Ⅰ:乙女の祈り
『盟約に名を刻み、我が血肉をもって、祖の血肉を成したまえ』
王家だけが入ることを許される聖なる森の遺跡。
私はその泉のほとりに跪き、禁じられた術を紡ぐ、泉の廻りには私を取り囲むように術者達がこの場のうねるように渦巻き今にも暴走しそうな魔力を安定させるよう魔力を空間に固定させる術を何十時間も詠唱している。
あるものは玉のような汗を流し、あるものは崩れ落ちそのまま事切れ、あるものは発狂しわけのわからない叫びを上げ周りのものに遅いかかる始末。
もっとも、発狂したものはその場で控えていた兵士に切られ、すぐ次の術者が連れてこられる。
『その御身は我が血肉を捧げたもう、その御霊は聖霊の祝福をあたえたもう、神よ約束されし救い主を我らに与えたまえ。』
もう三日三晩ずっと彼女は泉のほとりに跪き、禁呪を唱え続けていた。
周りの術者達はもう半分以上が入れ替えられていた。
誰かが倒れればその代わりが連れてこられる。
時間が長引けば長引くほど犠牲は増えて行く。
だが、ここで倒れて行く者の数も、この森の外、大陸の北からの災禍によっていまこの瞬間も失われてゆく何千何万という人の命に比べれば微々たるものなのは分かっていた。
(…それでも…)
幼い頃から自分に魔術を教えてくれた爺や達、王家に…自分に忠誠を誓っい自ら志願してこの場についてきてくれたもの達。
皆、疲弊しきっていた。
『一度儀式を始めれば儀式は中断出来ぬ。…逃げ出されては困るのでな。』
また一人、事切れたものをまるで物か何かを引きずるようにしてどこかに、はこんでゆく。
―逃げ出すなど
彼らの誇りを…誇りを汚された屈辱に零れそうになる感情を必死に殺し、目の前の魔力の渦に集中する。
もし、ここで自分が集中を崩せば、ここまで高めた魔力はたちどころに霧散するか、暴走しこの場の遺跡ごと暴発するだろう。
そうなれば、これまでの儀式の全てが無駄になる。
それだけは、何があっても、絶対に、避けなければならない。
『救い主よ…』
魔力の欠乏に目の前が暗くなる、それでも私は倒れるわけには行かない。
魔力が足りないのなら、命でも、魂でもって持って行けばいい。
酷い術だと思う惨い術だと思う。
生まれし世界より切り離し、人のみに過ぎた祝福を与えど、見ず知らずの世界を救えと、縛り付けるのだ。
罵倒されるだろう
軽蔑されるだろう
それでも、来てもらわなければならない。
てが震える、頭通で頭が爆発しそうだ、膝が笑い跪いた姿勢を保つことも出来ない。
魂に手を出した代償に体がついていけない。
頬が、土に触れていた。
思考だけがそこに取り残されたように、指一本動かせない。
「―姫様!」
見えない手で魂を削り取られるさなか、
泣きたくなんてないのに、ないたらなんかだめなのに
視界が涙で歪んで行く
本当に
―本当にすくってほしかッタノハ……
薄れる意識のさなか
魔力の渦は泉の中に消え、
「…大丈夫?」
爆発するような光の奔流のなかから誰かの声をきいたきがした。