009 カッコよさとは。
「……何だと?」
「綺麗になったのは容姿だけかよって話。キズナは汗ひとつ掻いてないけどさ、泥仕合にも似た見苦しさがあるよ」
「いや……だが、効率的だろう?」
「そういうことじゃねーんだってばよ! ゴーレム使って転ばせて、起き上がる前に滅多刺しってこんなの全然クールじゃない!」
「クールって……別に誰に見せる訳でも無し」
「僕に見せろよ! お前何時も一緒にいる僕にすら格好付けられないのかよ!」
「う、うーん……」
何か凄く熱くなっている。
見た目と噛み合わな過ぎて凄いが、兎にも角にも……絵になるような狩りをしろってことか?
剣舞というか……アニメとかに出て来るような剣戟を繰り出せと、そういうことだろう。
そんな無茶な。
「『VAO』にアクションアシストは無いぞ」
「キズナなら出来る!」
「どこから来る、その信頼」
「長い付き合いだろ! この程度の信頼は当たり前だろ!」
「あー……ミナト、歳幾つ」
「14歳だけど。それが?」
「うん……今後辛いこともあるだろうけど頑張れ」
「な、何だよ突然……実は僕の父ちゃんだったのかよ」
何でだよ。
薄々感ずいてはいたのだ、ミナトの言動には何処か過去の自分を思わせるところが有ったから。
中二病、現代小説が好きな人間なら必ず誰しも一度は掛かるだろう病、自分には特別な力が宿ってるとか勘違いするアレ。最も俺は客観的に見て主人公では無いなと最初から理解していた為にそこまでではないが、コイツ……ミナトは引き籠りの皮を被った中二病だ。
闇の力に目覚める前にコミュ力を身に付けろ馬鹿野郎。
取り敢えず、ミナトの妄想に付き合って剣舞でも披露してウッカリ死ぬつもりはない。
その後俺はミナトの抗議を受け流しつつ、安全マージンをしっかりと取ったレベリングに勤しむのだった。
現時刻は午前二時、βテストでここに来るまでには一週間以上かかったから当然といえば当然だが、今だ他のプレイヤーの姿は無い。
葛野葉 絆 Lv.4
[長剣:I.541][ゴーレム:I.301][鉄鎧:I.170][鉄篭手:I.192][鉄靴:I.499]
夏季鳥湊 Lv.3
[杖:I.474][布服:I.50][布手袋:I.119][布靴:I.403]
午後一時から休まず狩り続けること約十三時間、格上の相手に対し幾度となく戦いを挑み続けた結果、ゴブリンとやり合っていた時とは考えられない速度で熟練度が上がって行ったが、一度死に欠けた、一回突進されただけで半分以上削られるとか……序盤のMOBモンスターの攻撃力じゃねぇ。
いや、初期装備のままだからなんだけどさ。
「キズナのヘタレ」
「ミナトのゴミ」
「めっちゃ傷付いた。石投げたら岩石飛んできた感じ」
「100%悪意だよ?」
「何で純度の高い悪意をぶつけて来るの?」
「ミナトが嫌いだから」
「何でさっきから僕のヒットポイントをゼロにする作業に勤しんでるの?」
馬車の時しかり、と続けるミナト。
いやあれは残り一でダメージは出なくなるから、と言おうかとも思ったが止めた。
次に乗る時またミナトにシートベルトをさせなければもう一度位はスリリングな思いをさせられるかもしれないからな。
「まあ、嫌いは嘘にしても」
「そうだよな、キズナは僕のこと好きだよな」
「いや」
「真顔で否定すんなよ……傷付くだろ!?」
「ミナトしつこいし。何度俺にアクロバットは無理だって言えば気がすむんだ」
「だって折角のゲームなのに効率重視とか……それなら極論僕の魔法だけで殲滅するのが一番手っ取り早いわ!」
「落ち着けよ、何も今後も無理とは言ってないだろ」
「何? どういうことさ」
「おいおい、今迄ネトゲをやってきて気が付かなかったか」
「何を?」
「格好良いエフェクトの技は、そのキャラがある程度完成に近づかなければ出てこないということにだ」
「何……だと!?」
