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最低の真実と、機械仕掛けの神の苦労

TSネタ注意

 管制アリスは転送装置を起動させながらリーゼに言う。


「最終防衛線はライゼランね。後は頼むよ」


 何言い出してんだ? 俺を転送するのに防衛線って。


「うむ、任せい。ますたーは既に機器へのシールド展開を終えておる。お前さんも含めてじゃ」

「そっか。じゃ、私は本体制御に専念させてもらうよ」


 管制は1つ頷いてコンソールに身体を預けると、そのまま動かなくなった。

 ソレを確認した防衛アリスがカグヤを見る。


「に……カグヤさんは戦術データリンクとか対応してる?」

「え? ちょっ……なぁっ! 頭に、なんか、されてるんだけど!」


 顔を歪めて膝をつくカグヤ。


「うん、いけるみたいね。レーダーは武器に合わせてレンジ1万キロで設定しようか」


 1人で納得した防衛の足元から、バスターキャノンとでも言うべきであろう巨大な銃器がせり出してくる。ソレも2丁。

 防衛が二の腕のハードポイントへ砲を接続する間に、立ち上がれずにいるカグヤの前にも同型の砲が現れる。

 何コレ何コレ! 俺が帰ってから旧文明の遺産でSF編とか開始しちゃうの?


「ちょっと待って、一体何が始まるの……」


 頭を抱えながらカグヤが説明を求める。

 どうやら彼女は、俺と同じく状況が理解できないようだ。

 そんなカグヤに、楽しそうに笑うイスルギが声をかける。


「こんな場所で護衛対象と新兵器の支給だぜ? 敵が来るに決まってんじゃねえか」

「そんな……でも壁を壊して外から入る事は出来ないし、出入り口には大量の機械人形が居るんでしょ? こんな場所に何が来るって言うの?」


 そうだ。2万階建ての塔の最上階に招かれざる客が侵入するなんて不可能だ。


「それがね、リュウジ君を戻す際に天井を開けなくちゃいけないのよ」

「誰が気付くってのさ? 気付いてもたった数分じゃこの高度までは上がれない筈だよ!」

「でも、不可能を可能にする者達の存在をカグヤは知っているし、レーダーに見えてすら、いるんじゃない?」


 カグヤが頭から手を離し、真っ直ぐに防衛を見つめる。

 心当たりがあるのか。俺は完全に置いてかれたっぽいぞ。


「まさか、この大量の反応は……」

「そう、白金の天使と直属の飛行部隊は、既に私たちを超える高度にまで到達している」


 マズイ、聞きたい事が山盛りなのに、こっちに気付いてもらえない……

 カプセルの蓋を叩いて注意を喚起する。誰か俺にも解説を~。

 なんとかリーゼを呼ぶ事に成功。意思の疎通を試みる。


「どうしたリュウジ、解らん事だらけか? おーいカグヤ」

「んー?」


 ……この状況で話をぶった切るとか、ありがたくはあるけど、リーゼは空気読む気ゼロだな。

 カグヤはリーゼに話を聞くと、肩をすくませて笑いながら説明してくれた。


「えっとね、アタシの記憶が無いのは聞いたよね? 今のアタシに残ってる最初の記憶は、キョウカイの研究所からイスルギが救い出してくれるところから始まるんだ」


 人体実験でもされていたのだろうか。ソレによって魔道のエキスパートになったのかもしれない。


「だからキョウカイはアタシを取り戻そうとしているし、その追っ手の中には勇者様もいるんだよ。でも、アタシはイスルギと勇者様のどっちが正しいのか判らないし、勇者様もアタシがキョウカイに戻ればどうなるか聞かされてないから、アタシの不安に気付いて、わざと追跡を失敗し続けてくれてるんだ」


