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星々の下で

 月が天頂で輝くなか、リーナは月光とランタンに照らされる館の中庭に立っていた。

「……グーちゃん」

 リーナは彼女だけが使う愛称で、地面に向かって話しかけた。

 やがて、リーナの足元の地面が微かに輝き、その中から巨人の頭が浮かび上がる。

 巨人は直立不動のまま浮かび上がり、やがて巨人──彼女を守るために作り出された鉄機兵の《グノムス》が、リーナの目線に合わせるように上半身を表した。

 リーナは手を伸ばすと、巨人の胸部の装甲をそっと撫でる。

 《グノムス》は動かない。

 命令を理解するための高度の知能を有しているが、その意味がない行為に動くことはない。

 だが、リーナはこうするだけで心を落ち着かせることができた。

 生まれ育ったエンシアから遠い時代に投げ出された彼女にとって、この忠実な鉄機兵だけが自分と境遇を同じくする兄弟なのだ。

「ごめんね。なかなか一人の時間をとれなかったものだから──」

 リーナはそう言って微笑む。

「ありがとう、グーちゃん。何百年も私のことを守ってくれて──」

 《グノムス》がなぜこの時代に自分を目覚めさせ、この城の主である男爵に託したのか──それはリーナにも分からない。

 彼女はただ、エンシアが壊滅の危機に瀕した際に父王によって巨人に乗せられただけだ。

 それに聞いた話によれば、祖国を壊滅させた《アルターロフ》は封印されたままとはいえ、未だに存在し続けている。

 この時代でどうするべきかも未だに分からないのだ。

 だが迷ってばかりもいられない。

「マークルフ様はね、私にとても良くしてくれるの。グーちゃんには人を見る目があったのかしらね」

 自分と歳の変わらない若き男爵はやや粗野な言動が目立つものの、気さくで細やかな気遣いを感じていた。

 それに城の人たちも、古代王国の生き残りである自分を色眼鏡で見ることなく、親切に接してくれている。

 エンシアの王城暮らしでは感じたことのない自由さだった。

 きっと、この時代でも変わった人たちなのだろう。

 それでも、リーナはこの城に迎えられたことは幸運だと思えた。

 リーナふと星空を見上げ、そのまま、見つめ続ける。

 この夜空だけは、遙か過去となったエンシアの夜空と何も変わらなかった。



「よう、ここにいたのか」

 マークルフは中庭に立つリーナの姿を認めると、自分も庭に出た。

 そして彼女と並び立つように鉄機兵の前に進み出る。

「やはり、おまえも一緒だったか。歓迎するぜ」

 マークルフは鉄機兵の肩を軽く拳で小突いた。

「マークルフ様、どうされたのですか? もう、お休みだと思っていましたのに──」

「なに、これが光ったもんでね」

 マークルフは懐から水晶球を取り出した。

 水晶はその内にまばゆい輝きを放ちながら、二人と一体の姿を照らしだす。

「それは……」

「知っているのか?」

「はい。このグノムスの位置を探知する装置だったはずです」

「やはりな。この水晶球は成り行きで手に入れてな……どうやら、リーナをお目当てにする連中がいるらしい」

「私を……?」

「何か心当たりでもないか?」

 一月ほど前、マークルフたちは領地への侵入者を撃退した後が、それからも彼らは身を隠しながらリーナを狙う動きを見せていた。

 マークルフも手勢を用いて網を張ったが、現在も彼らの正体を突き止められないでいる。

 リーナは少しして首を横に振った。

「ごめんなさい。心当たりは何も……」

「いや、気にしないでくれ。それが当然だろう。なに、リーナに手出しはさせねえから安心してくれ」

「はい。頼りにしていますね、騎士様」

 リーナが照れ隠しのように微笑みながら頷く。

 マークルフも悪い気はせず口許に笑みを浮かべるが、事は簡単ではない。

 マークルフたちの追跡がはかどらないのは、向こうに手練れの剣士がいるからだ。