ネットゲームにおいて、特に職業選択システムを導入し上位職業なるものが存在するモノに置いて、初期職業の使える技というのはバリエーションも無ければ凄いと思えるエフェクトも無い。
だからこそ、波長の合ったゲームではレベルを上げて上位職業に転職するまでの努力に身をやつしてしまうのであり、最初からクライマックスと言わんばかりにスキルのクオリティが高いと、そのクオリティが以後もずっと続けばそれでもいいのかもしれないが、なんというか有難味に欠けるというものだ。
だからMMOに置ける初期段階のスキルは(ゲーム自体が面白ければ)しょぼくて良い、幾ら厳選してスキルポイントを振っても後半まるで役に立たないスキルであったも良い、それを理由に投げる奴は元よりスタート地点にすら立てていないのだ。
つまりは。
「今はレベリングだろ、俺TUEEも無双も、マジチートも、努力が努力に努力で重ねて得た結果を恰も簡単に手に入れましたっていう顔して周囲に見せるもんだ。準備を怠ったメッキは直ぐに剥がれる」
「だ、だけどさ……」
「このゴーレムだって無双の伏線だ、俺達の身長の何倍もあるゴーレムが、周囲の敵を一掃する姿を想像してみろ」
嘘だけどな、今後もパーディメンバーは俺とミナトの二人だけであろうことはゲームプレイ前から分かり切っていた、故に単純に手数を増やしたかったってだけの話で別に攻撃力とかは求めてない。
どちらかと言えば手数優先、素早い動きに特化させて敵の足止めや引き寄せが出来れば良いと思って選択した。
……しかしながら、そんな俺の思考を外にミナトは感極まったように震え、そして言った。
「っ…………カッケー。超見てー」
これだから中二病は……というか俺に求めるんじゃなくて自分でなれよ、カッコよく。
「……理解したか? それに今の装備じゃ他の有象無象と一緒だぞ? そんな状態で格好付けて見ろ、キチガイのレッテルが張られることは必然だ」
「うぅ……じゃ、じゃあだぞ! キズナはある程度実力を付けたら僕に華麗な剣技を見せるんだな?」
「うっ……お、おう。任せろよ、俺達は周囲を圧倒する為にゲームに勤しんでいるんだからな」
華麗な剣技……何だろう、二刀流とかか? 無いわぁ……アレって実用性皆無の、それこそ剣舞そのものだ、生きるか死ぬかの戦いで使うものではない。
……いや、でもあれ? 剣道でも二刀流って認められてたんだったか、なら剣術としても優れているんだろうか? 一応、手数は増えるだろうし……。
うーん。
「なんだよ! それを先に言えよな! そう言う事なら僕だってやる気でまくりなんだぜ!」
「そうか……深夜なのにモチベーションを持ち直してくれて良かったよ」
「よっしゃぁ! やるぞ!」
張り切るミナトを外に、俺は格好良い剣技って何ぞや、という疑問に直面していた。
おっと。
「待て」
「グェ」
魔物を探しに歩き出そうとしたミナトをローブのフードを引っ張ることで静止するとその口から鶏が首を絞められた時のような声をだした。
いや、聞いたことはないのだが。
「何をするだァ────!」
「一回街に戻るぞ」
「何でさ! 今最ッ高にハイなんだ! 豚を焼き尽くさなきゃいけないんだ!」
「何その義務感いらない。そろそろ装備なんとかするぞ、熟練度は上がってるから多少は好転してるけど、今のままじゃ非効率だろ」
「いや……それは結構前から思ってたけどさ」
ならその時言えよ、口に出せよ。
どう考えても人の多い街へ行きたくなかったんですね、分かります。
「……纏まった金が貯まった頃にはもうNPCの店は閉まる時間だったじゃんか」
「ハンッ! 虫が」
どの口が言うのやら。
「え、何で僕今罵倒されたの?」
「俺がそんな当たり前のことを知らないとでも思ったか」
「う、うん。それは分かったけどさ。何で罵倒したし」
「良いから行くぞ。さっさとついて来い」
「もしかして無意味に? 無意味に罵倒したのかよこのゲスが!」
ミナトが何か言っているが、そっとしておいた。