 勇者様いい人だな。なんて考える俺を見ることはせずに、カグヤの顔は不安で埋め尽くされていく。


「でも、流石にもうタイムオーバーって事なのかな……」

「いや、そう言う訳ではない」

「イスルギ?」

「キョウカイは塔を破壊したいんだ。最近になって『塔が世界を蝕む邪悪である』とか言い始めただろ? 邪悪と接触した重要人物であるお前を、これ以上放置出来なくなったんだ」

「……そうだったんだ」


 かぐや、自分が重要人物であるってとこにつっこんでくれないかな~。

 ……残念ながら彼女は気付かずに、防衛が話を進める。


「それに貴方達を監視していた彼らの衛星は、天井のロックが解除されてるのを確認しているはずよ。ここから侵入できれば一気に全ての施設が制圧できるから、チャンスは逃さないはず」

「まあ、そこまで解ってるのに他の部隊が準備出来ない辺り、俺がカグヤを助けるついでにやった破壊工作ごときで、未だに指揮系統の乱れが出ちまってるみたいだけどな」

「頭数だけが揃っても犠牲者が増えるだけ。むしろ喜ぶべきね。こんなところでOK?」


 はい、OKです。

 俺が頷くのを見た防衛は作戦を説明する。


「じゃあカグヤは私と一緒に雑魚の排除。イスルギは乗り込んでくるはずの勇者様を排除してくれる? そうしないと天井が閉められないから」

「解った」「了解」


 2人の返事を確認するのと、天井が開くのはほぼ同時だった。

 花の蕾が開くように、円を描いて空が現れる。


「周辺は気圧の制御で安全だけど、あんまり遠くに行くと生命維持に支障が出るから気をつけて」

「俺は空飛んだりしねえよ」

「アタシは寝ながらでも制御できるから大丈夫。それよりこの銃、コピーしていい?」

「好きにしちゃっていいよ」


 防衛の許可を得たカグヤはバスターキャノンを正面に浮かせると、両手をかざした。

 重ねられた手をゆっくりと左右に滑らせると、虚空より全く同じキャノンが次々と出現、彼女の前に計11本のキャノンが並ぶ。

 手がおりると、彼女の身長よりでかいキャノンがその背中に整列した。翼のように。


「じゃイスルギ、アタシは露払いを済ませたらエレベーターで昇り直すから、勇者様はお願いね」

「任せろ」


 イスルギの返事を聞くと、カグヤは鉄の翼を引きつれ塔の足場を蹴り、見えなくなった。

 いつの間にかバックパック背負っていた防衛も、バーニアを吹かしてソレに続く。

 視界から消える速度を見るに、俺とやりあった時はかなり手加減していたらしい。

 これでこの場にはイスルギとリーゼ、俺、管制。

 管制アリスは意識を手放しているから、実質3人か。

 はるか彼方での閃光と爆発を眺めながら、しばらくの間無言が続く。

 ソレを破ったのはイスルギの声だった。


「お、来た来た」


 その視線の先に現れた、緩やかに羽ばたく輝きは、光の羽をまき散らす天使のように見える。

 光は大きく上空を一回りすると、イスルギの前に降り立った。

 光が消えて尚輝く鎧を身にまとう金髪の少年は、美しい装飾の剣を持ったままで挨拶をした。

 動作こそ優雅であるが、その表情はとても硬い。


「お久しぶりです、団長」

「いよっ。いきなり切りかかってくるかと思ったんだがな」


 イスルギが刀を鞘から抜いた。

 リーゼ! リーゼ!……あ、流石にこの会話をぶった切るのは無理ですか。


「団長、一体何をしようとされているのですか?」

「マイケルから聞いてるだろ」

「僕は貴方から直接聞きたいのです」


 俺の位置からはイスルギの表情は見えない。

 だが、予測はつく。


「なに、祖国を崩壊させようと思ってな」


 きっとイスルギは、人をくったような笑みを浮かべているんだ。


「なぜです!?」

「ちょっとしたゲームさ。ルールは単純、キョウカイが指揮系統を失えば俺の勝ち、失敗すればマイケルの勝ち……だったんだが――」

「なんなのですか!? ゲームって一体どう言う事です!?」

