004 主人公
「引き籠りに性別なんが必要ない゛!」
「何それ初耳……というかお前……」
「何だよ何だよ! 僕もオークの仲間だろって言いたいのか!」
「いや……」
俺が抱いたのはむしろ逆、Tori024はとても可愛らしいかった。
歳は俺より下だろうか、今だ幼さを大いに残しながら、美人になることを確定付けられているような整った顔立ちに日に当たらない為に肌は白く運動しない為にラインが細く華奢な体付き、ガラガラ声が残念と言えどもどうみでも俺らオタクが憧れるような病弱ヒロインビジュアルでした、本当にありがとうございます。
一瞬女男の可能性も疑ったけれど、胸部が膨らんでるし全体的に体のラインが丸っこいから女で間違いないよな……………なにこれ超ビックリ。
現実は何時からラノベワールドに? 逆にTori024のイメージがぶっ壊れたんだけど、今迄コイツの兄だっていうごつい体育会系男を想像していたからな……。
でもよく考えたてみたら引き籠りがそんなにガタイ良い訳が無かった。
「……というか、あれ、誰お前、キズナじゃない……?」
「いやお前がTori024なら俺がお前の知ってるキズナだよ。声で分かれよ何を今更」
というか、現状に置いてその台詞は俺の物だと。
何で性別偽ってたんだよコイツ。
「嘘つけ! 『VAO』は容姿を偽れないんだぞ! キズナはオークだ! お前みたいなイケメンじゃない!」
「え? あぁ~」
成程ね、それでか。
よく考えてみればTori024と顔を合わせたのは、何年も前に一度きりで、それ以降に起こった俺の容姿の変化を話したことはなかったな。
男子三日会わざれば刮目して~って言葉があるだろう?
つまりはそういうことだ。
「整形しますた」
「整形!?」
「うん」
最近の整形は、遺伝子まで組み替えることが可能で最早手術と言って良いのが微妙な次元まで来ているが、その技術は2014年とは遥かに比べ物にならないものだ。
毛髪の生え方から瞳の色まで顔のバランスを整えるだけが整形の時代は遠い昔に終わりを告げ、遺伝を整形することが出来るようになっていた。
現実の容姿が必要と知ることとなる『VAO』発表のあったまだ発売日も未定であった一年前の時点で俺は整形しに病院へ直行した。
全身を、俺の考える主人公象に仕上げる為には半年に及ぶ自然に表情を出したり体を動かすリハビレーションが必要だった。
その間、俺は生活リズムが狂いがちになり、教師が特別に用意してくれた特別授業を誰も居なくなった教室で受けていたから、……二年生になってからは自教室に行ったことすら無い。
まあその特別授業も少し前に終わって、俺は当分学校へは行かないのだけれど。
顔から身長から足の長さから肌の質から何から何まで、元の俺の面影は手術で麻痺されると死ぬ以外になくなってしまう為に弄らなかった長い腕と大きな手位しか残っていない。
オーク廃ゲーマーは死に、イケメン廃ゲーマーが完成したのである。
「い、一体幾らしたのさ!?」
「んー2000万位?」
「にっ……!? アホなの!? どっからそんなお金が!?」
「親の金」
「クズ! イケメンの皮を被ったオークズめ! どっかいけ!」
「じゃ、またなートリ」
「うっそぴょーん! 待ってぇぇぇ! 置いてかないでぇぇぇ!」
駄目か。
ちなみに俺ゲームが恋人だからTori024が美少女だったとしても態度変える気はない。
街で男なら誰もが目を向けてしまうような巨乳美女が居ても一瞥すらせずに横を通りすぎるような枯れた奴だから。
コイツよりゴーレムの哀愁に心動かされる人間だから。
でも柔肌より岩肌が良いって訳じゃないから変なキャラを付けるのはやめてくれよ?
「……ん、待てよ」
「どうした?」
「てことはだよ? キズナがオークじゃなくなったってことはさ、今この場に居る中で非リア充って僕だけ……?」
「この場には俺とお前しかいないけど……というかだからそのイケメンになった瞬間モテるとか、そういう二次元的思考をなんとかしろと何時も……」
「こ……」
「……こ?」
「この裏切り者ぉ! 今に見てろよぉ!」
「えぇー……!?」
Tori024は急に叫んだかと思ったら地面を踏み鳴らす様に強い足取りで走り去り、呆気にとられた俺は茂みに取り残される。
「置いてかないでって言って俺を置いて行きやがった……」
どうしろというのだね……。
美少女の癖に自分に自信が無いとかアイツ二次元の住人かよ……客観的に自分を見ろよ……少なくとも鏡には美少女な自分が写ってることだろうぜ。アイツと社会の色眼鏡にはどう映ってるか知らんがな。
現実で、誰がこんな展開を予想できようか。俺は色々なことを考えるのを放棄してTori024とは逆方向に歩き始めようと方向転換したその先に、Tori024が居た。
どういうことなの……。
「何時から走り去ったと錯覚していた?」
「いやむしろ走り去れよ、何してんのお前」
「ネタで走り去るとか芸人でもない僕にそんな高度なボケ求めんなよな」
「高度か?」
「人だらけの道を突っ切らないけないとことかめっちゃ高度だろ、紐無しバンジー並みだろ」
「それ死ぬやつ」
え、死ぬの?
