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閑話 その力は、選ばれた者に対して、等しく与えられた

 ある朝、目が覚めると、身体能力がすごい事になっていた。

 お腹周りの余計なお肉が綺麗になくなって、ジャンプしても膝が痛くないどころかバク宙も簡単に出来る。

 自分の新しい身体を堪能していると、お父さんが『部屋で暴れるな!』と怒鳴ってきたので、思い切りぶん殴って家を出た。

 流石に悪い事をしたと思ったので、何か手土産をもって謝りにいこうと思ったが、サイフを持っていない事に気付いた。

 更に言えば、部屋で決めポーズを考えながら怪奇マスクを装着していたので、僕はムンクの叫びみたいな表情の、白いマスクを付けたまま外を歩いていた訳だ。

 周囲には誰も居なかったけど、今更ながらに恥ずかしくなったので手近のビルの屋上に駆け上がって退避、下界を見下ろしながら、この先どうしたものやら考える。


 こんな事になったのも、世界が滅びる前兆とかなんだろうか。


 そう、最近また世界の終末が近いと叫ぶ人たちが増えている。

 何でも世界中が口裏合わせて秘密にしているだけで、異文明の物としか思えない何かが地球に向かってきている最中だとか。

 各地の天文台はそんな物見えないって言ってるし、それ以外の人たちも見えないって言ってるけど、国家機関が見えないって言ってるのは国からの圧力で、素人が言ってるのは望遠鏡の性能が悪いだけだそうだ。

 もちろん僕はそんな馬鹿な話信じていなかった。ちゃんと理由もあった。


 だって、この世界の主人公である僕がまだ眠れる才能に目覚めていなかったし、活躍もしていないじゃないか。


 逆に言えば、選ばれた存在である僕が真の力を覚醒させたと言う事は、僕の活躍の舞台が今から作られると言う事に他ならないだろう。

 学校にも通わずに3年間ネットで勉強した甲斐があったってもんだ。

 正直、もうすぐ中学生になるから諦めたほうがいいのかとすら考える事もあった。

 だが、僕は主人公として覚醒をとげた。

 僕の偉大さを理解しなかった同級生の奴らの悔しがる顔が、眼に浮かぶってものだ。


 まあそんな些細な事は置いといて。

 主人公が目覚めたのであれば、世界は本当に崩壊の危機に陥るのかもしれない。

 ビルの外壁を駆け上がって屋上に到達できるこの体は、どう考えても『荒廃した世界で無双』するためのものだとしか思えないからだ。

 ……いや、気付いていないだけで、僕の知性はもう神の領域に到達しているのかもしれない。

 だとすれば、僕は心・技・体の全てを兼ね備えた存在である訳か……なんと言う事だろう、まさか自分が現人神になってしまうなんて、想定していなかった。

 ちょっと神にふさわしいキャラ造りとかもしようかな?

 自分の事を“僕”じゃなくて“我”って言ったりするとカッコいいかも!


 まあそんな事は後々考えるとして。

 いつになるかは判らないが、きっと世界は崩壊する。

 僕の活躍の場を作るためだから、まあ仕方ない事だ。

 ……それであるならば。


 多少の悪事もいずれリセットされるのだから、万引きとかしまくってOKか!


 うん! じゃあ朝御飯を食べ損ねた事だし、コンビニに寄ってお弁当を強奪しよう!

 お母さんのお昼御飯の分まで持って帰れば、喜んでもらえるかもしれない!

 善は急げって言うし、早速コンビニに行こう!




 僕の知っているコンビニはもう潰れてしまっていたから、町を走り回る事になった。

 あげく漸く見つけたコンビニには人がたくさん居て、とてもじゃないが入れそうになかった。

 立ち読みをしている人間だけで2人も居たし、出入り口で煙草を吸ってる奴まで居た。どう考えても無理だ。

 なんであいつら立ち読みなんてしてやがるんだ! 僕が1年ぶりに外に出たからって馬鹿にしてるとしか思えない!

 でも手ぶらで帰るのも楽しくないし……

 近くにあった開店前のスーパーのガランとした駐車場で、打開策を考える。


 そうだ! まだ開店していないこのスーパーのお弁当を奪えばいいんだ!


