*ten times*
魔王様は、プレーンオムレツをナイフで切り分ける。
切り分けたプレーンオムレツを口にする魔王様を、私はそこに釘付けされたようにただ見つめていた。
「お上手ですね。とても美味しいです。」
良かった…。
私はホッと息をついて、自分のオムレツを切り分けて食べた。
不味いなんて言われたらどうしようと、それだけが心配だった。
だから美味しいといわれて、私は心の中が軽くなった。
魔王様はプレーンオムレツとフレンチトースト、付け合わせは食べてくれたのに、何故かミックスジュースにだけ手をつけなかった。
どうしたんだろう?
美味しそうに見えないんだろうか。
それとも、苦手…とか?
「王女様、失礼ですが…ゆっくりお食事を楽しんではいられないようですよ。」
ふと、魔王様が言った。
魔王様は近くの窓から外の様子をうかがっていた。
「いよいよ勇者様がいらっしゃったようですね。」
わぁ、本当だ。
やっと、魔王様と勇者様の対決が見れるんだね。
楽しみだな。
…でも、これで勇者様が勝ったら、ここは決まり文句だよね?
私は城に帰って、めでたく勇者様と結婚……。
嫌ではないんだけど……。
私のためだけに、2人が傷つけあうのは嫌だな…。
後悔しても遅いんだけど……。
そうしている間に、勇者様は私たちが居る部屋まで辿り着いた。
「やっと見つけたぞ、魔王!
王女様を返せ……って、そこに居られましたか。」
勇者様は威勢良く魔王様に言ったんだけど、私がその場にいたから言葉を切った。
「よくきましたね、勇者様。
さぞお疲れでしょう。
コレでも飲んでください。」
言いながら、魔王様が差し出しているのは私が作ったミックスジュース。
そうだよね。
私は一瞬でたどりついたけど、歩くとなるとかなり遠いに違いない。
でも、どうして私のミックスジュースを……?
「魔王の作った飲み物など口に出来ない。毒入りかもしれないし。」
え、ひっどい。
それ私が作ったのに。
「え…?コレ、王女様が直々にお作りに……?
それならいただきましょう。」
そこでようやく、魔王様の目的を理解した。
魔王様は、ここまで歩いてスタミナ切れの勇者様では戦っても強さの証明にはならないと思ったんだろう。
やっぱり、優しいな…。
「王女様、そろそろ戦いが始まります。
約束通り、上の階に向かってください。
よく見えるはずですから……」
うん、ありがとう。
私は、そそくさとその場を立ち去った。
いよいよ、魔王様と勇者様の勝負が始まる。