第30話:伏龍《ふくりゅう》と鳳雛《ほうすう》の交わり。荊州《けいしゅう》の反骨刃《はんこつじん》と、赤壁《せきへき》五十番勝負の幕開け
第30話:伏龍と鳳雛の交わり。荊州の反骨刃と、赤壁五十番勝負の幕開け
建安十三年(西暦208年)、夏。
博望坡にて夏侯惇の十万の軍勢を業火で焼き尽くした我々劉備軍の無双劇は、ついに西の覇王・曹操孟徳の「最後のリミッター」を完全に破壊してしまった。
「……申し上げます! 曹操本軍、ついに動きました! 奴らは陸路での徐州侵攻を諦め、大軍を率いて南下! 病死した劉表の治める『荊州』を瞬く間に降伏させ、荊州の巨大な水軍をそっくりそのまま吸収いたしました!」
彭城の軍議の間。飛び込んできた伝令の悲痛な声に、居並ぶ猛将たちの間にどよめきが走った。
「その数、およそ八十万! 曹操は荊州水軍の総司令官・蔡瑁を先鋒とし、長江を埋め尽くすほどの超巨大艦隊を編成! 我ら徐州・孫家連合軍を、水上から完全にすり潰す構えにございます!」
「八十万の水軍だと……!? いくら我らに魯粛殿の巨大楼船があるとはいえ、数が違いすぎるぞ!」
張飛が、バンッと机を叩いて立ち上がった。
だが、軍議の席の中央――我らが新たなる最高頭脳である諸葛亮孔明と、俺(陳凌)は、顔を見合わせてクスリと笑みをこぼした。
「……計算通りですね、孔明先生」
「ええ、子雲殿。陸戦で我らの『黒色火薬』と武神たちに勝てないと悟った曹操が、強引に水上決戦へと盤面を移すことは予測の範疇です」
白羽の扇を静かに揺らしながら、孔明は中華の巨大な地図の『長江』の一点――『赤壁』と呼ばれる場所に駒を置いた。
「ここから先は、五十の計略と軍略が幾重にも絡み合う、三国志史上最大の総力戦……『赤壁・五十番勝負』となります。曹操の八十万の艦隊を、一隻残らず長江の藻屑とするための『大炎上作戦』の幕開けです」
孔明の涼やかな声が、軍議の間に響き渡る。
「だが、孔明先生。曹操の艦隊を燃やすためには、奴らの船団が一箇所に密集していなければ効率が悪い。……何か、奴らの船を『鎖で繋がせる』ようなえげつない手立てはありますかな?」
俺がわざとらしく振ると、孔明はニヤリと底知れぬ笑みを浮かべた。
「そのための『最後のピース』を、今から拾いに行きましょう。……私の旧友であり、私と並び称されるもう一人の天才。そして、まだ我々の陣営に足りていない『荊州の猛将や文官たち』を、曹操に奪われる前に根こそぎ頂くのです」
――数日後。長江を臨む荊州・江夏の国境付近。
曹操軍の荊州占領により、行き場を失った難民たちが列をなして逃げ惑う中、俺と孔明、そして護衛の趙雲と黄忠は、お忍びの軽装で荊州の地を踏んでいた。
「……ひでえ有様だ。曹操に降伏した蔡瑁の兵どもが、難民から略奪を働いてやがる」
俺が眉をひそめて荒野を見下ろしていると、前方の難民の群れの中で、突如として凄まじい怒号と剣戟の音が響き渡った。
「退けェッ!! 曹操の犬どもめ! 荊州の民を泣かせる奴は、この俺の反骨の刃が許さねえ!!」
赤黒い顔に、荒々しい髭を蓄えた身の丈八尺の猛将が、たった一騎で蔡瑁の兵士数十人に斬り込み、次々と血祭りに上げていたのだ。その大刀の振るいは荒削りだが、関羽や張飛にも迫るほどの野生の暴力に満ちていた。
『ピィィィィンッ!』
俺の網膜の【人物鑑定】レーダーが、黄金色の光を放って警告音を鳴らした。
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【氏名】魏延(字:文長)
【武力】92
【統率】83
【深層情報・隠し才能】
『反骨の凶刃』:のちに蜀漢の主力として北伐を支える最高峰の猛将。極めてプライドが高く反骨精神が旺盛だが、己を認めてくれる「真の主君(劉備)」には絶対の忠誠を誓う。現在は曹操への降伏に反発し、単独で民を守って戦っている。
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(出たァァァッ!! 五虎大将軍に次ぐ蜀の最強武将・魏延文長!! 赤壁の前にここで出会うフラグだったか!)
