第5話:黄巾《こうきん》の嵐と神具《しんぐ》の咆哮《ほうこう》。そして猛将・管亥《かんがい》の青田買《あおたが》い
第5話:黄巾の嵐と神具の咆哮。そして猛将・管亥の青田買い
西暦184年、春。
ついに恐れていた事態が起きた。太平道の教祖・張角が「蒼天已死、黄天當立(漢の時代は終わり、新たな黄色の時代が来る)」というスローガンを掲げ、数十万の信徒を一斉に蜂起させたのだ。
黄色の頭巾を巻いた彼らは「黄巾賊」と呼ばれ、またたく間に中国全土を業火で包み込んだ。
ここ、幽州の涿郡にも、程遠志を大将とする五万の黄巾軍が押し寄せてきた。
迎え撃つ劉備義勇軍は、かき集めた兵を含めてもわずか五百。実に百倍の兵力差である。
「……ふむ。我が軍の配置、見事なものだな」
本陣の小高い丘から戦場を見下ろし、天才軍師の田豊がしきりに頷いていた。
「陳子雲よ。お主が考案したというあの『密集陣形』とやら。正面からの突撃に対しては鉄壁の防御力を誇る。私がいちいち口出しする必要もないわ」
「お褒めにあずかり光栄です、田元皓先生」
俺は謙遜しながら笑みを浮かべた。
現代知識と【天命ポイント】で構築した西洋の重装歩兵陣形をベースに、田豊の完璧な兵糧管理、そして地形の達人である張郃が側面をガッチリと固めている。
五百とはいえ、ただの烏合の衆である黄巾賊などに容易く崩される軍ではない。
「だが子雲。いくら防御が堅くても、敵は五万だ。いずれ押し潰されるぞ」
総大将である劉備が、心配そうに眉をひそめる。
俺は自信たっぷりに胸を張った。
「ご安心を。俺の役目は、舞台を整えること。あの圧倒的な数を一瞬で瓦解させるのは……我が軍が誇る『無双の武』です。さあ、兄者たちの初陣、とくとご覧あれ!」
俺が軍配を振り下ろした瞬間。
戦場の最前線から、雷鳴のような雄叫びが爆発した。
「おおおおおおっ!! 燕人・張飛、ここにあり!! 死にたい奴から前へ出ろォ!!」
漆黒の暴れ馬・烏騅に跨った張飛が、単騎で敵の大軍へと突っ込んでいく。
「な、なんだあの馬鹿は!? 一騎で突っ込んできただと!? やれ! 鄧茂、あの髭ダルマを血祭りにあげろ!」
黄巾賊の副将・鄧茂が、大刀を振りかざして張飛を迎え撃つ。
だが、絶影級の神馬のスピードは、常人の動体視力を遥かに超えていた。
「おせぇ!!」
張飛の凄まじい剛腕から繰り出された『丈八蛇矛』が、空気を切り裂く轟音を鳴らした。
『ドガァァァァン!!』
蛇のようにうねる特殊な刃が、鄧茂の大刀ごと、その分厚い鎧を紙切れのように粉砕した。血飛沫すら追いつかない一撃。鄧茂の巨体が、後方の敵兵十数人を巻き込みながら吹き飛んでいく。
「ひ、ひぃぃっ!? ば、化け物だ!」
たった一撃で副将をミンチにされた黄巾賊が、恐慌状態に陥る。
「うろたえるな! 囲んで槍で突け!」
大将の程遠志が声を張り上げた、その時だった。
「――遅い。すでに我が刃の間合いぞ」
いつの間にか、程遠志の目の前に、緑の戦袍をなびかせた長鬚の巨漢が立っていた。
関羽だ。
手には、天山寒鉄で鍛え上げられた重さ18キロの神具『青龍偃月刀』が握られている。
「なっ……!?」
「散れ」
関羽が、静かに薙刀を横に振るった。
『――斬。』
青白い闘気が刃から放たれたかのように錯覚するほどの、美しく、そして絶対的な死の軌跡。
程遠志の首が、一瞬の抵抗も許されず、胴体から滑り落ちた。
「た、大将が討ち取られたぁぁぁッ!!」
「逃げろ! あいつら人間じゃねえ!!」
パニックに陥った黄巾賊が、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとする。
しかし、その退路はすでに塞がれていた。
「ふっ……陳子雲の読み通り。敵は必ずこの谷へ逃げ込む。……全軍、包囲陣を展開! 一匹たりとも逃がすな!」
森の陰から現れた張郃が、流麗な槍さばきで伏兵を指揮し、逃げ惑う黄巾賊を完璧に包囲したのだ。
(す、すげぇ……! これが武力99と98、そして統率90の蹂躙劇……! 画面越しで見る無双ゲームなんて目じゃない、圧倒的な暴力の美学だ!)