 謎の部隊の人間を何度か追い詰めたものの、ことごとく仮面を身につけた剣士に邪魔をされていた。

 先日は、自分たちを囮に(もちろん、リーナの身の安全を最優先に)した時も、ログが仮面の剣士と遭遇している。

 その時に剣を交えたログは仮面の剣士の実力を危険視していた。

 マークルフが“聖域”屈指の戦士と認めるログにそこまで言わせるのだ。リーナを狙うのはかなり厄介な相手と考えるべきだろう。

「……マークルフ様?」

 リーナが首を傾げて訊ねてきた。

「あ、ああ、悪い。つい夜風が気持ち良くてな」

 どうやら、考えが顔に出ていたらしい。

「そうですね。もう真夜中ですし、お休みになる時間ですものね。私も今後は夜中に一人でいないように気をつけます」

「なに、謝る必要はないさ。いざとなれば、こいつもいる──おまえも不眠不休で働き者だな」

 マークルフは丁度良い高さにある巨人の頭を気さくにポンポンと叩いた。

 ゴスッ──

 巨大な鋼の手がマークルフの頭を叩き、首が軽く悲鳴をあげた。

 追い打ちのように、重たすぎる頭ポンポン(?)が、マークルフの首を破壊しにかかる。

「グッ、グノムス!? ダメよ、マークルフ様に乱暴なことをしちゃダメ!」

 リーナが慌てて注意すると、巨人はマークルフの頭に手を置いたまま止まる。

「……リ、リーナ、これはどういうこと……かな?」

 重い手で頭が上がらないまま、マークルフは声を震わせて訊ねる。

 その間も巨人の手は、リーナに気づかれないようにさりげなく、マークルフの頭をギリギリと締め上げていた。

「ご、ごめんなさい! きっと、グノムスもマークルフ様に挨拶をしたくて、それで真似をしたんだと思います! グノムス、手をあげて!」

 リーナが命じると、巨人は従順に手を退けた。

「大丈夫ですか、マークルフ様!?」

「……ハハハ、なに、いい挨拶じゃないか。気にしないさ」

 マークルフは顔で笑いつつ、巨人を睨み付けた。

(……こいつ、油断できねえ)

 だが、相手の顔は文字通りの鉄面皮で、何を考えているかを読むことはできない。

 マークルフと巨人の目に見えない攻防に気づかぬまま、リーナは胸を撫で下ろした。

「グノムス。私たちはこの方の客人なの。失礼な真似をしたらダメよ、謝りなさい」

 リーナが頭を下げると、巨人も(内心、どう思っているかはともかく)真似をするように頭を下げた。

「ま、まあ、気にするな。それより、この時代の暮らしに少しはなじめたか?」

「はい。ここの人たちは皆さん、気の良い方ばかりで、とても感謝しています。いまもグノムスにその話をしていたところです」

「そいつは良かった。ここは辺境の成り上がり男爵領で、高貴や気品という言葉とは縁がないからな。なじめないんじゃないかと思ったよ」

「いいえ。ここに拾われて、むしろ良かったと思っています」

 リーナは星を眺めながら、そう答えた。

「《アルターロフ》は我がエンシアが遺してしまった、忌まわしき災厄です。この時代での復活を阻止されたルーヴェン様は、いわばエンシアの恩人です。その方のことを知ることができましたし、その後継者にこうして感謝することができます……マークルフ様、エンシアを代表して、お礼を言わせてください」

 リーナは今度は深々と頭を下げた。

「い、いやあ、俺に言うことはないさ。俺は爺様の足元にも及ばねえよ」

「そんなことはありませんわ。先代様と同じ“戦乙女の狼犬”の二つ名を継ぎ、皆さんがそれを認めていらっしゃるのです。あなたに礼を述べるのは当然のことですわ」

 リーナは感謝と尊敬の眼差しをマークルフに向ける。

 さすがのマークルフも、美しき少女のそれにはどぎまぎせずにはいられなかった。

「お礼をしなければとずっと考えていましたが、この通り、私は身一つで何も持っていません。ですから、もし、あなた様さえ良ければ……わたしの、その──乱暴にはしないでほしいのですが──」