 さっそくお店の入り口に向かったが、自動ドアには鍵がかかっていた。

 裏口から入るとお店の人に出会っちゃうかもしれないし……仕方ないから、ドアの1枚くらい割っちゃってもいいよね?

 僕はドアをパンチで砕いて侵入すると、けたたましく鳴り響く警報の中をお弁当コーナーにダッシュ、警報に慌てる店員さんの隙を突いて3人分の食料をもらう。

 店員さんはみんな僕の壊したドアの側に集まっていたから、今度は裏口から、誰にも気付かれる事なくスーパーを脱出した。


 ……お弁当を抱えて走りながら振り返るが、誰も追ってきてはいないようだった。

 予想以上に簡単だった。これなら慌てて動く事もなかったかもしれない。

 きっと僕には主人公補正があるから、ゆっくりしても見つからないで逃げられたかな? お弁当をちゃんと選べなかったのは失敗だった。

 でも自分に出来る事が色々解ったし、1度家に帰って休憩しよう。




 家の入り口にはパトカーが停まっていた。近所の人たちも集まって何かしている。

 何があったんだろう……泥棒でも入ったのかな?

 あんなに他の人がいっぱい居たら、怖くて家に入れないよ……

 マスクをかぶったままだから、目立つ動きも出来ない。

 仕方ないから屋根伝いに近寄って、何があったのか情報収集をする事にしよう。




     ◇     ◇     ◇




 家には戻らないまま、1日がすぎた。

 漸く落ち着いてきた僕は、この先どうすればいいか悩んでいた。


 まさか、僕のとっさの一撃でお父さんが死んでいたなんて。


 ……まあ僕を叱ってばっかりだったから、天罰だよね。

 お母さんは『変な子供がパパと僕を殺して逃げた』と言ってるようで、警察も僕の事は行方不明として扱っているらしい。

 でも、いずれ僕がやった事はバレてしまうだろうから、そうなった場合に主人公がどうなるのか、想像がつかない。

 親を間違って殺してしまった悲しみを胸にダークヒーロー?

 お父さんの死因に疑問を持った政府の裏の組織が接触してくる?

 ……違う、どっちもありえない。

 1人でダークヒーローなんて無理だし、影の組織じゃ僕が有名になれないじゃないか。


 今までに読んだラノベを思い出すんだ。きっと解決法が…………あった。


 前に家の外に出たときに間違って買っちゃった古本の中に、似たような話があった。

 ライトノベルじゃないけど、モノクロのオジサンが煙草を吸いながら銃を掲げる渋い表紙で、本の帯に“圧倒的ノワール!”って書いてあったから、ノワールってどんな意味だろうって思って買った本だった。

 後先考えずに好き放題する主人公が、友達や偶然出合ったナンパ相手を次々に死の淵に追いやりながら、暴力警官の手をすり抜けて逃げ回るお話で、最後には主人公を目の仇にする刑事さんがギャングの家のドーベルマンに食い殺され、主人公はそのギャングと『何となく気に入らない』って理由で殺しあって半死半生で生き延びる……って話だった。

 僕はこの主人公がどんな結末を迎えるのかってドキドキしながら読んで、エピローグを読み終えると同時にその本を投げ捨てた。


 本当に圧倒的に意味が解らない本だったけど、あの主人公になら、簡単になれる。

 あの主人公が生き延びるなら、僕が死ぬはずがないじゃないか。

 この世界には、僕の気に入らないものだらけじゃないか。

 大暴投の果てに何が待つのかを試してみるのも、なかなか面白そうじゃないか。


 今僕は、自分の生まれてきた意味を理解した。

 うん! じゃあ暴走を開始する前に今後のキャラ設定を考えて、それが済んだら僕を馬鹿にした奴らに復讐に行こう! 全部終わったら東京に行けば、きっとライバルとか謎の組織とかが出てきてストーリーが目茶苦茶になっていくに違いない!

 時間はたっぷりあるんだ……ああ、何だか楽しくなってきた!

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