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始まりの日の500年前 黄金戦士 或いはお嬢様のプロローグ

なんかこれ、本編より前に書いた別の物語の焼き直しっぽいな。

3年以上前か?

『ニィ~ンゲェ~ン!! ヒィンジャクゥ~!!!』

「くっ! こんな……ゴハッッ!」


 地の底から響く様な、なおかつ知性を感じさせない奇声を上げながら、藍色の肌を持つ半裸の巨人は、目の前の剣士を盾ごと殴り飛ばした。

 木の葉の如く舞い飛んだ剣士は、何かの冗談の様に壁にめり込むと、そのまま動かなくなる。


 討伐隊は、残り6人。


 身の丈5mは有りそうなその巨人は、ガラリガラリと岩が崩れる様な声で笑うと、粘土の様に指に張り付いた、先程まで盾であった筈の鉄屑を捻じ切り丸め、次の獲物に投げつけた。

 投げた先でまた、悲鳴が上がる。


 討伐隊は、残り5人。


「賢者様!早く封印をぉっ!」


 無駄に着飾った黄金フルアーマーの剥げ親父もとい『将軍様』が賢者様に泣きつく。


「待て待て待て待て待てぃ!」


 無駄に着飾ったテカる優男もとい『軍師様』も、何を待ちたいのか知らないがパニックを助長する。


 二人の狂態に興味を惹かれた巨人は、足元にいた最後の戦士を見もせずに蹴り飛ばすと、無駄に着飾った二人(と賢者様)に近づいて行く。


 討伐隊は、いつの間にやら残り3人。


「だからワシは嫌だって行ったんじゃぁ!」

「お前が前に出ろ将ぐ~ん!」

『ピカピカ、キレー』


 巨人はしゃがみこむと、抱き合ってヘタリこんだ光物に手を伸ばす。

 先程までの荒々しさとはまるで違うその動きを見るに、どうやら巨人は光物が大好きなようだ。

 いつの間にか二人から離れていた賢者様は、そして、巨人が姿勢を低くするタイミングを待っていた賢者様は、勝利を確信、吼える。


「ガァラガラうっせーぞハゲ!」


 とっさに頭に手をやる巨人(と将軍様。まあ彼はどうでもいい)に駆け寄り、巨大な脇腹に何かを貼り付ける賢者様。

 そのまま駆け抜け距離をとると、巨体を自分を向けてサイズに見合わぬ機敏な動きで立ち上がった巨人の足の間に衝撃波を飛ばし、光物二名を吹き飛ばす。


「のわーー!」

「けんじゃどの~~」


 チョコマカ煩い邪魔者の排除か? ふっとんだピカピカを追うか? 巨人は迷い、それが敗因となった。

 ぶっちゃけ迷わなくても勝ち目は無かったが。


『ノ?』


 賢者様がいつの間にか取り出した杖を掲げると、巨人の脇腹、賢者様の貼り付けた手鏡から光が溢れて巨人を包み込む。


『オレピカピカー』


 状況を理解していない巨人に、賢者様は折角だしもう一回吼えた。


「400年早えーんだよ! 次は知恵つけてから来やがれってんだバキャーロウ!」




 こうして、3人の英雄の活躍により、世界は極秘裏に救われた。




     ◆     ◆     ◆




「で、もうすぐ封印から400年経つ訳なんだが……」

「俺達にその……伝説の邪神とやらを倒せと?」

「物わかりが良くて助かるよ勇者様」

「何だろう、すごく馬鹿にされてる気がする」


 剣士アキラは、石を投げれば当たるような、何所にでもいる剣士である。勇者では無い。

 この大陸に伝わる文化遺産を見聞して回る旅の途中、ボロを纏った怪しい自称賢者に声をかけられた。

 面白い話の1つでも聞ければ……と思って耳を傾けたら『影で世界を守る勇者にならないか』と勧誘された訳だ。

 アキラもやんちゃな頃には道場破りで生計を建てていた位には腕に覚えがあるが、今それをやっていないのは、返り討ちにあったからと言った程度の腕でもある。


「俺の手には余る仕事じゃねぇの?」

「大丈夫 大丈夫、400年も封印された残りカスだから」

「つか国とかのデカイ組織に頼めよ」

「400年間秘匿されてた遺跡なんでね? そっちに頼むと貴重品とかが没収されちゃうんだよ」

「貴重品! レア物ある!?」


 突如話に入ってきた、ひっつめ髪の少女はアキラの連れでマミ。商家の末娘として生まれ、適当に育てられた娘だ。

 幼馴染のアキラが旅に出ると聞き、暇潰しとして適当なノリで着いてきた。

 アキラが慌てて追い返そうとするも、彼女の実家が『仲良くしてあげてね(はぁと)』と返してきたので、今日まで旅を続けてきた。

