第4話:伝説の幕開け。神具《しんぐ》の鍛造《たんぞう》と、未来の宿敵《ライバル》たちの青田買《あおたが》い
第4話:伝説の幕開け。神具の鍛造と、未来の宿敵たちの青田買い
桃園の誓いを経て、義兄弟となった俺たちは、来るべき黄巾の嵐に備えて義勇軍の結成へと動き出した。
張飛が私財を投じ、近隣の若者たちに呼びかけた結果、またたく間に五百人ほどの郷勇(義勇兵)が集まった。劉備の【魅力:99】という異常なステータスと、関羽・張飛の威圧感、そして俺が【システム】で得た天命ポイントを駆使して考案した「効率的な調練メニュー」の相乗効果だ。
だが、俺には一つの懸念があった。
「兄者たちよ。兵は集まったが、肝心の将の得物と足が足りません」
劉備の家で粗末な茶をすすりながら、俺は切り出した。
「得物って、武器のことか? 俺はそこらの鍛冶屋で打たせた大刀で十分だぞ」と劉備が首を傾げる。
「駄目です」
俺は食い気味に否定した。
「関羽兄者の豪腕、張飛兄者の剛力に耐えうる武器でなければ、戦場で必ず刃がこぼれます。それに、一軍の将たる者、兵たちの士気を高める『象徴』となる武具と名馬が必要です。……俺に任せてください」
そう豪語して向かったのは、涿郡で最も胡散臭い裏市だった。
胡散臭い場所ほど、俺の【物品鑑定】スキルが火を噴く。
薄暗い路地裏で、埃を被ったガラクタを並べる異民族の商人の前で、俺は足を止めた。そこに無造作に転がっていた、黒くくすんだ巨大な鉄の塊に、システムが激しく反応したのだ。
『ピコン!』
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【物品名】天山寒鉄(未加工)
【希少度】SSR
【詳細】万年雪に覆われた天山山脈の奥深くで採掘される幻の霊宝。どれほど硬い鎧でも紙切れのように引き裂き、決して刃こぼれしない。
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(出た! ファンタジーの定番、チート鉱石……!)
商人はただの「重すぎる鉄くず」だと思っており、俺はそれを二束三文の安値で買い叩くことに成功した。すぐさま腕利きの鍛冶屋に持ち込み、俺の脳内にインストールされた【未来の製鉄知識】で温度管理を指示しながら、三つの神具を鍛え上げさせた。
数日後。完成した武器を手にした三人の兄たちは、絶句していた。
関羽の手には、刃に青竜の文様が浮かび上がる重さ八十二斤(約18キロ)の大薙刀――『青龍偃月刀』。
張飛の手には、蛇のようにうねる切っ先を持つ一丈八尺(約4メートル)の長槍――『丈八蛇矛』。
そして劉備の手には、二振りの美しい剣――『双股剣』が握られている。
「こ、これが俺の武器……。手に吸い付くようだ。しかも、恐ろしいほどの闘気を感じる」
関羽が髭を撫でながら感嘆の息を漏らす。
「四弟! お前、一体どんな手品を使いやがった!? これなら岩だろうが山だろうが叩き割れそうだぜ!」
張飛が興奮して蛇矛を振り回し、危うく家の壁を破壊しかけた。
「次は馬です。北方から流れ着いた馬商人が、面白い馬を連れているという噂を聞きました」
俺が兄たちを案内したのは、郊外の馬市だった。
そこでは、一頭の漆黒の巨大な馬が、数人がかりの綱を引きちぎらんばかりに暴れ狂っていた。
「駄目だ! この暴れ馬、誰も乗りこなせねえ! 肉にするしかねえぞ!」
馬商人が嘆く中、俺は【人物鑑定】ならぬ【動物鑑定】を発動した。
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【個体名】烏騅(※名付け前)
【ランク】絶影級(SSR)
【詳細】かつての覇王・項羽の愛馬と同じ名を持つほどの神馬。気性が荒すぎて凡人では近づくことすらできないが、真の勇者にのみ服従する。
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「張飛兄者。あの馬、兄者の剛力なら大人しくさせられるのでは?」
「へっ! 面白え、俺に任せな!」
張飛が雷のような雄叫びを上げて飛びかかり、力づくで馬の首を押さえ込んだ。数分の格闘の末、漆黒の馬はすっかり大人しくなり、張飛に顔を擦り寄せた。のちに敵兵から「黒い旋風」と恐れられる名コンビの誕生である。
だが、俺の目的は馬だけではなかった。
暴れ馬の騒ぎの最中、商人の護衛として冷静に周囲の被害を抑え、見事な槍さばきで柵を直していた一人の若い男。
年は俺と同じか、少し上くらいか。整った顔立ちに、理知的な瞳。
俺の【鑑定】スキルが、黄金の光を放って彼を捕捉していた。
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【氏名】張郃(字:儁乂)
【武力】89
【統率】90
【知力】69(※地形把握・陣形適性に特大ボーナス)
【政治】57
【魅力】71
【深層情報・隠し才能】
『巧変の将』:戦況に応じて変幻自在に陣形を変え、地形を利用した戦術を得意とする。現在は主君を持たず、冀州から流れてきて日銭を稼いでいる。自身の「将としての才能」を正当に評価してくれる主君を渇望している。
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(ビンゴだ……! 史実では袁紹に仕え、のちに曹操軍の『五将軍』の一人として蜀(劉備の国)を最後まで苦しめ続ける大エース、張郃儁乂!! こんなところで護衛なんてやってたのか!)