「――塔に関する部分で、両者の均衡を大きく崩す要素があってな? 少し俺が譲歩してやってるんだ。あいつも知識先行型だから、重要なところが抜けてんだよな」

「……待ってください!!!!」


 白金の天使が叫んだ。その顔は、あまりにも悲壮だ。


「僕にはまだ団長が何を考えているのか理解できないんです。お願いですから理由を教えてください、団長。貴方は理由も無くこんな事をする人ではありません。それは貴方に助けていただいた僕が、1番よく知っている。僕が仲介しますから、もう1度会長と話し合ってみましょうよ? 誰もこんな無意味な争いは、望まないはずですから」


 自分達が襲撃者であるのに、まるで命乞いをするような表情で語る天使。

 恐らく彼は、イスルギを心の拠り所にしているのだろう。


「貴方だってこんな事終わりにしたいはずです、キョウカイが秩序を失えば諸国が牙を剥くでしょう、そうなれば団長が今まで守ってきた人々が平和な日常を失うんです、貴方の大切な人にだって危険が迫るかもしれない。僕が全力で貴方を守りますから、だから!……だから、お願いです、帰ってきてください……」

「まあ、そんな事はどうでもいいんだが」


 イスルギ……その返しは非道すぎる。


「今、俺の部隊は、どうなってんだ?」


 天使が息を飲む。

 団長って言ってたんだから、イスルギはキョウカイの偉い人だったんだろう。

 状況から見るにイスルギが裏切ったのだろうし、その指揮下の部隊は――


「犯人は、見つかったか?」


 ――犯人?


「それは、まだ……」

「だろうな。せっかく国境付近でうろついてんのに、追っ手が来ねえんだもんな」

「……団長?」


 ああ、まさか、コレは……


「あいつらは、俺が、殺した」

「団長? 一体何を」

「理由は、このゲームにおいて、目障りな駒だから」


 イスルギはゆっくりと、相手が聞き間違える事のないように告げる。


『リーゼ、リーゼ』

「いやだから、あの会話に割り込むのは……」


 思い切り蓋を殴りつける。


「こらリュウジ、ますたーがシールドを展開しておらんかったら割れておったぞ」

『そうじゃねえだろ!! 違げぇよ!!』


 俺の叫びは誰に届く事もなく、イスルギと白金の天使は会話を進める。


「今となっては悪かったと思う。でも、まさか俺がこんなに有利だとは思わなくてよ」

「何を、言っておられるのです?」

「大体お前は他人を安易に信用しすぎなんだよ、魔王を倒した時だってそうだった。作戦も立てずにたったの4人で強行突破したあげく、魔王を瞬殺出来る俺と、俺とガチでやりあえる魔眼娘が雑魚掃除のために離脱するんだぜ?」


 イスルギは見せ付けるように刀を振り上げ、更に語る。

 対する天使は、顔をうつむかせており、その表情は判らない。


「落ち着いて思い返せば解らないか? あそこで2人も離脱する必要はなかっただろ? 聖女様はお前に全てを委ねていたし、魔眼娘は常識皆無の自称一般人だから仕方ないとしても、お前は……」

「貴方は、僕を……」

「騙されてるって、気付くべきだった。魔王とお前らを相打ちに持ち込むのが、俺の目的だって、な」


 イスルギが刀を振り下ろす。届く距離ではないが、刀身の先には見えない攻撃判定が存在しているのだろう。

 白金の天使は視線を上げもせずに防御結界を展開、2人の魔力の衝突が、腹に響くような鈍い音と共に火花となって散る。

 鉄と鉄がこすれ合う嫌な悲鳴を響かせながら、イスルギがジリジリと刀を結界に押し込む。


「今回もお前は、自分を守るだけで精一杯か? 初恋の相手がこんなんじゃ、お前のために命はった聖女様も、浮かばれねえな」


 天使はもう何も言えなかったのだろう。

 よって、感情を行動で示した。

 光をまとい、イスルギに切りかかる。

 イスルギはそれを不可視の刀身で吹き飛ばすが、天使は強力な結界と飛行魔法で強引に接近、その場から1歩も動かないイスルギを中心に、2人は1つの光の塊となり、周囲に重い金属音が響く。

