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隣町にて

 初めての実戦の後、慰めてくれたローエン氏にライターを見せたら、大喜びされた。

 魔力を使わずにこんな面倒な仕組みで火を呼ぶ機械なんて、間違いなく現代人の発想には無い『遺失技術』だそうだ。

 ライデさん達に出会った夜、俺はこのライターで火をつけた。

 その時点で俺は、在り得ない事をしていたんだな。

 ローエン氏はコレを欲しがったが、魔力の無い俺はこれを手放せないので仕組みを教えてあげると、礼として金一封を頂いた。誘拐犯も彼の懐探るだけにしておけば良かったのにって額だ。コレで2ヶ月は遊んで暮らせる。

 バイツの剣は頂いた。勿論追跡魔法は解除して、だ。

 無駄に太い鞘は青地に金の模様が描かれた美術品だが、その無駄な部分に高価な魔石が隠してあるというトンデモ設計。流石お大尽様使用と言えよう。

 ……何だかライデさんから貰ったなけなしの金と、初期装備の錆びたポン刀の有り難味が消え失せちゃったな。

 その後、最前線の町に帰るバイツとローエン氏に別れを告げると、何人かの護衛に送って貰い、隣町に無事到着した。

 1人になった俺は自分の身の丈に合う宿を探し、1階が酒場になった、2階建ての宿に入った。

 丁度安い1人部屋が空いていたので、宿泊手続きを取り、サービスの概要も碌に聞かずに横になる。

 宿の女将は『そんな事じゃいつか騙されるぞ』と言っていたが、色々と限界を超えていた俺にはその言葉も途中までしか聞こえなかった。


 あ、鍵開けっ放しだったんで深夜に強盗が来たけど、窓から放り投げたよ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 夜が明けて、酒場で朝の日替わり定食を食いながら(飯は全部別料金の非道な仕様だ)女将に聞く。

 こっちが客なんだし軽い口調で話すよ?


「剣の道場とかってある?」


 命の取り合いを経験した今、生き延びるための技術が欲しくて堪らない。

 それに、人が集まる場所で何でもいいから情報を集めたい。


「え~と、2軒あったね。キョウカイ公認の訓練所と我流の道場と。道場破りでもする気?」


 そこまで豪気じゃないよ。ヒラヒラと手を振って否定する。


「まさか。2軒ね、解った。後で場所教えてよ」


 教会とはお近づきになりたくないし、我流の方に決定だな。


「実践的な知識が欲しいなら道場だね。あんたも立派な剣持ってるんだし、基礎ぐらいは出来てんだろ?」

「……基礎から学んだ事って、無いんだよね」

「ふ~ん。どっか別の勢力圏から来たんだ?」

「そこらへんは自由に想像しといてよ」


 よく聞けば教会の義務教育には戦闘訓練も在る様だ。大変だな。

 でも、教会の訓練で基礎固めってのも……

 とりあえず両方見るだけ見とくか。

 俺はそう決めると、定食をかきこんだ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「はあ…… そのお年で基礎訓練からですか?」

「いやあのそのあの……」


 受付のお姉さんが困惑した顔で俺を見上げる。哀れむ瞳がハートに痛い。

 そう、俺は公認訓練所で基礎の基礎から学ぶ事にした。俺に道場の訓練はちょっと早そうだったのだ。

 ……眼球も臓器だぞーとか、マジで今は無理。


「年齢制限はありませんから、止めはしませんけど…… コース変更は有料ですからね? お名前はリュウジさんっと。身分の方はそちらの剣でいいんですよね」

「はい?」


 お姉さんは俺の疑問の声を無視して手続きを進める。

 どうやらバイツの剣は身分証明書代わりになるようで『商組4種より紹介アリ』と記入されているのが見える。商業組合第4種って事か? 4種って事はガソリンが扱えるとかタクシーが運転できるとかそう言う事か?