俺は心の中でガッツポーズをした。「敵対勢力の有望株を、出世する前に刈り取る」。オタク冥利に尽きる最高の瞬間だ。
俺は商人に馬の代金を払うついでに、張郃に話しかけた。
「見事な槍さばきと、的確な空間把握能力だ。……あなたは、ここで一生を終えるような器ではない。張儁乂殿」
「……なぜ俺の字を? あんたは何者だ」
張郃が警戒して槍の石突を鳴らす。
「俺は陳子雲。あそこで黒馬を手懐けている張飛と、あの関羽、そして我らが主君・劉備玄徳の軍師だ」
俺は一歩踏み込み、彼の深層心理を突いた。
「張郃殿。あなたのその『地形を読み取る眼』と『陣形を展開する知略』は、ただの護衛や力任せの武闘派には到底至れない高みにある。……だが、今のままでは誰もあなたの戦術眼を理解できない。違うか?」
張郃の瞳が、僅かに揺らいだ。
「俺なら、あなたの才能を120%活かせる戦場を用意できる。どうだ、俺たちと一緒に天下の舞台で踊ってみないか?」
「……俺の戦術眼を、評価すると言うのか。この若さで、そこまで見抜くとは……」
張郃が俺たち四人を交互に見た後、ゆっくりと片膝をついた。
「面白そうだ。この張儁乂、まずはあなた方の才覚、間近で見定めさせてもらおう」
『ピコン!』
【システム通知:未来の敵対武将『張郃』を義勇軍に引き入れました。天命ポイント3000P獲得!】
さらに帰り道。運命の女神は俺に微笑み続けていた。
道端で、一人のみすぼらしい身なりの知識人が、役人と激しく口論していたのだ。
「愚か者め! このような重税を課せば、民は反乱を起こす! 黄色の布を巻いた者たちが何を企んでいるか、貴様らには見えんのか!」
その男のステータスを見た瞬間、俺は声を出して笑いそうになった。
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【氏名】田豊(字:元皓)
【武力】28
【統率】72
【知力】93(超一流の軍師クラス)
【政治】87
【魅力】45
【深層情報・隠し才能】
『剛直なる奇策』:のちに北方の覇者・袁紹の最高軍師となる男。その知略は神算鬼謀の域にあるが、性格があまりにも真っ直ぐで妥協を知らないため、上司と衝突しやすい。現在は腐敗した役人たちに嫌気がさし、官職を捨てて在野に下っている。
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(田豊までいるだと!? 官渡の戦いで袁紹が彼を重用していれば曹操は負けていた、とまで言われる天才軍師! 知力93のバケモノが、なぜこんな田舎で役人と喧嘩してるんだ!)
俺は役人に袖の下(賄賂)を握らせて追い払うと、怒り心頭の田豊に深々と頭を下げた。
「田元皓先生とお見受けする。先生の先見の明、そしてその曲がったことを許さない剛直な御心、感服いたしました」
「……む? 貴様は誰だ。私の名を知っているのか」
「俺は義勇軍の軍師、陳子雲。……先生、愚かな役人に正論をぶつけるのは疲れませんか?」
田豊は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私の献策を、誰も聞き入れんのだ! 阿呆どもめが!」
「ならば、先生の知略を100%受け入れ、実行に移す『度量』を持つ主君の元で働きませんか?」
俺は、後ろでニコニコと笑っている劉備を指差した。
「我が主・劉備玄徳は、身分や建前にとらわれず、正しい諫言(耳の痛い忠告)を喜んで受け入れる器の持ち主です。共に、この腐りきった天下を洗濯しましょう」
田豊は劉備をじろりと睨むと、その【魅力:99】のオーラに当てられたのか、わずかに目を見開いた。
「……ほう。底の知れぬ男だ。よかろう、私の策に口出ししないと約束するなら、手を貸してやってもいい」
『ピコン!』
【システム通知:未来の敵対軍師『田豊』を義勇軍に引き入れました。天命ポイント3500P獲得!】
――こうして。
三英傑の専用神具、暴れ馬の烏騅。さらには未来の曹操軍のエース武将・張郃と、袁紹軍の天才軍師・田豊という破格の戦力を手に入れた劉備陣営。
黄巾の乱が勃発する直前。俺の究極の『推し活プロデュース』は、これ以上ない完璧な布陣で出陣の時を迎えようとしていた。