 恐らく、斬り合っているのだ。あの、衝突実験のような音の嵐の中で。

 カプセルの蓋1枚隔てた向こう側は、暴風と殺意が吹き荒れる死の世界となっていた。




「エノクさんも、難儀な性格してますねぇ……今の強引な流れなら疑問を持つかなって期待したんですけど」


 いつの間にか、リーゼと“代わった”ライゼランが立っていた。

 地獄の中心から撒き散らされる破壊力の余波を、防御もせずに受けている。

 それでありながら、彼女の小さな身体は傷1つ負う事なく、俺を笑顔で見上げてきた。


「あ、エノクさんと言うのは、勇者様の事ですからね?」

『ライゼラン? コレは一体なんですか!』

「イスルギさんは友達からゲームを持ちかけられて、そのお友達を楽しませようと全力を挙げているんですよ」

『いや、そうだ、そんな事はどうでもいいんだ、あの2人を止めてください! 貴方なら出来るでしょう?』

「イスルギさんと先約がありまして、手出しは無用って言われてるんです」

『意味が解らない!!』

「エノクさんからイスルギさんに対する依存を見ましたか? 自分の全てを捨ててもイスルギさんを助けようとしたでしょ、彼なりのやり方で。まあそれ以上に大切な思い出を傷つけられて暴走しちゃいましたけど。イスルギさんとお友達の間にも、似たような狂気があるんですよね」

『ライゼラン……』

「お友達は世界を滅ぼすつもりみたいですけど、私達が彼にとって致命的なイレギュラーだと言う事を、未だに気付いていないんですよね」


 だいぶ、落ち着いてきたと、思う。

 彼女は傍観を決め込むつもりだ。俺に出来る事は、ない。

 だが、状況は理解したい。

 光と音の狂乱の中で、何を聞けるか考える。


『世界を滅ぼすとか、どう言う事です?』

「イスルギさんは、お友達にゲームを持ちかけられたんです。世界を滅ぼそうとするお友達に対して、イスルギさんの目的は彼を阻止する事。世界を守るために、イスルギさんは祖国を滅ぼそうって考えたんですね。ゲームですから面白おかしく」


 肩をすくめる女児なお嬢様。


「でも、お友達は世界や私達が塔に依存していると思っていて、塔を破壊する事で世界を滅ぼそうとしているんですけど、既に私はスタンドアローンですから塔には依存していませんし、イスルギさんには秘密にしているんですけど、私1人で塔の代わりに世界を維持する事も出来ちゃうから、この計画じゃ世界は滅びないんです。で、今コレ」


 彼女は後ろの地獄絵図を指す。振り向きもせずに。

 俺は頭を抱えた。


『……みんな馬鹿ですか』

「それは貴方が正常な思考を持って、なおかつ神の視点から状況を把握しているだけです。カグヤだって言ってたでしょ? 『イスルギはネジが全部抜けてる』って。イスルギさんってお友達の全てを肯定するように、精神を改造されちゃってるんですよ。この喜劇は、気のふれた権力者が従順すぎる部下を持った事による暴走、とでも言ったところですね」

『喜劇って……』

「最終的にはイスルギさんに勝ってもらう予定ですが、この展開の後でエノクさんとどう仲直りさせるかが新たな問題ですね」


 お嬢様は、真面目な顔で恐ろしい事を言っている。

 後ろのアレが、ただのケンカだってのか?