「訓練においてはそちらの刀をご利用ですか?」

「いや、こっちの剣で」


 バイツソードをペチンと叩く。

 錆びた刀で訓練しても意味はない。売ろうとしたら逆に処分費用を請求されたから持ってるだけだし。


「訓練では鞘を剣に固定して訓練を受けるのですが……その鞘、重いでしょ?」

「中はくりぬいてスッカスカなんですよ」


 嘘だけどな。


「剣の登録変更もお高いですよ?」


 何でも金取るな、ココ。

 でも受講料はタダ。施設の維持管理は教会が持ってくれるので、訓練生が支払った金は全額遊行費に消えるらしい。酷い。これが世界の歪みか。


「コレで登録は完了、今日の午後から訓練を進められますが、いかがなさいます?」

「じゃあ午後からの開始でお願いします」


 こうして、俺のこの世界での足場固めが、基礎から始まった。

 年齢一桁の子供達と共に。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 宿と訓練所を往復する事一週間。

 子供から『脳筋さん』との呼び名で親しまれながら集めたオモシロ情報をココに語ろう。


 この世界では誰もが魔力を持っているが、その総量には個人差がある。

 魔道士として身を立てたければ、魔石の魔力補助などに頼らず魔法を使う事が望ましい。

 逆に言えば、一般市民でも魔石一つあればそれなりに魔法が使える。ライターも懐中電灯もスピーカーだっていらない。

 ちなみに一般的な魔石のサイズは米粒が半欠片程で、誰もが魔石を埋め込んだ指輪を着けて生活している。指のサイズが変わったら、魔法で号数を変えてやればいい。魔力万能だな。

 ……だが、極稀に現れるのだ。魔力総量が低すぎて魔石を起動させる事すら出来ない『魔法弱者』『無力者』と呼ばれる存在が。

 そんな日常生活にすら支障をきたす人間の未来は暗く、成人するのも難しいとか。

 故に、自分の事を魔法弱者であると誤魔化した俺は蔑称として子供から『脳筋さん』と呼ばれる。




 次に、人以外の存在について話そう。

 先に言ってしまうが、この世界に魔物なんていない。

 それなら最初の森の異形の群れは何って話だが、ソレは後述する。

 ゴブリンとか金のジュータンみたいなレベルアップや金稼ぎのために存在する雑魚敵がいない。そもそもRPGみたいな雑魚退治でレベルアップしたところで、自分の技に変な癖がついちゃうんじゃないかと思うんだが、実際にどうなるか試したわけじゃないから深くは考えないでおこう。

 では森で野生動物でもって? はいアウト。

 森は教会の大切な資産だ。中で何かをするには『教会』と『委託管理人』と『認可業者』と『森番』と『狩人』の許可が要る。

 ……収穫物は上記5業者にピンはねされ、残りカスは『認証無しの違法商品なんてウチが買い取るハズ無いに決まってるじゃないですか』となり、卸値の8割引きででも売れれば大成功だ。

 森の外の野生動物を狩るって手も考えたが、皮を剥ぐとか俺は無理。どうせ買い叩かれるし血とか触りたくないし、何よりめんどい。

 そんな訳でレベルアップは訓練所、金が欲しけりゃバイトでもするしかない。

 随分と世知辛いファンタジーだなおい。




 続いて、亜人について。

 この世界の亜人は、文明崩壊の際の戦争(子供達はラグナロクと呼ぶ)において創造された改造人間だ。

 エルフ、フェアリーやドワーフみたいな外見的特徴は基本存在しない。

 ネコミミ? シッポ? 夢見るのはファンタジーの中だけにしておけ。

 亜人の一番の特徴は『基本的に食事を取らない』と言うこと。魔力をエネルギーに換え、疲労を知らず、睡眠も不要。彼等は理想の兵士、無敵の壁だ。

 そんな奴が簡単に見分けられたら各個集中攻撃をうけてお終いじゃないか。

 だから、外見からでは絶対に解らない。

 よって外見的特長があるのは、戦争後に誕生した雑種だ。

 有名な雑種は現在も語り継がれる物語の英雄『死霊騎士』と、人との関わりを持って暮らす珍しい雑種で、今では町の名前にまでなってしまった『藍のお嬢様』。500年前に突如襲来して黄金戦士に討伐された最も有名な悪役『青の群れ』などである。

