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初めての現地人

 極力相手に刺激を与えないように動いたつもりでも、相手の反応は想像以上に過敏な反応だった。


「え?待って待って」

「どちらさんで、いらっしゃいヤすか?」

「いやその、ちょっと助けていただけないかな~って…」

「は?この森の?こんな所にいらっしゃるのに?それも只のお一人で、ですかい?」


 戦斧を構えて俺と女性の間に立つのは、口調にしては背の高い細マッチョのオッサン。2m超えてそうだ。

 適当に切ったらしい短い金髪だけど、欧米のアクションスターみたいな顔だからその大雑把さがカッコいい。なんでこんな残念な口調で喋るんだろう?

 身体との対比から斧が小さく見えるが、俺の一般サイズより小さな手では、あの柄は握りきれないだろう。

 構えてる間にも、斧が光ったり防具に薄い膜が張られたり動きに残像が残るようになったり、大変忙しい。

 あ、ちょっと浮いた。

 矢継ぎ早に補助魔法っぽいものを重ね掛けされている様だ。


「ええ、他には誰も…」

「僕達もそれ程甘い訳じゃないんだよ。何人居るのかも直ぐに判る」

「ほんとに俺一人ですって!」

「…もうやっちゃっていいんじゃないかな?」


 すべるような動きで俺の背後に移動するのは、口調からも判りやすい『良いとこの坊ちゃん』みたいなお兄さん。ガツンと刈り上げた茶髪だが、人生の苦労を知らずに育ったかの様な、必要以上に若々しい顔だ。

 俺と同じ小さな身体にしては、大き目のメイスを持っている筈だ。

 背後に立たれたから何をしてるのか判らないが、声が上から降ってくる。

 多分、今振り向いたら


『さいごに わたしが みたものは (中略) わたしの ぼうけんは ここで おわってしまった!』


 なんだろうな…


「…どうやら、本当にお一人の様ですが…」

「だから言ったじゃないですか…」

「そうなると益々困った事になるのですよ…」

「何で!?」

「もうやっちゃいます?」

「助けて斧の人!」


 最後に、この短絡的な女性は黒髪おかっぱ。とても可愛らしいけど服装はヘルメット無しの虚無僧スタイル。

 口元に人差し指を当てて、そっぽを向いて可愛らしげに「困ったなぁ」ってポーズを取っているけど、錫杖の先に付いた沢山のリングがグルグル回っている。

 マキに火を着けるのにもあんな動きはしていなかったから、全力で此方を警戒しているのだろう。

 あぁ錫杖の先に光の槍っぽいものが出来てきた。アレハ ヤバインジャ ナイカ?


「斧の人って…俺スか?」

「そうお兄さんとりあえず話し合おうねねね?」

「如何したモンですかねぇ?」

「やっちゃいます?」

「やっちゃおうか?」

「穏便に!穏便にっ!」


 メイスさんは一度勘違いを自慢げに垂れ流したから落ち着くまで触りたくない。

 錫杖さんはもうこっちに杖を向けてる。なんか楽しそうだなこのサディストめ。


 でも相手も落ち着いてきた様だし、先ほど迄の緊張感はもう無い。

 このまま行けば話も通じそうだ。


「そちらの脅威になりそうな物は何もありませんって」

「背中のそれは只の棒ではないんだろう?」

「刃が錆び付いた刀です。そちらで…あ、それを確認していただければひゃぁぁ」


 メイスさんは、こちらが言い終わる前にリュックに引っ掛けてあった直刀を外すと、錫杖さんに放り投げた。

 錫杖さんはキャッと可愛らしい悲鳴を上げて刀を避けると、集中が乱れたのか光の槍が俺を掠めて直ぐ後ろの何かに刺さった。ひゃぁぁマジか。


「危ないじゃないか!僕に当たったらどうするんだ!」

「私キャッチボールは苦手なんですよぅ……」

「……」

「……助けて斧の人……」


 錫杖さんは、プウと膨れながら刀を拾いに行く。

 この状況でも動揺しない斧の人にすがった俺の目に、狂いは無かった様だ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 何とか話を聞いてもらえるようになった俺は、後ろ手に縛られ転がされた格好で靴の中まで調べられた後『異世界から来ました。勇者になりたいな』と言う本音を隠し、「記憶喪失で一般常識も碌に解らなくなってしまった」というキャラで押し通した。名前は『リュウジ』としか覚えていないキャラ設定だ。




 メイスさん事『バイツ』さんは俺の不幸に号泣してくれたが、俺が記憶を取り戻すまで実家で世話をしてやろうとまで言い始めた。勿論丁重にお断りしたが、必要以上に距離感が近い気がする。一度裏切ったら地獄の果てまで追いかけてくるタイプだったりしないでくれよ?