 リーナが恥ずかしそうに顔を伏せる。

「ま、まて! 何を考えているか知らないが、俺はリーナがそこまでするような人間じゃ──」

 リーナは懐から小さな紙束を取り出し、マークルフに差し出した。

「……えーと、何かな、それは?」

「グノムスの“お手伝い券”です。本来は私の命令しか聞かないのですが、この券を使えば言うことを聞いてくれます。力仕事から、遊び相手まで何でもしますから、よければお使いください。でも、あまり乱暴なことには使わないでくださいね」

 そう言って、リーナはポンと“お礼”をマークルフに手渡す。

「ずっと考えていたのですが、その、こんな子供っぽいのしか思いつかなくて──もちろん、私にできることはお手伝いさせてくださいね」

 呆然とするマークルフを前に、リーナは照れ笑いを浮かべる。

「……やはり、子供っぽくかったですか?」

「え!?  いや、何でもない! ありがたく使わせてもらうよ!」

 マークルフは笑顔を直視できずに視線を逸らすと、《グノムス》と目(?)が合う。

『……』

邪心を見透かされたように感じるが、相手は機械だ。気のせいだろう、多分──

しばらく、二人は黙ったまま、夜の空気を吸う。

「……あの、“聖域”について、教えてくださいませんか? 皆さんから聞きました。ここは“聖域”の外れに位置し、あの災厄の機神はその中央に安置されていると──」

「ああ、中央に位置するクレドガル王国に安置まあ──いや、放置だな。あんなもん、人力で運ぶのも一苦労だし、誰もやりたがらねえしな……それに、俺も不思議に思っていることがある」

「何ですか?」

「こいつさ」

 マークルフは《グノムス》に手を置く──のは止めて腕組みをしてごまかす。

「“聖域”ではエンシアの機械はほぼ役に立たない。“聖域”は動力源となる魔力が希薄すぎるからな。だが、こいつは自由に動くことができる」

 リーナは《グノムス》に手を伸ばし、そっと触れた。

「グノムスは特別なんです。エンシアは末期になると、文明を支えるための魔力を安定して得ることができなくなりました。一部の科学者たちは“大地”の力で代用しようと研究したのですが、魔力に比べて弱いため、上手くいかなかったようです。ただ、エンシアが《アルターロフ》に滅ぼされた時、“大地”の力を動力源とするグノムスが作られました。地上から災厄が去る時まで、ずっと地中で眠りにつけるように──です」

「なるほどな。だったら、今度はこちらが答える番だな。なに、いまの話と関わりがあるからすぐに分かる」

 マークルフは組んだ腕をほどき、宙に指先で大きな円を描く。

「“聖域”を簡単に言えば、ここを含めた大陸規模の巨大な地形群のことさ。ちなみに俺たちがいるのはここだ」

 マークルフは描いた円のほぼ真下の一点を指す。

「大河があったり、山脈があったりするんだが、それが竜脈という“大地”の力の流れを“聖域”に集中させている」

 この世界には三種の力が存在している。

 “神”と眷属の司る“光”の輝力、エンシアが利用していた“闇”の魔力、そして、両者の均衡を保つために働く“大地”の霊力だ。

「何でも、エンシアが壊滅した後、ようやく“神”が重い腰を上げて、《アルターロフ》と戦ったそうだ。どんな戦いだったかは知らねえ。だが、最終的には“神”が一時的にだが機神を止め、周囲の地形を変動させて、機神を中心に置くように“聖域”を作った。“大地”の力は均衡の力だが、それが強くなると、“闇”の魔力が入り込めない。“聖域”の中央にいる機神は“餌”が無くなって動くに動けなくなったわけだ」

