第6話:安喜県《あんきけん》の内政チートと、腐敗役人《ふはいやくにん》の合法的な破滅《はめつ》
第6話:安喜県の内政チートと、腐敗役人の合法的な破滅
黄巾の乱から数ヶ月。
俺たちの義勇軍は、各地で目覚ましい戦功を挙げた。関羽の青龍偃月刀、張飛の丈八蛇矛が戦場を蹂躙し、軍師である俺と田豊の策、そして張郃の完璧な用兵が、敵の大軍を次々とすり潰していったからだ。
さらに、猛将・管亥率いる精強な『青州兵の原型』たちも加わり、劉備軍の武名は瞬く間に天下へ轟いた。
――だが、当時の後漢王朝の腐敗は、俺の想像以上に深刻だった。
どれだけ手柄を立てようと、中央の宦官(皇帝の側近たち)に莫大な賄賂を贈らなければ、まともな役職など貰えないのだ。
結果として、総大将である劉備に与えられた恩賞は、中山国という辺境にある、わずか数千人が住む小さな村――『安喜県』の県尉(警察長のような役職)という、あまりにも不当で小さな地位だった。
「……すまない、お前たち。俺の不徳のせいで、こんな寂れた村に連れてきてしまって」
安喜県のひび割れた荒野を見渡し、劉備が申し訳なさそうに肩を落とす。
「何を仰います、玄徳殿!」
俺はすかさず、満面の笑みで劉備の肩を叩いた。
「むしろ最高です。誰の目も届かない辺境の地……ここなら、中央の馬鹿どもに邪魔されることなく、俺たちの理想の『国作り』ができます!」
そう、オタク的な視点から言えば、ここは『シム〇ティ』や『箱庭ゲーム』の最初の更地と同じだ。
俺はすぐさま、天才内政官である田豊を呼び寄せた。
「田元皓先生。先生の【政治:87】という圧倒的な手腕を振るう時が来ました。俺の『秘策』を、すべて実行に移してください」
「ほう……子雲よ、どのような奇策を用いるのだ?」
俺は現代の知識と【天命ポイント】を使ってシステムから引き出した、『未来の農業・工業マニュアル』を田豊に手渡した。
「まずは農業改革です。『輪作』という手法を取り入れます。同じ土地で豆や麦など異なる作物を順番に育て、土地の栄養素の枯渇を防ぐのです。さらに、鉄製の深耕犂(深く土を掘り返す農具)を鍛冶屋に量産させます」
「むむ……なるほど! これなら痩せた土地でも収穫量は倍増する……!」
「さらに『特産品』を作ります。獣の脂と草木灰を煮込んで固めた『石鹸』。そして、木の皮や麻のクズをドロドロに溶かして薄く漉く『改良型・紙』です。これらは中華全土の貴族たちが喉から手が出るほど欲しがる超高級品になります」
田豊はマニュアルを読むなり、目をひん剥いてワナワナと震えだした。
「て、天才か貴様は……! この技術があれば、数年でこの安喜県は洛陽(首都)を凌ぐ黄金の都になるぞ!」
それからの発展は、まさに「内政無双」だった。
田豊の神がかった統治能力により、俺の現代知識は一切の無駄なく村に浸透した。農民たちは溢れんばかりの麦に涙して喜び、特産品の『石鹸』と『紙』は飛ぶように売れ、莫大な富を安喜県にもたらした。
その資金で兵士たちには最新鋭の鎧が支給され、管亥率いる元黄巾の流民たちも、腹いっぱい飯を食って最強の軍隊へと変貌していった。
誰もが劉備を「生きた神」のように慕い、その【魅力:99】のオーラは安喜県全体を暖かく包み込んでいた。
――しかし、豊かな蜜の匂いは、必ず害虫を引き寄せる。
就任から半年後。中央政府から巡回にやってきた『督郵』と呼ばれる監察官が、数百の兵を連れて安喜県の役所に乗り込んできたのだ。
「ふん! 県尉の劉備よ! 貴様、ずいぶんとこの村を私物化し、肥え太っているようだな!」
豪華な絹の服を着た、丸々と太った豚のような男――督郵が、傲慢な態度で鼻を鳴らした。
「朝廷には『劉備が黄巾賊の残党を匿い、反乱を企てている』という密告が届いている。……だが、私に黄金一万両を『誠意』として見せるなら、見逃してやらないこともないぞ?」
明らかな言いがかり。完全なる強迫である。
「なっ……! でたらめを抜かすな! 俺たちは民のために――」
劉備が怒りで声を震わせた、その時。
「てめえら!! ふざけた口叩いてんじゃねえぞォ!!」
バンッ!! と役所の扉が吹き飛び、全身から凄まじい殺気を放つ張飛が乱入してきた。その手には、太い革の鞭が握られている。
「俺たちの兄者を愚弄しやがって! その醜い豚肉を、百つ打ちの刑にして、木に吊るし上げてやる!!」
(来た! 史実の『張飛、督郵を鞭打つ』のイベント! だが……ここで役人をボコボコにすれば、劉備陣営は『お尋ね者』になって逃亡生活に逆戻りだ。そんな非効率なルート、俺が許さない!)