俺は本陣で震え上がるほどの感動を覚えていた。
だが、その圧倒的な優勢の中にあって、一箇所だけ、張郃の包囲網を強引に突破しようとする厄介な部隊があった。
「退けェ!! 俺の背中についてこい!!」
巨大な長刀を振り回し、味方の兵を庇いながら血路を開こうとしている大柄な猛将。その背後には、規律の取れた屈強な農民兵たちが数百人、固く団結して続いている。
(あいつは……システム起動! 【人物鑑定】!)
『ピシュンッ!』
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【氏名】管亥
【武力】84
【統率】76
【知力】45
【政治】22
【魅力】68
【深層情報・隠し才能】
『流民の守護者』:のちに数十万の黄巾の残党を率い、青州を制圧するほどの猛将。関羽と数十合も打ち合うほどの実力を持つ。本来はただの農民だが、飢えに苦しむ家族や仲間を守るため、やむを得ず太平道に身を投じた。根は極めて義理堅い。彼の率いる兵士たちは、のちの最強歩兵『青州兵』の原型となる精鋭。
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(マジか! ここで管亥が出てくるのか! のちに曹操の最強の矛となる青州兵のプロトタイプ……こんな超絶優秀な人材を、ここで見殺しにする手はない!)
「劉備兄者! あそこです! あの長刀を持った男を助けます!」
「む? 敵の将を助けるのか?」
「ええ。彼は悪人ではない。民を救う『仁』の器を持つ兄者にしか、彼らは救えません!」
俺の言葉に、劉備は深く頷き、自ら双股剣を抜いて馬を駆った。俺も慌てて馬でその後に続く。
「益徳(張飛)! 雲長(関羽)! 矛を収めろ! その者たちを殺すな!」
劉備のよく通る声が戦場に響き渡ると、猛り狂っていた張飛と関羽がピタリと動きを止めた。
「……おいおい、邪魔すんなよ玄徳。もう少しで全滅させられるんだぜ?」
「いいから引け! これは軍令だ!」
劉備は血塗ろになって荒い息を吐く管亥の前まで進み出ると、武器を捨て、馬から降りた。
「お前が、あの兵たちの将だな。名はなんという」
「……俺は管亥だ。首を寄越せというなら俺の首だけを持っていけ! 後ろの奴らは、ただ腹をすかせただけの農民だ!」
管亥が仲間を庇うように立ち塞がる。
その姿を見た劉備の瞳に、深い悲哀の色が浮かんだ。
彼自身の【魅力:99】のオーラが、戦場の血生臭さを浄化するように、暖かく柔らかく広がっていくのを俺は肌で感じた。
「腹をすかせた農民が、生きるために武器を取る。……こんな悲しい天下にしてしまったのは、俺たち漢の皇族の末裔の不徳だ」
劉備は、泥にまみれた管亥の手を、両手でしっかりと握りしめた。
「管亥よ。お前たちはもう、黄色い布を巻いて盗賊に成り下がる必要はない。俺の元へ来い。お前たちの家族が腹いっぱい飯を食える国を、俺が必ず創ってみせる」
「なっ……」
管亥の目から、ポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。
反乱軍として討伐される運命だった彼らに、初めて差し伸べられた「為政者」からの温かい手。
「俺は……俺たちは……ただ、腹いっぱい稗の飯が食いたかっただけなんだ……!」
管亥がその場に泣き崩れ、背後にいた数百の精鋭たちも次々と武器を投げ捨て、平伏した。
『ピコン!』
【システム通知:未来の猛将『管亥』及び、特殊兵科『青州兵の原型(500名)』を義勇軍に引き入れました。天命ポイント4000P獲得!】
(よし……! 関羽・張飛の武力お披露目からの、曹操の最強戦力まで強奪完了だ!)
俺は心の中でガッツポーズを決めながら、未来の覇王(曹操)に向けてほくそ笑んだ。
――悪いな曹操。天下の優秀な人材は、俺の【鑑定】と劉備の【魅力】で、全部総取りさせてもらうぜ!