「子龍将軍、漢升(黄忠)将軍! あの赤い顔の猛将を援護してください! 彼こそ、我らが荊州で得るべき最高の牙です!」
俺の叫びと同時に、趙雲の白銀の槍と黄忠の神弓が火を噴き、略奪兵どもは一瞬にして塵のごとく消し飛んだ。
「な、なんだアンタら……!? その信じられねえ強さ、只者じゃねえな!」
魏延が警戒して大刀を構える前に、孔明が羽扇を揺らして前に出た。
「我らは劉備玄徳が配下。……魏延殿、あなたのその民を想う義侠心と類稀なる武勇、曹操のような逆賊に屈しない反骨の魂。……我が主君・劉備の元で、存分に振るってみませんか?」
「りゅ、劉備玄徳の軍だと!? あの、天下で一番民に優しいって噂の……!」
魏延の獰猛な瞳に、パッと希望の光が宿る。
『ピコン!』
【SSR武将『魏延』を陣営に引き入れました!】
さらに俺たちは、難民の誘導を指揮していた白眉(白い眉毛)の秀才青年――のちに内政と外交で大活躍する【SSR文官『馬良(字:季常)』】をも、その場でスカウトしてしまった。まさにチート級の「底引き網人材強奪」である。
「さて、武と政の宝は手に入りました。……残るは、曹操の八十万の艦隊を『鎖で縛る』ための、最高の詐欺師ですね」
孔明が、面白そうに目を細めて長江のほとりにある一軒の粗末な酒場を指差した。
酒場の奥の薄暗い席。
そこに、昼間から大量の酒瓶を並べ、泥酔して管を巻いている一人の男がいた。
ボサボサの髪に、お世辞にも美しいとは言えない独特の風貌。周囲の客からは「ただの酔っ払いの変人」として白い目で見られているが、俺のシステムレーダーは、彼から放たれる『UR級の異常な知力値』を完全に捉えていた。
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【氏名】龐統(字:士元)
【知力】97
【政治】85
【深層情報・隠し才能】
『鳳雛の連環』:伏龍(孔明)と並び称される、三国志最高峰の天才軍師の一人。奇策や謀略、特に敵の懐に潜り込んで内部崩壊させる詐術においては孔明をも凌ぐ。現在は自分の才能を理解できる主君がいないと腐っている。
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(鳳雛・龐統!! 赤壁の戦いにおける最大のMVP、曹操の船を鎖で繋がせる『連環の計』の発案者!!)
「……おいおい。誰かと思えば、隆中の山奥で澄ましていた諸葛の旦那じゃねえか。劉備なんていう成金に仕えて、随分と偉くなったもんだなぁ、ヒック」
龐統は、俺たちを見るなり、酒臭い息を吐いて挑発的に笑った。
「相変わらず口が悪いですね、士元。……ですが、あなたのその『ひねくれた天才の脳味噌』が、どうしても曹操を燃やすために必要なのですよ」
孔明が涼しい顔で答えると、龐統は鼻で笑った。
「馬鹿言え。曹操の八十万の艦隊は、ただでさえ隙がねえ。俺が手を貸したところで、どうやって燃やすってんだ?」
「……龐統先生。あなたが曹操の陣営に『偽装投降』し、船酔いに苦しむ北方の兵士たちのために『船と船を太い鉄の鎖で繋げば揺れない』と吹き込むんですよ。……そう、世に言う『連環の計』ですね」
俺が、龐統が口を開くよりも早く、彼がこれから思いつくはずだった究極の計略を、あっさりと「ネタバレ」してしまった。
「なっ……!?」
龐統の酔いが、一瞬にして醒めた。
目を見開き、信じられないものを見る目で俺を凝視する。
「て、てめえ……! 俺が今、頭の片隅で組み立てていた、誰にも話していない究極の謀略を、なぜ……! てめえ、心でも読めるのか!?」
「私の同僚の陳子雲殿は、数百年先の未来を見通す『眼』を持っているのですよ」
孔明が、羽扇で口元を隠してクスクスと笑う。
「どうです、士元。あなたの天才的な奇策を、一瞬で先読みして完璧にサポートしてくれる狂気の軍師陣。そして、我々の頭脳を100%信じて任せてくれる最高の主君(劉備)。……曹操や孫権のような型に嵌った陣営よりも、遥かに『面白い盤面』だと思いませんか?」
龐統は、俺と孔明を交互に見つめ、やがて腹を抱えて大爆笑した。
「ガッハッハッハ! こりゃあ傑作だ! 俺の頭脳を先読みする化け物がいる陣営なんて、面白すぎて反吐が出るぜ! ……いいだろう! この鳳雛・龐統士元、お前らのその狂った『赤壁大炎上計画』に、極上の油を注いでやるよ!!」
『ピリリリリリリリリリィィィィンッッ!!!!』
【超・特大イベント『伏龍と鳳雛の双璧完成』を達成!!!】
【UR軍師『龐統』を陣営に引き入れました!!!】
――ここに、劉備陣営は完全に神の領域へと足を踏み入れた。
伏龍・諸葛亮。鳳雛・龐統。
そして陳凌、郭嘉、賈詡、徐庶、田豊、鍾繇、魯粛という、歴史のバグとしか思えない『九大チート軍師』の集結。
武においては、関羽、張飛、趙雲、馬超、黄忠の五虎将に加え、典韋、許褚、太史慈、魏延といった無双の神々。
「さあ、すべての役者と着火剤は揃いました」
俺は、長江の向こう岸にうっすらと見える、曹操軍の無数の軍船の影を見据えて扇を振り下ろした。
「ここから第80話まで続く、長大にして最高に熱い『赤壁の戦い・五十番勝負』! 西の覇王を地獄の業火で焼き尽くし、天下二分の頂点へと駆け上がりましょう!!」
長江の水面が、嵐の前の静けさの中で不気味に波打つ。
三国志最大のクライマックス、赤壁の戦いの真の幕が、今、圧倒的な熱量と共に切って落とされたのである――。