 森の異形は、夜行性の雑種が在来種と戯れていただけって事になる。

 ……あれが亜人とか、無いわー。

 だが、亜人にも繁殖力と言う弱点があり、今では見かける事は皆無になってしまったそうだ。

 見つけたければ険しい山脈の上だとか俺が最初に居た森みたいな『人が24時間生き抜くことが出来ない場所』に行き、相手に自分から現れてもらう必要があるらしい。

 確かにあの異形も、こちらから発見する事は出来ないし、あそこにしか居ない希少動物だけど…… 納得いかね~。

 まあ、そんな亜人にも負けない筋力を持つ俺に、子供らは尊敬の眼差しで『脳筋さん』と呼んでくれる。

 ……ちょっとは馬鹿にされてる気もするがな。




 最後は、皆大好き英雄の話だ。

 子供の好きな正義の味方や、悲劇のヒーローなんかが人々の記憶に残り、英雄譚となる。

 だから英雄になるために必要なのは、実績や結果ではない。

 喜劇性と悲劇性。そして、歴史に残す傷跡の深さだ。


 最も有名なのは500年前に活躍した『黄金戦士』だろう。

 名前通りの黄金の鎧を身に纏い、虚空から黄金の剣を無限に創造して戦うと言う冗談のような人間で、余裕のあるうちは装飾の付いた黄金の剣を持って戦うが、追い詰められると刀身だけを矢継ぎ早に創造して投げつけシューティングゲームを開始するという面白キャラだ。

 無為な争いを続ける2大帝国(片方は明らかに教会だ)の戦争を数人で制し、疲弊した両国を急襲した雑種『青の群れ』と呼ばれ、無限に増殖を続ける巨人の、地の底に隠されたコアを破壊した、正にスーパーヒーロー。

 ……彼の創った黄金は何所に消えた?


 次は前述の『死霊騎士』悲劇のヒーローだ。

 若き君主と共に戦い国に平和をもたらすも、政敵の罠に嵌り死亡。

 その高潔な魂は、死してなお友を助けんとして死せる肉体に留まり、彼は元人間の雑種『死霊騎士』となった。

 歴史の濁流に呑まれて国が滅びても、彼は親友の最後の領土である地下墓地を守り続けているという。

 ……それ、アンデットって、言うんだよね?

 ちょっと斜に構えた子が教えてくれたが、死霊騎士の見た目は古くに発行された本ではスケルトンだったが、最近の絵では青白い肌の美青年になっているそうだ。こいつ、腐ってやがる……!


 最後は2年前に教会を救った勇者様『白金の天使』

 心技体全て完璧、15歳にして教会最強の武具を授けられた天才。

 人々を雑種に改造する遺失技術を利用して隣国を瞬く間に制圧、教会に宣戦布告した魔王を僅か半年で滅ぼした。

 名前通りのプラチナムな装備を身に纏い、鎧から生える光の翼で空も飛ぶ、良い子の夢の具現化みたいな少年だ。

 その途上にて魔眼の少女を救い、旅の中で彼に惚れたその少女はその恩を返すために、3年制の学園の2学部、つまり6年分を1年で学び自主退学、今は前線で経験を積んでいる。なんてサイドエピソードもあるそうだ。

 ……勉学なめんなよ、アイ。

 そんな勇者様だが、少し前までは各地を放浪して人助けをして回っていたとか。

 数ヶ月前にもデッカイ成果を上げて教会中央に戻り、最近は後進の育成を頑張っているらしい。

 ……18歳で教鞭を揮う『白金の天使』って、色々勿体無い話だな。




「脳筋さーん」

「どうしたレフィア」


 訓練が終わると、わらわらと寄ってくる子供達。


「お話の続きを聞いたげよう」


 一番前に立った娘が、両手を腰に当てて俺に言う。

 無駄に偉そうだが気にしない。これは取引なのだ。


「よーし。昨日は浮遊大陸を脱出した所だったな。ちゃんと皆集めたか?」

「おうよ!」


 こうやって俺は彼女達に『オリジナルのサーガ』を聞かせ、その換わりに彼女達からこの世界の御伽噺を教わる。

 大人達には『子供の会話力を育てている』として納得してもらっている。

 そして俺の話の元ネタは昔遊んだゲーム。

 RPGの魔物の存在を上手く誤魔化してしまえれば、ネタは無限だ。

 そして会話の合間に挿む世間話で、俺はこの世界の常識を覚えていく、て訳だ。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 訓練所から宿に戻る頃には、日も暮れていた。

 最近自分が託児所扱いされている様に思えてならない。

 1階の酒場は程よく混み合っており、魔道士崩れのウェイターさんが、8枚位のトレイを背中で自在に操りながら注文を取っている。

 隅っこの定位置に座ると、女将さんが注文を取りに来た。


「お疲れさん、随分と楽しんでるみたいだけど、金は大丈夫なの?」

「もう3ヶ月は大丈夫」

「ならいいけど……」


 何だか心配されているみたいだけど、大丈夫。大丈夫なはず。だといいなぁ。


「……場合によっては働き口をお願いするかも知れないです」


 ちょっと不安になってきたので、弱気になってみる。


「最悪ウチで雇ってもいいけど…… 安いよ?」


 ……おのれー

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