「待て! 益徳(張飛)兄者!!」
俺は張飛の前にスライディングする勢いで飛び出し、その剛腕にすがりついた。
「四弟!? 止めんな、こんな腐れ外道、俺がバラしてやる!」
「駄目だ! ここで手を下せば、玄徳殿に『朝廷への反逆者』という汚名が着せられる! ……兄者たちを法で裁かせはしない。ここは俺の『知略』に任せてくれ!」
張飛をなんとか宥めすかすと、俺は冷ややかな笑みを浮かべて督郵の前に進み出た。
「何だお前は! 私に逆らうとどうなるか――」
「システム起動。【人物鑑定】」
俺は心の中で囁き、黄金のウィンドウを展開した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【氏名】督郵(本名:李某)
【知力】32
【政治】41
【魅力】12
【深層情報・隠蔽された罪状】
・三ヶ月前、隣県の豪商から賄賂として黄金五千両を受領。
・黄巾賊の残党に横流しした兵糧の裏帳簿を、洛陽の自宅の『寝室の床下』に隠している。
・上役である太守の印璽(ハンコ)を偽造し、公文書を私物化している。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(……ビンゴだ。ただの汚職役人どころか、黄巾賊と裏で繋がっていた国家反逆罪じゃねえか)
「督郵殿」
俺は、懐から一冊の古い帳簿を取り出し、パンパンと叩いた。
「これは、洛陽におられるあなたの奥方様から、偶然『買い取らせて』いただいたものです。……寝室の床下に、随分と面白い日記を隠しておいでですね」
「な、ななっ!?」
督郵の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
実は数日前、彼が安喜県に向かっているという情報を得た時点で、俺は田豊の部下(間者)を洛陽に走らせ、システムで先読みした『隠し場所』から決定的な証拠を物理的に押さえていたのだ。
「き、貴様……それをどこで!」
「中身を読み上げましょうか? 『某月某日、黄巾の残党・趙弘に兵糧一千石を横流しし、代わりに砂金を……』」
「や、やめろぉぉぉっ!!」
督郵が悲鳴を上げて飛びかかってこようとしたが、関羽が冷ややかな目で前に立ち塞がると、腰を抜かして床にへたり込んだ。
「これだけではありません。太守の偽造印璽まで作っていたとは。……朝廷を欺き、賊と通じた大罪。もはや死罪は免れませんな」
俺のトドメの言葉に、督郵は完全に白目を剥いて泡を吹いた。
「兵たちよ、聞け!」
俺は、督郵が連れてきた数百の兵士たちに向かって高らかに宣言した。
「この腐敗役人は、国を売り飛ばしていた国賊だ! 我が主・劉備玄徳は、漢の皇室の末裔として、この悪党を『合法的に』捕縛する! 朝廷への護送は、我が軍が引き受けよう!」
「おおおぉぉぉっ!!」
安喜県の民衆だけでなく、督郵にこき使われていた兵士たちからも、割れんばかりの歓声が上がった。
暴力に訴えることなく、圧倒的な情報戦と法力で悪を討つ。劉備の『清廉潔白で知略に優れた名君』という名声は、この日を境に天下へと轟くこととなる。
『ピコン!』
【特大イベント:『安喜県の急成長』及び『督郵の合法的破滅』を達成しました!】
【天命ポイントを6000P獲得!】
【劉備の名声値が大幅に上昇。全国の在野武将からの注目度が上がりました】
「……ふっ、お見事だ、四弟」
関羽が、自慢の長い髭を撫でながら深く頷く。
「ちぇっ、俺の鞭の出番は無しかよ。だがまぁ、スカッとしたから許してやるぜ!」
張飛が豪快に笑い、劉備も心底ホッとしたように俺の肩を抱き寄せた。
「お前のおかげで、また一つ民を苦しみから救えた。ありがとう、子雲」
劉備の温かい言葉に、俺のオタク心は限界突破の尊さを感じていた。
(推しの名声を高めつつ、領地も豊かにして悪人を合法的に潰す……。知識チート無双、最高に気持ちいいぜ!)
こうして、安喜県という強固な経済・軍事基盤を手に入れた俺たち義勇軍は、来るべき『群雄割拠』の時代に向けて、完璧なスタートダッシュを切ったのだった。




