第38話:【閑話】蒸気と鉄の旋律《メロディ》。大漢帝国、産業革命の果てに(数十年後の世界)
第38話:【閑話】蒸気と鉄の旋律。大漢帝国、産業革命の果てに(数十年後の世界)
――建安から数十年。暦はもはや、かつての「三国時代」という枠組みを過去のものとしていた。
大漢帝国の都・洛陽。
かつての董卓によって焼き払われた廃墟の面影は、今やどこにもない。そこにあるのは、空を突く鉄筋の尖塔と、二十四時間止まることなく吐き出される白い蒸気の雲、そして夜を昼のごとく照らす「電灯」の海である。
街の中央を貫く大通りには、石畳の上を「蒸気自動車」が音を立てて走り、その傍らでは制服を着た学生たちが、活版印刷されたばかりの「日刊・大漢新聞」を片手に、世界情勢――ローマ帝国との関税交渉や、南洋航路の発見――について熱く議論を交わしている。
一人のオタク軍師、陳凌(字は子雲)がこの世界に持ち込んだ「チート」は、天才たちの手によって、時代を数百年単位でスキップさせてしまったのだ。
1. 鉄の龍と黄金の路
都の巨大なターミナル「洛陽中央駅」。
そこには、かつて馬超が駆け抜けた西涼の荒野をも、わずか数日で結ぶ「大漢帝国鉄道」の勇姿があった。
「……おい、急げ! 荊州行きの『雲長号』が出るぞ!」
「昨日の『孟起号』は西域からの絹と香料を満載して到着したらしいな。この国は、一体どこまで広がるんだ?」
駅のホームでは、労働者たちが誇らしげに語り合う。
かつて関羽が守った荊州は、今や「東洋のマンチェスター」と呼ばれる巨大工業都市へと変貌し、長江を往来するのは風を待つ帆船ではなく、黒煙を上げる鋼鉄の「蒸気船」である。
馬超が開拓したシルクロードは、今や「鉄のシルクロード」となり、西方のローマ帝国との間には、毎日膨大な物資と文化が往来していた。
2. 八陣図と近代科学の融合
かつて諸葛亮が住んでいた隆中の地は、現在、帝国最大の「国立科学アカデミー」となっている。
そこには、孔明と陳凌が共同で設計した、世界初の「機械式階差機関《計算機》」が鎮座していた。
「……孔明先生、最近の計算結果はどうだい?」
「子雲殿。この計算機によれば、来年の豊作予想は、南方の開拓地を含めて過去最高を更新します。……ですが、この『石炭』の消費量による空気の汚れ……これは、あなたの言っていた『公害』というやつですか?」
白髪を蓄えながらも、その瞳は青年のように輝いている諸葛亮は、白羽の扇ではなく、最新の「万年筆」を動かしながら微笑んだ。
五大軍師たちは、それぞれが独自の「省庁」を率い、もはや個人の知略ではなく、データと統計に基づいた「科学的統治」を確立していた。
• 財務省(郭嘉・鍾繇): 紙幣経済を完全に安定させ、世界初の「中央銀行」を設立。
• 保安省(賈詡): 指紋鑑定や組織的捜査網を構築し、犯罪率を極限まで低下させた。
• 教育省(田豊): 義務教育制度を敷き、識字率を90%以上に引き上げた。
3. 五虎将、銅像となる
洛陽の「英雄広場」には、五つの巨大なブロンズ像がそびえ立っている。
関羽、張飛、趙雲、馬超、黄忠。
彼らは、もはや一軍の将ではなく、「平和を守る象徴」として、国民の心に刻まれていた。
引退した張飛は、都で最大の「料理学校」を経営し、彼が創り出した「麻婆豆腐」や「ステーキ」は、漢の国民食となった。
趙雲は、帝国航空部隊(巨大気球部隊)の名誉元帥として、空からの測量と救助活動を指揮している。
馬超は、西域との親善大使としてローマへ渡り、その美貌と武勇で「東洋の雷神」として、かの地の貴婦人たちを虜にしているという。
4. 黄昏の城壁にて:劉備と陳凌
そして、皇帝・劉備玄徳。
彼は今、かつてないほど巨大になった「大漢帝国」の象徴として、国民から現人神のごとく慕われていた。
九十歳を超えてなお、その【魅力:99】のオーラは衰えることがなく、ただ微笑むだけで反乱を鎮め、民に生きる希望を与えるという伝説すら生まれている。
ある夕暮れ時。
劉備と陳凌は、静かに最新の「蒸気エレベーター」で、洛陽城の展望閣へと登った。
「……子雲。覚えているか? あの小さな安喜県で、俺たちが夢を語り合った夜を」
「ええ。陛下。……あの時は、まさか空を飛ぶ船(気球)や、鉄でできた馬(列車)が中華を走り回るなんて、誰も信じなかったでしょうね」
陳凌は、愛用のタブレット……ではないが、特製の皮表紙のノートを開いた。そこには、数十年間にわたり書き溜めてきた「推し活プロデュース計画」のすべてが記されている。
「……俺はね、陛下。あなたがこの世界で、誰よりも幸せになってほしかった。そして、あなたが愛した民たちが、誰も泣かなくていい世界を見せたかったんだ」
「ああ。……お前のおかげで、俺は世界一の果報者だ。……だが子雲。一つだけ、不満がある」
「えっ、何ですか?」
劉備は、悪戯っぽく笑いながら、陳凌の肩を力強く叩いた。
「この『蒸気自動車』というやつ……揺れが激しくて、俺の尻が痛いんだ。何とかしてくれ」
「……陛下。それは『サスペンション』の改良が必要ですね。……分かりました、明日からまた研究室にこもりますよ」
二人は、黄金色に染まる「産業革命後の洛陽」を見下ろしながら、ガハハと笑い合った。
かつて血で血を洗った三国志の戦場は、今や鋼鉄の歯車が噛み合い、蒸気が高らかに汽笛を鳴らす、輝かしい未来へと繋がっていた。
完結:『歴史のその先へ』
陳凌の「推し活」は、ついに一つの「文明」を創り上げた。
彼のシステムが最後に表示したメッセージは、これまでのどんな報酬よりも輝いていた。
【最終結果:全人類ハッピーエンド】
推し:劉備玄徳、天寿を全うする直前まで現役の最高推し。
世界:戦争消滅、技術爆発、人口十倍。
――あなたの愛した物語は、ここから『銀河の英雄伝説』へと続きます。
「……いや、銀河まで行くのは、次の世代に任せるよ」
陳凌は、そっとノートを閉じた。
目の前には、自分が心から愛し、守り抜いた英傑たちの、幸せそうな笑顔があふれている。
これ以上のチートは、もう必要なかった。
(劉備軍軍師・陳凌の推し活無双 ――完――)