 剣士アキラと同じように彼女に何かしら職業を名乗らせるならば、商人よりも穀潰しが合うだろう。

 いや、トラブルメーカー……いやいやトラブルクリエイターとか言ったほうが……

 まあいい。


「お? お譲ちゃんも好きな口かい? あるよあるよ~財宝あるよ~?」

「アキラちゃん! 行くしか!?」

「本っっ当に大丈夫なんだろうな?」


 アキラは露骨に嫌な顔をする。

 不安でしょうがないが、惚れた女がココまで言うからには行くしかあるまい。

 いつだって、彼女が起こした騒動を収めるのが自分の役目だと決めているから。

 覚悟を決めたアキラは、大きなため息をついてからマミに告げる。


「ヤバイと思ったら全力で逃げるからな?」

「よっ流石アキラちゃん! カッコイ~」




     ◆     ◆     ◆




「アキラちゃん……アタシもう死んじゃう……」

「俺は緊張で死んじゃいそうだよ」

「僕が欲しいのはあの鏡だけだから。残りはマミちゃんの好きにしていいよ」

「凄い……これだけあれば、半年は遊んで暮らせるよ……」

「マミ? さっきは『このリュックの中身だけで国が買える』とか、言ってなかったっけ?」

「アキラちゃんは遊びを甘く考えすぎだよ!」

「……えぇ~?」


 確かに遺跡の中は宝の山だった。

 強力な魔力を秘めた、真っ青に輝くクリスタルで造られた神殿が、そこにあったのだ。

 強大な力を持つ存在は、其処に居るだけで世界を侵食していくと言われる。

 封印されているとは言えど、曲がりなりにも神と呼ばれる存在が400年も一所に存在したのだ。最早この地は現実ですら無い異空間となっている。

 ここにあるものは塵一つにすら学術的価値や希少価値が認められよう。

 問題があるとすれば、折角邪神の祝福を受けて変質した武具があっても、どれもベコベコに歪んでおりアキラにとって使い物にならない事ぐらいか。

 そして、この遺跡の最も変質した場所、内より眩い輝きを放つクリスタルが群生する最奥に、何所にでもあるような手鏡が一枚落ちていた。

 勿論そんな古びた手鏡には、アキラもマミも興味などない。


「折角いい武器になりそうなのに、なんでこんなに歪んでるのしか無いんだ?」

「勇者君、邪神の祝福を受けたアイテムはヘタに触ると……死ぬよ?」

「うおぁ! マジか?」


 賢者の解説にアキラはあたふたと、粘土の様に丸められた鋼の盾から離れる。


「でも勇者って呼ぶのはやめてよ……ってマミは大丈夫なのか?」


 慌てて見返す。

 目が合うと、マミはフフンと笑った。


「大体は見て判んない? やっぱアタシが居てやんなきゃダメね?」

「……え~?」


 商人としての『目』はあると言う事だろうか。




 自分では何が安全な物か判らないアキラは、マミのお宝探しを手伝う事にした。

 そして、ここに来た本来の理由を忘れる程度に時間が過ぎ去った頃――


「来る」


 ――賢者の呟き。その直後、一瞬で空気が変わる。

 最奥に置かれていた手鏡。

 表面のガラスがドロリと蕩け、球体となって地面に落ちる。ガラスの壁に閉ざされていた場所には、光をも飲み込む真っ黒い空間が広がり、闇がこちらにせり出してくる。

 闇は悲痛な音を叫びながら零れ落ち、暗く小さな水溜りを形作った。


「ヤベ……」


 コレが本物か。

 アキラは自分の過信に絶望する。

 理性が闇の動きに合わせて悲鳴を上げている。

 本能は強制シャットダウン中だ。

 どれだけ弱っているか知らないが、向かい合う事すら許される相手ではない。

 立っているだけで眩暈がする。恐怖に膝が凍てついて、しゃがむ事も出来ない。

 焦点すら合わない視界が狭窄を始め、他の二人がどうなっているかなんて、考える事すら出来ない。

 もう何をすればいいのか、判らなくなっていた。


 地面に広がる闇はタールの様にドロリと波打ち、その向こう側に何か――闇よりもなお深い闇――が居るのが見えた。

 それはゆっくりと闇と現実の境目に指を当てると、『こちら側』に、ジワリと滲み出た。

 そして……




 ……そこで止まった。

 少し間をおいて、スラリと伸びた青い指が、何かを探すように蠢き、闇の中に戻り、また出てきた。


『チョ、何コレ』


 闇の奥から随分と軽い声が聞こえる。


『アーヤラレタ! コレ出ランナイジャン!』


 軽い! 軽すぎる!