『うわー、うわー……なら、せめて犠牲者が少ないうちに終わらせたほうが』

「そのつもりなんですけど、私は抑止力ですから能動的に動くと世界がヤバイんです。でもイスルギさんって精神改造の影響でエキセントリックだから影からのサポートが難しくて。せっかく私がスタンドアローンだって教えたら、難易度調整のために狂言で勇者を敵に回すとか言い出すんですよ? カグヤさんまで向こうに返そうとしたのを必死で止めたんですから! そんな人に『そもそもお友達の計画が成り立ちません』なんて教えたら何をやらかすか……しかも彼は自分の部隊を手にかけちゃってるんですよ? もう、どうすればいいの!?」

『俺に聞かないでくださいよ』


 剣がぶつかっているとは思えない重い金属音と、殺意の嵐が吹き荒れる中で、涙目のお嬢様が俺に助けを求めるが、俺にそんなの解るはずもない。

 ……神の視点も大変だな。

 と、カプセル内に、光があふれ出す。


「まあそんな訳でして、そろそろ転移装置が作動しますが、龍二郎さんは安心して元の場所に戻ってください。この後カグヤの記憶を戻せばこちらがかなり有利になりますし、死者を復活させてでもハッピーエンドに持ち込みますから!」


 場にそぐわない笑顔になったライゼランが、俺に手を振る。

 そう言えば本名で呼ばれたのって、久しぶりだな。


『なんでアンタが俺の名前知ってんだ!! つーかなんで会話出来てんの!?』


 今までツッコミを入れなかったとは、不覚!


「いやーもしかしてスルーされたのかって不安でしたよ」

『そんな事いいから』

「難しい事じゃありませんよ。私日本人ですから」

『笑いどころが解んないです』

「人生の2%位の間、渡会龍二郎って、名乗ってまして」


 渡会龍二郎って、名乗ってまして。


『……ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!』


 ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!


「この700年は女でしたし、肉体はゼロから再構築された物です。精神も実質ゼロから組み直していますから、お気になさらずに」


 まって、うっそ、マジで? またココに来んの? 過去に? でコレ?


「歴史って繰り返すんですかね? 私は貴方の顔と名前以外覚えてないんですけど」

『……マジすか、でも無理……』

「ふっふっふ。そこまで無理だと考えるなら、昨日のアレは自慰行為なんでしょうか……ねぇ、イレギュラー?」


 お嬢様は、蠱惑的な瞳で、俺を見上げて、嗤った。

 ……コレが……俺?


「っぎゃーー……――!!!!!!」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「――……ぁあーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

「っ!! 渡会さん!!」


 息を吐ききった俺は、視界にある物を徐々に認識し始める。


「渡会さん? 大丈夫ですか? 渡会さん?」

「こ、ココは?」

「病院です。渡会さん、1ヶ月もの間意識のない状態だったんですよ」

「え……ふぇ?」


 目の前の看護婦さんを見てから、ゆっくりと周囲を見渡す。

 俺は……帰ってきたのか?


「ココは、何市ですか?」

「変な聞きかたしますね、足立区の――」


 知らない病院だ。でも、都内だって事は解る。

 足立区には、親戚の伯父さんが住んでいるから。


「今、親族の方に連絡を取りますから、ゆっくり休んでください」


 看護婦さんはそう言って部屋を出て行く。

 ソレを見送った俺は、ベッドから降りると、窓に向かう。

 窓の外には、当たり前の景色が広がっている。

 世はおしなべて事も無し。

 俺は1つ、大きなため息をついていた。


「非道い、夢だった」


 生死を賭けた男の戦いがただの茶番とか、ストーリーを根本から考え直すべきだ。

 大体、俺の視点で話が進むのに、俺はほとんどその場に立ち会っているだけだったじゃないか。

 あれじゃ俺は、刺身のツマ、ただの添え物だ。

 あげくあのオチはありえない。シリアスが吹っ飛んだ。


 ふと思い出して夢と同じ魔法の仕草をしてみるが、虚空には炎も氷も現れない。


「まあ、出たら出たで困るけどな」


 誰にともなく呟いた俺は、もう1つだけ、大きなため息を吐くと、ベッドの手すりを持ち、クルリと1回転してベッドに転がった。

どんがらがっしゃ~ん

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