 そう言うと、マークルフは肩をすくめる。

「まあ、“聖域”といっても、普通に幾つも国が存在しているからな。権力争いとか国同士のいがみあいとか、ごたごたしているところは他の地と変わりはしないんだけどな」

「それはエンシアも一緒でしたわ」

 二人は苦笑いをする。

 リーナは再び、夜空を見つめていた。

 何か、物思いにふける横顔に、マークルフも黙って隣に立つ。

 リーナの瞳は、満天に広がる夜空の星々の光を受けて輝いているように思えた。

「星が好きなのか?」

「いいえ」

 リーナは意外な返事をする。その瞳に映る星の光が似合うだけに、なおさらだった。

「“闇”の力は、天の向こう、星々の深淵へと至る力──私たちは星々の輝きに魅了され、道を誤ったのかもしれません。変わらぬ星々を見ていると、再び、“闇”へと人を誘惑するように見えて……好きになれないのです」

 リーナの表情が曇る。

「なるほど。だけど、俺は祖父様から別の話を聞いているぜ」

「どんな、お話ですか?」

「大地の遙か地中深くには神様の治める“光”の世界があって、そこでは御使いである天使たちが自分の姿を輝かせている──その光景は、ちょうど、この満点の夜空のように綺麗だと言っていたのさ。特に──」

「特に、何ですか?」

 リーナの興味を引いたのを確かめ、マークルフは言う。

「天使のなかでも戦乙女に会いたいというのが口癖だったな。結局、生きているうちに会えなかったがな」

「酒場の女将さんからも聞きましたが、夢のある方だったのですね」

「きっと、あんたを見たら戦乙女と間違えたかも知れないな」

 マークルフと目が目が合い、リーナは照れたように顔を赤くする。

 そして、また星を見上げた。

「天使ですか。そう考えれば、少し好きになれそうな気がしてきました。エンシアでは“神”に関する話は禁忌でしたから……」

 リーナは軽く礼をして微笑んだ。

「いろいろ教えてくださり、ありがとうございました。こうして、マークルフ様とお話できて良かったです」

「俺もさ。いくらでもお相手してやりたいところだが……実はそうもいかなくなった」

 マークルフは声を落とす。

「本国から伝令が届いてな、リーナを本国にぜひ迎えたいんだそうだ」

「私をですか?」

「ああ。リーナのことを爺さんに調べさせたんだ。そしたら、古代の文献にあんたについての記述が載っているらしくてな。それで、ぜひにも本国へ迎えて、国王陛下とも謁見させたいんだと。リーナの話を疑ってたわけじゃないんだがな」

「それは構いません。でも、そのお爺さんとはどのような方なんですか?」

「大公だよ」

 マークルフがさらっ答えるのを見て、リーナは思わず目をしばたかせる。

「あの、大公様って、相当お偉い方ではないのですか?」<

「まあ、偉いっていえば偉いかな。いまの国王の縁戚にあたるんだ。祖父様とは戦友って奴で、祖父様が亡くなってからは俺の後見人でもある」

 マークルフの祖父ルーヴェンはフィルガス王国に仕える傭兵部隊の隊長をしていたが、その国の王であったリュカス=フィルディング王が《アルターロフ》の力を我が物にしようとした際、それを阻止するべく叛乱を起こした。

それにいち早く呼応したのが大公であり、二人は協力してかろうじて機神復活を阻止することに成功した。

 やがて祖父ルーヴェンが亡くなり、幼いマークルフが一人残された時、その処遇が論じられたが、その時も大公が後見人を買って出て、マークルフをルーヴェンの後継者とするべくずっと助力してきたのだ。