 緊張の糸が切れたのか、アキラは漸くヘタリ込み、自分が武器に手をかけてすらいないと気付いた。

 辺りを見渡すと、マミが気絶していたので、ペチペチ叩く。


「大丈夫か?」

「うっぷ……う~、邪神って凄いね……」


 血の気が引いた顔で答える。

 何とか生きている様だ。

 賢者がガッツポーズしてるので、状況の説明を求める。


「……どゆこと?」

「僕のご先祖様大成功って事」


 アキラの問いに、賢者はふんぞり返って答える。


『デモ、オ前ノ親父趣味悪イヨ?』


 指が闇の中に引っ込むと、今度は可愛らしいお嬢様の顔が出てきた。

 深く美しい藍色のロングヘアがフワリと舞う。

 その美貌、流石は神の一柱と言ったところか。

 ……肌の色が真っ青で角が生えているが。


『ごりまっちょノ ぎがーすヲ とらんすせくしゃるトカ 無イワー』


 たゆんたゆん。

 無駄に乳を揺らしながら苦笑する。


「親父じゃなくて爺様だよ!」

『アンマ変ワンネーヨ、ナァ兄チャン?』

「……俺は如何すればいいの?」


 アキラは途方にくれた。


「……で、ギガースさん? は、アキラちゃんと戦うの?」

『モウ無為ナ争イハシナイたいぷ。女装願望ノ子孫ガ説明シテヨ』

「僕も爺様もノーマルだって!!」


 ノーマルの賢者が説明をする。

 彼の祖父は、知性のかけらも無い荒ぶる神に、一般常識を教え込む封印を施した。

 400年かけて対象の頭に知識を刻み込み、ついでに肉体改造も施す。

 ――例えるなら。そう、蛹の様に。神のその姿を、性質すらも思うままに変えていくのだ……

 封印が効力を失うとき、対象は次の罠に気付くだろう。


『この身体って、自分の魔力を封印の外に持ち出せなくね?』

『外で待ち伏せされてるし開封諦めた方が楽じゃね?』


 万が一邪神が開封を強行した場合、彼女? は力を失い立ち上がることもままならぬ状態で復活する。

 だが曲がりなりにも神。半月もすれば過去の力と知性を併せ持つ究極の存在として君臨するだろう。

 よって、最悪の場合動けないうちに葬ってしまえばいいが、賢者は無粋な武器なんて持ちたくない。

 だから、万が一に備えるために、タイミング良く目が合ったアキラが呼ばれたわけだ。


 そして、万が一の事態は発生しなかった。


「じゃあ俺達は……」

「僕が欲しいのはコレだけなんで、後は好きにしていいよ。じゃ、バーイ」

「ばいばーい」


 賢者は、鏡から融け落ちて今は歪に輝くガラス玉となった塊を持ち、一つ挨拶をすると、テレポートして消えた。


「……いっちゃったよ。何だったんだコレ」

『勝手ナやつダネー』


 最早何も映さない手鏡の中に戻ったギガースは、鏡の縁であった場所に肘を付き微笑む。

 手の平サイズで可愛らしい……だが青いし元男だ。


「てかマジでコイツどーすんの? 放置しちゃヤバイんだろ?」

「なら、ギガースさんも一緒に諸国漫遊する?」

『イイネー。連レテッテクレタラ俺モ見返リアゲルヨ』

「え~? 本気かよ……」

「ギガースさんはなんて名乗ってたの?」

『タシカ、らーぜろートカ、りーぜらートカ……』

「ラーゼラー、リーゼロー……このなりならもう少し可愛げのある響きの方が良くないか?」

「う~ん……ラーゼ……ラン、とか」

『スゲエ適当ダナ』


 名も無き神の祝福を受けた、あまり趣味が良いとは言い難い黄金の武具を纏い、戦場を駆ける剣聖。

 同じ神に仕え万物を支配し、無駄に輝く水晶の杖と全てを見通す瞳を持つ、神より金を信仰しているとしか思えない大賢者。

 常に二人とともに在る、主に状況を引っ掻き回す仕事に情熱をそそぐ、姿無き助言者。

 後の世に『黄金騎士と二枚の鬼札』と呼ばれる事となるトリオは、こうして誕生したのである。




     ◆     ◆     ◆




「ところで、賢者さんの目的って何だったのかな?」

『あれガ持ッテッタ がらす玉ニハ俺ノ身体ノ設計図ガ入ッテテネ?』

「ほうほう」

『意ノママニ従ウ巨神ノ群レガ量産可能』

「…………それマズくない?」

『あれノ思想ニヨッテハ俺ノ復活ヨリ世界ノ危機ダヨ?』

「嘘ぉ?」




 英雄の誕生には、それなりに理由がある物だ。

書いたのは二年前

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