走り去る振りして陰に潜み、数秒の間に俺の背後へ回ることのほうがよっぽど難易度高いと思うけど、コミュ障Tori024にはそうじゃないようだ。
というか、どうせ死ぬなら冒険で……ってTori024にとっての最大の冒険とは人混みの中を歩く事なんですね、わかります。
「それよりお前! 何で僕を放置するんだよ!」
「キモくキョドるゴツイ男を想像したら気持ち悪くて近づきたくなかった、何を言っているかは分かるだろうが、俺は現状がサッパリわからない」
何で俺の目の前にいるTori024はこんな美少女なんだよ。
世の中間違ってる、こういうキャラは俺みたいな作られた主人公じゃなくて本物の主人公の横へ配置してハーレム要員の人にでもしておけよ。
「写真をアップしておけばよかったというのか……!」
「というか明らかそういうノリだっただろ、フリだったろ」
「そのフリ死ぬやつ!」
「大袈裟過ぎだろお前……」
「コミュ障なめんなよ! ホント怖かったんだからな!」
「いや……でも俺と普通に話せてるじゃん」
「キズナはある意味家族より親しいからな、現実じゃなくて、目を合わせず、半径一メートル距離があって、キズナが怒鳴らなければなんとか」
「お前家族とコミニュケーション取れてないだろ」
「無論!」
現実じゃなくて、の時点で分かってた。
要するに、どんなにリアルでもTori024にとってはここが架空世界でそう認識しないと最早会話もロクにできないとか、そういうことだろう。
お前『VAO』から出てけよ、ここは仮想世界でありながら現実と変わらないことを売りにしているんだぞ。ゲームチックなところが抜けて無い場所はいくつもあるけど。
「ところでお前、何で性別偽ってたの?」
「へ? 偽ってないけど? 僕は生物学上に置いてのみ女であるぞ!」
「限定せずとも女だろ、俺ずっとお前は男だと思っていたぞ」
「いや前に言ったぞ、僕、実はおんにゃのこなんだ。って」
「何時」
「初フライプの後、チャットでポロっと」
「筋肉質のむさい男が画面の中に居るのを見た上で、お前を女だって認識出来たら俺の頭は随分シュールな思考回廊してんだな」
「…………あっ」
「『あっ』ってお前……」
「違うんだからな! べ、別に自分がやっていたことのおかしさに気付いた訳じゃないんだからな!」
というか、今迄気付いていなかった事に関して言及したいところなのだけれど。
何故あんなゴツイ面ァ出しといて発言の矛盾に気付けない、……っつーかアレと兄妹でお前コレってDNAどうなってんだ。
「僕に姉がいないのが悪いんだ!」
「兄は本当に居るのな」
「うん、いるよ。柔道五段で後二回私の願いを叶えなきゃいけない奴が」
「お前の兄はランプの魔人か何かなのか?」
なんか弱みでも握ってんのかね。
ムキムキで青い肌の結局三つ以上願い叶えてしまったターバン蒔いたアホを思い浮かべてしまった。
「それはそうと、早速レベリングに勤しもうぜ! レッツハンティング!」
「何時から俺がお前とプレイすると錯覚していた?」
「…………え?」
「冗談だ」
「驚かせんなよな!」
そのこれから冒険が始まるとは思えない絶望を絵に描いたような表情に俺は屈した。
まあ元々、俺が近接戦闘でTori024が遠距離戦闘ということで計画した装備選択をしているが為に俺は装備選択画面で魔法使用可能にする装備の選択を推奨するゲームシステムをブッチして今の装備にしている訳だしな……何か魔法が無いと支障を来す場面があるらしいが強くなる為には極振りが良いのはネトゲの鉄則、逆にTori024は現状初期段階で多数の魔法を使用出来る代わりにこの本当に死ぬかもしれないゲームの中で完全に防御力が紙状態だ。
夏季鳥 湊 Lv.1
[杖:I.1][布服:I.1][布手袋:I.1][布靴:I.1]
見た感じ打ち合わせ通りの装備であり、見せて貰ったステータス画面はこのような感じてあった、本来『VAO』においては魔法使いであっても鎧を着ないのは命取りになる、何故なら本当に死ぬのだから。
魔法使いの推奨装備は皮鎧、つまりはレザー装備だな。だがTori024は防御よりも布装備の中にあるローブの魔法攻撃力増加を選んだ。
これは完全に前衛が居る事を前提とした装備選択、正直命がけの場面でそこまで他人を信用した装備を選択できる人間はそういないだろう。
そんなTori024を置き去りは流石に無い。
「……なんか、キズナが自分の行動をすっかり忘れてる気がする」
「気のせいだろ。既に周辺の草原はプレイヤーで一杯だから、次の街で狩るぞ」
「マジか、僕まだ街をでたこともないんだけど」
「どうせレベルでのステータス変動はないし大丈夫じゃね?」
「それもそっか」
死ぬかもしれないゲームでの会話じゃ無い事は、二人とも分かっている。
だが僕達は、ここに死ににきたのだ。