*three times*
その人は、私に気付くとベッドから立ち上がった。
髪の長い、男の人だった。
私は対して恐怖を感じなかった。
「こんにちは。」
「…こんばんは。」
少し笑顔を浮かべて挨拶する。
あ、そう言えばもう"こんばんは"の時間だったなぁ……。
私がそんなことを思っていると、男の人が近付いてきた。
「私は魔王です。」
そして、さらりとそう言った。
私はポカンとしてしまう。
自分を『魔王だ』なんて、酔っ払ったお父様でも言わないのに。
それにその人は、私の思い浮かべていた魔王とはかけ離れた姿をしていた。
長い髪に、優男を崩したような風体。
「……魔王って、沢山頭が生えてたり、腕がいっぱいあったりするんじゃないの?」
「……正直、そんな姿になるのはいやですね……。」
疑問をぶつけると、その人は苦笑して答えた。
それに、魔王様は勇者様に倒されたんじゃなかったの?
その人は私の意志を汲み取ったのか、言った。
「…では、その人が倒されたのは魔王ではなかったのでしょう。…現に魔王は此処にいますから。」
……へぇ……
じゃあ、この人は魔王様なのね。
私は適当に理解しておいた。
だって、まだこの人が魔王だという証拠がないから。
「……それで、王女様。本題なのですが………。」
「え?」
魔王様は、不意に声を潜めた。
「私に、さらわれて頂けませんか?」