「ルーヴェン様といい、その大公様といい、大変な戦いをなされたんですね」

「ああ。俺がいうのも何だが、祖父様が叛乱を起こさなかったら、フィルディングの連中が《アルターロフ》を目覚めさせて大変なことになってただろうな」

「こう言っては失礼かもしれませんが──」

 リーナが申し訳なさそうにするのを見て、マークルフは指を彼女の口の前で立てた。

「『お祖父様はとても大きな手柄を立てられたのに、男爵の地位に甘んじ、しかも、このような辺境の領地しか与えられない』…こんなとこだろ?」

 リーナの言葉を遮って、マークルフは言った。

「これでも祖父様の希望通りなのさ」

「本国と飛び地になるほどの辺境なのにですか?」

 リーナは思わずそう言ってしまったのだろう。はっとして気まずそうな顔をする。

 だが、マークルフは笑って受け流した。

「祖父様は変わり者でね。ここが気に入っていたのさ。それで、どうする? 前にも教えたが、クレドガル王家は古代文明の王家の血を引くってことになっている。リーナのことはかなりの待遇で迎えてくれると思う。もちろん、嫌なら断ってもいいんだぜ。ここで良ければ好きなだけいてくれても俺は構わないんだ。本国には上手いこと言っておくさ」

 マークルフの言葉にリーナはしばし考えたが、答えが出たのか意を決した顔をする。

「行きます」

 リーナはきっぱりと告げた。

「父王は私にエンシアの再興の願いを託しました。この時代に私は必要とされないかもしれませんが、王家の末裔がいるのなら、お会いしたいと思います。それにそこに封印されているという《アルターロフ》もこの目で確かめたいと思うのです」

 それを聞いたマクルーフは水晶球を取り出すと、あさっての方に投げつけた。

「イタッ!?」

「シッ、静かに──」

 少女たちの声がしたが、やがて、その気配は慌てて遠ざかっていった。

「……タニアたちだろうな」

 マークルフは苦笑するが、やがて真顔になる。

「あれはまだ可愛いもんだが──本国にはもっと食えない連中がいる。リーナのことは本国でもかなりの噂になっていてな。誰かが意図的に噂を流して、本国に向かわせざるをえない状況を作り出しているようだ」

 リーナは面持ちを暗くする。

 何も分からない時代に一人で目覚め、すでに何かの影が動いていると知れば当然だろう。

 しかし、リーナは顔を上げ、自分に言い聞かせるように頷いた。

「それでも、行きます。それが私の運命なら──逃げるわけにはいきません」

「なら、決まりだな」

 マークルフは安心させるように頷く。

「俺たちが護衛をする。あんたには下手に手出しはさせねえよ」

 マークルフの言葉に、リーナは満面の笑みを浮かべた。

「ありがとうございます、マークルフ様──」

 その疑うことなく信頼を寄せる眼差しに、マークルフは思わず戸惑うが、リーナはそれに気づいてはいなかった。

「そろそろ、中に戻りな。風邪を引いたら大変だ」

「マークルフ様はどうされるのですか?」

「俺は少し夜風に当たるよ。それに、グノムスといったな──この巨人と護衛の打ち合わせでもしようか」

 マークルフの冗句に、リーナは軽く笑う。

「そうですか。グノムスは言葉は話せませんが、頭は良いんです。いろいろと教えてあげてください──では、先に戻りますね」

 リーナはそう言うと、先に館のなかへと戻った。

 マークルフはリーナの姿が見えなくなると《グノムス》と向き合う。

「……グーの字、おまえは俺のことを疑っているんじゃねえか?」

 《グノムス》は直立不動のまま、動かない。

「それは正しいかもな」

 マークルフは自嘲気味に呟いた。

「正直、戸惑っている。俺のことを疑うことなく、まっすぐに見つめるなんて、世間知らずもいいところだ。まあ、時代が違うから当然だがな」

 マークルフは軽く溜息をつく。

「だが、まあ、悪くはねえ。だから、リーナのことは何とかしてやりたいと思う。それだけは信じてくれ」

 マークルフは拳を固め、巨人の鋼の腕を静かに小突く。

 グノムスは動かなかった。

「さて……この化けの皮、いつまで保つかな」

 マークルフは夜空を見上げた。

 この地上には、あの星々に魅入られた者たちが、いまだ後を絶たないのだ──

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