 良家の次男坊で、実家を大いに盛り上げるために戦士となり、背の低さを活かして(それでも俺よりはちょっとだけでかいんだ)所属部隊の"人には言えないお仕事"をこなし出世街道驀進中らしい。


「辛かったんだねぇ…でももう大丈夫!僕が君の事を悪いようにはさせないから!」

「いや、そこまで言って頂かなくても…」




 錫杖さん事『アイ』さんは「人生まだまだこれからですよ」と慰めてくれたが、その表情は『ヘッざまぁ』と露骨に言っているのが判ったし、彼女もそれを隠そうとしていなかった。なかなかいい性格をしているようだが、それもまた彼女の自信の表れなのだろう。

 天才キャラか努力系かは知らないが、学生時代は2つの学科を行ったり来たりして、どちらも優秀な成績を納めたそうだ。が、出席日数不足で退学となったそうだ。何とやらは紙一重って事か。


「ココから先はきっと上手くいきますよ。元気を出して、ね?(とても楽しそうに)」

「あ~、そうなんでしょうか?」




 斧の人は『ライデ』さん。すぐに『こいつ嘘言ってるな』と言う表情になり、適当に合いの手を入れるだけになった。だが俺に害意の無い事も判ったようで、俺の束縛を解く様に進言してくれたのは彼だ。このトリオの最年長で大黒柱で……一番下っ端らしい。

 実力だけで成り上がれる凄腕だが、これ以上昇格すると事務仕事が出るからと昇格を断り続けているんだそうで、今は若手を偉い人の監視無しで育てるのが楽しいと言う。本当に口調が残念な人だ。


「夜の見張りは俺とアンタで組みヤす。よござんすね?」

「はい、宜しくお願いします」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 俺と言うイレギュラーを回収したライデさん達は、ひとまず拠点に戻ることにしてくれた。

 だが、真っ直ぐ森の外に向かったとしても、彼らの足ではもう一日かかるらしい。

 睡眠不足の俺の足で最短距離を駆けても、出られたかどうかは怪しいだろう。

 回りも薄暗くなってきた。あと10分もすれば夜の住人が動き出す時間じゃないか?。

 彼らはアレにどう対処するのか?俺ももう30時間は寝て無いはずだし、そろそろ不安になってきた。


「アイさん、夜間の安全はどうやって確保するんですか?」


 俺の疑問に、アイさんは嬉しそうに答える。


「ふっふっふ……待ってましたよその言葉、そう!その為のこの杖!なんですよ!」

「これ無しじゃあ、俺ら30秒でお陀仏でサぁ」

「君と僕らとの出会いは、矢張り運命だったと言う事だよね!」

「じゃあ…うん。地面もちょうどいいし、ココでキャンプにしましょうか?」


 アイさんは、錫杖に祈りを籠めるとエイッと可愛らしい声で……いやココまで来ると…あざといんじゃないか?でも白い虚無僧だし?

 まぁいい。地面に錫杖が刺さると、ソコを中心に5m四方が光の壁に包まれた。

 壁の表面には、びっしりと何かの文字が書いてある。

 これは梵字かな?俺に読めない事は確かだ。


「はいお終い。このサークルの中に光を嫌う者は進入できません」

「成る程…コレ凄いですね?」

「ね、コレ無しで生き延びる人間がいるなんて、在り得ないんですよ……ね?」

「やめてそんな目で見ないでお願いホント俺ココ出たら死んじゃいますからっ!」

「リュウジくーん。火ぃちょうだーい」

「ハイ喜んで!」


 慌ててライターを持ってバイツさんの下に向かう。

 くっ!この狭いサークル内じゃアイさんの笑顔からの逃げ場が無い!

 背中に刺さる視線が痛い!ってかマジで痛い?!

 イタタタタタッちょと待てあの娘視線に魔力籠めて遊んでるよ畜生!

 フレンドリーにも程があるよ彼女人格に難有りだ!


「リュウジさんは俺と一緒に後半の見張りですゼ?早く飯食って寝ましょうヤ」

「俺もう寝ます!昨日から一睡もしてないし!」

「良い夢を見てくださいね、リュージ」


 おのれ後で許さんぞ虚無僧!俺が英雄になったら泣いて謝るまでデコピンしまくってやる!

 なんて事を考えながら俺は横になると、安堵感から一瞬で意識を手放した…




「…本当にお疲れだったようですね(笑顔で見下ろしながら)」

「彼にこれ以上辛い思いをさせない為にも!僕らが頑張らなくてはならないんだ!」

「その為にも、さっさと飯作っちまいヤしょうゼ?」

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