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002 コネクト

 俺は情け容赦なくチャット画面を閉じてパソコンをシャットダウンすると、宣言通りにベットの上に仰向けになる。

 ベットと言っても、これはグラりー社開発のVRMMO長時間プレイ用コネクターとなるベットで、寝た姿勢のまま手を動かさずに声のみでゲームの起動を可能とし、長時間にわたるプレイでも体が疲れず脳の疲労を抑えそして筋肉の退化まで抑える、出来ないのは栄養摂取だけで排泄機能までついてるという優れものだ。

 排泄機能はベットの取り付け作業を業者に任せて家に完全に取り付けないと後で自分で処理しなければならなくなるが、その辺俺は抜かり無い。水道工事もばっちりで部屋に排泄物の匂いが籠る事も無い。

 まあもうすぐ栄養摂取まで可能とするダイブベットが発売されるという噂を聞いたからそっちに買い替えることになるだろうが。

 栄養摂取は栄養剤の投与だろうか? それとも脳信号を操作して咀嚼させるのか? 前者なら注射痕が絶えなくなりそうだな。



 開始まで一分を切った。

 いよいよだ、いよいよ始まる。

 俺はこの時の為に生まれて来たんだと、自信を持って言える。

 その位このゲームには思入れを持っているし、これまでにない程入れ込むことになるだろう。


 何故なら俺は、このゲームで死ぬのだから。




 2050/10/01/12:00……『Various Arms ONLINE』Start



「ゲームコネクト」



 全身を浮遊感が襲い、吸い込まれていく感覚。

 『VAO』は初期設定を正式サービス開始前にすることができる、107種類の武器と1090種類の初期装備の中から自分のプレイスタイルに合った物を選択可能で真剣に選ぼうと思ったら普通に何時間も必要になってくる。

 まあ、今後初期装備と同系統の物しか装備出来ないかと言われれば全然そんなことはないらしいからそこまで真剣に考えず使ってみたい武器と見た目の良い防具を選ぶのがある種ゲームを楽しむという意味では正解と言えようが。



 葛野葉(くずのは) (きずな) Lv.1

 [長剣:I.1][ゴーレム:I.1][鉄鎧:I.1][鉄篭手:I.1][鉄靴:I.1]



 これが現在の俺、本当はファンタジーに合うモノに改名したかったが申請が通らず断念させられた名前が頭についたステータス画面においては現在装備しているアイテムのゲームシステムで分類されているジャンルとその装備の使用に伴って上昇してく熟練度を示したアルファベットが表示されている。

 だからもし俺が長剣ではなく短剣を装備していたのなら戦闘の装備は[短剣:I.1]となる訳だ。

 熟練度が高ければ高い程その系統の武具の恩恵を強く得ることが出来て、例えば鉄鎧の熟練度が高ければ鉄の鎧を身に纏っていながら俊敏な動きを取れるようになったり防御力が上がったりする等の効果が出る。

