す。
色々な思惑が入り乱れた結果、周りも彼女達に味方する気配が有る。
これでは、ラウルが不利すぎる。
そこで、まずはシエラを何とかしようと考えた。
重度の本好きの上、第3王子との婚約解消で彼女の周りには男の気配が無い。 それなら自分に落としてやろうと思ったら、思惑がバレたようでキッパリ拒絶された。 さすが、噂以上に賢い。 好奇心が刺激された。
甘く見た結果、視線がより冷たくなった。 ラウル、すまん。
次に正面切って交渉する。
交渉の網目をくぐってくる、予想以上の反応。 ちょっと脅しをチラつかせてもひるまない、いい度胸だ。
年上で、王族としての教育も受けてる俺とほぼ対等に話す令嬢は珍しい。
交渉は成立しても視線の冷たさは増した。
彼女への尽きない興味を抑え込み、1か月間だけ、なんとかライラから引き離すことに成功。 使える情報はすべて使い、弟も巻き込んで作った猶予。 これが限界だ。
これ以上やるとライラもシエラも完全に表舞台から身を引くだろう。 俺達との関係も断絶するかもしれない。 ラウルにもそう伝え、なりふり構う余裕は無いぞと喝を入れる。
しかし、事態は予想の斜め上に進む。
たまたま我が国を訪問した隣国のカイル殿下とライラが意気投合、出会って数日で婚約してしまった。 王としては歓迎すべき縁談に、ライラがラウルの婚約候補から外れることが決まる。
母親達の視線が生ぬるい。
俺たちへの令嬢たちの視線が強くなった気がする。
さらに、シエラの婚約まで報告される。
最初の1報は弟のレイドから、『婚約者が出来た』と。 相手の名前を見て固まった。 レイドの相手がシエラ? シエラより1つ年下で、まだ未成年で、浮いた話の1つも無かったアイツが?
俺が引き合わせたようなものだが・・・。 思いがけず大きな衝撃に驚く。 自覚以上に彼女を気に入ってたらしい。 これではラウルのことを言えない。
考えてみれば、環境も趣味もレイドとシエラは好みが似ている。 こうなる可能性が完全にゼロではなかったのだと気付き、いまさらながら愕然とする。
母親達に視線で『ヘタレ』と言われそうだ。
令嬢達やその親族が俺たちを見る目が確実に力を増している。 気をつけなくては・・・。
予想外は続く。 カイル殿下とレイドの対応の速さと、母親達の盛り上がり方。 女達のトップに結束されては、男が切り崩すのは難しい。 周りが援護してるから、王族としての立場もあって、打つ手ば無い。 お手上げだ。
そして、今日。 ラウルと2人、なんとか表面を取り繕う。
俺の傷は浅いが、弟の妻としてのシエラとの付き合いが一生続く、何とかしてみせる。
ラウルは、キツいだろうが立ち直るしかない。
色々甘かったのを痛感する。
とりあえず、『親族として』ライラとシエラに祝福を・・・。
***** 母は強し *****
「ラウルとライラ、ライルとシエラ、お似合いだから喜んでたのに・・・。 予想外な組み合わせね。」
「ウチの息子は策に溺れて事態を悪化させたようね。 予想が甘いのよ。」
「私は、ラウルとシエラ、ライルとライラでも構わなかったですけど。 確かに予想外の展開ですわ。」
「ウチの娘は結婚する気になっただけでいいですわ。 予想もしなかった相手でしたけど。」
「大人ぶって傷つけて、格好付けて嫌われて、アレが第1王子(王太子)じゃなくて良かったわ」
「公爵家もね。 遊んでるフリで初恋の自覚さえ手遅れな馬鹿じぁあ、ね」
「落ち着いたら原因だけでも説明させますわ。」
「結局、誰も、心当たりさえ説明してないんですものねぇ。」
「無自覚に傷付ける言葉を言うのも、まったく気付かないのも王族としては問題だわ。」
「自覚を促さずに興味本位で煽る馬鹿も側近としては問題よね。」
「説明もしない子供っぽさも・・・ねぇ。」
「・・・・・・(ため息1つ)」
「とにかく、ウチの馬鹿は叩き直すわ。」
「説明で理解しなかったら再教育ね。」
「あれを克服させなくては・・・。」
「引き籠らないように引っ張り出すので、ライル君のフォローお願いしますわ。」
「今回の傷は浅くても、しばらくは擦り傷が絶えないわね。 いい薬だわ、甘やかさないでね?」
「任せて!」
「「・・・。」」
***** (いくつかの本音)完 *****
実は王太子とか後継者は誰も出て来てません。 ライラとシエラにはお兄さんが居ます。 国王や親もほとんど出て来てません。 が、全員(カイル殿下含む)『予想外』が標準装備で、当然、主人公らの子供も『予想外』ばかり・・・。 主人公達の結婚後や次世代にはどんな『予想外』が有るか、想像してみてくださいね。