 ちなみに熟練度の最大値って[○○:S.999]らしいから先が長すぎる。




 ────吸い込まれた先の到着点、そこに広がっていたのは中世ヨーロッパ風の街並み。

 広場の中心に俺が居て、周りを白い人一人分の大きさをした光が沢山存在し、光が消えるとそこには初期設定で見覚えのある装備を身に纏った奴らが次々に現れる。



「────……ハハッ!」


 いよいよ始まったんだ。

 俺は人を掻き分けて走り出した、向かうのはフィールドだ。

 やるからにはランカーを目指す、誰よりも早くレベルと熟練度を上げるんだ。

 Tori042? 知らんな。



「おっさん! 街の外へ出るにはどうしたらいい?」


「そこを右に曲がって表街道に出たらまっすぐ進めば街門がある、狩りに行くならついでにゴブリンの棍棒を二〇本集めてきてくれないか? お礼はするからよ」


「ありがとう! いいよ任せといて!」




 ────クエスト『棍棒のおつかい』を受けました。


 街の造りはβテストの際と一緒か、このゲームのNPCに用いられているAIのクオリティから考えて違う可能性もあったクエストフラグにも変化はない。

 ……しかし、元来のゲーム見たく同じことを何度も喋ったりしないしクエスト受諾画面とかは存在しないから、コミュ障には辛いゲームだな。


 おっさんの言葉通り、右に曲がってまっすぐ進むと大きな街門があった。

 門と言っても扉は常に開きっぱなしで横に兵士は立っているがそれだけじゃ防衛もなにも有ったものではないと思うけれど、まあゲームだから。

 門を潜り抜けた先に有ったのは草原、俺が一番乗りだ。

 パーティも組まず一人で突っ走ってきたから当然といえば当然なのだけれど。

 頬を優しく撫でる風を心地よく感じるが、今は感傷に浸っている時では無い。

 このゲームには疲労もちゃんとある、休憩はクエスト完了する時にした方が絶対効率的だよね。


「いた!」


 身体が小さく緑の肌に布の服そして手には棍棒、間違い無い、ゴブリンだ。

 頭上に名前とかレベルが表示されたりはしてくれないが、コイツがゴブリンじゃ無かったら一体何がゴブリンだというのだろう。



「ギギッ!」


「人のエゴと主に俺の為、死んでくれ!」



 俺は剣をゴブリンに突き刺し、棍棒が振って来る前に蹴っ飛ばす。

 剣術? 知らんな、実戦で剣のみに囚われて良い事なんて無い、折角動きに制限が無いんだから出来ることはやるべきだ。

 体が小さいゴブリンは簡単に転がり、俺は起き上がる前に剣で滅多刺しにする。


「ギギィ……」


 ゴブリンは呻き声をあげて力尽き、砕け散った。

 そしてゴブリンの砕け散った後には先程ゴブリンが持っていた棍棒が残っていた。


「よし!」


 さっき棍棒は蹴っ飛ばさなかったっけ? とかは思っても口にしない。

 ポップしたことは良い事なんだから。

 しかし、最初なんだから当たり前とはいえゴブリン位なら楽勝だな。


「……んん?」


 そう思っていた俺の元に、迫りくる影。

 草原で、空は快晴。

 遠くからでも相手の正体は直ぐに分かった。

 身長は俺より小さい、ゴブリンに近い位だろうか。

 全身を石で覆っているというよりは全身が石とった方が正しいだろうそれは、重たい体を動かして必死に走っていた。


 まるで何かに置いて行かれて必死に追いかけて来たように。

 どう見ても俺の装備したゴーレムですね、本当にありがとうございます。

 てかマジごめんよゴレーム、お前置いてっちゃった。


 棍棒は手に取ると勝手にアイテムボックスに収められたので、直ぐにゴーレムの方へ走った。


「す、すまん。お前の事を忘れていた」


 ゴーレムには感情が無いから何も言わないが、凄い悪いことした。

 思わず謝罪の言葉を洩らす程度にはあの必死に走って追いかけてくるゴーレムの姿に罪悪感を覚えさせられた。……なんていうか、凄く可哀想だった。

 俺の指示が無ければひたすら俺に着いて来るようなっているゴーレムだが、それ程早く動ける訳では無い。

 本来であれば俺が速度を合わせなければいけないのだ。



「えっと……ゴブリンを狩る」



 ゴーレムは頷いた。

 武器扱いなのに意思疎通が可能なのか。

 ちなみに慣れれば指示は頭の中で出来るらしいが、慣れない内は簡単な命令でオート操作に任せた方が成果を得られるらしい。




 葛野葉 絆 Lv.1

 [長剣:I.7][ゴーレム:I.20][鉄鎧:I.1][鉄篭手:I.1][鉄靴:I.2]



 そして熟練度の上昇を見た時はマジで罪悪感が最高潮だった。

 俺に追いつくのどんだけ大変だったんだよ……。

 幾ら熟練度が上がっても置いて行くという手段だけはとりたくないと思う俺だった。


 ゴーレムを交えての移動、ゴブリンは思った以上にすぐ見つかった。

 今度は複数、三匹だ。



「『ゴブリン一匹任せた』」



 俺はさっきと同じ技法でゴブリンを二匹狩り、俺が二匹狩っている間にゴーレムは一匹を狩り終えていた。

 小さいゴーレムであるからパワーには期待出来ないが、同じくらいの大きさの相手には時間を掛ければ一対一でも勝てるようだ。

 もうすぐ事前にパーティを組む相手を決めていた組もメンバーと合流してこの草原に来るころだろう。

 さっき俺と同じソロプレイヤーを数人見かけた、棍棒二十本集めて完了報告したら別の狩場へ行こう。



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